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蒼い空の下、君と紡ぐ幸福
蒼い空の下、君と紡ぐ幸福
Autor: 夏目星彩

第1話

Autor: 夏目星彩
同窓会の席で、工藤結翔(くどう ゆいと)の初恋の相手である浅田琴葉(あさだ ことは)が、私、林田芽依(はやしだ めい)の目の前で彼に詰め寄った。

「私、妊娠したの。これでようやく、私と一緒にいられるよね?」

結翔は私に料理を取り分け、穏やかな微笑みを浮かべたまま答えた。

「耳の聞こえない彼女を一生守ると決めたんだ。今さら約束を破るわけにはいかない。君の妊娠は、彼女には一生隠し通す。もし知られたら、どんな事態になるか僕にも見当がつかないから。

その代わり、君とは本物の婚姻届を出そう。彼女に渡してあるあの証明書は、どうせ偽物なんだから」

結翔はスマホを置くと、私に向かって優しく微笑み、明日レストランを予約したこと、結婚七周年を祝おうということを手話で告げた。

けれど、彼は私の目からこぼれ落ちた涙を見ていなかった。

結翔は知らない。三日前、私の耳が治ったことを。

渡された婚姻届受理証明書が偽物だということにも、とっくに気づいていたことを。

そして、明日の朝一番の航空券をすでに予約していることも。

明日が過ぎれば、私たちは二度と会うことはない。

同窓会はまだ、賑やかな笑い声に包まれている。

私はうつむき、目尻に浮かんだ一滴の涙をそっと拭った。

結翔がようやく私の異変に気づき、心配そうにこちらを覗き込んできた。彼は以前と変わらぬ優しい手つきで、私に手話を送る。

[料理、口に合わなかった?

もう帰ろうか。お腹を空かせたままじゃいけない]

呆然としているうちに、彼は私の手を引いた。

差し出されたその手を私が拒絶するように振り払うのと、同級生たちが囃し立てるような声を上げたのは、ほぼ同時だった。

「何だよ、もう帰るのかよ。せっかく集まったのに」

「そうだよ。奥さんはまだ帰りたくなさそうに見えるけど」

彼らが「奥さん」と呼んで視線を送っている先は、私ではなく、結翔の初恋の相手――琴葉だった。

琴葉は無言のまま結翔にすり寄り、指先で彼の袖口を小さく揺らした。

結翔の顔が険しくなり、彼女を突き放す。その動作は、誰にも気づかれないほど速かった。

空虚な目で前方を見つめる私を見て、彼は琴葉に顔を寄せ、低く囁いた。

「芽依の前で、あまりベタベタしないでくれ」

琴葉は不満げに私を一瞥し、瞳に涙を浮かべて甘えた。

「でも、もう三日も会ってなかったんだもん。寂しかったんだよ」

私は何も知らないふりをして、手話で答えた。

[……気分が悪いから、先に帰るわね]

結翔は空を切ったままの自分の手にようやく目を向け、一瞬だけ呆然とした。だが、すぐに取り繕うように指を動かし始める。

[だめだ、一緒に帰ろう。君は胃腸が弱いし、料理もできないだろう。僕がいないとどうするんだ]

笑いたくなった。

そう、彼がいないとどうなるのか。

この七年間、私の胃腸が弱いために、彼は誰にも任せず自ら台所に立ち続けてくれた。

失聴したばかりで、世界が完全な死寂に包み込まれたあの日。

彼は片時も離れずそばにいて、私に手話を教えてくれた。

手話を覚えると、彼は仕事を辞めて私を全国各地の旅に連れ出した。ふさぎ込んだ私を元気づけるために。

[怖がることはない、僕がいる。

きっと、元の健康な体に戻してみせるから]

彼はかつて、私の耳が聞こえない時、その顔に浮かぶ茫然とした表情を見るのが何よりも辛いと言った。

だから、彼は私の「耳」になったのだ。

私は周囲の人々の表情を見渡し、微笑んだ。

[大丈夫よ。

私より、みんなの方があなたを必要としているみたいだから]

その瞬間、結翔が気まずそうに目を逸らす。

そして、琴葉が平然と言い放った。

「ただのツンボで、バカじゃないんでしょ。ねえ結翔、残ってよ。

私のそばにいて」

結翔の顔が怒りで黒く染まった。

「彼女をそんな風に言うのはやめろ」

厳しく叱られた琴葉は、いかにも悲しそうにお腹をさすりながら呟いた。

「赤ちゃんがびっくりしちゃうわ……」

その言葉が耳に届いた瞬間、結翔の顔色が一変した。彼は私の目の前であることなど忘れたかのように、琴葉を抱き寄せ、なだめるようにあやし始めた。

「僕が悪かった。機嫌を直してくれ、体に障るから」

その瞳には、痛ましいほどの慈しみと愛情が溢れていた。

かつて、結翔は子供が好きではないと言った。子供ができると、私への愛が奪われてしまうのが怖い、と。

だから、あれほど子供を望んでいた私も、この七年間、一度も子宝を願うことはなかった。

……なんだ。結局、私との子供が欲しくなかっただけだったんだ。

彼は、二人の抱擁がどれほど親密に見えているか、全く気づいていない。

私と正対している琴葉の瞳に、どれほどの挑発が込められているかも。

これ以上見ていられず、私は無理やり笑みを浮かべて、結翔に手話を送った。

[一人で大丈夫。

耳が聞こえないだけで、バカじゃないから]

一瞬、結翔の表情が強張った。

けれど、私のいつもと変わらぬ温和な笑顔を見て、彼は私が琴葉の言葉を聞き取っていないと確信したようだった。

彼はそれ以上無理に引き止めようとはせず、念を押すように手話を送ってきた。

[分かった。何かあったら、いつでも電話するんだよ]

私は頷き、バッグを手に取って、この忌々しい場所を後にした。

明日になれば、もう彼と顔を合わせることもない。

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