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第109話

Author: 山田吉次
しゃぶしゃぶを食べ終えると、美羽と花音は家に戻った。

帰宅後、美羽は翌日母が入院する時に必要なものを準備し、花音はソファでスマホをいじっていたが、突然、興奮した声を上げた。

「美羽!」

美羽が顔を向けた。

「どうしたの?」

花音は目を輝かせて言った。

「美羽の仕事、見つけたわ!」

美羽は驚きの声を上げた。

「……えっ?」

花音は身振り手振りを交えて説明した。

「さっきモーメンツを見てたら、前の上司が求人を出してたの。部門マネージャーを探してるって。美羽にピッタリだと思ってすぐに連絡して、履歴書も送っておいたの。そしたら、美羽のことは『求めている人材』だって!」

美羽は思い出した。

「前は万華グループにいたよね?同僚にいじめられて辞めたんじゃなかった?」

「そうよ。碧雲の規模には及ばないけど、正直、碧雲に匹敵できる会社なんてそうそうないわよ。万華だって、十分立派な会社だわ」

花音の瞳がさらに輝いた。

「例のクソ同僚以外は全部良かったのよ。あのクソ同僚さえいなければ、辞めるのが惜しいくらいだったわ。それに、辞めたけど上司とはまだ連絡を取ってるの。彼女、本当にいい人なの!」

美羽はくすっと笑った。

「なんだか心が動いちゃうわね」

花音の元上司には、一度会ったことがある。以前、翔太に呼ばれてバーまで迎えに行った時、ちょうど恭介が知的な雰囲気の美女を抱き寄せて通り過ぎた。その美女こそ、花音の元上司だった。

しばらくして、花音がこっそり教えてくれた。上司は失恋して泣き腫らしていたそうで、美羽はすぐに察した。きっとあの薄情な恭介が飽きて捨てたのだろうと。

「その上司がね、今夜ご飯をご馳走してくれるって。顔合わせを兼ねて」

花音は誘いかけた。

「一緒に行こうよ。たとえ仕事が合わなくても、女同士で食事してもいいでしょ?」

そこまで言われて、美羽は深く考えずに「分かった」と答えた。

もし仕事が決まれば、まさに二重の喜び。母の手術後の療養費にもあてられる。

美羽は咳止めを飲み、服を着替えて薄化粧を施した。

夜になり、二人はタクシーで待ち合わせ場所の「西宮」へ向かった。

二人が店に入った直後、翔太の携帯に一本の電話がかかってきた。

恭介は煙草に火をつけ、指先で灰を落としながら、電話がつながるや否や京市なまりで軽く笑った。

「翔太、こ
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