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第5話(23)

Author: 北川とも
last update Last Updated: 2025-11-13 11:00:30

 三田村がいたなら、こんな場所に和彦が一人で出向くことを、絶対阻止していただろう。だが、その三田村は側にいない。

 あんたが悪いのだと、和彦はグラスに口をつけながら、ひっそりと心の中で呟く。同時に、大きな窓の向こうで花火が打ち上がり、店内で歓声が上がる。男らしい歓声が。

「――先生、楽しんでますか?」

 和彦が腰掛けているソファの背もたれに腕をかけ、中嶋がひょいっと背後から身を乗り出してくる。和彦は、手にしたグラスを軽く掲げて見せた。

 当然のように中嶋が隣に座ったので、ここぞとばかりに疑問をぶつける。

「なんなんだ、集まっている面子は。そもそもこの店、クラブだろ。なのに――」

 和彦は辺りを見回す。内装はシンプルだが、落ち着いて趣味のいいインテリアで統一された店内は、さほど広いというわけではない。しかし、夜景がよく見渡せる大きな窓に囲まれているせいか、窮屈さを感じさせない。照明が落とし気味なのは、花火がより明るく見えるようにという配慮なのだそうだ。

「女っ気がない?」
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     急かされた和彦は、反射的に小走りとなる。後部座席のドアが開けられ、無防備に車に乗り込んだが、次の瞬間、物騒な気配を感じて総毛立った。 ぎこちなく隣に視線を向けると、なぜか南郷がいた。和彦が目を見開くと、南郷は凄みを帯びた笑みを向けてくる。 驚きのあまり一声も発せないうちに、車は静かに発進した。「――怪我をしたのは、俺の隊の人間だ」 唐突に南郷が切り出す。「総和会はでかい組織だが、だからこそ、内部での小さないざこざはよくある。そりゃまあ、十一の組から、それぞれの組の意向を受けて出向いている人間がいるんだ。対立する組同士、表向きは総和会の看板を背負っていても、自分たちの組のために少しでも利益を得ようとする。あんたと仲のいい中嶋のように、自分がかつていた組のことなんて、すっぱり切り捨てられる人間のほうが珍しい。だからこそ、あいつは遊撃隊が似合っている」「どうしてです?」 思わず問いかけると、南郷はニヤリと笑った。「オヤジさんは第二遊撃隊を、総和会内の跳ね返りたちの抑えとしても使っている。総和会の和を乱す人間は、身内であろうが容赦しない。そういう懲罰的意味合いで、俺たちは駆り出される。でかい組織をまとめ上げるには、どうしたって荒っぽい力が必要だ。俺は、その力を振るうにはちょうどいい。所属していた組はもうないから、しがらみがないんだ」 南郷の説明通りなら、確かに中嶋には、第二遊撃隊はお似合いだ。いままでのつき合いから和彦は、中嶋が自分が属していた組に対して、忠誠心も執着心もないことは感じていた。あくまで、ヤクザとして出世するための過程の一つなのだろう。「そういう集団だから、厄介事を片付けたときには、怪我人も出る場合がある。今回がそうだ」 今話題に出た中嶋のことが心配になったが、すかさず南郷が付け加えた。「中嶋は、今回は待機組だ」 露骨に安堵して見せるわけにもいかず、そうですか、と淡々と応じた和彦だが、もう一つ気になったことがある。警戒しつつ、慎重に南郷をうかがう。「――……そちらの事情はわかりましたが、どうして、あなたが車に?」「大事な部下を診てくれる先生を、俺が

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    ****「――先生、今晩は何が食べたい?」 ショッピングセンターを並んで歩いていると、突然三田村が、大事なことを思い出したような顔で問いかけてきた。しかも、真剣な口調で。 休みが取れた三田村とともに必要なものを買いに来たのだが、献立は人任せなところがある和彦は、面と向かってこう問われると、けっこう悩む。 目を丸くしたあと、なんでもいいと言いかけて、思いとどまる。実は先日、テレビでたまたま観てから、なんとなく気になっているものがあったのだ。「なんでもいいのか?」 和彦が問い返すと、頷いた三田村の目が一際優しくなる。もっとも和彦以外の人間が見れば、いつもの無表情との違いに気づかないかもしれない。「……鍋が、いい」 鍋、と小さな声で三田村が反芻し、何か思案するように軽く眉をひそめる。「ちゃんこにすき焼き、しゃぶしゃぶ。この場合、湯豆腐も鍋料理に入れていいのか……。なんにしても、ちょっと調べたら、鍋料理を食わせてくれる店はいくらでも――」「そうじゃない。外で食べたいわけじゃなくて、部屋で食べたい。……いままで、人と鍋を囲んだことがないんだ。それで、この間テレビを観ていて、ちょっといいなと思って……」 なんだか言い訳めいたことを言っているなと、和彦は自分自身の行動に、内心で苦笑を洩らす。相手が三田村でなければ、口が裂けても言えないわがままだ。そんなこと、と笑われても不思議ではないのだが、三田村が浮かべたのは、どこか嬉しげにも見える淡い微笑だった。「先生の貴重な経験を、俺が作った鍋で済ませていいのかな」「キッチンで包丁を握っているあんたを見るのは好きだ」 三田村は、困惑気味に視線をさまよわせながら、口元を手で覆う。もしかすると、有能な若頭補佐なりの照れ隠しなのかもしれない。「あまり……俺の腕に期待しないでくれ。そう器用になんでも作れるわけじゃないんだ」「鍋って、適当に材料を切って、水と一緒に放り

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