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第6話(1)

Author: 北川とも
last update publish date: 2025-11-16 20:00:24

 久しぶりに友人と会えて嬉しいのに、どうしても無視できない感覚が和彦の胸には広がっていた。

「――それで、ダンナがクリニックに怒鳴り込んできて、大騒ぎになったんだ」

「それを澤村先生は、ニヤニヤしながら眺めてたんだな」

「そりゃもう、楽しかったからな。いつも威張り散らしてる奴が、受付の子の後ろに隠れて、真っ青になって震えてるんだぜ」

「……相変わらず、イイ男に対しては鬼だな」

 同僚の医者が、不倫相手の夫からいかに無様に吊るし上げを食らったかを、澤村は実に嬉しそうに話す。

 目立ちたがり屋同士、何かと張り合っていたなと、かつて自分がクリニックに勤めていた頃の出来事を思い出し、和彦はふっと笑みをこぼす。それと同時に、また、ある感覚に襲われた。

「どうした、佐伯、急にぼんやりして」

 澤村に声をかけられ、我に返る。なんでもないと首を横に振り、フォークを手にした。

 澤村とは、ときどき電話で話しては
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    「俺が凄んだところで、屁でもないだろ。総和会第二遊撃隊を率いる、南郷ともあろう男が」「……長嶺組長だけでなく、うちのオヤジさんにとっても大事な先生を、警察の人間が守っているんだ。何事かと気にもなるってもんだ」「そういうお前は、どうしてこいつにつきまとう。大事な『オヤジさん』の側についていなくていいのか?」 口元に笑みを湛えたまま、南郷は凄むように鷹津に視線を定める。傍で見ていて息を詰めてしまうほど、冷たく鋭い目だった。 二人の男のただならぬ雰囲気が伝わったのか、それとも、そんな男たちの間で戸惑っている和彦の様子から何か感じたのか、南郷の護衛についている男たちだけではなく、和彦の護衛として、鷹津の車の背後からついてきていた長嶺組の男たちが、互いに威嚇し合うように静かに距離を縮めていた。 友好的とは言いがたい空気を無視できなくなった和彦は、ため息交じりに南郷に提案する。「――まだ話したいなら、場所を移動してもらえませんか。ここで立ち話をされると、迷惑になります」「だったら、先生の部屋に。前にも言ったが、長嶺組長がオンナを住まわせている部屋を見てみたい」 こういう流れになるのは予測していた。和彦がそっと目配せすると、心得たように鷹津も応じた。「コーヒーぐらい出せよ」** ソファに腰掛けた二人の前にコーヒーを出した和彦は、少し迷ってから、鷹津との間に一人分のスペースを空けて隣に腰掛ける。 足を組んだ南郷は、ソファの背もたれに腕をかけ、賢吾の好みで統一されたリビングを見回す。一方の鷹津は、そんな南郷を不躾なほど観察していた。刑事としての習性なのかもしれない。「思った通り、長嶺組長は先生にいい暮らしをさせている。――金をかける価値のあるオンナ、ということだな」 この部屋に入れた時点で、事情を知る男たちが何を思うか、和彦は容易に想像できるし、覚悟もしている。明け透けすぎる南郷の言葉に、眉一つ動かさずにこう答えた。「堅気としてのぼくの人生を、めちゃくちゃにした対価だと思うようにしています。どれだけ金をかけるかは、あの人の自由です」 この

  • 血と束縛と   第26話(8)

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  • 血と束縛と   第26話(5)

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     参拝を済ませて、来た道を引き返そうとした和彦は、授与所のほうを見る。せっかくなので破魔矢を買いたいと思ったのだが、この状況では無理だろう。  人並みに参拝できただけで、満足しておくべきかもしれない。そんなことを考えながら、神社同様、混み合う駐車場に戻ると、周囲の視線を気にかけつつ賢吾と同じ車に乗り込む。 「――先生、欲しいものはないのか?」  突然の賢吾の言葉に、マフラーを外していた和彦は手を止める。 「えっ……」 「組の人間とぞろぞろ連れ立って歩いていたら、悠長に露店を覗くこともできなかっただろ。欲しいものがあれば、若い者に買いに行か

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  • 血と束縛と   第16話(18)

     すでに熱くなって身を起こしかけたものを、賢吾に愛撫してもらう。濡れた先端を指の腹で擦られ、ビクビクと腰が震える。「いつもより、涎の量が多いな」 からかうように賢吾に指摘され、和彦はムキになって下肢から手を払いのけようとしたが、低く笑い声を洩らした賢吾に反対に手を掴まれてしまった。促されるまま、和彦は自分の欲望に触れ、ぎこちなく慰める。 再び腰を突き出す姿勢を取らされ、背後から賢吾に貫かれた。 立った姿勢のまま繋がるのは、苦手だった。いつも以上の苦痛に襲われるからだ。その苦痛を紛らわせるために和彦は、自分のものを愛撫するしかない。賢吾は最初

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