LOGINようやくおせち料理を味わいながら、秦と他愛ない話をする。一見、優雅な新年を送っているように見える秦だが、明日から仕事始めだそうだ。
「経営者も大変だな」 そう相槌をうった和彦に対して秦は、艶やかすぎるからこそ胡散臭く感じる眼差しを向けてくる。「先生だって、クリニック経営者でしょう」「どこがだ。表向きの経営者は別の人間になっているし、実質的にも、すべてを決めるのは長嶺組だ。ぼくは、言われるままに患者を診るだけだ」「でも、先生がいないと、あのクリニックは動きませんよ」 思わず箸をとめた和彦は、秦の指摘の正しさを認める。長嶺組の意向が強く反映してはいても、自分のクリニックだという意識は、確かに和彦の中にあるのだ。「……自分の力で手に入れたものなら、胸を張れるんだがな」「まあ、わたしも、実業家という肩書きを手に入れた経緯は、人に誇れるものじゃないんですが」 首を傾げた和彦に、秦はそっと声を潜めて教えてくれた。「父の〈隠し財産〉を使ったんです」「この調子なら、連休中にでも抜糸できそうだ」 連休、と小声で呟いた鷹津が、傷口の消毒を始めた和彦に問いかけてくる。「このクリニックも、連休があるのか?」「一週間ほど休むことになっている。ぼくはカレンダー通り開けていてもいいんだが、組長に言われると、何も言えない」「ヤクザは優雅なものだな。そのオンナも」 鷹津が左手を伸ばし、頬に触れてこようとしたので、咄嗟に払い除ける。触れられることが嫌だというより、賢吾から言われた言葉が蘇ったのだ。 鷹津に情を移すなと、賢吾は言った。それがどういうことなのか和彦にはよくわからない。鷹津は相変わらず嫌な男だし、好意的な感情を抱いていないつもりだ。だが、それだけで鷹津との関係は割り切れない。そう、単純なものではないのだ。「……治療中だ。邪魔するな」 あえて鷹津の顔を見ないで注意すると、和彦は黙々と手を動かす。治療とは言っても、傷の様子を診たかっただけで、あとは消毒をして、ガーゼと包帯を取り替えるだけだ。 手早く包帯を巻き終え、立ち上がった和彦は片付けを始める。「また何日かしたら連絡をする。そのとき、傷が化膿していなかったら抜糸をする。――用は済んだから帰ってくれ」 鷹津に背を向けて素っ気なく告げると、突然、肩に手がかかる。驚いて振り返ると、いつの間にか鷹津が目の前に立っていた。怖いほど真剣な顔で見つめられ、察するものがあった和彦は後退ろうとしたが、うなじに手がかかって反対に引き寄せられる。「おいっ――」「長嶺に、何か言われたか? えらくピリピリしているな」 和彦は思わず視線を逸らしたが、肯定したも同然だ。鷹津は鼻先で笑い、顔を寄せてきた。「〈あれ〉で、餌を食わせ終えたなんて思ってないだろうな? 俺はお前の命を助けたんだぜ。せめて、この怪我が治るまで、好きなだけ食わせてもらうぞ」「そこまで恩着せがましいことを言うと、せっかくの善行も価値がなくなるぞ。助けられたほうも、うんざりしてくる」 睨みつけながら和彦が言うと、鷹津は意外なほどあっさりと身を引いた。「腹が減った。これからメシを食いにいくぞ」
しっかりと腰を抱え込まれて、内奥で賢吾の欲望が脈打ち、爆ぜる。熱い精をたっぷりと注ぎ込まれ、その感触に和彦は軽い絶頂状態に陥る。きつく目を閉じ、眩暈に耐える。 内奥から賢吾のものが引き抜かれ、体をひっくり返される。手荒く頬を撫でられて、ようやく和彦は目を開けることができた。顔を覗き込んできた賢吾に唇を吸われ、ぎこちなく応える。優しい声で問われた。「俺が今言ったこと、しっかりと頭に叩き込んだか?」 頭がぼうっとしているが、それでも和彦は頷く。「お前は、俺の大事で可愛いオンナだ」「あ、あ……。ぼくは、あんたのオンナだ。ぼくは、あんたには逆らえないし、逆らうつもりもない」「そういう言われ方をすると、俺がまるで暴君みたいだな」 声同様、優しい表情を見せた賢吾にもう一度唇を吸われ、そのまま舌を絡め合う。その間に、賢吾の指が内奥に挿入され、注ぎ込まれたばかりの精を掻き出される。発情している和彦の内奥は、物欲しげにその指を締め付けていた。「本当に、お前はいいオンナだ……」 指が引き抜かれ、まだ硬さを失っていない賢吾の欲望が、閉じきっていない内奥の入り口に押し当てられる。すぐにまた挿入されるのだと思って喉を鳴らした和彦に、怜悧な笑みを浮かべた賢吾はこう囁いた。「欲しかったら、俺の見ている前で――漏らしてみろ」 ハッとして和彦は顔を強張らせる。〈何を〉漏らしてみろと言っているのか、問い返すまでもない。求められるのは初めてではないが、だからといって慣れることはない行為だ。「……ここ、で……?」「心配するな。二人分の浴衣があれば、吸い取ってくれるだろ。お前一人の――」 耳元に露骨な単語を注ぎ込まれ、和彦は羞恥と屈辱を覚えると同時に、異常な高ぶりを感じていた。 賢吾に両足を広げた格好を取らされ、手慰みのように柔らかな膨らみを揉まれる。ときおり弱みを指先で刺激され、早くしろと無言で急かされる。 何度目かの攻めで、和彦の理性は陥落した。 賢吾が見ている前で『漏らした』のだ。
微かに濡れた音を立てながら先端を吸われ、熱い吐息をこぼして和彦は身悶える。欲望の形を舌先でなぞられ、さらに柔らかな膨らみも舐られる。「うっ、うっ、うあっ、あっ――」「今度鷹津に教えてやれ。長嶺組の組長は、自分のオンナのこんなところまでしゃぶって、感じさせてくれると。あいつは、どうするだろうな」 賢吾の言葉は、見えない執着の炎となって和彦の全身を炙る。不意打ちのように内奥の浅い部分をぐっと指の腹で押し上げられ、呆気なく和彦は絶頂を迎えた。精を迸らせ、下腹部を濡らしていた。 そんな和彦を見下ろし、唇の端に笑みを刻んだ賢吾は、あっさりと内奥から指を引き抜く。浴衣を剥ぎ取られた和彦はうつ伏せの姿勢を取らされ、高々と腰を抱え上げられる。身構える間もなく、背後から貫かれた。「んううっ」 力を漲らせた賢吾の欲望は、容赦なく内奥を押し広げ、襞と粘膜を強く擦り上げてくる。背後から突かれるたびに和彦は畳に爪を立て、衝撃に耐える。重苦しい痛みが下腹部に広がるが、それ以上に、内から焼かれそうなほど賢吾の欲望が熱い。尻を鷲掴んでくる手も。「待っ……、賢吾、さ……、もう少し、ゆっくり……」 和彦の切れ切れの訴えは、乱暴に内奥を突き上げられることで応じられる。賢吾の逞しい欲望が、根元まで捻じ込まれていた。 奥深くまで呑み込んでいるものの存在を、呼吸を繰り返すたびに強く意識する。賢吾は内奥の収縮を堪能するように動きを止め、その代わり、両手を駆使して和彦の体をまさぐってくる。 和彦の肌は、嫌になるほど賢吾の手の感触に馴染んでいる。てのひらで撫で回されているだけで肌はざわつき、汗ばみ、官能を生み出す。和彦のその従順さを、背後から貫きながら賢吾は堪能していた。「……惚れ惚れするほどの、いいオンナっぷりだな、先生。こうして眺めているだけでわかる。俺を欲しがっているってな。もっとも――」 軽く腰を揺すられ、内奥で欲望が蠢く。意識しないまま、食い千切らんばかりに欲望を締め付けていた。「尻のほうはさっきから、グイグイ締まりまくってるがな。突
「……この家の主が仕事をしているのに、その主の部屋でダラダラしているのは、気が引けるんだ」「仕事といっても、電話で片付くような用だ。だから、そう待たせなかっただろ」「気にせず、じっくりと話してくれてもよかったのに……」「俺が気にする」 和彦のすぐ背後に立った賢吾の手が、肩にかかる。浴衣の布越しに体温が伝わってきて、それだけで和彦は冷静ではいられなくなっていた。 慌てて正面を向くと、両肩をしっかりと掴まれ、力を込められた。「あっ」 絶妙な力加減で肩を揉まれて、思わず和彦は声を上げる。背後から笑いを含んだ声で言われた。「凝ってるな、先生。気疲れすることが多すぎるせいか?」「……あんたは、原因の一つだからな」「遠慮なく、俺が原因の大部分だと言っていいんだぞ」 返事の代わりに、和彦は笑い声を洩らす。 長嶺組組長に肩を揉んでもらうという贅沢を堪能できたのは、わずかな間だった。肩を揉んでいた賢吾の片手が前へと移動し、浴衣の合わせから入り込んできた。 大胆に蠢く手に胸元をまさぐられ、あっという間に凝った胸の突起を、捏ねるようにてのひらで転がされる。指先で捉えられて爪の先で弄られる頃には、和彦の呼吸は弾んでいた。「――鷹津にも、ここをたっぷり弄ってもらったか?」 突然、冷めた声で問われる。背後に立っているのは賢吾だと知っていながら、和彦は一瞬、別の男に入れ替わったのかと混乱した。それぐらい、賢吾の声音が一変したのだ。 本能的な怯えから、和彦は愛撫の手から離れようとしたが、賢吾は焦った素振りすら見せなかった。 立ち上がろうとしたが、いきなり座椅子を引かれてバランスを崩す。すかさず賢吾の腕に捕らえられて、畳の上に放り出された。 悠然とのしかかってきた賢吾を、顔を強張らせて見上げる。手荒な行動とは裏腹に、賢吾は薄い笑みを浮かべていた。「鷹津とのセックスはよかったようだな、先生。……鷹津のことを話すときの顔を見ていたら、いままでにない表情を浮かべてい
「聞くまでもないだろう。――返事は、ギリギリまで引っ張ればいい。オヤジの腹の内が、もしかすると読めるかもしれない」 それしか打てる手はないのかと、和彦は小さくため息をつく。すかさず賢吾に言われた。「物騒な男に気に入られると、物騒なことに事欠かないな、先生」「他人事だと思って……」 自棄酒というわけではないが、和彦はグラスのワインを飲み干す。『物騒なこと』という話題の流れから、秦の店を襲撃した男たちのことを聞いてみたい衝動に駆られたが、守光の話題が出たことで、軽々しい好奇心は慎むべきだと思い直した。三日前の秦との電話でのやり取りがなければ、危うく口に出していたかもしれない。 自らが踏み込めない領域について、あれこれと思索する和彦とは対照的に、秘密すら踏み散らすような無粋ぶりで賢吾が切り出した。「鷹津には、美味い餌を食わせてやったか?」 和彦は咄嗟に言葉が出なかった。激しい動揺と羞恥で一気に顔が熱くなったが、賢吾の向けてくる冴えた眼差しに首筋は冷たくなるという感覚を、同時に味わう。 賢吾は今日まで、怪我をした鷹津とどう過ごしたか、和彦に一切尋ねてはこなかった。二人の間に何があったかは想像するまでもなく、だからこそ賢吾は知る気がなかったのだろうと解釈していたが、どうやら違ったようだ。 和彦が逃げられない状況になるまで、虎視眈々と機会を狙っていたのだ。「――……餌はやった」「自分が切りつけられながらも、先生を守ったんだ。俺が思った通り、あいつは態度は悪いが、優秀な番犬だ」「何日かは利き手が使いにくくて、不便だろうな」「通って面倒を見るか?」 冗談めかした口調とは裏腹に、ヒヤリとするような感覚が和彦を襲う。賢吾が、鷹津のことを話す自分の反応を観察していると感じ取り、警戒していた。「ぼくはそこまで甲斐甲斐しくない。……ただ、傷の具合を診る必要があるから、夜、クリニックに足を運んでもらうことになる」 慎重に言葉を選んで話した和彦は、賢吾の反応をうかがう。「その顔は、俺の許可を求め
気にしないでくれと、和彦は苦笑を洩らす。大変な騒動と、その後の鷹津とのこともあり、自分が背負っていた事柄について、今この瞬間まで考えることすらしていなかった。秦の思惑とは違ったところで、和彦の機嫌は直りつつあるといえるのかもしれない。 あくまで、問題の先延ばしでしかないのだが――。 電話を切った和彦はぼんやりとしていたが、ふと、バスタブに湯を溜めていることを思い出し、慌てて浴室へと駆け込んだ。****「――ここのところ大忙しだな、先生」 窓の外に広がる夜景に見惚れていた和彦は、どこか皮肉げな賢吾の言葉にハッとする。 ホテル上階からの夜景を和彦によく見せてやろうという配慮なのか、賢吾は窓を背にしてテーブルについている。 しかし和彦は、一旦賢吾に視線を移してしまうと、もう夜景を眺める気にはなれない。 賢吾は、夜の街のきらびやかさも霞む濃い闇を背負っているように見え、禍々しさすら漂っている。普通の感覚を持った人間ならば、この男を一目で危険な存在だと判断するだろうが、困ったことに和彦の目には、非常に魅力的に映るのだ。怖いほどに。「ぼくが忙しいのは、ぼくのせいじゃない。……暖かくなってくると、この世界の連中は血が滾るのか? 物騒なことが多すぎる」 賢吾は低く喉を鳴らして笑い、鉄板の上で焼けたヒレステーキを一切れ、和彦の前の小皿に置いた。 クリニックを終えてから途中で賢吾と合流し、外で夕食をとることにしたのだが、肉が食べたいと希望したのは賢吾だ。疲れ気味の和彦に精をつけさせようと考えた――のかどうかは知らないが、鉄板焼きのコースディナーの他に、さらにサーロインステーキを別メニューで頼んだ賢吾は、和彦の倍の速度で肉を焼き、口に運んでいる。「物騒といえば、総和会からの申し出も、ある意味じゃ物騒だな」 賢吾が言っているのは、総和会から、和彦にクリニックを任せたいと提案された件だ。移動中の車内で簡単に説明をしたのだが、とっくに千尋から、賢吾の耳に入っていただろう。驚いた様子もなく、薄く笑っただけだった。もっとも和彦自身、賢吾の反応をある程度予
店内へと案内されると、目の前の光景にふっと一瞬の既視感に襲われる。見覚えがあると感じたのは当然で、和彦はこの店を知っていた。実際に足を運んだのは今夜が初めてだが、クリニックのインテリアについて秦に相談したとき、写真で見せられたのだ。 もう一軒の店同様、ホストクラブらしくない内装は、秦の好みが強く反映しており、インテリアの一つ一つも、物がいい。深みのある紫色がところどころで使われているが、妖しさを演出はしていても、下品にはなっていない。 すでにレストランから移動してきた客が数人いたが、その中に一人だけ、カウンターで飲んでいるスーツ姿の男がいた。大柄で引き締まった体
「お前、俺を心底嫌っているだろ。なのに体は反応する。……ヤクザの組長を骨抜きにするには、それぐらい淫乱じゃねーとダメってことか」 思わず鷹津を睨みつけると、髪を掴まれて唇を塞がれる。濡れた先端を擦り上げられてたまらず呻き声を洩らした途端、待ちかねていたように舌で口腔を犯されていた。「長嶺にしていたようにしてみろ。いやらしいキスをしていたろ。うっとりした目であのクズを見つめながら――」 引き出された舌を吸われて鷹津の求めているものがわかった和彦は、柔らかな膨らみを強く揉みしだかれる刺激に狂わされ、鷹津と舌先を触れ合わせたあと、
鷹津を煽る言葉が、和彦の欲情を煽る。カッと体が熱くなり、触れられないまま紅潮する肌を、ワイシャツのボタンをすべて外し終えた賢吾が確認する。満足したように目を細めた賢吾が、優しい声で唆してきた。「さあ、先生、この下衆な男に見せてやれ。自分がどれだけ、長嶺組の組長を骨抜きにして、惑わせているか」 賢吾の熱い手にいきなり和彦のものは握り締められて、容赦なく扱かれる。呻き声を洩らした和彦は、咄嗟にソファの端を掴んだ。 片手が胸元に這わされ、すでに興奮のため硬く凝った胸の突起をてのひらで転がされる。片足を押し上げるようにして覆い被さってきた賢吾にベロリと舐めら
狭い場所を、傲慢な欲望が押し広げようとする。和彦は頭上に片手を伸ばして肘掛けを掴み、もう片方の手を賢吾の腕にかけていた。 賢吾が腰を進め、和彦の内奥は熱く硬い欲望を呑み込まされる。氷の冷たさに晒されたばかりの場所にとって、賢吾の熱はまるで凶器だ。だが、浅ましく締め付け、吸い付き、さらに奥へと受け入れようと蠢動する。「ひあっ……」 内奥深くまで賢吾のものを呑み込んだとき、和彦は触れられないまま絶頂に達していた。賢吾だけでなく、鷹津が見ている前で精を噴き上げ、下腹部を濡らしたのだ。「……