LOGIN先端に歯が掠めるたびに、本能的なものと、肉体的な反応から、ビクビクと腰を震わせる。三田村は貪欲だ。武骨な愛撫を施してきながら、和彦が好む愛撫を探り当て、すぐに覚えてしまう。そうやって、和彦に肉の悦びを与えてくれるのだ。
しっかりと両足を抱え上げられて、露わになった内奥の入り口にまで三田村の舌が這わされる。「あうっ、うっ」 和彦は腰を揺らしながら、三田村の髪を掻き乱す。指と舌によって内奥を性急に解されていた。付け根まで挿入された指を蠢かされながら、まだ慎みを失っていない内奥の入り口にたっぷり舌を這わされる。かと思えば、指が引きぬかれた内奥に熱い舌が入り込み、浅い侵入にもかかわらず、和彦は全身を震わせて感じてしまう。 三田村が、身につけているものを脱ぎ捨てるため体を離すわずかな時間すら、苦痛だった。 だからこそ、熱く滾った欲望を内奥の入り口に擦りつけられただけで、和彦は蕩けそうな幸福感を味わう。 三田村が、肉を押し開く感触を堪能するように、ゆっくりと腰を進める。「あっ、ああっ――」 甘苦かつて守光は、総和会会長の立場では、長嶺組の〈身内〉の処遇について命令はできないと言った。今ならこれが、言葉のうえだけの建前でしかないと理解できる。命令はしなくとも、和彦が選択するよう仕向ければいいだけの話なのだ。そして和彦は、選んだ。 男たちの思惑に搦め取られていくうちに、果たして自分はどこに行き着くのか。 考えたところでわかるはずもなく、それがまた和彦の気分を沈み込ませる。何か、しっかりとした支えに掴まっていなければ、今度こそ気持ちを立て直せない危惧すら抱いてしまう。 一度は横になりながらも眠れる心境ではなく、結局和彦は寝室を出る。コーヒーでも入れようかとキッチンに行きはしたものの、カップを出そうとしたところで動きを止める。 一瞬にして芽生えた衝動を必死に抑えようとしたが、できなかった。手早く服を着替えると、財布と部屋の鍵を掴んで玄関を出た。 部屋に引き返したほうがいいと、頭の片隅で弱々しく理性の声がする。しかしそんな声で足を止められるはずもなく、和彦はエレベーターに乗り込む。 マンションを出たときには、これが最初で最後だからと、自分自身に言い訳をしていた。 周囲をうかがいながら小走りで向かったのは、近くのコンビニだった。正確には、コンビニの外に設置された公衆電話に用がある。家から電話をかけると、盗聴器を通して会話を聞かれる恐れがあった。 つまり、組の人間に聞かれたくない電話をかけたいのだ。 慎重に辺りを見回してから受話器を取り上げる。電話番号は、携帯電話に登録したり、メモを手元に残しておくわけにもいかず、頭に叩き込んであった。 番号を押し、呼び出し音を五回聞いたところで受話器を置こうと、心の中で決める。これで、もう縁は切れたのだと諦められると、和彦は思った。 しかし決意とは裏腹に、〈彼〉との縁はそう脆いものではなかったようだ。 三回目の呼び出し音が鳴る前に、あっさりと彼が――里見が電話に出た。『もしもし?』 電話越しに里見の声を聞いた瞬間、和彦の胸は切なく締め付けられる。自分が高校生だった頃の感覚に引き戻されるが、その一方で、自分の今の生活が脳裏を過ぎる。先日里見と会ってから、さほど日は
肩にかかった守光の手に、力が加わる。抱き寄せられた和彦は、抗うこともできず守光におずおずともたれかかった。 守光のもう片方の手があごにかかり、持ち上げられる。初めてこんなに近くから、守光の顔を見ることになる。 端整な容貌の老紳士が、総和会という巨大な組織の頂点に君臨するには、相応の理由がある。見た目がいかに穏やかであろうが、守光の内面がそうであるとは限らない。 守光は、じわじわと本性を露わにしていき、和彦を呑み込んでいく。「あんたは、自分が逆らえない力に敏感だ。そして、その力に対して巧く身を委ねられる。わしに対してもそうであると、考えていいかね?」 目隠しの布一枚分の理屈が、剥ぎ取られる瞬間だった。もう必要ないと守光は確信しているのだ。そして和彦は――。 守光の目を見つめたまま、ゆっくりと唇を塞がれた。 昨夜知ったばかりの唇の感触に、他の男たちには感じない緊張を強いられる。口づけの感覚を分かち合うというより、自分の身を差し出す感覚に近い。一方的に貪られるのだ。 唇を吸われてから、歯列をこじ開けるようにして舌が口腔に入り込む。その間も和彦は、守光の目を見つめ続けていた。賢吾は目に大蛇を潜ませているが、守光の場合は何も捉えられない。冷たい檻が存在していて、その奥に怪物が棲んでいるのだろうかと想像してしまう。守光の怖さは、正体の掴めなさにあるのだ。「んっ……」 口腔の粘膜をじっくりと舐め回されたとき、和彦はゾクゾクするような疼きが背筋を駆け抜ける。 顔を見つめ合いながら唇を重ねて、ようやく和彦は実感していた。守光もまた、長嶺の男なのだと。堪らなく怖い存在である守光に、心と体のどこかで強烈に惹かれるものがあるのだ。もしかすると、そう思い込むことで、この世界での自分の身を守ろうとしているのかもしれないが――。 促されるまま舌を差し出し、守光に吸われる。そうしているうちに緩やかに舌を絡めながら、守光の唾液を受け入れる。守光は目を細めて一度唇を離し、この行為の意味を囁いてきた。「――あんたは今から、長嶺守光の〈オンナ〉だ。いいな?」 まるで暗示にかけられたように和彦は頷く。頭の中
「おはよう。まだ横になっていてもかまわんよ。わしはこれから外を散歩して、露天風呂に入ってくる。朝食はそれからだ」 そうは言われても、起き抜けに強烈なものを見てしまい、眠気など一気に吹き飛んでしまった。 いままで守光を畏怖していたが、それは総和会会長という肩書きに対するものだったのだと実感する。九尾の狐の刺青を目にして、長嶺守光という男の一端に触れ、改めて畏怖していた。その一方で、人間としての輪郭が見えてきて、心惹かれるものがあった。 守光はかつて和彦を、抗えない力に対して逆らわず、巧く身を委ねると表現したことがある。自覚がないまま、この本能を発揮した結果が、この心境の変化なのかもしれない。「ぼくも――」 声を発した自分自身に驚きつつも、和彦は言葉を続ける。「ぼくも、散歩にご一緒していいですか?」 守光は口元に薄い笑みを浮かべて頷いた。「大歓迎だ、先生」** シートに体を預けた和彦は、ウィンドーの外の景色をぼんやりと眺めていた。駅からの景色は見慣れたもので、陽射しが降り注いではいるが、通りを歩く人はまだ厚着が多い。ほんの数時間前まで滞在していた場所とは明らかに気温が違う。 ただ、見慣れた景色に和彦はほっとしていた。帰ってきたのだと実感もしていた。 状況に流されるように守光に同行した一泊旅行に、最初はどうなることかと危惧を抱いていたが、もうすぐ終わるのかと思うと、少しだけ名残惜しさがあった。 緊張はしたし、終始人目を気にして居心地の悪い思いもしたが、その分、総和会の男たちに丁寧に接してもらい、気遣ってもらった。特に、守光には。 懐柔されつつあると、頭の片隅で冷静に分析はしているのだ。和彦など、裏の世界では小さな存在だ。それでも大事にされるのは、組織に対して協力的な医者であることと、長嶺の男たちと関係を持っているからだ。 そんな和彦を男たちは容赦なく、裏の世界の深みへと引きずり込み、逃すまいとしている。 怖くはあるが、嫌ではないと感じている時点で、この世界にしっかりと染まっている証だ。「――さすがに疲れただろう」 外に目を遣ったま
衝撃の波が去り、和彦はぎこちなく息を吐き出す。「こういうとき……、父がかつてお世話になりました、と言えばいいんでしょうか」 冗談ではなく、本気で言った言葉だが、守光は低く笑い声を洩らした。「人の縁は不思議だ。こうして、あのときの青年の息子と、枕を並べて同じ部屋で寝ているんだ」 俊哉に関する秘密を抱えて、その息子である和彦を巡る関係を観察していたのだろうかと思うと、ヒヤリとする感覚が背筋を駆け抜ける。守光が怖いというより、不気味だった。「――あんたは、父親とよく似ている」 守光の言葉に、和彦はちらりと苦笑を浮かべる。「初めて言われました。ぼくも兄も、顔立ちは母方の血が濃く出ていると言われ続けてきたので」「顔立ちのことを言っているんじゃない。あんたも、自覚はあるんじゃないか。自分のどの部分が、父親とそっくりなのか。……佐伯俊哉という人間に会ったのは数回だが、人となりを調べることは可能だ。間違いなく、あんたは父親の〈性質〉を受け継いでいる」 守光の言う通り、自覚はあった。だがそれは、心を抉られるような痛みを和彦に与えてくる。認めたくはないのに、認めざるをえないほど、和彦と父親はある性質がよく似ている。 和彦は返事をすることなく再び寝返りを打ち、今度は守光に背を向ける。そんな和彦を気遣うように、守光が優しい声で言った。「おやすみ、先生」 おやすみなさいと、和彦は小さな声で応じた。**** 久しぶりに父親の夢を見た。 幼いときの和彦にとって俊哉は、ただ畏怖の存在だった。抱き上げてくれることも、手を繋いでくれることもなく、どこかに遊びに連れて行ってもらった思い出もない。だが、成長していくに従い、それすら恵まれていたことなのだと思うようになった。 俊哉は、和彦に一切の関心を示さなくなったのだ。まだ、厳しく躾けられていたほうが遥かにまともな状態だった。少なくとも、父親として接してくれていたからだ。 中学生の頃には和彦は、佐伯家での自分の立場を理解していた気がする。
** 守光と向き合ってお茶を飲むのは、ひどく落ち着かない気分だった。居たたまれない、といってもいいかもしれない。 静かな表情でお茶を味わっている守光をまともに見ることができず、つい隣の部屋へと視線を向ける。すでに二組の布団がきちんと敷いてあった。その様子を見て、つい数十分ほど前までの自分の痴態が蘇る。 一人で動揺する和彦とは対照的に、守光はあくまで何事もなかったように泰然としている。 守光はさきほどの淫らな行為で、相手が自分であると隠そうとはしていなかった。和彦は確かに目隠しをして、何も見られない状態ではあったが、ほとんど意味をなさないものになっていた。守光なりの、もう目隠しを取ってもいいというサインだったのかもしれない。 必要なのは、和彦の覚悟次第ということか。「――今日は疲れただろう」 守光の言葉に、和彦はピクリと肩を揺らす。『おもしろい話』をいつ切り出されるかと、身構えてしまうのだ。「少し……。遠出は久しぶりなので」「まあ、あんたの場合、気疲れといったところだな。わしと一緒にいることに、多少は慣れてきているようだが、それでもまだ肩に力が入っている」「……すみません」「謝るようなことじゃない。――そのうち、嫌でも慣れる。わしとこうして茶を飲むことも、総和会の人間に囲まれていることにも」 どういう意味かと尋ねようとしたが、そのときには守光は立ち上がっていた。「そろそろ布団に入ろう。横になっても話はできる」 和彦は頷き、部屋の電気を消してから守光の隣の布団に入る。 変な感じだった。布団の中で身を硬くしながら、隣にいるのは一体誰なのだろうかと考えてしまう。もちろん、長嶺守光という名で、総和会会長という肩書きを持つ人間だということは知っている。しかし、こうして隣り合って寝ている自分との関係は、よくわからない。 いや、あえて曖昧にしているのだ。だから目隠しという、布一枚分の理屈を必要としていた。 和彦はそっと寝返りを打ち、守光のほうを向く。枕元のライトをつけるまで
「――……どうして、ここに?」 和彦の目の前までやってきたかと思うと、開口一番にこう問われた。無視するわけにもいかず、露天風呂がある方向を指さす。「露天風呂に入っていました」「もう上がったのか」 変なことを言うのだなと、眉をひそめながら和彦も問いかけた。「それで、あなたはどこに?」「露天風呂に行こうとしていた。本当は、風呂であんたを捕まえるつもりだったんだ。まさか、こんなに早く上がるとは思っていなかった」 悪びれた様子もなく南郷が言い放ち、和彦は唖然とする。貸し切りで和彦一人が入っていた露天風呂に、南郷は押しかけるつもりだったのだ。 もし、露天風呂で出会っていたらどうなっていたか――。 和彦は南郷を睨みつけると、足早に庭の小道を歩く。部屋に戻ろうとしたのだが、当然のように南郷があとをついてくる。「……ついてこないでください」「部屋まで送る。――物騒だからな」 階段を上っていた和彦は、振り返ってもう一度南郷を睨みつける。嫌な笑みを浮かべた南郷がゆっくりとした動きで片手を伸ばし、和彦の腕を掴んでこようとする。それをあっさりと躱したが、すかさず、今度は素早い動きで南郷が間合いを詰め、和彦の体を手荒に手すりへと押し付けた。「なっ……」「そんなにふらついた足じゃ、階段から転げ落ちるかもしれない。なんなら、抱き上げて連れて行こうか?」 南郷は本気で言っているわけではない。おもしろがるわけでもなく、ただ和彦の神経を逆撫でるようなことを言って、反応を観察してくる。それがわかるからこそ和彦は、南郷が苦手で――不気味だった。 息を詰め、ほとんど虚勢だけで南郷の目を見据える。和彦のそんな眼差しすら、南郷は観察している様子だったが、思いがけない声が二人の間に割って入った。「――南郷」 窘めるように南郷を呼んだのは、さきほど和彦が耳元で聞いた声だ。顔を上げると、渡り廊下に立った守光がこちらを見ていた。「先生に、礼を欠いた態度を取るな。長嶺の家だけじゃなく、総和会にとっても大切な人
** 縫合した傷口を消毒してから、滅菌ガーゼを当ててしっかりテープで押さえる。これで、一通りの手当ては終えた。無事に弾を取り除き、傷ついた腸を縫ったのだ。 患者の脈拍は少し落ちてはいるが、許容範囲だ。話しかけても意識の混濁も見られず、ひとまず手術は無事に終わったといってもいい。怖いのは、こんな場所で手術したことによる感染症だ。 そのときはそのときだと自分に言い聞かせ、和彦は大きく息を吐き出す。どれだけ緊張していたのか自覚はなかったが、ワイシャツは汗でぐっしょりと濡れている。それだけでなくテーブルや床も、消毒でさんざん使った生理食塩水
和彦の内奥を的確に指と道具で犯す男の背後に立ったのは、高そうなダブルのスーツをこれ以上なく見事に着こなした中年の男だった。四十代半ばぐらいだろうが、一目見て圧倒される存在感を持っていた。 全身から漂う空気は剣呑としており、それでいて威嚇するような攻撃的なものではなく、ただ静かな凄みを放っている。衰えを知らないような厚みのある体つきに相応しいといえた。何より、彫像のように表情が動かない顔は、冷徹そのものではあるが、端整だ。 だが、容貌はさほど重要ではない。男が持つ独特の鋭さや冷ややかさ、年齢を重ねているだけでは醸せない落ち着きが、男の存在自体を圧倒的なものにしてい
思わず賢吾を睨みつけると、唇を塞がれて両足の間をまさぐられる。ラテックス手袋越しではない、ごつごつとした大きな手に直に敏感なものを握られ、和彦は賢吾の下で身を捩っていた。両足を開かされ、腰が割り込まされる。その状態で手早く和彦のものは扱かれていた。 「うっ、ああっ……」 「うちの息子を骨抜きにした体がどんなものか、たっぷり味わわせてもらうぞ。お前も、初めての相手に愛想よくしろ。――可愛がってやるから」 もう片方の手が胸に這わされると、突起を指で挟まれて強く抓り上げられる。痛みとも疼きともつかない感覚が胸に生まれ、その感覚が消える前に賢吾の口腔に含まれて、
「――ということだ。これで、ぼくの今の事情はだいたいわかったか?」 「堅気だった先生が、こちらの世界に片足突っ込んだ、ってことだよね」 的確な表現だが、非常に複雑な心境にさせられる。和彦が顔をしかめて見せると、今日会ってから初めて、千尋がニッと笑った。 「そんな顔しないでよ。せっかく〈身内〉になれたんだからさ」 「……お前は嬉しいのか?」 「先生を巻き込むのは嫌だったんだけど、こうなったんなら、正直歓迎する」 「現金なガキだ」 そう言って和彦は、千尋の髪をくしゃくしゃと掻き乱す。まるで犬を撫でるような行為だが、千尋