LOGIN千尋の、まだ水滴を残している胸元をゆっくりと舐め上げる。きれいな筋肉のついた体を優しくてのひらで撫でながら、滑らかな肌に丹念に舌を這わせ、ときおり吸い上げては、小さな赤い跡を残す。
シャワーを浴びてそれでなくても上気していた千尋の肌は、興奮のためか、さらに熱く赤みを帯びていく。 「気持ちいいか?」 みぞおちを辿って喉元まで舐め上げてから、千尋の唇に軽いキスを落とす。 「う、ん……。ゾクゾクして、たまんない気持ちに――」 千尋が両手を動かそうとしたので、すかさず釘を刺した。 「お前は勝手なことをするな。ぼくの好きにさせないと、やめるぞ」 和彦は、千尋の尽きることのない欲情を表しているものをてのひらに包み込む。柔らかく上下に扱きながら、千尋に言い諭した。 「今日はもうぼくに手を出さないと約束するなら、もっと気持ちいいことをしてやる」 和彦がなんの行為を指しているのか十分にわかったらしく、千尋は大きく頷く。いい子だ、と囁いて、和彦はもう一度千尋の唇にキスを落とした。 ヤクザエントランスの正面には受付カウンターが設けられているが、誰もいない。左右に廊下が分かれており、南郷は左に進んだので和彦もスリッパに履き替えてついていく。 新築の建物特有の匂いに軽く鼻を鳴らし、歩きながら天井を見上げる。壁だけでなく天井も真っ白だ。二階までの吹き抜けとなっており、高い位置にある窓から差し込む陽射しによって、白さが際立ち目が眩む。ここは白い回廊だなと、愚にもつかないことを考えてしまう。「うわっ」 立ち止まった南郷の背にぶつかってよろめく。「ここから先が、俺個人が自由に使えるスペースだ。さっきの廊下を右に行ったら、若い連中の居住スペースになってる。個室がいくつか。今はプライバシー重視で、一つの部屋でまとめて雑魚寝生活というのは嫌われるらしい」「……若い連中というのは、第二遊撃隊の人たちですか?」「総和会の資金が注ぎ込まれている手前、そういう露骨な贔屓もできない。いろいろ、だ。俺を慕っている者も、反感を抱いている者もいるだろう。もしかして、俺の動向を探る目的の奴も入り込んでいるかもな」 第一遊撃隊の人間も入居していると、思わせぶりな口調で南郷は付け加えた。「隊や組を超えた交流が必要だ。縄張り意識だけ強くなった頭の固い人間は、この先の組織運営には障害となる――とオヤジさんの言葉だが、俺も同感だ」 ドアを開けた南郷に促され、おずおずと部屋に足を踏み入れる。広々としたリビングダイニングには、まるでモデルルームのように趣味のいい家具が一通り揃っている。キッチンも見えるが、使っている形跡はない。「メシは、本部の食堂で食ったほうが手間がかからなくていい。ここには、寝に通ってるようなもんだ」 南郷が階段にちらりと視線を向ける。二階に寝室があるとわかって和彦は本能的に体を強張らせたが、気づいているのかいないのか、南郷はリビングダイニングを通り抜け、さらに奥に続くドアを開けた。白い回廊とは対照的な、薄暗く狭い廊下が伸びている。 南郷に招き入れられたのは、廊下以上に暗い部屋だった。まだ片付いていないのか段ボールが部屋の隅に積み上げられているが、和彦が興味を惹かれたのは、壁際の大きな書棚だった。傍らには
「――元はレンガ敷きの道だったが、工事車両が出入りするのに不便でこうなった。今、舗装材を手配してもらっているから、少しの間、見た目が悪いのは我慢してくれ。先生」 前触れもなく話しかけられ、和彦は飛び上がりそうなほど驚く。パッと振り返ると、いつの間にか玄関のドアが開いており、男が立っていた。厚みのある大柄な体を真っ白なワイシャツで包んだ南郷だ。 存在を認識した途端、和彦は総毛立つ。自分とこの男との間に起こった出来事が、一瞬にして脳裏に蘇っていた。 顔色をなくして立ち尽くす和彦にかまわず、南郷はさらに話しかけてくる。「総括参謀なんて肩書きがつくなら、本部の一室にネズミみたいにいつまでも棲みついているなと、使っていた部屋を追い出されたんだ。ちょうど、テニスコートを潰して若い奴らのための寮のようなものでも造るかという話が出ていたから、俺は体のいい管理人みたいなものだな。そうでなかったら、こんなシャレた建物に住むことなんて、一生なかったはずだ」「ここに、住んでいるんですか……?」「オヤジさんが会長を引退するまでは、一応ここが、俺の家ということになる。わかりにくいなら、表札をかけておこうか?」 決して懐かしさを覚えたわけではないが、皮肉っぽい物言いが南郷らしいと実感させられる。この男とまともに会話を交わすのはいつ以来かと、つい頭の中で数えていた。最後に顔を合わせたのは和泉家から戻ってきた日の駅構内だった。総和会の男たちに追われ、駆け出した先で鷹津に救われたのだ。そこからおよそ三か月経って、またこうして南郷と相対している。「今日、あんたがここに来ると聞いていたから、お披露目しておこうと思ってな。――あんたとも無関係の場所ではないし」 それはどういう意味かと和彦は眉をひそめる。南郷はスッと視線を逸らし、土が剥き出しとなっている一角に目を向けた。「ここに頑丈な柵を立てて、犬を飼おうかという話が出ている。番犬のような男揃いの本部に、いまさら本物の犬を飼うのもどうだという話だが……、先生なら、この空き地をどう使う?」「ぼくは、関係ないので」 和彦の返答に、南郷は軽く肩を竦める。
総和会本部の建物内については知り尽くしているとまではいかなくとも、各階に何があるかを大まかながら把握している和彦だが、建物外のこととなると、何も知らないに等しい。元はある企業が、税金対策に建てた研修施設だったというだけあって敷地はそれなりに広い。かつてはグラウンドなどもあったという話だが、守光の指示によって造園工事が行われたのだそうだ。 守光の場合、自然派だとか緑を愛しているとか、そういう理由からではないだろう。長嶺の本宅の中庭を見ていても感じるが、〈整えて〉いることに満足を覚える性質なのかもしれない。 和彦は少し首を傾けて、車の後部座席から空を見上げる。次いで、周囲に目を向ける。敷地内をゆっくりと車は進む。いつも車が停まる建物の裏口や駐車場ではなく、今日はさらに奥へと進んでいた。まさに、守光が造園工事を命じたというエリアだ。 呼ばれたのをこれ幸いと、あれも聞きたい、これも聞きたいと勢い込んでやってきたものの、当の守光は、今は来客の対応をしているという。拍子抜けしたのだが、だから先に、和彦を案内したいところがあると言われて移動中だ。 敷地には車が通る道以外に、屋根つきの歩道も通っている。念入りに植裁を行っているのか、樹木が頭上から覆い被さるように生い茂っており、緑の回廊を作り出している。ちょっと見惚れるほどの光景だが、見栄え云々ではなく、上空からの視線を警戒したのではないかと和彦は推察する。少し前ならヘリコプターでの空撮だっただろうが、今なら一般人でもドローンを簡単に入手できるのだ。 建物の窓から見下ろしていたときは、広い敷地で手入れが追い付かないにしても、少々鬱蒼としすぎているのではないかと感じていたが、間近で見ていると途轍もない手間がかかっていると知る。 ところどころ小綺麗なベンチも設置されているので、普段から立ち入りが禁止されている場所というわけでもないようだ。実際、こうして目にすると、和彦自身、自分の足で歩き回ってみたくなってくる。建物自体を檻と認識していたため、敷地内を散歩できる場所だと想像もしていなかったのだ。 唐突に緑の回廊を抜ける。目の前に現れたのは一軒の建物だった。目的地はここだったらしく、車は正面玄関で停まる。降りるよう告げられたので、仕方なく指示に従う。
**** 今朝の朝食が、自分だけ粥が準備されていたのはどんな意味があるのだろうかと、和彦は食後のお茶を啜りながらずっと考えていた。 目の前では賢吾が悠然と新聞を開いており、和彦の隣では千尋が、朝のニュース番組をチェックしつつ、トーストにかぶりついていた。ちなみにこれで三枚目だ。 若い千尋の健啖ぶりはいまさらといえばいまさらだが、昨夜あれだけ体力を使えば、食欲に拍車もかかるのかもしれない。一方の和彦は、限界まで体力と精を搾り取られて、シャワーを浴びに行くのも苦労した。 客間で一人で休みたかったが、その前に朝メシを食えと言われて、賢吾の部屋に連れ戻された。 テレビを観ていた千尋がふいに、和彦の前に置かれた空の椀を覗き込んでくる。「和彦、あんま食ってないだろ。パンでも頼む?」 千尋のせっかくの気遣いだが、和彦は胃の辺りをさすって首を横に振る。「お粥で十分腹いっぱいになった」 横から口を挟んできたのは賢吾だ。「昨夜は肉をたらふく食ったからな。軽めに、と笠野に注文しておいた俺の読みは正しかったわけだ」「……なんでお粥なのかと思ったら、あんたか」「その代わり、昼には美味いものを食いに連れて行ってやる。鰻なんてどうだ?」「今から、昼なにを食べるか聞かれてもなー。というか、昨日の今日で、出歩いて大丈夫なのか……」 和彦が何を気にかけているか、当然賢吾はわかっている。「秋慈から、伊勢崎龍造に連絡して軽く牽制してもらうことになっている。実際の目的がどこにあるのかはっきりしないが、少なくともお前相手に狼藉を働こうという気はないはずだ。そんな気があったら、もっと早くに動いていただろうしな」「前に会って食事をしたときは、悪い印象は受けなかった。もちろん堅気じゃないから怖くはあるんだけど、玲く――息子に対する情愛を感じられたんだ」「……お前を騙すのは簡単だな」 そう言って賢吾は苦笑し、千尋は苦虫を噛み潰したような顔をしている。父子揃って、和彦
賢吾が場所を移動し、裸となった千尋がのしかかってくる。ちょっと待てと言いたかったが、当然のように腰を密着させてきて、舌なめずりせんばかりのしたたかな表情を目の当たりにして、言葉を呑み込む。止めたところで無駄だと、一瞬にして悟ってしまった。長嶺の男がこんな顔つきになったとき、和彦は捕食されるしかないのだ。 賢吾に愛されたばかりで、物欲しげにひくついている内奥の入り口に、千尋の欲望が擦りつけられる。興奮しきったそれを押し込まれたが、なんなく受け入れていた。 深々と繋がってから、千尋が大きく息を吐き出す。「まだ和彦の中、ビクビク震えてる……。刺激強すぎ」「俺のおかげだな」 傍らで余計なことを言った賢吾に、簡単に千尋は煽られる。「抜け駆けしやがって」「されるほうがマヌケなんだ」「……人の上に乗りかかりながら、父子ゲンカなんてするなよ」「しないよ。それより――」 耳元に顔を寄せてきた千尋にあることを囁かれ、和彦は素直に従う。千尋の背に両腕を回すと、賢吾の大蛇にしたように、犬を撫でる。犬っころなどと呼べるような可愛い存在ではなく、犬の身で人間の姫を自分のものにしてしまった執着の化け物ともいえる物騒な犬だ。 もし稜人と一緒に風呂に入るとき、この背のものをどう説明するのだろうかと、つい余計な心配をしていると、千尋にぐいっと顔を覗き込まれた。「和彦、誰のこと考えてる?」「心配しなくても、お前のことだ」 露骨に疑いの眼差しを向けられたので、和彦は千尋の髪を手荒く搔き乱す。何をやっているんだかと言いたげに、賢吾が呆れた顔をしている。 じゃれ合うようなやり取りはここまでで、急に表情を改めた千尋に唇を塞がれる。側にいる賢吾が最初は気になっていたが、千尋のしなやかな筋肉の躍動を体全体で受け止めているうちに、和彦はそれどころではなくなる。「ああっ、あっ、あぅっ、千、尋っ――」 内奥深くまで穿たれた欲望が、大胆に円を描くように動かされる。中からの刺激によって、再び和彦の欲望も勃ち上がり、反り返っている。先端から悦びの涙を垂らし始めると
「お前一人で気持ちよくなるな」 耳元で意地悪く賢吾に囁かれる。その声にすら反応してしまい、和彦は小さく嬌声を上げる。 内奥深くを抉るように重々しく突かれる。もう痛みはなく、静かな波のような快感が腰から這い上がってきた。和彦は全身を戦慄かせながら、肉の悦びに鳴く。賢吾が緩やかな律動を刻み始めた。「い、ぃ――……。賢吾、それ、いい……」 賢吾の逞しい腰には両足を絡めて、はしたなく腰を揺する。賢吾が低く笑い声を洩らした。「もう箍が外れたのか、和彦」「うる、さっ……」 和彦を焦らすように、ふいに賢吾が動きを止め、内奥からゆっくりと欲望を引き抜いていく。勝手に体が反応し、内奥が激しく収縮して欲望を締め付ける。 賢吾に片手を取られて下肢へと導かれる。何を求められているのか察した和彦は、興奮と羞恥で全身を熱くしながら、自ら内奥の入り口に指を這わせ、わずかに呑み込んでいる賢吾の欲望の形もなぞる。こんなものが自分の中に収まっていたのかといまさらながら戦く。「どうしてほしいんだ。撫でてるだけじゃ、お前は気持ちよくならねーだろ」「……本当に、意地が悪いな」「そんな男に惚れてるんだろ。趣味がいいな」 自分で言うなと、つい噴き出した和彦だが、賢吾と唇を触れ合わせてから小声でせがんだ。「あんたに気持ちよくされたいんだ。もっと……」 すぐさま深々と内奥を刺し貫かれる。短く悲鳴を上げたときには、快感の波にさらわれていた。全身を駆け抜ける快美さに呼吸も忘れ、閉じた瞼の裏で舞う極彩色の光に酔う。そんな和彦をさらに極めさせようと、賢吾が動く。「うあっ、あっ、あうぅっ――」 重々しい律動に合わせて、反り返って震える和彦の欲望が精を吐き出す。「おい、俺を置いていくな」 柔らかな声で窘められ、ゆっくりと目を開く。再び胸が重なり、和彦は両腕でしっかりと賢吾にしがみつく。 張り詰めた逞しい欲望が、限界が近いことを知らせてくる。緩やかな動きで内奥を