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第2話

Penulis: 干物一匹
私たちは、ごく自然な流れで結婚した。結婚してからも、暁人の私への情熱は冷めるどころか、増す一方だった。

私と目がそっくりだという初恋の人の存在を知ったとき、暁人は一切ためらわず、由香にまつわるものを全部消し去った。さらに、車の事故では、身を張って私への愛を示した。

もし直輝の自閉症がなければ、もしあの子が、暁人の手元に残っていた由香の最後の写真を見つけなければ。私はきっと、世界でいちばん幸せな女だった。

けれど、世の中にもしもなんて存在しない。溢れるほどの愛だと思っていたものは、すべて暁人が綿密に仕掛けた罠にすぎなかった。

すべては、彼の初恋を蘇らせるためだ。私の腹で、由香との子を産ませるためだ。

「悪かった。俺が不安にさせたんだよな。

来月、お前のために世間が羨むような盛大な結婚式をしてやる。そのときになったら、もう俺の気持ちを疑ったりしないだろ?」

私がしばらく黙り込んでいると、暁人はそっと立ち上がり、なだめるように軽くキスをしてきた。

彼はキスが上手い。ひやりとした感触が鼻先に触れた瞬間、抑えようとしていた鼓動が、一気に速くなっていく。

「ここに、ホクロをひとつつけようか。お前の鼻、すごくきれいだからさ」

バケツ一杯の冷水をぶちまけられたような気がして、私は勢いよく暁人を突き飛ばした。

由香の鼻先には、人を惹きつける小さな美人ほくろがあったのだ。

その瞬間、私は暁人に対して、きれいさっぱり心が死んだ。頭に浮かぶのは離婚の二文字だけだ。

それでも、直輝のことだけは、心のどこかで手放せずにいた。

さっき滑らかに言葉を話す彼を実際に見たって、焦点の定まらない目のまま一言も発せずにいた直輝の姿が、やはり焼きついたまま頭から離れない。

私は、海外でようやく手に入れた高級パズルを抱え、涙を拭って直輝の病室に入った。

「直輝、見て。ママ、こんなの買ってきたんだ。一緒に遊ぼう」

直輝は私を一瞥することもなく、ベッドの上で黙々とルービックキューブをいじっている。

キューブを揃えるその速さは、とても普通の自閉症の子どもにできるものとは思えなかった。

前の私は、直輝は高機能自閉症なんだと信じていて、いつかきっと治ると期待していた。

けれど今は、はっきり分かっていた。芝居じみた病気には、もともと治しようがない。

私がどれだけ必死に頑張っても、彼の目にはすべて、ただの笑い話にしか映らない。

それでも諦めきれず、私はパズルを直輝の目の前にそっと置いた。彼が私の子どもではないと知っても、一度でいいから「ママ」と呼んでもらいたかった。

「直輝、こっち向いてくれる?こんなに離れてたから、ママ、すごく会いたかったのよ」

けれど、返ってきたのは、直輝が突きつけてきたハサミだ。

「ママじゃない……ママ、白、着る」

引きつった笑みを浮かべたまま、母が生前、たった一枚だけ私に残してくれたミントグリーンのワンピースが、直輝のハサミで一刻みずつ切り裂かれていく。

胸元からは血がつっと流れ落ちていたのに、痛みを感じる余裕すらなく、私は何度目かも分からないほど繰り返して、直輝に言い聞かせる。

「ママは緑が好き。ママは白なんて好きじゃない」

そして、これもまた何度目か分からないパターンで、私は絶叫して暴れ出した直輝に病室から追い出された。

私が彼のために選んだマグカップが、私の額に叩きつけられて砕け散る。視界が一瞬真っ暗になる。

「ママ」と呼ばれることは、最後までなかった。胸を波立たせながら、直輝は言い放つ。

「一生、嫌い……悪いおばさん、ママじゃない!」

血の跡を洗い流そうと浴槽に足を入れた瞬間、火傷しそうなほどの焼ける痛みがふくらはぎを走り、私は思わず水面から跳ね上がった。

けれど、浴室の仕切り越しに小さな影がちらついているのが見えて、私はそのまま、刺激の強い液体が傷口に染み込む痛みに耐え続けるしかなかった。

直輝は男女の区別なんてこれっぽっちもなく、踏み台によじ登ると、私が用意していた服を片っ端からハサミで切り裂き、最後に一枚だけ、真っ白なワンピースを残した。

そして、陰気な声で告げる。

「着るの、白だけ……トウガラシ水、罰!」

驚きと怒りで体が震えるほどだったのに、直輝に頭からバケツ一杯の氷水をぶちまけられ、私はもうどうすることもできない。

結局、仕方なく真っ白な格好で浴室を出ることになった。

「おばさん」

ひとしきりお仕置きを終えて落ち着いた直輝が、ずきずき痛む胸元に日記帳を押しつけてくる。

「物語……読んで」

何事もなかったかのように素直な表情を浮かべるその顔を見つめながら、心の中はいくつもの感情でかき乱された。

それでも結局、怒りよりも母性のほうが勝ってしまった。

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