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第41話(40)

مؤلف: 北川とも
last update تاريخ النشر: 2026-08-03 08:00:16

「――……ぼくはもう、里見さんと会いたくないんだ。あなたは、昔のあなたじゃない。ぼくを特別扱いして、優しく守ってくれた、あの頃の里見さんじゃ……」

 和彦の物言いから察するものがあったのか、里見がため息交じりに呟いた。

「君に関することだけは、おれは昔から変わってないよ。君だけが特別で、大事だ」

「だから、ぼくと似ている兄さんと、寝ている?」

「君は嫌がる言い方かもしれないが、割り切った関係だ。……お互い、利用し合っている。おれは、物分かりのいい大人を続けるために、君の面影にすがりつきたかった。英俊くんは、リスクの少ない相手と息抜きをしたかったというのもあるだろうが、多分、君に対する優越感を得たかったんだろう」

「優越感……?」

「自惚れを承知で言うなら、弟の大事なものを奪った、と英俊くんは思っているはずだ」

 足元がふらついた和彦は、壁にもたれかかる。里見はさりげなく腕を差し出してきたが、すがりつく
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  • 血と束縛と   第43話(17)

     外で何をしていたのか、南郷が履いたブーツは泥だらけのうえに、マウンテンパーカーも肩の辺りが濡れているように見える。和彦の視線に気づいて、南郷は軽く自分の肩を払った。「別荘の周りを散歩してたら、枝から落ちた雪を被った」 はあ、と気のない返事をして、和彦はさっさと立ち去ろうとしたが、南郷に呼び止められた。「先生、すぐに暖かい格好をしてきてくれ。手袋は……、俺のでいいか。これから出かける」「これからって――」 和彦の言葉を遮り、急かすように南郷が手を打つ。何事かと、吾川がダイニングから出てきたが、南郷の姿を認めるなり、すぐに引っ込んでしまう。 仕方なく二階の部屋に戻った和彦は、ダウンジャケットを掴んで引き返す。玄関には、新しい長靴が置いてあった。その傍らで南郷がニヤニヤと笑っている。「これを履いてくれ。通勤用の靴じゃ、滑って危ない」 一体なんなんだと怒鳴りたい気分だったが、南郷が先に外に出てしまったため、あとを追いかけるしかない。 履いた長靴は、防寒用で暖かくはあるのだが、爪先の部分が余っている。おかげで歩くたびに、間の抜けた音がする。用意してもらった手前、文句を言うつもりはないが。 南郷が、見たこともない4WDに乗り込み、手招きをしてくる。すかさず和彦は背を向け、建物の中に戻ろうとしたが、クラクションを鳴らされて諦めた。「……どこに行くんですか」 4WDの窓から見る風景は、車高が高いこともあって少しだけ新鮮だ。だからといって、ハンドルを握る南郷との間に和やかな空気が流れるはずもなく、和彦だけがピリピリとしている。「晩メシの材料を仕入れに」 つまり少なくとも夕方までは、あの別荘に滞在するということだ。あからさまに失望するわけにもいかず、かろうじて無表情は保ったが、そんな和彦を横目で見て、南郷は唇の端に笑みを刻む。「先生、ジビエは食ったことあるか?」「……ジビエ肉とか言われるものですよね」「夜、あんたに昔話をしていて、ふと思いついたんだ。今朝、知り合いに連絡を取ったら、肉を譲ってやる

  • 血と束縛と   第43話(16)

     和彦は、自分が長嶺の男二人の間を取り成せるなどと、大それたことは考えていない。しかし、守光の腹の内は知っておきたいし、自分にできることがあるなら、可能な限りのことはしておきたかった。 そう、考えたのだが――。「健気なことだな、先生」 和彦の葛藤を見透かしたように、皮肉っぽく南郷が洩らす。首の後ろを掴んでいた手は、今は和彦の頬を撫でてくる。 再び唇を塞がれそうになったが、和彦は必死に顔を背けた。南郷はくっくと声を洩らして笑ったあと、前を開いたマウンテンパーカーの内側に和彦を抱き込んだ。煙草とコロンが混じり合った匂いと、南郷自身の体臭を嗅ぎ、ゾッとして体を離そうとするが、頑として南郷の腕は外れない。「〈今〉は、もう何もしないから、そう体を硬くしないでくれ。さすがの俺でも傷つく」 言葉とは裏腹に、どこか楽しげな南郷から、和彦は不穏なものを感じ取る。 危険だとしても、やはり夜のうちに別荘を抜け出すべきなのだろうが、こちらが諦めるまで、南郷は体を離す気はないようだ。上目遣いにちらりと見た途端に、食い入るように自分を見つめている視線とぶつかる。やむなく和彦は、南郷との抱擁をおずおずと受け入れた。 今は、そうするしかなかった。**** 喉の痛みで目を覚ました和彦は、喉元に手をやって、自分が寝汗をかいていることに気づく。夢見が悪かったというのもあるが、何より暖房が効きすぎているのだ。 暖房をつけて眠った記憶はないので、和彦が寝入ってから、誰かが部屋に入ってつけたのだろう。眠りが浅いと思っていただけに、気配を感じさせなかった侵入者にゾッとする。 ベッドに入った時間は遅かったが、寝起きはいつもより早いぐらいで、もう一度寝直そうかとちらりと考えなくもなかったが、人が起こしに来る状況が嫌で、諦めた。 クローゼットにあったチノパンツとタートルネックのセーターを着て部屋を出ると、微かに人の気配が伝わってくる。 おそるおそる一階に下りると、朝食の準備が始まっているらしく、ダシのいい香りが漂っている。現金なもので、ここで自分が空腹なのを自覚した。神経をすり減らしても、食

  • 血と束縛と   第43話(15)

    「――……何を設置したんですか?」「電気柵。見たことなくても、言葉から想像はできるだろう。張った電線に電気が通ってる。本来は獣を驚かせて追い払うものだが、ちょっと弄って、人間が怪我するレベルの電圧にしてあるから、迂闊に近づくなよ、先生」 脅しだと疑うには、目の前にいる男はあまりに物騒だ。ただ皮肉なことに、そんな男の話を聞いていくうちに、和彦が把握しているある一つの情報が、今のこの状況と結びついていく。 情報とは、一週間ほど前に中嶋からもたらされたものだ。南郷が隊員たちに行き先も告げず、何日か姿を見せていないと聞かされたとき、和彦は必然的に、守光から指示を受けて動いているのだろうと思った。それがまさか、自分に関わるものだとまでは、思い至らなかったが。「今はここに、余計なものは近づけたくないし、騒ぎを起こしたくない。そのための準備だ。……久しぶりに泥に塗れる仕事をして、なかなか楽しかった」「そう、ですか……」 応じた和彦の声は微かに震えを帯びていた。それを南郷に知られまいと、低く抑えた口調で続ける。「寒いので、中に戻ります」 足早に南郷の傍らを通り過ぎようとして、腕を掴まれた。和彦は咄嗟に怯えた表情を向け、南郷は意味ありげに目を眇める。 数十秒もの間、どちらも身じろぎをせず、言葉すら発しなかった。異様な空気に和彦は瞬く間に呑まれてしまったのだが、南郷のほうは相変わらず何を考えているのかうかがわせない。 寒さで歯が鳴る。それを恥ずかしいと思う余裕すら、もう和彦にはなかった。「……南郷さん、離してください」「あんたを追い立てている獣は、誰だ?」「えっ」「俺か、オヤジさんか。佐伯家の人間か、里見という男か。それとも、長嶺組長か」「何を、言って……」 和彦は腕を引こうとするが、ダウンジャケットの上からがっちりと南郷の指が食い込んでいる。「追い立てられるあんたは、実にいい。弱々しく青ざめて、それでも精一杯に気丈に振る舞って、持って生まれ

  • 血と束縛と   第43話(14)

     しっかりダウンジャケットを着込んだ和彦は、静かに部屋のドアを開け、廊下の様子をうかがう。もともと騒々しさとは無縁の場所ではあるのだが、深夜ともなり、二階に人の気配は感じられなかった。足音を殺して廊下に出てしまうと、あとは開き直るだけだ。 素早く一階に下りると、非常灯だけが点るエントランスホールを駆け抜けて、玄関から自分の靴を取ってくる。この別荘の造りはほぼ頭に入っており、最短距離で庭に出るためダイニングへと移動した。誰かが使っていた形跡がテーブルの上などに残っているが、人はいない。和彦はこの隙にと、キッチン脇にある裏口から庭へと出ていた。 慎重な足取りで歩きながら、ダウンジャケットの前を掻き合わせる。雪を踏みしめるサクッ、サクッという微かな音すら聞こえるほど、静かだった。まだ起きている者もいるだろうが、別荘から聞こえてくる物音はなく、皆が息を潜めているようだ。 この瞬間、強烈な孤独感に襲われた和彦は、臆病な小動物のような動きで庭を見回していた。ここから表の通りに出られないかと考えたのだ。 いや、出ること自体は不可能ではない。ただし、何重もの鉄条網を潜り抜け、明かりもない暗く細い道を通っていかなければならない。しかも今は雪が積もっており、足を取られるのは必至だ。深夜にやるべき冒険ではないだろう。 頭では理解しているが、未練がましく広い庭に足跡を残していく。そうしているうちに、また雪が落ち始める。立ち止まると、感覚を奪う寒さが爪先から這い上がってきた。かまわず和彦は空を仰ぎ、落ちてくる雪を顔で受ける。「――こんな時間に雪遊びか、先生」 前触れもなく揶揄するような声をかけられ、一瞬呼吸を止める。次の瞬間、弾かれたように声がしたほうを見ると、いつからそこにいたのか、マウンテンパーカーを着込んだ南郷が立っていた。 なぜ、という言葉がまっさきに頭に浮かぶ。別荘に到着したとき、南郷の姿はなかった。移動の車列にも加わっていなかったため、少なくとも今夜は、南郷はここにはいないと思ったのだ。しかし現実は――。 いつだって南郷は、いてほしくない場面で登場する。まるで、和彦の驚きを楽しむかのように。 声もなく警戒する和彦に、南郷は大仰に肩を竦めて見せる。

  • 血と束縛と   第43話(13)

     そう言って守光が、男たちを引き連れるようにして一階の奥へと向かい、和彦は案内されるまま二階へと上がる。偶然なのか、通されたのは、これまで使ってきたのと同じ部屋だった。 こちらもすでに暖められ、ベッドも整えられている。さらに、布団の上には畳まれたスウェットの上下と、デパートの袋が置いてあった。テーブルの上にはミネラルウォーターのボトルとグラス、菓子が盛られた器が。 室内を確認していて、扉が開いたままのクローゼットが目に留まる。数着の服が吊るされており、どれも新品のようだ。部屋のものは自由に使ってくださいと言われており、つまりこれは和彦のために用意された着替えということだ。 ダウンジャケットを手に取ったところで、ハッとして慌ててベッドに戻り、デパートの袋の中を覗く。思ったとおり、新品の下着が入っていた。 全身の血が沸騰しそうだった。体を駆け巡る激情が一体なんなのか、和彦自身もよくわからないが、とにかく必死に押し殺し、荒く息を吐き出す。 痒いところに手が届きそうな準備のよさは、今日思い立ってできるものではない。お前は罠にかかった獲物なのだと、暗に仄めかされているようだ。 悄然と立ち尽くしていたが、ふいに貧血のような症状に襲われて、ベッドに腰掛ける。自分の置かれた状況に、いまだに脳の処理が追い付かない。頭の芯が熱を帯び、考えることを放棄したがっている。 ふと、部屋まで案内してくれた男がまだ去っていないことに気づく。和彦が顔を上げると、待ち構えていたように、入浴を勧められた。簡単な食事もすぐに準備できると言われたが、さすがにそれは遠慮しておく。 座り込んでいても仕方ないと、和彦は用意された着替えを抱えて立ち上がった。** 日付が変わってからも、ベッドに入る気にはなれなかった。 仕事を終えたあとの長距離移動で、肉体的にはくたくたではあるのだが、気持ちは高ぶったままで、眠気はやってこない。 意味もなく室内を歩き回ったあと、部屋の隅に置いたアタッシェケースの存在を思い出す。和彦が入浴に行っている間に部屋に運び込まれていたのだ。 何げなく開けてみて、愕然とする。中に入れてあった携帯電話が二台ともなく

  • 血と束縛と   第43話(12)

    ** ひどい車酔いに苛まれながら和彦は、ウィンドーの外に目を向ける。とっくに日が落ちて辺りは闇に包まれてはいるものの、ぽつぽつと点在する街灯と、前後を走行する車のライトのおかげで、かろうじて周囲の景色を見ることはできる。 とはいっても、目に入るのは木々の影ぐらいで、それが巨大な生き物に見えてくるぐらいには、和彦は不安感に支配されていた。 どこに連れて行かれているのかは、すでにわかっている。ただ、なぜその場所なのかはわからない。 後部座席に並んで座る守光は、雪が見たくなったからだと言っていたが、そんな説明を和彦が信じるとは、端から思っていないだろう。和彦の理解と納得など、必要としていないのだ。ただおとなしく運ばれればいいと、それだけを求めている。 木の枝に積もった雪が風でハラハラと散る光景を、視界の隅に捉える。今は止んではいるが、この様子だと少し前までけっこうな勢いで降っていたのかもしれない。道全体が白く染まっている。ただ、運転は慎重ではあるが、移動が困難なほどの積雪にはまだなっていない。 前方を走っていた車が停止し、人が降りる。何をしているのかと見るまでもない。道を塞いでいたガードフェンスを移動させているのだ。和彦も知っている手順だった。 再び車は走り出したものの、それも長い時間ではなく、見覚えのある建物が見えてきた。先に到着している人間がいることを物語るように、駐車場だけではなく、玄関先も照明が灯っており、部屋の窓からも電気の明かりが見える。 総和会が所有している別荘だった。 かつて和彦は、この場所に二度訪れており、そのいずれも同行者は違っていた。前回は五月の連休中で、三田村と中嶋が。さらにその前は、年が明けたばかりの頃、賢吾と千尋が一緒だった。 そして今は――と、和彦はそっと隣の守光を見遣る。駐車場の照明の明かりを受け、一瞬守光の横顔に濃い陰影が浮かぶ。それによってひどく凶悪な相に見えてしまい、和彦は内心震え上がっていた。 ふっとこちらを見た守光が穏やかに微笑む。「大丈夫かね。顔色が悪いようだが」「……少し、車に酔って……」

  • 血と束縛と   第11話(20)

     外から男二人のにぎやかな話し声が聞こえてくる状況で、求められるまま、やむをえず舌を絡め合い、唾液を交わす。引き出された舌を痛いほど吸われると、たまらず和彦は鷹津の肩にすがりついていた。 ますます鷹津の腕の力が強くなり、和彦の中で奇妙な変化が起こっていた。鷹津のことがどうしようもなく嫌いで、嫌悪しているのに、そんな男にねじ伏せられるように口づけを交わしていると、高揚感に襲われ、体の奥深くから強引に官能を引き出される。 官能に形を借りた、サソリの毒かもしれないと、ふとそんな考えが脳裏を過る。鷹津の毒を注入され、体も心も侵されていくのだ。 思わず身じろごう

    last updateآخر تحديث : 2026-03-27
  • 血と束縛と   第6話(22)

    「不愉快どころか、やけに楽しそうでしたよ、秦さん。いい店を先生に紹介しないと、と張り切ってもいましたし」「ならいいんだ。あの人、職業柄なのか知らないけど、よく気をつかってくれるから。ぼくみたいな人間につき合って、迷惑をかけても悪いしな」 和彦が、長嶺父子のオンナであることは、すでに知られている事実だ。いまさら千尋と甘い会話とキスを交わしていたからといって、他人に喜んで報告するような悪趣味なまねを、秦がする必要もない。 和彦が心配していたのは、そんなことではなく、純粋に今言った通りのことだった。 大きく息を吐き出しながら、中島がマシンをゆっく

    last updateآخر تحديث : 2026-03-21
  • 血と束縛と   第4話(27)

    「――先生」  呼ばれて、おずおずと振り返ると、そこに真剣な賢吾の顔がある。何か言われたわけでもないのに、和彦は小さく喘いでから賢吾の唇にそっと自分の唇を重ねた。すると、賢吾のもう片方の手に、和彦の柔らかな膨らみは包み込まれる。 「ひっ、あぁっ」  泡で滑る手に柔らかく揉みしだかれ、たまらず和彦は、ビクッ、ビクッと腰を震わせ、背をしならせる。下肢が、甘く溶けてしまいそうだった。 「あとでたっぷり、ここを揉んで悦ばせてやる。最近、弄られるのがよくなってきたみたいだからな。今は、洗うだけだ」  賢吾の的確に動く指は貪欲に、和彦の官能を刺激する

    last updateآخر تحديث : 2026-03-19
  • 血と束縛と   第20話(13)

     指では届かなかった部分すら、鷹津の欲望は容赦なく押し開いていく。和彦は上体を捩るようにして苦痛から逃れようとするが、一方で、鷹津に支配された腰は、突き上げられるたびに淫らに蠢く。その対比を鷹津は楽しんでいるようだった。「……初めての男は、お前をどこまで開発してくれたんだろうな」 そんなことを洩らしながら、いつの間にか身を起こした和彦のものを片手に握り、律動に合わせて上下に扱いてくる。「いっ……、あっ、触る、な」「こんなに嬉しそうに涎を垂らしておいて、何言ってやがる。――尻がいいのか?

    last updateآخر تحديث : 2026-04-05
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