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第27話(24)

last update publish date: 29.04.2026 17:00:24

「ここでその酒を飲んで、あんたなら気に入ってくれるんじゃないかと思ってな。出してもらったんだ。その様子なら……」

「ええ、すごく美味しいです。普段は無難に、日本酒よりワインを選んでしまうんですが、どうやらぼくが、口に合う日本酒を知らなかっただけのようですね」

 喉の奥がじんわりと熱くなり、和彦はそっと吐息を洩らす。猪口一杯でこれでは、すぐに酔ってしまいそうだ。

 食事が進み、器の大半が空いた頃になって、ようやく守光がこう切り出した。

「南郷のことだが――」

 和彦は反射的に背筋を伸ばした。

「あんたには迷惑をかけた」

 守光が頭を下げたため、慌てて制止する。

「やめてくださいっ。会長が頭を下げられるなんてっ……」

「そういうわけにもいかん。これはケジメだ。〈あれ〉は、わしの子飼いの部下だ。今の地位を与えた責任がある」

 激しくうろたえ、困惑した和彦だが、思いきって守光に問いかけた。

「……
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  • 血と束縛と   第27話(25)

     南郷に対して怒りはあるが、自ら罰を与えようと考えたことはなかった。守光が最善の手段へと導いてくれると、心のどこかで期待をしていた。しかし、これは――。 和彦の返事次第では、二つの組織だけではなく、父子関係の不和すら生みかねないと、言外に仄めかされているようだった。守光は、和彦から欲しい返事をもぎ取ろうとしているのだ。この場にはいない賢吾も。 ぐっと奥歯を噛み締めた和彦は、いまさらながら、自分がどれほど怖い男たちの〈オンナ〉であるのか、痛感していた。大事にしてくれてはいるが、一方で、自分たちが背負う組織のために、どこまでも傲慢で容赦なく振舞う。 それでも和彦は身を委ねるしかないのだ。「――……助言を、いただけないでしょうか。どうすれば、影響を最小限に抑えて、なおかつ、誰にも口出しをさせないほど、きちんとケリをつけられるのか。そんな方法があるのでしょうか?」「簡単だ。南郷を跪かせるといい」 事も無げに告げられ、静かな衝撃が胸に広がる。「ひざま、ずかせる……?」「あの男の土下座は、価値がある。――南郷が小さな組の組長代行を務めていた頃、その土下座で揉めに揉めてな。南郷は、親ともいえる組長の面子を潰した挙げ句、結局総和会が介入する話にまでなった。結果が、今の立場だ」 その今の立場を守るために、南郷は和彦の要求を呑むか否か、試せというのだ。しかし守光には確信があるのだろう。南郷は、和彦に詫びるために跪くと。それで、すべてケリがつくと。 頭が、考えることを放棄したがっていた。南郷にそこまでさせてしまうことで、どういう結果が生まれるのか、想像するのが怖かったのだ。不穏なものを感じながらも、しかし他に手段も思いつかない。 和彦は、守光に頭を下げた。「すべて、お任せします。ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします」「あんたが頭を下げる必要はない。今回の件は、こちらの不始末だ。それを円満に解決するために、あんたの手を借りる。面倒だと思うかもしれんが、この世界で円滑に物事を進めるには、取り繕うべき形が必要なんだ」「……そのことを

  • 血と束縛と   第27話(24)

    「ここでその酒を飲んで、あんたなら気に入ってくれるんじゃないかと思ってな。出してもらったんだ。その様子なら……」「ええ、すごく美味しいです。普段は無難に、日本酒よりワインを選んでしまうんですが、どうやらぼくが、口に合う日本酒を知らなかっただけのようですね」 喉の奥がじんわりと熱くなり、和彦はそっと吐息を洩らす。猪口一杯でこれでは、すぐに酔ってしまいそうだ。 食事が進み、器の大半が空いた頃になって、ようやく守光がこう切り出した。「南郷のことだが――」 和彦は反射的に背筋を伸ばした。「あんたには迷惑をかけた」 守光が頭を下げたため、慌てて制止する。「やめてくださいっ。会長が頭を下げられるなんてっ……」「そういうわけにもいかん。これはケジメだ。〈あれ〉は、わしの子飼いの部下だ。今の地位を与えた責任がある」 激しくうろたえ、困惑した和彦だが、思いきって守光に問いかけた。「……会長は、どこまでご存知なのですか?」 頭を上げた守光が一瞬見せた眼差しの鋭さに、息を呑む。しかし次の瞬間には、守光は穏やかな表情へと戻っていた。猪口を取り上げたので、和彦は酒を注ぐ。「賢吾が把握している程度のことは」「それは――……」 すべてを明け透けに打ち明けるかどうか、守光は自分を試しているのかもしれない。和彦は急にそんな不安に襲われる。同時に、耐え難いほどの羞恥にも。「南郷は今、自宅で謹慎させている。第二遊撃隊も、総本部に詰めさせて、外での活動を禁止している。――処分が決まるまで」「処分?」「処分は今日、あんたと相談して決めるつもりだ」 和彦は絶句して、ただ守光の顔を凝視する。沈黙している間、耳に心地いい水音が室内に響き渡る。窓のすぐ下を川が流れているのだろう。 感情の乱れをようやく抑えて発した言葉は、微かに震えを帯びていた。「……どうして、ぼくが……」「あんたが外部

  • 血と束縛と   第27話(23)

    **** 土曜日の午前中、自宅マンションで一人過ごしていた和彦は、突然の連絡を受け、急遽出かけることになった。こちらの予定も聞かず、自分につき合えと言うのは、口調の違いはあれど、長嶺の男に共通する特徴だ。 後部座席のシートに身を預けた和彦は、ウィンドーの外を流れる景色を眺めつつ、守光からかかってきた電話でのやり取りを思い返す。 美味い山魚を食べさせる店があるので、これから出てきなさいと、まず言われたのだ。面食らう和彦に、さらに守光は言葉を続けた。 一昨日の南郷の無礼について、詫びがしたい、と。 こう言われては、和彦には断る術はない。もとより、守光からの誘いを断られるはずもない。 マンション前に停まっていた車に乗り込んだのだが、肝心の守光の姿はなかった。運転手を務めている男によると、守光は昨日からある旅館に宿泊しており、そこに和彦はこれから向かうのだ。 一体何を言われるのだろうかと考えて、心がざわつく。 和彦を騙して呼び出した南郷の行為は、総和会と長嶺組に何かしらの波紋を起こしたようだ。 呼び出された当事者である和彦のもとには、情報がほとんどもたらされない中、唯一、中嶋から送られてきたメールのおかげで、自分の知らないところで事態が動いていることを知ったのだ。 それまで和彦はずっと、長嶺組の男たちに気遣われていた。南郷のせいで、和彦が激怒したままだと思われているためだ。それは事実ではないが、自分の精神状態を詳細に語ることを和彦は避けていた。 実は激怒どころか、南郷がもう一つの〈行為〉を明らかにすることを恐れていたとは、口が裂けても言えない。 自ら動きようがない中で、守光が連絡をくれたことに身構えつつも、正直和彦は安堵していた。 シートから身を乗り出して、ウィンドーに顔を近づける。道路の傍らを川が流れており、陽射しを反射してキラキラと輝いていた。しかし和彦が何より目を奪われたのは、川の向こうに広がる景色だった。 山の傾斜を利用して芝桜が植えられているのだ。まだ盛りを過ぎていないらしく、白や濃いピンクの花が満開となっており、あまりの鮮やかさに思わずため

  • 血と束縛と   第27話(22)

    「個人的な問題が起こっている最中で、今は気持ちに余裕がないんだ。そこに、これ以上厄介なことを抱えると、さすがに限界だ」「気分転換なら、いつでもおつき合いしますよ」 力なく笑った和彦だが、何げなく視線を周囲に向ける。学生らしいグループや、会社帰りと思しきスーツやワイシャツ姿の一団、女性たちだけで盛り上がっているテーブルもあり、とにかくにぎやかだ。そんな客たちの姿を眺めながら、自分や中嶋も、この場に上手く溶け込めているのだろうかと考えていた。 自分たちの存在が特別なのだというつもりはない。ただ、異質なのだ。いつの間にか異質であることを受け入れ、馴染んでいることに、いまさらながら不安のようなものを感じていた。「先生?」 中嶋に呼ばれ、我に返った和彦は慌てて箸を動かす。「たまには、こういう店で飲むのもいいなと思ってただけだ。普段は、一緒にいる男たちの安全を考えて、人の出入りが多い店を避けがちになるから」「そのうち、先生を気軽に連れ回すことができなくなるかもしれませんね」 どういう意味かと問いかけようとしたとき、店の自動ドアが開き、二人の男性客が入ってきた光景を視界の隅に捉えていた。男性客が店員と短く言葉を交わしてから、こちらに歩み寄ってくる。ここで和彦はやっと、その男性客が見知った男たちであることに気づいた。長嶺組の組員たちだ。「どうして――……」「南郷さんが、長嶺組のほうに連絡を入れたんだと思います。騙す形で先生を連れ出して、そのうえ怒らせてしまったのに、何事もなかった顔はできなかったんじゃないでしょうか。……この店に長嶺組の方が来たということは、もしかして俺たち、隊の人間にしっかり尾行されていたみたいですね」 さらりとそんなことを言われ、和彦は思わず中嶋を睨みつける。口ぶりからして、中嶋は尾行に気づいていたと察したからだ。中嶋はペコリと頭を下げた。「すみません。だけど、こちらの都合で先生を振り回して、不愉快な思いまでさせた挙げ句、危険な目には絶対遭わせるわけにはいきません。もし先生の身に何かあったとき、第二遊撃隊全体の責任問題になります」「そこまでのリスク

  • 血と束縛と   第27話(21)

     頬の熱さを誤魔化すようにてのひらで擦ってから、そっと中嶋をうかがい見る。グラスに口をつけている中嶋は、普通のハンサムな青年だ。表情によってはドキリとするような色気もあり、こういってはなんだが、ホストは天職だったのではないかとすら思える。 こんな青年が、南郷の下で物騒な仕事をこなしているのだ。そんなことをふっと考えた瞬間、和彦の口を突いて出たのは、自分でも驚くような質問だった。「――……南郷さんから、性的な嫌がらせをされたことはないか?」 さすがの中嶋も驚いたらしく、不自然に動きを止めたあと、ぎこちなくグラスを置いて、テーブルに身を乗り出してきた。「やっぱり何かあったんですか」「ぼくが質問をしているんだ。ぼくが何かされたと言っているわけじゃない」 我ながら苦しい言い訳を、当然中嶋は信用していない。苦笑に近い表情を見せたあと、急に澄ました顔で語り始めた。「前に確か、先生に話したことがありますよね。南郷さんは、長嶺会長に付き従っていることが多くて、あの人の動きを追えば、長嶺会長の動きもだいたい把握することができると。ところが最近は、ちょっと様子が変わってきていると、総和会の中でもっぱらの噂なんですよ。南郷さんと長嶺会長が別行動を取ることが増えてきた、と。第二遊撃隊をいよいよ大きくして、実行委員の一人として名を連ねるつもりじゃないかとも。総和会の人事について、先生はピンとこないでしょうが、これが実現したら、かなりすごいことなんですよ」「……ぼくの質問と、君のその話と、どう繋がるんだ……?」「隊にいるからこそ、感じることもあるんです。最近の南郷さんは、先生を追うために動いているんじゃないか――」 柔らかだが、ときおり怜悧さも覗く中嶋の視線を向けられ、なんとなく息苦しさを覚えた和彦は、焼きおにぎりをほぐしながら食べ始める。「ぼくにはよくわからない。ただ、顔を合わせる機会は増えたかもしれない。……今夜は、完全に騙された。患者の治療をするつもりだったのに、連れて来られたのがカラオケボックスで、南郷さんがいた」「それで、性的

  • 血と束縛と   第27話(20)

     カラオケボックスに来て、他にすることがあるとも思えないが、あえて和彦は素っ気なく応じる。勘の鋭い中嶋には、それだけで十分伝わったはずだ。 参ったな、と小さく洩らした中嶋は、乱雑に髪を掻き上げた。「先生に関することは、すべて俺にも知らせてほしいと言ってはあるんですけど。――どうも、たびたび伝達に不備が起こるようで」 中嶋は苛立ちを込めた視線を若者に向ける。当の若者のほうは、こちらの会話に聞き耳を立てているような素振りも見せず、注意深く辺りを見回している。その様子は、よく訓練された犬のようだ。 客として出入りしている同年代の若者たちとの違いに、いまさらながら瞠目している和彦に、中嶋がそっと耳打ちをしてくる。「彼に、何か失礼はありませんでしたか?」 若者を見つめる視線を、中嶋は勘違いしたらしい。和彦は慌てて首を横に振る。「それはないんだっ。むしろ失礼だったのは――」 南郷のほうだ。そう言いたかったが、ぐっと言葉を呑み込む。迂闊なことを言って、若者から南郷に報告されても困る。こんなことで激怒する男だとも思えないが、何かあって中嶋の立場が悪くなるのは申し訳ない。 和彦は、遠慮がちに中嶋を見上げた。「……咄嗟に君の名を出したんだが、そのことで南郷さんから叱責されるようなことはないか?」「俺は一応、総和会での先生の世話係を任されている立場ですよ。先生が困って、俺を呼びつけるのは、行動として正しい。ここで長嶺組の方を呼ばれると、そちらのほうが面倒なことになったと思います」 ひとまず、その言葉に安堵しておく。「そうか。よかった……。頭に血がのぼっていて、君に電話したあとで、急に不安になったんだ」「先生に、そんな顔で心配されるのは、なかなか気分がいいですね。急いで駆けつけた甲斐がありますよ」 ここでやっと和彦は、小さく笑みを浮かべることができた。 中嶋に促されてビルを出ると、人の流れに乗るようにして歩き始める。和彦は念のため背後を振り返ろうとしたが、すかさず中嶋に言われた。「うちの人間はついてきていません。ここからは、先生

  • 血と束縛と   第8話(25)

    ** 夜、中嶋の部屋に向かう手順は前回と同じだ。二度目とはいえ、さすがにマンションの前からタクシーに乗り込むまでは、緊張のあまり指先が冷たくなって痺れていた。 しかも、いざ中嶋の部屋の前まできても、違う緊張感が和彦を襲う。 秦がまた、何か仕掛けてくるのではないか――。 それを予期していながら、こうして部屋を訪れるのは、まるで自分が何かを期待しているようで、嫌でたまらなかった。だが、中嶋と約束したため、いまさら引き返すわけにもいかない。 これが、和彦の甘さだろう。ヤクザにいいように利用されるとわかっていても、持

    last updateLast Updated : 2026-03-23
  • 血と束縛と   第8話(12)

    「んうっ」 内奥に太い部分を呑み込まされ、それだけで和彦は乱れてしまう。「なんか、この格好、すっげー卑猥。俺が先生をイジメてるみたい。先生が俺に逆らえなくて、恥ずかしい姿にされて、こんなもの尻に入れられて――」 一度は引き抜かれた千尋のものが、ゆっくりとまた内奥を犯し始める。触れられないまま和彦のものは反り返り、先端から透明なしずくをはしたなく垂らしていた。 和彦がシーツを握り締め、押し寄せてくる快感に耐えていると、緩やかに腰を動かしながら千尋がネクタイを解き、首から抜き取る。次に和彦の両手首に、そのネクタイを巻きつけて結んでしまった。

    last updateLast Updated : 2026-03-23
  • 血と束縛と   第8話(5)

    「麻酔薬だ。心配しなくても、美容外科医は、麻酔薬の扱いには慣れている。持病はないな?」 必要以上に素っ気なく応じた和彦は、苦笑しつつも秦が頷いたのを確認してから、傷口に注射針を入れる。「――何があったんだ」 沈黙で間がもたないため、そんな質問をぶつけてみる。案の定、秦は天井を見上げたまま答えない。和彦も本心から知りたいわけではなかったので、それ以上は問いかけず、代わりにこう言った。「中嶋くん、本気で心配していたぞ。いかにも厄介なトラブルを抱えていそうなあんたを、見捨てもせずに自分の部屋に連れ込んだぐらいだ。後輩からの人望はあるみたいだな」

    last updateLast Updated : 2026-03-23
  • 血と束縛と   第8話(8)

     秦が洩らした熱い吐息が唇に触れ、再び秦の舌を口腔に受け入れてしまう。それどころか――。「んっ……」 舌先が触れ合い、探り合っているうちに、秦に舌を搦め捕られていた。握られていた手が放され、秦の左手が和彦が腰にかかる。この瞬間、ゾクリとするような疼きを感じた。 本意ではないものの、秦と緩やかに舌を絡め合う。妙な脅迫による口づけを終わらせるためには、やむをえなかった。 そのうちに、後頭部にかかっていた秦の手が退けられる。同時に熱っぽい吐息を洩らし、つらそうに目を閉じた。 和彦は少々意地の悪い気持ちになり

    last updateLast Updated : 2026-03-23
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