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第20話(14)

Autor: 北川とも
last update Última atualização: 2026-03-16 20:00:46

 こういうときはさっさと入浴を済ませ、熱いお茶を飲んでベッドに入るに限る。とにかく体を温めて休みたかった。

 前触れもなく寒気を感じ、身震いしてエレベーターに向かおうとしたとき、携帯電話が鳴る。こんな時間に電話をかけてくる相手は決まっており、和彦はやや緊張しながら電話に出た。

『――誕生日の夜は楽しめたか?』

 耳に届くバリトンが、いつになく皮肉げな響きを帯びているように感じるのは、後ろめたさの表れかもしれない。ちらりとそんなことを考えた和彦は、小さくため息をついた。

「鷹津は、今日がぼくの誕生日なんて知らなかった。危うく、あの男の食事代を奢らされるところだったんだ」

『その口ぶりだと、さすがにメシは奢ってもらったか?』

「あとであんたに笑われるのが癪だからと言って、渋々出してくれた」

『先生というフルコースが食えるなら、安いものだ』

 賢吾の物言いに、意識しないまま和彦の全身は熱くなる。鷹津と食事することは報告してあったが、その後どうなるか、当然のように賢吾は予測していたようだ。和彦としては、報告の
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  • 血と束縛と   第20話(14)

     こういうときはさっさと入浴を済ませ、熱いお茶を飲んでベッドに入るに限る。とにかく体を温めて休みたかった。 前触れもなく寒気を感じ、身震いしてエレベーターに向かおうとしたとき、携帯電話が鳴る。こんな時間に電話をかけてくる相手は決まっており、和彦はやや緊張しながら電話に出た。『――誕生日の夜は楽しめたか?』 耳に届くバリトンが、いつになく皮肉げな響きを帯びているように感じるのは、後ろめたさの表れかもしれない。ちらりとそんなことを考えた和彦は、小さくため息をついた。「鷹津は、今日がぼくの誕生日なんて知らなかった。危うく、あの男の食事代を奢らされるところだったんだ」『その口ぶりだと、さすがにメシは奢ってもらったか?』「あとであんたに笑われるのが癪だからと言って、渋々出してくれた」『先生というフルコースが食えるなら、安いものだ』 賢吾の物言いに、意識しないまま和彦の全身は熱くなる。鷹津と食事することは報告してあったが、その後どうなるか、当然のように賢吾は予測していたようだ。和彦としては、報告の手間が省けたと喜ぶ気にもなれない。「……予定外だった。ぼくは仕事を頼んだつもりはなかったけど、鷹津が勝手に……」『あの狂犬みたいな男を、上手く手懐けているみたいだな。ただ、手綱はしっかり締めておけよ。なんの拍子で暴走するかわからない。例えば、俺の可愛いオンナに執着するあまり――とかな』 賢吾の声はあくまで柔らかいが、和彦はそこに怖さを感じる。もしかして怒っているのだろうかと思いはするが、本人に尋ねる勇気は持っていない。『それで鷹津は、先生のためにどんな仕事をしたんだ』 咄嗟に頭の中が真っ白になった和彦は、ぎこちなくエレベーター前まで移動する。その間に呼吸を整えた。「南郷さんのことを調べた。……鷹津本人が気になっていたみたいだ。あちこちで話を聞いて、前科についても調べたと」『それだけか?』 口が裂けても、里見のことを調べるよう頼んだとは言えない。和彦は感情の揺れを読まれないよう、短く答えた。「ああ」

  • 血と束縛と   第20話(13)

     指では届かなかった部分すら、鷹津の欲望は容赦なく押し開いていく。和彦は上体を捩るようにして苦痛から逃れようとするが、一方で、鷹津に支配された腰は、突き上げられるたびに淫らに蠢く。その対比を鷹津は楽しんでいるようだった。「……初めての男は、お前をどこまで開発してくれたんだろうな」 そんなことを洩らしながら、いつの間にか身を起こした和彦のものを片手に握り、律動に合わせて上下に扱いてくる。「いっ……、あっ、触る、な」「こんなに嬉しそうに涎を垂らしておいて、何言ってやがる。――尻がいいのか? ビクビクと痙攣しまくってるぞ」 両足を抱えられ、内奥深くを抉るように突き上げられる。これ以上なくしっかりと、鷹津と繋がったのだ。 息を喘がせる和彦の顔を、鷹津が見下ろしてくる。嫌な笑いはその顔にはなく、欲望が滾る目だけが、率直な感情を表しているようだ。 顔を近づけてきた鷹津に唇を吸われ、思わず吐息をこぼす。体全体で鷹津の重みを、体の内で鷹津の欲望の熱さを感じながら和彦は、差し出した舌を絡め合っていた。貪り合うような口づけを交わしながら、両腕を鷹津の背に回す。「初めて男と寝たとき、こんなふうに甘えたのか?」 口づけの合間に鷹津にまた問いかけられる。「過去はともかく、少なくとも今は、あんたに甘えてなんて、いないだろ」「そうか?」 乱暴に腰を突き上げられ、悲鳴を上げた和彦は鷹津の背にしがみつく。「うあっ、うっ、うっ、んううっ――」 口ではどれだけ強がろうが、体は鷹津を受け入れ、媚びてさえいた。内奥を抉られ、掻き回されるたびに、逞しい欲望をきつく締め付けてしまう。 鷹津に唆されて体を引き起こされると、互いに座った姿勢で向き合う。もちろん、繋がったままだ。 内奥深くでふてぶてしい存在感を示す欲望が、和彦の官能を否応なく引きずり出す。ヒクリと背をしならせて反応すると、鷹津は露骨に腰を動かしてくる。鷹津の肩に掴まりながら和彦は、必死に自分を保とうとしたが、強引に唇を塞がれ、引き出された舌を吸われているうちに乱れていく。 鷹津の腕の中で掠

  • 血と束縛と   第20話(12)

    「……俺はいままで、屑以下の最低な奴らと会ってきたが、お前はその誰とも違う。唾を吐きかけたくなるほど忌々しくて憎たらしい。ズルくてしたたかな嫌な人間だ」「蛇蝎の片割れに、そこまで言葉を費やして貶されると、かえって嬉しいな」 皮肉半分、本音半分でそう洩らすと、和彦はミネラルウォーターのペットボトルに口をつける。このとき首筋を、髪先から落ちた水のしずくが伝い落ちる。シャワーを浴びたあと、よく髪を拭かなかったせいだ。 鷹津の奢りで食事をしたあと、〈美味い餌〉の前払いを改めて求められ、和彦は拒まなかった。鷹津には、働きに対する報酬だけでなく、里見の件に関して口止め料も払わざるをえなくなったのだ。鷹津をどこまで信用していいかはわからないが、和彦が自分の事情に巻き込めるのはこの男しかいない。「今になって初めての男を調べさせるということは、会う気なのか?」「里見さんを使って、佐伯家がぼくのことを調べようとしている。だったらぼくは、里見さんを使って佐伯家の動向を探るだけだ。ただそのためには、あの人がいまだに信頼に値する人間なのか、それが知りたい」「妙に色気のある目をして、言うことはえげつない奴だ」「あんたの品性に合わせているんだ」 もう一度鼻先で笑った鷹津が立ち上がる。「人に頼み事をしておきながら、よくそんな口が聞けるな」「――……あんたに餌は与えるんだ。口の聞き方ぐらい大目に見ろ」 鷹津にきつい眼差しを向けながらそう言い放った和彦は、ペットボトルの水を飲み干す。空になったペットボトルを鷹津が床に放り出し、そのまま和彦はベッドの上に押し倒された。 のしかかってきた鷹津にバスローブの紐を解かれ、前を開かれる。じっと見下ろしてくる鷹津の眼差しの強さに、堪らず和彦は顔を背けた。鷹津の舌にベロリと首筋を舐め上げられ、嫌悪感に鳥肌が立ちそうになるが、それも一瞬だ。腰からじわじわと疼きが這い上がってくる。「うっ……」 胸元に手が這わされ、すでに硬く凝っている突起を指で転がすように刺激されたかと思うと、いきなり鷹津の熱い口腔に含まれた。まるで

  • 血と束縛と   第20話(11)

     鷹津の口調からは、歯がゆさや悔しさ、怒りといった感情が感じられず、まるで、与えられた台本を淡々と読んでいるようだ。刑事でありながら、自分が追う事件に対してここまで淡白なのは、何かしら理由があるのかもしれない。悪徳刑事らしい、理由が。「警察側から情報が漏れたら、組織としてはさぞかし動きやすいだろうな」 和彦がわかりやすい鎌をかけると、悪びれた様子もなく鷹津は笑った。爽やかさとは対極にあるような凶悪な表情で、ドロドロとした感情の澱が透けて見える目は、いつになく凄みを帯びている。追及してくるなと、和彦を威嚇しているのかもしれない。「……悪徳刑事」「ヤクザのオンナにそう言われると、ゾクゾクするほど興奮する」 そう言って鷹津は、今度はリゾットを流し込むように食べる。「言っておくがぼくは、南郷という男に興味はないから、情報を持ってこられても困る」「すると俺は、タダ働きか」「あんた自身が気になったから調べたんだろ。恩着せがましい言い方をするな」「だったら俺に、餌を与えるに値する仕事をくれ」 そんなものはない――。そう言いかけた和彦だが、ふとあることを思い出し、胸の奥がチクリと痛んだ。「あるのか?」 和彦の異変を敏感に察知した鷹津が、すかさず問いかけてくる。ぐっと唇を引き結んだ和彦は、リゾットに視線を落としたまま、ぼそぼそと答えた。「デザートが運ばれてくるまで待ってくれ」「好きにしろ」 時間稼ぎのつもりだったが、リゾットを最後まで食べることを早々に諦めた和彦は、コーヒーを啜り始めた鷹津が見ている前で、デザートを運んできてもらう。 和彦は白桃のシャーベットを一口食べてため息をつくと、鷹津に向けて片手を突き出した。「……ペンはあるか?」 鷹津がボールペンを投げて寄越してくる。和彦は、シャーベットの器と一緒に出されたペーパーナプキンにあることを書き込み、まずボールペンを鷹津に返した。「今からぼくが頼むことは、内密にしてくれ。もちろん、組長にも知らせないでほしい」「ほお、そりゃ、大事だな」

  • 血と束縛と   第20話(10)

     テーブルの下で、鷹津の靴先がくるぶしの辺りを軽く突いてくる。和彦はぐっと唇を引き結び、鷹津の靴先を蹴った。「あんたに仕事を頼んだ覚えはない。働きって、なんのことだ」「お前に迫っていた、熊みたいにでかい男のことだ。総和会第二遊撃隊の頭だろ」 眼差しを鋭くした和彦は、鷹津を見据えたまま肉を口に運ぶ。「名前は、南郷桂。三十九歳という若さだが、けっこうな修羅場を踏んでいる。元は金城組の人間だった。金城組は、今も派手にやっているある連合会の一門だったんだが、分派騒動で力を削ぎ落とされ、後ろ盾を失った。そこに手を差し伸べたのが、当時長嶺組組長だった長嶺守光だ。――これはまあ、得々と語るまでもなく、組の事情に詳しい人間に聞けばわかることだ」「ぼくは別に、個々の組に興味はない」「賢い奴だよ、お前は。知らないことが身を守る術だと、よく理解している」 鷹津なりの皮肉かもしれないが、和彦自身、自分のそんな性質をよく自覚していた。この世界で力を持たない人間にとって、小賢しいながらも大事な処世術だ。 表情を変えない和彦の反応に、鷹津は軽く鼻を鳴らして話を続ける。「俺が暴力団担当から外れている間に頭角を現した男かと思ったが、どうやら長嶺守光は、南郷にずいぶん昔から目をかけているようだな」 鷹津が南郷のことを調べたのなら、自分が持っているささやかな情報を隠しても仕方ないと判断し、和彦は頷く。「……十代の頃から可愛がってもらっていると言っていた。組を紹介してくれて、総和会にも招き入れてくれて……、実の親より面倒を見てくれたとも」 やっぱり、と鷹津は洩らした。「三年前に県警を定年退職した男がいるんだ。総和会の幹部と繋がっている、という噂があって、最後まで出世とは無縁な刑事だったが、少なくとも俺より善良だ。その男に会って、知っていることを教えてもらおうとしたが、なかなか口を開かなくて苦労した。いまだに、ヤクザに義理立てしているんだ」「あんたにとっての『善良』という価値観がどうなっているのか、ぼくには理解できないんだが……」

  • 血と束縛と   第20話(9)

    **** 長嶺の男たちは、和彦が静かに誕生日を過ごせるよう結託したのかもしれない。 そう勘繰ってしまうぐらい、誕生日当日の和彦は普段以上に淡々と過ごしていた。――夕方までは。 まったく予定が入っていなかったため、外で適当に食事を済ませ、さっさと自宅に引きこもろうと考えていた和彦だが、意外な人物と誕生日のディナーを共にすることになった。 急な仕事に備えて電源を入れておいた携帯電話が震える。慌ててフォークを置いた和彦は、ジャケットのポケットから取り出した携帯電話をテーブルの下で確認する。メールは、無粋とは対極にあるような内容だった。知らず知らずのうちに顔を綻ばせると、向かいの席についている鷹津が不躾な言葉をぶつけてくる。「お前の男からか?」 和彦は携帯電話に視線を落としたまま、テーブルの下で遠慮なく、口の悪い男の脛を蹴りつけてやった。 ささやかな攻撃が効いたのか、次に鷹津が口にしたのは、悪態でも皮肉でもなく、ジンジャーエールのお代わりを頼む言葉だった。 野獣と一緒に食事しているようだと思いながら和彦は、届いたメールを改めて読み返す。送り主は、中嶋からだった。 和彦と特別な関係を持っている男たちは、二月十日という日を決して無視しているわけではなく、しっかりと気にかけてくれている。その証拠に、今日は何通かのメールが届いていた。内容はどれも、和彦の誕生日を祝うものだ。 唯一、メールを送ってこなかった男は、なぜか今、和彦の目の前でステーキにかぶりついている。和彦はその食べっぷりを、半ば感心しつつ眺める。 今晩の鷹津は不精ひげを剃っているだけでなく、見た目だけはいつもより多少マシだった。 いままで見たことがない、きちんとプレスされたスーツを着込んでいるのだ。ネクタイもセットで色合いは地味そのものだが、オールバックの髪型や彫りの深い印象的な顔立ちのおかげで、かえってちょうどいいバランスとなっている。少なくとも、高級感漂うレストランにあって悪目立ちはしていない。 好奇心に負けて、和彦は鷹津に問いかけた。「――なあ、どうして

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