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第1話(8)

Auteur: 北川とも
last update Date de publication: 2025-10-15 12:00:17

 後ろ手に拘束されているせいで体のバランスが取りにくいが、それでも懸命に身じろぎ、なんとか体を起こそうとする。しかし、肝心の体にはまだ痺れが残っており、力が入らない。すぐにマットレスの上に転がったが、前触れもなく誰かに体を抱き起こされ、両手の縛めを解かれた。

 ただしこれは救いにはならず、むしろ最悪の状況に向かう前振りといえた。

「何っ… …」

 ジャケットを強引に脱がされ、和彦は混乱する。本能的に身を捩ろうとしたが、背後からしっかり肩を押さえられた。

 シャツのボタンが外されながら、スラックスのベルトにも手がかかる。和彦はやめさせようとしたが、緩慢にしか動かせない両腕は簡単に掴み上げられ、目的を問う前に、身につけていたものすべてを奪われていた。

 純粋な恐怖でもう声が出なかった。再び後ろ手で拘束されたが、手首にかかったのはひんやりとして重量のあるものだった。手錠だとわかり、微かに歯が鳴る。

 殺されたあと、死体は何も身につけていないほうが身元がわかりにくい。これで指を切り落とし、歯をすべて砕いてしまえば、あとは海に捨てるなり、山に埋めてしまえばより完璧に近づく。

 マットレスの上に茫然自失となって座り込む和彦は、ふいに肩を押されて後ろ向きで倒れそうになったが、誰かの胸で受け止められた。一方で、前にいる別の人間には両足を掴まれたかと思うと、左右に大きく開かれた。

「やめろっ」

 咄嗟に声を上げて両足を閉じようとしたが、背後にいる人間の手によって両足を抱え上げられる。前にいる人間たちに、秘部をすべて晒す屈辱に満ちた姿勢を取らされてしまったのだ。

 何か様子が違うと、ここに至ってようやく和彦は気づく。自分を拉致した男たちの目的は、すぐに殺すことではなく、まずは辱めることにあるのではないか、と。

 その証拠に――。

「ひっ……」

 胸元に手が押し当てられ、まるで検分するかのように肌の上を滑る。断言はできないが、医者である和彦には馴染みのあるラテックスの手袋をしているようだった。妙に生温かな手が胸元から腹部へ、さらに下腹部へと這わされる。

 恐怖と生理的な嫌悪感から、たまらず和彦は抱えられた足を振り上げようとしたが、その前に、素早く弱みを握り締められていた。

「あうっ」

 体の力が一気に抜ける。手に力を込められたら、という想像だけで、何もできなくなる。それでなくても大半の抵抗を封じられ、何も見えていない状況なのだ。今の和彦はあまりに無防備だった。冷たい液体を下腹部に垂らされても、唇を噛むことしかできないぐらい。

 この場にいる男たちの目的もわからないまま、和彦のものは、ゴムの感触も生々しい薄い手袋を通して上下に擦られる。滑る感触と、グチュグチュという濡れた音で、自分の下腹部に垂らされた液体がローションだとわかった。

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  • 血と束縛と   第33話(3)

     それでも、鷹津とのことを知られるわけにはいかなかった。当然、自分から口にするはずもない。 保身のためもあるが、自分のせいで鷹津が何かを失うのは、やはり嫌なのだ。「……何かあった?」 囁きながら千尋がもう一度唇を重ねてくる。和彦は、茶色の髪を優しく指で梳いた。「何も、と言いたいところだが、ここにいると、いろいろあるから……」 千尋の眼差しがスッと鋭さを帯びる。その変化を目の当たりにして和彦はドキリとした。「千尋?」「先生から目を離すと、危ないんだよな。自覚なく、性質の悪い男を引き寄せて、骨抜きにするから。――もしかして最近は、自覚があったりして」 口調は冗談っぽくありながら、千尋の表情は真剣だった。こういうときの千尋は、厄介だ。次の行動が予測できず、とんでもない暴走をしそうなのだ。 和彦の奔放さに対して、嫉妬や独占欲とのつき合い方は上手いと話す千尋は、事実、年齢に見合わない寛大さを示しているといえる。一方で、何かの拍子に激しい感情を発露させることもあるのだ。そうやって千尋は、荒々しい感情のバランスを取っている。とても危うく。 それを受け止めることは、自分の役割であり、義務ですらあると和彦は考えていた。「自覚があったら、ぼくを嫌いになるか?」「悪いオンナ、っていう自覚か……。エロい響き」 バカ、と一言呟いた和彦は、千尋の頭を軽く小突く。すぐに手を引こうとしたが、その手を千尋に掴まれた。子供が甘えてくるように額と額を合わせてきたかと思うと、頬ずりをされ、首筋に顔が寄せられる。肌に触れる息遣いがくすぐったくて、和彦は小さく笑い声を洩らした。「子犬にじゃれつかれているみたいだ」「子犬?」「……別に、可愛いという意味で言ったんじゃないからな」 和彦が念を押すと、千尋が唇を尖らせる。あざといほど子供っぽい仕種だが、和彦には効果的だと、千尋はよくわかっているのだろう。「悪いオンナの周りには、食えない大人の男ばかりだからね。――こういうのも新鮮だろ?」

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  • 血と束縛と   第32話(32)

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  • 血と束縛と   第4話(27)

    「――先生」  呼ばれて、おずおずと振り返ると、そこに真剣な賢吾の顔がある。何か言われたわけでもないのに、和彦は小さく喘いでから賢吾の唇にそっと自分の唇を重ねた。すると、賢吾のもう片方の手に、和彦の柔らかな膨らみは包み込まれる。 「ひっ、あぁっ」  泡で滑る手に柔らかく揉みしだかれ、たまらず和彦は、ビクッ、ビクッと腰を震わせ、背をしならせる。下肢が、甘く溶けてしまいそうだった。 「あとでたっぷり、ここを揉んで悦ばせてやる。最近、弄られるのがよくなってきたみたいだからな。今は、洗うだけだ」  賢吾の的確に動く指は貪欲に、和彦の官能を刺激する

    last updateDernière mise à jour : 2026-03-19
  • 血と束縛と   第4話(2)

     また指で呼ばれ、和彦は賢吾のあとについていく。工事後は待合室となるホールでは、施工業者の人間が集まって持ち込む機材について話し合っている。その様子を一瞥した賢吾は、奥の部屋へと向かう。 「……護衛の人間は?」  ホールを見て、賢吾が一人でこのフロアにやってきたのは確認した。 「物騒なツラした人間を、一般の業者がいる場所に連れてくるわけにはいかないだろ。設計士は前からの馴染みだが、業者のほうはそうじゃないんだ。クリニックを始める前に、妙な噂は立てたくない」 「自分は物騒なツラじゃない、と言いたいんだな」  皮肉でもなんでもなく、思ったまま

    last updateDernière mise à jour : 2026-03-19
  • 血と束縛と   第4話(18)

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    last updateDernière mise à jour : 2026-03-19
  • 血と束縛と   第3話(34)

     似合わないことを語るヤクザの組長と、思いきり顔をしかめているその息子を交互に見てから、たまらず和彦は噴き出す。肩を震わせて笑っていた。 「……本当に酔ってるな、先生。こんなに楽しそうに笑えるなんて、初めて知った」  賢吾がしみじみと洩らした言葉に対して、千尋が余計な茶々を入れた。 「俺なんて、先生と何回もバカ笑いし合ってるぜ。やっぱり先生の感性は、おっさんより、若者と一緒にいるほうが合ってるんだよ」 「はいはい、子守りしてもらってよかったな」  同じレベルでやり合っている父子は放って、和彦はふらつきながらも先を歩き、駐車場に停められた一

    last updateDernière mise à jour : 2026-03-19
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