로그인「できないだろ。ぼくの〈オトコ〉は、そんなこと――」
「……でも、そうしたくなる。先生とこうしていると、自分の立場を忘れる。先生が誰のものなのかということも」「あんたのものだと言っただろ、ぼくは」 間近で見つめ合ってから和彦は、三田村の頬に自分の頬をすり寄せる。内奥深くで、三田村のものがさらに逞しさを増した気がした。 繋がったまま抱き起こされ、あぐらをかいた三田村の腰を跨ぐ。ゆっくりと内奥を突き上げられるたびに和彦は腰を揺らし、小さく声を洩らす。三田村が、強い衝動を堪えるためにこの格好になったのだと、すぐにわかった。これ以上なくしっかりと繋がりはしたものの、奔放に快感を貪ることはできない。ただ、深く結びついている感触を堪能できる。 三田村が胸の突起に強く吸い付き、和彦は背をしならせる。「はっ……あぁ。んっ、んっ、んくぅ……」 凝った突起に歯が立てられ、そっと引っ張られる。胸に疼きが走ると、その反応はダイレクトに、内奥「なんだよ、それ……。俺が心配するのも、気を使うのも、当然だろ? もしかして、迷惑って――」「違うっ。……これは、佐伯家の問題だから、巻き込みたくないんだ。お前たち父子と、長嶺組を」「俺たちなんて、長嶺家の問題に和彦を巻き込みまくっているけど。気になるなら、お互い様って考えたらいいじゃん。それに、今回はオヤジには言ったんだろ。……オヤジだけは巻き込んでも大丈夫って判断したんなら、悔しい。いつも俺だけガキ扱いされて、問題が起きたら報告は後回しにされることも」 この場合、なんと声をかけるのが正しいのか。逡巡した挙げ句に和彦は、すまない、と小さく謝罪する。 今にも泣き出しそうな顔をして千尋が抱きついてこようとしたが、寸前で動きを止め、急に犬のように鼻を鳴らした。「……千尋?」「なんか、変な匂いしない? 焦げ臭いような――」 ハッとした和彦は、千尋を置き去りにしてキッチンに駆け込む。案の定、鍋の中で牛乳が煮え立ってひどいことになっていた。呻き声を洩らして火を止める。 がっくりと肩を落としていると、まだ鼻を鳴らしながら千尋もキッチンに入ってきて、和彦の背後から鍋を覗き込む。「これ、何しようとしてたの?」「……眠れないから、ホットミルクを作ってたんだ」「レンジで温めたら……」「膜ができるから嫌だ」「だったら鍋で作るにしても、弱火でゆっくり掻き混ぜ続けないと、結局同じでしょう。いや、焦がした分、もっと悪いのか」 そこまで言って千尋が、ニヤニヤしながら和彦を見た。「飲みたいなら、俺が作ってあげようか?」 寸前までの緊迫した空気が一変した瞬間だった。和彦が目を丸くしたまま何も言えないでいると、千尋はさっさとダウンジャケットを脱ぎ、シャツの袖を捲って鍋を洗い始める。和彦はおずおずと声をかけた。「お前、作れるのか?」「俺がどこでバイトしてたと思ってるんだよ。ホットミルクなんて簡単、簡単。カフェのキッチンだ
結果が、昨夜の出来事だ。 恋愛の機微には聡いはずの元ホストにしては、迂闊すぎると言わざるをえない。あくまで、中嶋の話を聞いた限りでは。だが一方で、同じ元ホストである秦は、これまでの経験で培ったはずの手管を発揮できず、無邪気な悪女に翻弄されているようだ。 中嶋と秦の二人は、享楽的でスマートな関係を築いているとばかり思っていただけに、和彦としては困惑するしかないのだが、第三者としてはこう言うしかなかった。「問題は二人で解決してくれ。――他人に迷惑をかけない形で。どちらにしてもぼくは、しばらく個人的な問題でバタバタするから、愚痴も聞いてやれないからな」 残念ですねと、本当にそう思っているのか疑わしい言葉を秦が洩らす。 いよいよ時間が気になってきた和彦は、話を切り上げて電話を切ろうとする。すると秦が囁きかけてきた。『――本当にいいんですか?』 なんのことかと問うまでもない。ほんの一瞬の逡巡のあと、和彦は短く応じた。「いい」 電話を切ったあとで、一気に心臓の鼓動が速くなる。気がつけば、携帯電話を握った手も冷たくなっていた。秦の最後の囁きは、和彦の心の深い部分を抉ったのだ。 遠い場所で潜伏していると思われた鷹津が、実は自分の動向を探り、さらには側にまでやってきたと知ったところで、喜びはなかった。いや、湧き起ころうとするその感情を、懸命に抑えつけていた。 鷹津は、二つの組織から追われている身で、さらに俊哉とも通じている。危険極まりない存在だ。だから、鷹津と会ってはいけない。鷹津のことを誰にも言ってはいけない。 そう心の中で繰り返していると、仮眠室のドアをノックされた。そろそろ予約の時間だと告げられ、平静を装って返事をする。「今行くよ」 和彦は携帯電話の電源を切ると、何事もなかった顔で仮眠室を出た。**** 胸の奥がずっとモヤモヤしている。 何度目かの寝返りを打った和彦は、とうとう目を閉じ続けていることを諦めた。寝室の暗い天井を見上げ、金曜日までの日数を数えてから、憂鬱なため息をつく。 二日続けてなかなか寝
『まあ、そんなところです。もちろん、あの人がどこにいるかは知りませんよ。ただ、新しい携帯電話の番号は知っています。少し前にうちの店のスタッフが、鷹津さんに似た男から手紙を預かって、そこに書かれてありました』「……どういう意図があって、そのことをいままで黙っていたんだ」『わたしはそこそこ野心は持っていますが、鷹津さんには多少なりと友情めいた感情を抱いているんですよ。さんざんタダ酒を集られましたが、その分の便宜は図ってもらいましたし。そして先生には、命を助けてもらった恩があります。――鷹津さんと先生は、お互いを気にかけていたでしょうから、わたしはささやかなお節介をしただけです。ときどき、先生の様子を知らせるというお節介を。鷹津さんは、聞きたくないとは一度も言いませんでした。ただ黙って聞き入って。そうですか……。あの人やっぱり、先生に会いに行かれたんですね』 危険を冒して、と念を押すように言われ、和彦はゾクリと身を震わせる。長嶺組と総和会から追われている男が繁華街をうろつく危険性は、鷹津自身がよく承知しているだろう。 それでもあえて、鷹津はやってきたのだ。胡散臭い秦からの情報を信じて。 感情が高ぶり、心を揺さぶられるものがあったが、和彦は必死に押し殺す。そうしなければ、鷹津の連絡先を教えてほしいと秦に頼んでしまいそうだった。 ゆっくりと深呼吸をしてから、なんとか平坦な声を作り出す。「確認したかったことは、それだけだ。……鷹津の連絡先を君が知っていることを、他に誰が――」『誰も。先生だけです。本当は、先生にも話すつもりはなかったんですよ。鷹津さんに口止められていましたから』「……昨夜のやり取りは、ヒントのつもりだったのか」『気づかれなければ、それはそれでよかったんです。知れば、先生は煩悶するでしょう?』 しない、と言い張るのも大人げなく、和彦は唇を引き結ぶ。『先生なら大丈夫だと思いますが、わたしと鷹津さんが繋がっていることは他言無用でお願いします。当然、長嶺組長にも。後ろ盾になっていただいている身でわたしも心苦しいで
**** 俊哉と再び対面することが決まったからといって、特別な変化が起こるでもなく、いつものようにクリニックで過ごす月曜日は始まった。「……うーん」 診察室のイスに深くもたれかかって、一声唸った和彦はこめかみを押さえる。前夜、中嶋の愚痴につき合ったあと、自宅マンションに帰宅した和彦だが、今度は一人で深酒をしてしまったのだ。おかげで、朝から頭痛がする。 次の予約まで時間があるため、紅茶を飲みながらのんびりしているが、頭の中ではめまぐるしく懸念事項が駆け巡っていた。この辺りも頭痛と関係しているのだろう。 和彦は深いため息をつくと、デスク上の卓上カレンダーを手に取る。週末まであっという間だと思ったあと、十一月ももうすぐ終わることに気づかされる。今年最後の月が巡ってくるということに、ささやかな感慨に耽っていた。 そこでふと、去年の今頃、自分はどうしていたのだろうかと思い返す。男たちの事情に振り回されてはいたが、それでも比較的穏やかな日々を送っていた。守光とはまだ顔も合わせたことはなく、鷹津は相変わらず嫌な男ではあったが、なんとなく接し方がわかりかけていた頃で――。「佐伯先生」 突然呼びかけられて、和彦は姿勢を正す。メモを片手にスタッフが傍らに立っていた。「どうかした?」「十二月三日の午前中に予約を入れられている患者さんから、さきほど連絡があったのですが……」 和彦はすぐにパソコンを操作し、言われた日付の予約状況を確認する。確かに予約が入っており、先日カウンセリングを行った患者の名が表示されている。「まさか、キャンセル?」「いえ、そうではないんです。予約の日は都合が悪くなったそうで、できればもう少し早い日に変更できないかとおっしゃられて。佐伯先生はまだ診察中だったので、折り返し連絡を差し上げるとお伝えしました」「あー、そうだね。施術の予約だから、空いているところにポンッと入れるわけにもいかないし」 和彦は、患者のカウンセリング表と予約状況を交互に眺めて検討し、メモにいくつかの日付と時間を
なかなか道を開けようとしない若者たちに苛立つ。なんとか追い抜こうとしながら、思い出していた。 前にもこんなことがあったのだ。賢吾と街中を歩いていて、人ごみに紛れるようにして立っていた鷹津を見かけた。あのときは、単なる見間違いかと気にも留めなかったが、今にして断言できる。 鷹津はあの場にいて、和彦を見張っていた。いや、見守っていたのだ。そして今夜も。 ようやく人が#散__ばら__#け、和彦が駆け出そうとしたとき、背後から腕を掴まれて引き止められた。「先生っ」 ハッとして振り返ると、中嶋が立っていた。「どこに行くんですか。一人で」「あっ、いや……」 和彦は気もそぞろに応じながら、鷹津が歩いて行った方角を見つめる。完全に姿を見失ってしまった。肩を落とし、ため息をつくと、中嶋に顔を覗き込まれる。「何かあったんですか?」「……知り合いがいたような気がしたんだ。けど、見間違いだったようだ」 中嶋から探るような眼差しを向けられ、それが嫌で強引に話題を変える。「加藤くんは? 一緒に帰ったかと思ったんだ」「まさか。先生を放って、そんなことしませんよ。あいつは電車で帰ったようです。俺は、タクシーを捕まえようと思ったんですけど、こんな場所ですから、なかなか。一旦先生のところに戻って、店から連れ出そうとしたら――……」 中嶋は露骨に、和彦が誰を追おうとしていたのか気にしている。もし、鷹津がいたと知ったら、和彦が懇願したところで黙ってはいないだろう。まっさきに南郷に報告するか、それとも賢吾か。なんにせよ、自分のために最大限利用するはずだ。「気になりますね。先生が必死で追いかけようとしていた相手……」「医大時代の知り合いだ。聞いたところでおもしろくはないぞ」「先生の話は、なんだっておもしろいですけどね」 ニヤリと笑いかけてきた中嶋だが、心なしかいつもよりぎこちない。今から別の店に移動するという心境ではないだろう。和彦も、すぐにでも体からアルコール分を抜いて、ついさ
秦と中嶋の関係にこれ以上立ち入っては、単なるお節介だなと見切りをつけ、和彦は帰り仕度を始める。まだ飲み足りないし、弱音も吐き足りないのだが、秦をつき合わせるのも気が咎めた。 秦なりに今夜は傷心のようで、いつものように甘ったるい台詞は期待できないだろう。――別に聞きたいわけではないが。 立ち上がり、コートに袖を通す和彦を、驚いたように秦が見つめてくる。「もうお帰りですか?」「ぼくは、中嶋くんと飲みたかったんだ。せっかくの機会を潰した罰として、ここの支払いは君が持ってくれ」「それはもちろんです。でも、もう少しわたしにつき合ってもらえると嬉しいのですが……」「今夜は、他人の愚痴を聞ける精神状態じゃない。それに、中嶋くんの同行があって、護衛なしでの夜遊びを許可されているのに、肝心の彼がいなくなったんだ。それが組にバレると面倒だ」 引き止めようとする秦の声を振り切って、個室を出ようとした和彦だが、ふとあることが気になって足を止める。思い切って秦を振り返った。「――……あの男から、連絡はないのか」「聞きたいことは、一つでは?」 和彦が唇を引き結ぶと、秦は気障な仕種で肩を竦める。そして、緩く首を横に振った。それを見届けてから、今度こそ和彦は個室をあとにした。 きちんと四人分の飲み代を支払って店を出ると、エレベーターホールに向かいながらマフラーを首に巻く。 期待したわけではないので、失望はなかった。ただ気まぐれに、行方をくらました男――鷹津のことを尋ねただけで、それ以上の意味はない。和彦はそう自分に言い聞かせながらエレベーターに乗り込んだ。 ビルのエントランスまで降り、外の通りを眺める。寒そうに肩を竦めて歩く人たちの姿を見て、帰りはどうしようかと考えていた。この時間帯、すぐにタクシーが捕まるとも思えないが、だからといって長嶺組から迎えを寄越してもらうわけにもいかない。 ひとまず中嶋に、一人で帰るとメールだけでもしておこうと、携帯電話を取り出す。簡単な文章を打ち込んでから和彦は顔を上げ、再び通りに目を向ける。何げない一連の動作だが、数瞬遅れて強烈な違和感に
外から男二人のにぎやかな話し声が聞こえてくる状況で、求められるまま、やむをえず舌を絡め合い、唾液を交わす。引き出された舌を痛いほど吸われると、たまらず和彦は鷹津の肩にすがりついていた。 ますます鷹津の腕の力が強くなり、和彦の中で奇妙な変化が起こっていた。鷹津のことがどうしようもなく嫌いで、嫌悪しているのに、そんな男にねじ伏せられるように口づけを交わしていると、高揚感に襲われ、体の奥深くから強引に官能を引き出される。 官能に形を借りた、サソリの毒かもしれないと、ふとそんな考えが脳裏を過る。鷹津の毒を注入され、体も心も侵されていくのだ。 思わず身じろごう
さすがの賢吾も、和彦の心を煩わせるものすべてを見通すことは不可能らしい。「……最初にぼくを狙って、あんなことをした人間が、どんな顔をして、そんなことを言うんだ」「俺はいい。俺は、許されるんだ」 さすがに図々しい発言だと思って和彦が顔を上げると、待っていたようなタイミングで唇を軽く吸われた。「先生を狙って自分のものにして――見事に、骨抜きにされたんだ。そんな哀れなヤクザを、愛情深い先生なら、たっぷり甘やかしてくれるだろ?」 本当に図々しいと思いながらも、和彦はつい笑みをこぼしてしまう。 自
「不愉快どころか、やけに楽しそうでしたよ、秦さん。いい店を先生に紹介しないと、と張り切ってもいましたし」「ならいいんだ。あの人、職業柄なのか知らないけど、よく気をつかってくれるから。ぼくみたいな人間につき合って、迷惑をかけても悪いしな」 和彦が、長嶺父子のオンナであることは、すでに知られている事実だ。いまさら千尋と甘い会話とキスを交わしていたからといって、他人に喜んで報告するような悪趣味なまねを、秦がする必要もない。 和彦が心配していたのは、そんなことではなく、純粋に今言った通りのことだった。 大きく息を吐き出しながら、中島がマシンをゆっく
「――先生」 呼ばれて、おずおずと振り返ると、そこに真剣な賢吾の顔がある。何か言われたわけでもないのに、和彦は小さく喘いでから賢吾の唇にそっと自分の唇を重ねた。すると、賢吾のもう片方の手に、和彦の柔らかな膨らみは包み込まれる。 「ひっ、あぁっ」 泡で滑る手に柔らかく揉みしだかれ、たまらず和彦は、ビクッ、ビクッと腰を震わせ、背をしならせる。下肢が、甘く溶けてしまいそうだった。 「あとでたっぷり、ここを揉んで悦ばせてやる。最近、弄られるのがよくなってきたみたいだからな。今は、洗うだけだ」 賢吾の的確に動く指は貪欲に、和彦の官能を刺激する