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第2話

Author: 心閲
翌日、伊織は早々に舞踊団に到着した。彼女は幼い頃からダンスを学び、非常に優秀な成績を収めていた。もともとはこの道を極めようと思っていたのだ。

ところが、彰紀が言った。「踊る女は好きじゃない。それに、お前が踊るのはなおさら嫌だ」と。

伊織は奇妙に感じつつも、それでも彰紀を心底愛していた。何もかも彼を中心に考えたいと願い、ためらうことなく舞踊団を辞めた。そして次第に、補助的な指導の仕事だけをするようになっていった。

それなのに、舞台に戻った初日、人垣の向こう、観客席の最前列に座る彰紀の姿を、伊織は一目で見つけてしまった。

その瞬間、頭の中が真っ白になった。ふと、涼子もダンスを習っていたことを思い出したのだ。

伊織が横を見ると、顔色は青白いものの、きちんと化粧を整えた沢田涼子がすぐそばに立っていた。

どうやら彼女が、先生の口にしていた有名なダンサー、今日の主役だったらしい。

涼子は伊織の存在に気づいていないようだった。その瞳は、舞台下の彰紀だけを一心に見つめ、恋慕の情をたたえている。彰紀もまた、彼女をしっかりと見つめ返していた。

称賛と愛情に満ちた眼差しだった。

伊織は突然、胸の奥が締め付けられるような苦しみを覚えた。彼が嫌いなのは踊る女ではなかった。踊る沢田涼子だけを愛していたのだ。

あの最も美しい思い出は、同じ寝床を共にする妻すら、ほんの少しも触れてはならない聖域だった――そう思うと、伊織の涙はまたも止まらずにこぼれ落ちた。

空間を隔てて絡み合う二人の熱い視線を眺めながら、伊織は心に誓った。これが最後だ、彰紀のために泣くのはこれが最後だと。

もう二度と、こんなことはない。

感情を整えると、伊織は涼子と共に舞台へと歩き出した。

しかし、誰が予想しただろうか。公演が中盤に入った頃、舞台上の梁が突然緩み、ガタガタと音を立てて揺れ、今にも落ちてきそうになったのだ。

「涼子!」

彰紀の目が鋭く光った。彼は猛然と駆け上がり、伊織を一蹴りするように突き飛ばすと、涼子を強く抱きしめた。

伊織は身体に激しい痛みを感じ、勢いよく床に叩きつけられた。目を回す中、自分の夫が涼子を抱きかかえる姿が映った。

その表情に浮かぶ緊張感は、伊織がこれまで見たことのないものだった。

「涼子、大丈夫か?」

「ええ……」涼子は彰紀の胸にすがりつき、哀れっぽく彼のシャツの襟を握りしめて言った。「彰紀……怖くて死にそうだったわ」

「大丈夫だ、もう大丈夫だ。俺がいる」

その言葉を聞きながら、伊織は結婚式の日を思い出した。彰紀が誓いの言葉を述べた時だ。「ずっとそばにいる」と言いかけて、突然言葉を切った。そして間を置いて、ようやく彼女の名前を口にしたのだ。

あの時、その間の意味がわからなかった。今思えば、あの「ずっとそばにいる」という言葉は、最初から彼女に向けられたものではなかったのだろう。

涙がまたあふれそうになったが、伊織は必死に堪えた。自分のものではないなら、手放せばいいだけのこと。泣くことなんて何もない。

「彰紀、奥様は大丈夫なの?」

周囲の視線が集まる。皆、伊織こそが彰紀の妻だとは思ってもみなかったのだろう。

それでも彰紀は伊織のもとへは来なかった。涼子をしっかりと抱きしめたまま、言った。「運転手に送ってもらえ」

「いいえ」伊織は力を振り絞って立ち上がった。幸い、柱は彼女に直接当たらず、突き飛ばされた時に足首を捻っただけだった。それでも、心臓をえぐられるような痛みが走る。

だが、以前のように甘えて泣き喚くことはしなかった。ただ独りで立ち上がり、ゆっくりと外へ向かって歩き出した。「私、一人で帰るから」

「送らなくていいの」

舞台の中央をゆっくりと降りていく彼女を、隣にいた先輩の今井佑樹が複雑な表情で見つめていた。伊織は必死に笑顔を作り、たった一言だけ尋ねた。

「先輩……私たち、いつ出発できるの?」

もう一瞬たりとも、ここにいたくなかった。この場所を、彰紀のいるこの場所を離れたかったのだ。

伊織は思いもよらなかった。夜、彰紀がなんと家に戻ってきたのだ。

足首に湿布を貼ろうとする伊織を見て、彼は眉をひそめ、淡々と言った。

「そんなに大げさか?」

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