Mag-log in「頼むから、部屋の外でそんなことを冗談でも言わないでくれ。ここの組員たちに睨まれたくない」
ヤクザの組長からこんなことを言われると、冗談とわかっていながらも心臓に悪い。ただ、憂鬱さに捕らわれそうになった気持ちは、賢吾のその冗談でふっと軽くなっていた。 コーヒーを啜った和彦が何げなく視線を上げると、賢吾がこちらを見つめていた。そして、自分が腰掛けているソファを指さした。こちらに座り直せと言いたいのだ。わずかにうろたえた和彦だが、結局、賢吾の指示に従う。 案の定、賢吾の隣に座った途端、肩を抱かれて引き寄せられた。 賢吾の大きな手が、ワイシャツの上から和彦の肩先を撫でる。最初は背筋を伸ばしていたが、手の動きに促されるように、和彦はゆっくりと賢吾にもたれかかった。「……仕事、しなくていいのか?」「急ぎの仕事なら、もう片付けた。今日、先生とデートするためにな」「何言ってるんだ――」 内心でうろたえながら視線を上げると、賢吾が返してきたのは、熱を帯びた強い眼差しだった。淫らな蠕動を始めた内奥の感触を堪能するように、少しの間動きを止めていた千尋だが、ゆっくりと律動を再開する。背に重なる千尋の胸元から、激しい鼓動が伝わってくるようだった。もしかすると、内奥で動き回る欲望の脈動かもしれないが、和彦にはもう区別がつかない。自身の鼓動が、狂ったように鳴っているせいだ。 神聖な儀式に立ち合っているかのように、和彦と千尋が繋がってから、他の長嶺の男たちは口を開かなかった。いや、これは立派な儀式なのだ。和彦に、長嶺の男たち共有のオンナとしての、見えない刻印をつけるための。 自分はとっくに長嶺の男たちに所有されていると思っていたが、男たちにとって、和彦のその認識はまだ生ぬるかったようだ。「ううっ、あっ、はあっ、はあっ――……」 千尋の熱い欲望が、爆ぜる。もう何度も、千尋の精を内奥で受け止めてきたというのに、それでもやはり、この行為は特別な気がする。千尋の欲望を締め付けたまま、和彦は再び軽い絶頂状態に陥っていた。 余韻なく千尋が体を離したが、そのことを寂しいと感じる間もなく、喘ぐ内奥の入り口に逞しい感触が擦りつけられ、挿入される。衝撃に、声も出せなかった。 乱暴に背後から突き上げられ、逞しい欲望を根元まで捩じ込まれるが、たっぷり潤っている和彦の内奥は貪欲に呑み込み、淫らな襞と粘膜で包み、締め付ける。「――あれだけ美味そうに千尋のものを味わっていたのに、俺のことも欲しがってくれるのか、和彦」 笑いを含んだバリトンで意地悪な言葉を紡ぐのは、賢吾だった。しっかりと腰を掴まれたかと思うと、次の瞬間には、上体が浮き上がる。一体何が起こったのか、すぐには理解できなかった和彦だが、視線を上げると、正面に千尋がいた。傍らには守光が。「あっ」 繋がったまま賢吾の腰の上に座らされているのだと気づき、和彦は激しくうろたえる。腰を浮かせようとしたが、内奥深くまで賢吾の欲望に刺し貫かれていることを強く意識させられただけだった。「これ、嫌だ……」 和彦は弱々しく訴えたが、返事のつもりなのか賢吾が腰を揺すり、内奥を掻き回される。うなじに軽く噛みつかれて、全身が震えるほど感じて
長嶺の男たちの舌も指も、執拗に和彦の感じやすい部分をまさぐってくる。守光は、熱くなり始めている欲望の先端を繊細な指づかいで擦り、一方の賢吾は、左耳に唇を押し当てたあと、耳の穴に舌先を潜り込ませてきた。 三者三様の攻めに、男たちの愛撫に慣らされている和彦の体は、瞬く間に蕩けていく。そのため賢吾に、背後から抱えられるようにして膝を掴まれ両足を持ち上げられても、抵抗できなかった。 秘部と呼べる場所をすべて晒し、そこに守光と千尋の視線が注がれると、身を焼くような羞恥に息も止まりそうになる。「――昨日、触ってあげたばかりなのに、もうきつく窄まってる」 そう言って千尋が触れてきたのは、内奥の入り口だった。軽く擦られて、和彦は唇を噛む。「中身は淫奔だが、見た目は貞淑というのは、あんたの存在そのものだな」 これは、潤滑剤のチューブを手にした守光の言葉だ。 和彦のさらなる発情を促すように、内奥に潤滑剤を施される。襞と粘膜にたっぷりすり込まれながら、長い指を出し入れされる頃には、淫靡な湿った音が室内に響くようになる。それに、和彦の乱れた息遣いも。「うあっ、あっ、い、や――。あっ、ううっ……」 内側から官能を呼び起こされ、少し前までとりあえず貞淑さを保っていた部分は、もう真っ赤に熟し、喘ぐように綻んでいる。その様子を、守光は冷静に、千尋は食い入るように見つめていた。賢吾の表情を見ることはできないが、耳元に注ぎ込まれる息遣いは、さきほどより少し荒くなっていた。 内奥の浅い部分を特に念入りに擦られて、反り返った欲望の先端から透明なしずくを滴らせる。「蜜がこぼれ始めたな」 ぽつりと洩らした守光が内奥から指を引き抜く。続いて千尋が、新たに潤滑剤を指に取り、内奥に挿入してくる。和彦は呻き声を洩らしながら、意識しないまま指を締め付けていた。「先生の中、すごい締まってる。ねえ、気持ちいい?」 ゆっくりと円を描くように指を動かされて、和彦は腰を揺らす。千尋はもう一度潤滑剤をたっぷり指に取り、ヌルリと挿入してきた。ひんやりとした潤滑剤が、己の熱でじわじわと溶け出していく感覚がおぞましく、同時に異様な高ぶり
「言葉でいくら、先生は大事で可愛いオンナだと言っても、こちらの気持ちのすべてを伝えきることはできないだろう。言葉は、偽ることもできるし、取り繕うこともできる。だったら、それ以外の方法が必要だ。先生の欲しがるものを与えて、先生が逃げ出せないよう立場や情で雁字搦めにもして……、だが、それでもまだ足りない」 賢吾の手が肩にかかり、呼応するように千尋が片手を差し出してくる。この場の空気に呑まれてしまった和彦は、何も考えられないままその手を取り、軽く引っ張られてその場に座り込んだ。「先生は冗談だと思っただろうが、前に、俺の養子になるかと言ったのは、本気だ。――どうやら同じ口説き文句を、別の男も言ったようだが」 賢吾のやや皮肉交じりの言葉に応じるように、守光が口元に淡い笑みを湛える。「そういう形式的なことはあとで考えるとして、まずは先生に、自分がどれだけ特別な存在なのか、体で実感してもらわないと」 いつになく興奮した様子で、両目に強い光を宿した千尋がのっそりと和彦に迫ってくる。反射的に身を引きそうになったが、背後から賢吾に抱き締められて捕われる。「先生は、俺たちにとって、長嶺組にとって、俺個人としてはあまり嬉しくないが、総和会にとっても特別だ。特別な、大事で可愛いオンナだ。誰も先生の代わりにはならない。先生は無力なんじゃない。優しいから、与えられた力を振るえないだけだ。だがそれすら、俺たちにとっては愛しい」 耳元で賢吾に囁かれながら、千尋に唇を吸われる。和彦は、賢吾がどうしてこんなことを言うのか、薄々とながら理由が推測できた。もともと賢吾なりに、和彦を気遣ってはいたが、御堂の復帰によって、その気遣いの目的は、より明確なものとなったようだ。 オンナという〈立場〉ではなく、〈生き方〉として受け入れろと、傲慢な男たちは強引に、しかしそれ以上に淫らに迫ってくる。「んっ……う」 千尋にあごを持ち上げられ、唇が一層深く重なる。熱い舌が性急に口腔に押し込まれると、和彦は拒めない。眩暈がするほど間近に千尋の両目があり、覗き込んでいるうちに、狂おしいほどの欲情に呑まれてしまいそうな危惧を覚える。千尋だけではない。視界
「今、広間のほうで、みんな集まって宴会してるんだ。さすがに先生にも顔を出せなんて言わないから、ここに晩メシを運ばせようか? 俺、つき合うから」「何言ってるんだ。長嶺組の跡目を独占するわけにはいかないだろ。ぼくは、一人でゆっくり過ごさせてもらうから、お前は行ってこい」 一緒にいてほしいという言葉でも期待していたのか、不服そうに唇を尖らせた千尋だが、和彦のほうから唇を吸ってやると、ちらりと笑みをこぼす。「先生、機嫌よくなったみたい」「今なら、お前の多少のわがままでも、笑って受け流せそうだ」「受け止めるんじゃなくて、受け流すんだ……」 離れがたい様子の千尋だったが、和彦が促すと、渋々といった顔で立ち上がる。「オヤジたちには伝えておくから、ゆっくり晩メシ食ったら、風呂に入るといいよ。大浴場からだと、もっとよく海が見えるらしいし」 そう言い置いて千尋が部屋を出て行く。再び一人となった和彦は立ち上がると、窓を開け、海と夕日という贅沢な組み合わせに見入る。そうしていると、千尋が伝えてくれたらしく、食事が運ばれてきた。 一人での食事というのは久しぶりだった。本部だろうがクリニックだろうが、食事のときには、常に誰かが側にいる状態だ。そのことを疎ましいと感じることはなかったが、たまには完全に一人というのも気楽でいいと、刺身の美味しさに感心しつつ和彦は思う。 食事を終え、膳を下げてもらってから、テレビのニュース番組を漫然とチェックしていたが、大事なことを思い出し、慌てて浴衣に着替えて大浴場に向かう。部屋に露天風呂は付いているが、こういうときでもなければ広い風呂に入る機会はない。 予想した通り、和彦以外に人の姿はなく、おかげでゆっくりと、湯と、大浴場の窓からの景色を堪能することができた。堪能しすぎて、危うく湯あたりを起こしそうになったぐらいだ。 急いで部屋に戻る必要もないため、和彦は大浴場を出たその足で、今度はラウンジに向かう。 オレンジジュースを飲みながら、体の火照りを冷ます頃には、外はすっかり暗くなっていた。空には星が輝いているが、海には漆黒の闇が広がり、その闇に見入ってしまう。「――部
何より和彦には、鷹津に関して、誰にも言えない後ろめたさがある。 ぎこちなく息を吐き出し、どうにか動揺を静める。「押しかけたというより、張り込んでいたところを、見咎められたようだ」「それって、先生が心配で?」 そう言った千尋の声には、わずかな嘲笑の響きがあった。子供のような無邪気さを装っていても、こういうところは賢吾や守光にそっくりだと感じる。「ぼくの姿がマンションや本宅から見えなくなって、様子が気になったみたいだ。一応、ぼくの番犬としてつけられているからな。仕事のつもりだったんだろう」「すごい勢いで、鷹津と第二遊撃隊隊長の間に割って入ったらしいね。先生、荒事は苦手なのに」「――……腹が立ったんだ。勝手なことをした鷹津に」 千尋がようやく顔を上げ、心の奥底まで突き通してくるかのような強い眼差しを向けてきた。「優しいよね、先生」 どういう意味なのかと、和彦は首を傾げる。千尋は答えをはぐらかすようににんまりと笑った。「でもさ、前から気になってるんだけど、先生と鷹津って、会ったらどんなこと話すの?」 和彦は、これまでの鷹津とのやり取りを思い返してから、顔をしかめた。「皮肉と嫌味を言い合っている……」 予想はできたが、千尋は呆れたように和彦を見る。「そんな奴と会っていて楽しい?」「仕方ないだろ。あの男の性格は捩くれ曲がってるんだから」「まあ、鷹津の性格が難ありなのはわかる。俺、あいつ嫌いだし。でも先生は――気が合ってる感じ」 そんなわけないと答える声は、我ながら不自然なほど硬かった。足元に視線を落とし、揺れる海面を見つめる。千尋に表情を観察されたくなかった。「先生と鷹津のこと、今は我慢してるけど、もし、あの男のせいで先生が危険に晒されるようなら、俺は自分の意見を、オヤジやじいちゃんにぶつけるし、呑んでもらうから」 千尋の淡々とした口調から、これ以上ない本気を感じ取る。視線を上げた和彦は、真摯で鋭い眼差しを正面から受け止める。賢吾や守光のように、得体の知れない怪物が潜む目だ。
駐車場に停まっているのは長嶺組と総和会の車だけで、警護する者たちにとっても、動きやすい環境かもしれない。 部屋に案内された和彦はすぐにダークスーツから着替える。楽なポロシャツ姿になって一心地ついていると、隣の部屋で着替えを済ませた千尋が戻ってくる。今日はもう長嶺組の跡目としての仕事はないのか、Tシャツにハーフパンツという、和彦以上にラフな格好となっている。「先生、砂浜に行こうよ」「そういえば、散歩すると言ってたな。あまり歩くようなら、ちょっと遠慮したいんだが……」 ニヤリと笑った千尋が柔らかく陽射しを通す障子を開けると、海が視界に飛び込んでくる。さらに窓を開け放つと、潮の匂いを含んだ爽やかな風が室内に吹き込む。その風に誘われるように和彦は立ち上がり、窓に歩み寄る。意外なほど近くに砂浜があった。 ここから見ているから一人で行ってこいと言いたかったが、散歩を待ちわびている犬のような眼差しで千尋に見つめられると、車中で約束していたこともあり、頷くしかなかった。 護衛もついてくるかと思ったが、意外なことに千尋と二人で悠々と宿を出ることができた。その理由は簡単で、宿の外を長嶺組と総和会の人間が見張っており、関係者以外は迂闊に近づくことできないのだ。「護衛にぴったり張り付かれるより、ずっと気楽じゃない?」 ビーチサンダルをペタペタと音をさせて歩きながら、こともなげに千尋が言う。「まあ……。でも大変だな、この暑い中」「俺とオヤジが動くだけならそうでもないけど、じいちゃんがいるからね。嫌でもピリピリする」 次の瞬間、千尋が歓声を上げて駆け出す。砂浜に出ると、ビーチサンダルを脱ぎ捨て、さっそく波打ち際に近づいた。「本当に犬みたいだな……」 千尋のはしゃぎっぷりについ呟いた和彦だが、無意識のうちに笑みをこぼす。千尋のビーチサンダルを拾い上げて砂の上に腰を下ろす。 海水に足を浸してご機嫌の千尋を眺めていて、ふと気になって周囲を見回すと、木や岩の陰に身を潜めるようにしてこちらを見ている男たちの姿があった。「…
「先生?」 ふいに唇を離した中嶋に呼ばれた和彦は、自分の中の疼きを自覚して、うろたえる。思わず視線を伏せると、そんな和彦に何かを刺激されたように、中嶋がまた唇を寄せてくる。和彦は顔を背けようとしたが、簡単に唇を塞がれていた。 熱心に唇を吸われているうちに、和彦の脳裏に秦の言葉が蘇る。伏せていた視線を上げると、中嶋と目が合い、そのまま視線が逸らせなくなった。 和彦は、中嶋の首の後ろに手をかけると、秦にされたキスを忠実に再現する。今度は中嶋がうろたえた素振りを見せたが、それも一瞬だ。次の瞬間には、和彦のキスに応え始めていた。「んっ&hellip
リビングのテーブルには、真っ赤なリボンが結ばれた箱が置いてあった。どうやら、クリスマスプレゼントらしい。 一度はテーブルの前を素通りして、コートとマフラーを置いてこようかとも思った和彦だが、コロンの残り香に搦め捕られたように足が止まり、結局、テーブルに引き返す。「……開けるのが怖いな」 じっと箱を見下ろしながら、ぼそりと呟く。 プレゼントの贈り主は、箱の上にしっかりとカードを残していた。『先生へ』という短い一言と、贈り主である男の名が記されている。 長嶺組組長という物騒すぎる肩書きを持ったサンタクロ
それでも今は、優しい錯覚に浸っていたい。 三田村に促され、サンドイッチを手に取る。和彦が眠っている間に、近くのファストフード店まで三田村が買いに行ってくれたものだ。具がたっぷりの大きなサンドイッチとスープは、和彦の普段の朝食としては十分すぎる量だ。「昼まで一緒にいられるんだろ?」 サンドイッチを頬張る合間に問いかけると、和彦を安心させるように三田村は目元を和らげる。「ああ。もうそんなに時間はないが、先生の行きたいところがあればつき合う」「別に今日、どうしても行きたいってところは……ないな。あんたこそ
「そのつもりだったが、元気そうだな。少し痩せたようには見えるが」「食欲は戻った。それに……安定剤を飲んででも、眠るようにしているしな」 鷹津から探るような眼差しを向けられ、和彦は逃げるようにキッチンに向かう。和彦に何があったのか、明らかに鷹津は知りたがっていた。 和彦の身近にいる男たちは、必要があれば情報を共有する。その中で、今回は鷹津がつま弾きにされたらしい。ここでいい気味だと思えないのは、自分自身のことだからだ。 二人分のコーヒーを淹れながら、仕方なく端的に事情を説明する。賢吾なら、先生は甘いなと、薄い笑みを