Masuk和彦は、もう片方の手で千尋の頬を撫でてやる。すぐに調子に乗る犬っころのような青年は、嬉々とした様子で顔を寄せ、額と額を合わせてくる。
「今、すっげー、先生にキスしたくてたまんない」 最初から和彦の返事を聞く気はないらしく、千尋は性急に唇を塞いできた。寒いからこそ、千尋の唇と舌の熱さがじんわりと染み込んでくるようで、心地いい。 しなやかで力強い両腕にしっかりと抱き締められながら、和彦は甘く熱い口づけを堪能する。「先生、このまま、雪の上に押し倒していい?」 口づけの合間に、冗談とも本気ともつかないことを千尋が囁いてくる。千尋なら本当にやりかねないと思った和彦は、即答した。「嫌だ。お前と違って、ぼくは雪で興奮したりしない」「何それ。どういう意味?」 和彦はニヤリと笑うと、千尋の腕の中から抜け出す。「――犬は喜び庭駆け回る……って、歌があるだろ」 数秒の間を置いて、千尋は犬の鳴き声をマネしたかと思うと、和彦にまとわりついてくる。和彦は声を上げこの部屋に泊まったとき、習慣のように体を重ねているが、与えられる感覚に慣れる気配はまったくない。いつでも和彦は、三田村の感触を新鮮に感じ、適度に緊張もしていた。まるで、つき合い始めたばかりの恋人同士のように。 三田村が一度繋がりを解き、促されるまま和彦は仰向けとなる。ようやく三田村と向き合い、抱き合えると思ったが、和彦が両腕を伸ばす前に三田村に足を抱え上げられ、性急に再び繋がる。「ああっ」 和彦が喉を反らして声を上げたときには、大きく腰を突き上げられ、とっくに蕩けた襞と粘膜を強く刺激される。身を捩りたくなるような快感に、下肢どころか、瞬く間に全身を支配されていた。「――……先生」 顔を覗き込んできた三田村に唇を吸われ、無意識に甘えるような声を洩らす。深く唇が重なると、夢中で口づけを貪る。和彦は両腕を三田村の背に回そうとしたが、それは許されなかった。 三田村に両手を握られて、ベッドに押さえつけられる。そのまましっかりとてのひらを重ね、指を絡め合っていた。「あっ、あっ、あっ……うぅ。んっ、んうっ」 三田村の激しい律動に腰が弾み、声が洩れる。いつもならしっかりと三田村にしがみつくところを、両手をベッドに押さえつけられているせいで、もどかしさが奇妙な高揚感へと変わる。その高揚感は、和彦の感度を確実に高めていた。「三田村っ……、早く、撫で、たい――」 口づけの合間に和彦が訴えると、三田村が微かな笑みを唇に刻む。次の瞬間、握り合っていた手が離れ、すぐに和彦は三田村の背に両腕を回してしがみつく。すると、それを待っていたように、三田村にきつく抱き締められて体を起こされた。「うあっ」 三田村の腰を跨いだ姿勢で、繋がったまま向き合う。三田村に腰を掴まれた和彦は緩やかに揺さぶられ、自らも腰を前後に動かしていた。舌を絡め合いながら、自分の狂おしい欲望を果たすように、三田村の背を ――虎の刺青を撫で回す。和彦の手の動きに興奮を煽られているのか、三田村の体は燃えそうに熱い。もちろん、和彦の内奥深くに収まったものも。「先生…&
「雑炊用のご飯も用意してあるから、たくさん食べてくれ」「それは夜食で食べたい」「――先生の望み通りに」 久しぶりに聞いた三田村のその言葉に、胸が詰まった。長嶺組と関わり、裏の世界に引きずり込まれた頃から、三田村はずっと和彦の側にいて、和彦の望みを叶えてくれた。そして今は、さらに身近にいてくれる。 鍋を囲んで他愛ない話をしていると、会話の自然な流れで、次はいつ、こうしてゆっくりできるだろうかという話題になる。「二月半ばぐらいに、二日続けて休みが取れるとありがたいが……」 和彦の椀に、お手製のポン酢を注ぎ足しながら、ぽつりと三田村が洩らす。「二月の半ばって、何かあるのか?」 和彦の問いかけに、軽く目を見開いたあと、三田村は照れたような笑みをこぼした。「……先生は、見かけによらず世俗的なイベントには淡白だな。そんなイベントを意識しているヤクザというのも、恥ずかしい話なんだが」 三田村の口ぶりでやっと、二月の半ばにどんなイベントがあるのか思い出す。自分が淡白であることは認めるが、だからといって和彦は、世間の空気が読めないわけではないのだ。ただ二月は、和彦にとって大事――というわけではないが、意識するたびに微妙な気持ちになる日がある。 豆腐を箸で掬い上げながら、つい苦々しく唇を歪める。和彦の様子に気づいたのか、三田村が表情を曇らせた。「先生……?」 我に返った和彦は、わざと意地の悪い表情で三田村に話しかける。「まじめな若頭補佐が、どうしてバレンタインを意識するようになったのか、実に興味がある」「俺は別にまじめじゃ――。組の若い奴らが話していたのを、たまたま聞いたんだ。そうじゃないなら、俺も思い出さなかった。……いや、違うな。先生と知り合う前なら、聞いたところで、気にも留めなかったし、俺には無縁だったはずだ」「ふーん。まあ、そういうことにしておこう」 和彦の返事に、三田村は楽しげに顔を綻ばせる。今このタイミングが最適だと思ったわけではないが、知らない顔もできない
****「――先生、今晩は何が食べたい?」 ショッピングセンターを並んで歩いていると、突然三田村が、大事なことを思い出したような顔で問いかけてきた。しかも、真剣な口調で。 休みが取れた三田村とともに必要なものを買いに来たのだが、献立は人任せなところがある和彦は、面と向かってこう問われると、けっこう悩む。 目を丸くしたあと、なんでもいいと言いかけて、思いとどまる。実は先日、テレビでたまたま観てから、なんとなく気になっているものがあったのだ。「なんでもいいのか?」 和彦が問い返すと、頷いた三田村の目が一際優しくなる。もっとも和彦以外の人間が見れば、いつもの無表情との違いに気づかないかもしれない。「……鍋が、いい」 鍋、と小さな声で三田村が反芻し、何か思案するように軽く眉をひそめる。「ちゃんこにすき焼き、しゃぶしゃぶ。この場合、湯豆腐も鍋料理に入れていいのか……。なんにしても、ちょっと調べたら、鍋料理を食わせてくれる店はいくらでも――」「そうじゃない。外で食べたいわけじゃなくて、部屋で食べたい。……いままで、人と鍋を囲んだことがないんだ。それで、この間テレビを観ていて、ちょっといいなと思って……」 なんだか言い訳めいたことを言っているなと、和彦は自分自身の行動に、内心で苦笑を洩らす。相手が三田村でなければ、口が裂けても言えないわがままだ。そんなこと、と笑われても不思議ではないのだが、三田村が浮かべたのは、どこか嬉しげにも見える淡い微笑だった。「先生の貴重な経験を、俺が作った鍋で済ませていいのかな」「キッチンで包丁を握っているあんたを見るのは好きだ」 三田村は、困惑気味に視線をさまよわせながら、口元を手で覆う。もしかすると、有能な若頭補佐なりの照れ隠しなのかもしれない。「あまり……俺の腕に期待しないでくれ。そう器用になんでも作れるわけじゃないんだ」「鍋って、適当に材料を切って、水と一緒に放り
賢吾の手が柔らかな膨らみへと伸び、中嶋に見せつけるように手荒く揉みしだかれる。和彦はたまらず甲高い声を上げて、上体を捩ろうとしたが、動きを封じるように内奥深くを突き上げられた。「あっ、ああっ、はあっ、はっ……」 身悶える和彦と、果敢に攻め立ててくる賢吾の姿を、中嶋は食い入るように見つめていた。熱に浮かされたような目には、嫌悪の色は微塵もない。賢吾もそれがわかっているのだろう。まるで中嶋を試すように言った。「抵抗があるなら、外で待っていてもいいぞ」 すると中嶋はふらりと足を踏み出し、間近まで歩み寄ってくる。そして、畳に両膝をついた。「――……ここで、見ています。すごく、興味があります」「好きにしろ」 腰を掴まれて揺り動かされ、内奥を逞しいもので掻き回される。卑猥な湿った音が室内に響き渡り、そこに和彦の乱れた息遣いが重なる。 押し寄せてくる快感と、中嶋に正面から見つめられているという激しい羞恥に、和彦は惑乱する。いっそのこと意識を手放してしまいたいが、皮肉なことに、内奥を突き上げてくる衝撃が意識を繋ぎとめる。「うっ、あっ、あっ……ん、んあっ」「ここもどうなっているか、興味があるだろ」 そう言って賢吾に片足を抱え上げられて、繋がっている部分を中嶋に晒してしまう。あまりの羞恥に息が詰まりそうになるが、和彦の体は気持ちとは裏腹に、見られることに歓喜していた。「うちの先生は、いいオンナだろ。もともと素質はあったが、性質の悪い男たちが開発しちまった。その男たちが、先生に骨抜きにされてるんだから、一番性質が悪いのは――」 喘ぐ和彦の耳元で、賢吾がそっと囁きを注ぎ込んでくる。和彦はのろのろと振り返り、賢吾と唇を吸い合う。その最中に賢吾の手に促されて二度目の精を放ち、少し遅れて、賢吾の熱い精を内奥深くで受け止めた。「はっ……、んっ、んっ、くぅ……」 和彦の体から一気に力が抜けると、つられたように中嶋も大きく息を吐き出した。いつの間にか顔が上気しており、一見してハン
賢吾の指示を待っていたように、障子にスッと人影が映る。いつの間にか廊下に控えていたようだが、賢吾との行為に夢中になっていた和彦はもちろん気づかなかった。 廊下に人がいたというのも意外だったが、姿を見せた人物は、さらに意外だった。 丁寧な動作で障子を開けたのは、中嶋だった。和彦と賢吾の姿に驚いた様子もなく、それどころか和彦に笑いかけてくる。おそらく、廊下にいる間、行為の声をすべて聞いていたのだろう。「ど、して……」 中嶋が障子を閉めたのを機に、ようやく和彦は声を洩らす。愛撫の手を止めないまま賢吾が答えた。「俺が呼んだ。いままで、総和会との連絡役は別の人間だったんだが、若い連中の中で抜きん出て見所があるし、先生と親しいということで、新たに中嶋を指名した。長嶺組長の本宅に出入りできる、総和会でも数少ない男というわけだ」 いつの間にそういう話が決まったのかと思ったが、これは組の細かな決定事項の一つだ。賢吾が和彦に知らせる必要はない。ただし賢吾は、和彦の反応を見たいがために、この瞬間まで隠していたのだろう。そういう男だ。「先生としても、俺の目を盗んで中嶋と会っているという罪悪感を抱かなくて済むだろ。本宅に出入りできるようになったぐらいだ。長嶺組長のオンナの部屋にも、中嶋は堂々と立ち寄れる」 賢吾の言葉で和彦は、中嶋と絡み合った日のことを思い出す。ベッドの上での甘い呻き声を、盗聴器を通して賢吾が聴いていたことは知っている。そのうえで中嶋に、本宅や和彦の部屋の出入りを認めたのだ。「……何を企んでるんだ、あんたは……」 思わず和彦が問いかけると、うなじに唇を押し当てながら賢吾は言った。「先生が生活のしやすい環境を整えただけだ。――俺が何を企んでるか、先生は気にしなくていい」 賢吾が腰を揺らし、内奥の感じやすい部分を擦り上げられる。和彦は咄嗟に声を堪えたが、表情は隠せなかった。正面に立つ中嶋に、すべて見られてしまう。それどころか、賢吾と繋がり、悦びに身を起こした欲望の存在も。 中嶋は薄い笑みを唇に湛え、目には興奮の色を浮かべる。そんな中嶋に
喘ぐ和彦を、賢吾は真上から見下ろしていた。いつもなら両腕を伸ばして賢吾にしがみつき、背の大蛇を思うさま撫でるところだが、今日はそれは叶わない。賢吾はパンツの前を寛げただけで、セーターを脱いですらいないのだ。 どうして、と思ったとき、前触れもなく内奥から賢吾のものが引き抜かれる。手を掴まれて引っ張り起こされた和彦は、わけもわからないまま畳に両手を突き、腰を突き出した羞恥に満ちた姿勢を取らされる。そして今度は、背後から貫かれた。「あっ――……」 強く内奥を擦り上げられ、その衝撃で畳の上に精を迸らせてしまう。前のめりに崩れ込みそうになったが、賢吾の腕に引き止められ、乱暴に腰を突き上げられた。「うっ、あっ、待って……くれ。少し、待って……」 和彦は前に逃れようとしたが、両腕で抱き寄せられた挙げ句、胡坐をかいた賢吾の両足の間に、繋がったまま座らされていた。和彦は背を弓形に反らし、下から突き上げられる苦しさに呻き声を洩らす。しかしその呻き声は次第に、甘さと妖しさを帯びたものへと変化していた。 緩やかに腰を揺らしながら賢吾の両手が、和彦の胸の突起と、精を放ちながらもまだ力を失っていない欲望を愛撫してくる。「わかるか、先生? 先生の尻が、絞り上げるように締まっている。……口ではわがままは言わないくせに、こっちのほうは、とんでもなくわがままだな。与えても、与えても、いくらでも欲しがる。今まで、誰かに言われたことはないか?」 笑いを含んだ声で賢吾に淫らな言葉を囁かれ、和彦としては振り返って睨みつけたいところだが、些細な動きで快感を逃してしまいそうで、それができない。「あんた以外に、誰がそんな恥ずかしいことを、言うんだっ……」「このほうが、先生も興奮するだろ。――ああ、それと、もっと先生が興奮する演出を用意してある」 賢吾が何を言っているのか、快感に霞んだ頭では理解できなかった。意味を問おうと唇を動かしかけたとき、賢吾が〈誰か〉に向かって言葉を発した。「――入っていいぞ」 和彦は体の正面を







