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第5話(29)

Author: 北川とも
last update publish date: 2025-11-14 14:00:27

 エレベーターの到着を待つ間がもたず、和彦にとってはもっとも大事な話題を持ち出す。三田村の後ろ姿は感情の揺れを一切うかがわせなかった。

「どうして急にそんなことを言い出したんだ」

「組長にも話したが、俺じゃ、先生みたいな人が望むような護衛をできる自信がない」

「先生みたいな人、って、具体的にどういうことだ?」

 ようやく三田村が、肩越しにちらりと振り返る。きつい眼差しを向けると、感情を徹底して排した目で見つめ返してきた三田村は、また前を向いた。

「先生みたいな人としか表現できない。俺は三十四年生きてきて、あんたみたいな人には初めて会って、正直まだ戸惑っている。……普通の男の顔をして、平気で男を惑わせるしな。したたかで狡い性質かと思ったら、ひどく不安定で脆いところも見せられた。そういう難解な人間に、俺はいままで触れたことがない」

「だから護衛を外れるのか……」

「それがお互いのためだ。いろいろな事情を含めて」

 そんな理由で納得できるはずないだろう
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  • 血と束縛と   第6話(31)

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    last updateLast Updated : 2026-03-21
  • 血と束縛と   第6話(26)

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    last updateLast Updated : 2026-03-21
  • 血と束縛と   第6話(32)

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    last updateLast Updated : 2026-03-21
  • 血と束縛と   第6話(7)

     反り返ったものの先端から、はしたなく透明なしずくを滴らせる。誤魔化しようのない快感の証だ。すると三田村は、和彦のものを握り締め、律動に合わせて上下に扱いてくれる。和彦は呆気なく、二度目の絶頂を迎え、精を迸らせた。 ここで三田村が深い吐息を洩らし、動きを止める。内奥では、逞しい欲望が脈打ち、三田村の限界が近いことを知らせてくる。 和彦は三田村の顔を撫で、伝い落ちる汗を拭う。微かに笑みらしきものを浮かべた三田村だが、次の瞬間には表情を引き締め、律動を再開する。 三田村が動くたびに、滴る汗が和彦の肌すらも濡らしていた。そして、汗だけではなく――。

    last updateLast Updated : 2026-03-21
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