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第10話:強制送還のシグナル

Penulis: 憮然野郎
last update Tanggal publikasi: 2026-03-23 18:00:00

深夜。一人、自宅アパートでおにぎりを頬張っていた私の脳内に、突如として爆音が響き渡った。

『――ピンポンパンポーン! 観測者・星野ルナ。至急、現在地で静止せよ!』

(……えっ、何!? 食べかけのサケおにぎりが喉に詰まる!)

目の前の空間がぐにゃりと歪み、母星の「監視AI・ポチ(仮)」のホログラムが浮かび上がる。

『ルナ。お前の「5秒操作」ログ、見たぞ。一週間の使用回数が、母星の全観測者の平均を3000%上回っている! お前、時空を何だと思ってるんだ? おにぎりの賞味期限を伸ばすための道具じゃないんだぞ!』

「だ、だって、部長が毒を盛られそうになったり、サオリさんが意地悪したり……!」

『言い訳無用! 次に無駄打ちしたら、即座にトラクタービームで強制送還だ。お前の部屋にある、地球限定フレーバーのポテチも全部没収だからな! 任務を忘れるなよ!』

ブツリ、と一方的に通信が切れた。

……ポテチ没収。それは死を意味する。私は翌朝、真っ青な顔で出社した。

部長席では、蓮さんがサオリさんの持ってきた「予備パーツ」を、恐ろしいまでの集中力で凝視している。その傍らには、なぜか分厚い『ロボット工学』と『特殊素材の構造』、そして……『現代における愛の形』という、何やら不穏なタイトルの本が積まれていた。

「……星野。こちらへ来い」

低く、地を這うような蓮さんの声。

私は、処刑台に向かう気分で彼のデスクの前へ立った。サオリさんが、勝ち誇ったように腕を組んで隣に立っている。

「蓮さん、結論は出たのかしら? この異常なパーツの正体が」

「……ああ。すべてが繋がった」

蓮さんがゆっくりと立ち上がり、私との距離を詰める。

逃げ場を塞ぐ壁ドン。……けれど、今日の彼の目は、いつもの「氷」ではなく、何か……未知の深淵を覗き込むような、異様な「熱」を帯びていた。

「体温の低さ、異常なまでの可動域。そして、この未知のデバイスから放出される特殊なフェロモン(※ただの宇宙エネルギーです)。……星野。君は、某国の闇組織が極秘開発した、『超高性能アンドロイド型・愛玩用ドール』だな!?」

「……は、はい?」

「な、なんですって!?」

サオリさんが腰を抜かしそうになる中、蓮さんは震える手で私の肩をがっしりと掴んだ。その瞳には、製作者に対する激しい怒りと、抗いがたい知的好奇心が渦巻いている。

「……なんという破廉恥な。女性のドジっ子属性を完璧にシミュレートし、庇護欲を極限まで煽る設計。……このパーツは、おそらく君の『感度設定』や『自律型奉仕プログラム』を司る中枢チップだろう。……これほどのオーバースペックな個体を、一企業の事務員として潜入させるとは……!」

「あ、あの、部長……? 私は普通に、おにぎりが好きな人間……」

「黙れ! 俺は怒っているんだ。君をこのような、主人の快楽のためだけに存在する不道徳な機械として設計した、その製作者の浅ましさにだ!」

蓮さんはそう叫びながらも、私の手首の脈を測るように、指先でねっとりと、けれどストイックなまでに丁寧に肌をなぞった。

「……だが、安心しろ。俺がこの個体を、製作者の意図から解放してやる。これほどの高性能、放置すれば悪用されるのは目に見えている。……今日から、君の『機能点検』と『情操教育』は、すべて俺が直々に、マンツーマンで行う。……分かったか?」

(……いや、宇宙人よりややこしいことになったーー!)

『警告:観測者・ルナ。……対象の脳波が、極めて不健全な方向に活性化している。このままでは観測任務が「R-18指定」になる恐れあり。即座に事態を収拾せよ』

母星からの通信も、どこか困惑気味だ。

サオリさんが「機械なら、もっと徹底的に解体調査すべきよ!」とヒステリックに叫ぶ中、蓮さんは私を自分の背中に隠し、冷徹な微笑を浮かべた。

「サオリさん。彼女は『精密機械』だ。素人が触れて、暴走でもしたらどうする。……今夜は、俺の家で徹底的に『動作確認』を行う必要があるな」

ストイックなエリート上司の、あまりにも論理的(?)な変態的勘違い。

私は強制送還を免れた代わりに、蓮さんの「個人的なメンテナンス(という名の、激甘な誤解)」に、一生付き合わされることになりそうだった。

(つづく)

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