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第6話(15)

Author: 北川とも
last update Last Updated: 2025-11-19 17:00:06

「デート……」

 つい声に出して呟いた和彦は、秦の存在を思い出してうろたえる。

「お前、何言って――」

『ここんところ、先生忙しくて、俺の相手してくれないじゃん。家でそれをぼやいたら、オヤジに、自己主張しておかないと先生に存在を忘れられるぞ、って、ニヤニヤ笑いながら言われたんだよ』

 余計なことを、と心の中で舌打ちする。おそらく賢吾のことなので、決して息子を励ますために言ったのではないだろう。そもそもまともな親なら、自分のオンナを息子と共有すること自体、ありえないのだ。

 和彦と三田村が関係を持っていることを、千尋は知っている。和彦自身が告げたわけではないが、長嶺組での千尋の存在を思えば、知らないということはありえない。なのに千尋は、そのことで癇癪を爆発させることもなく、相変わらず犬っころのように和彦にじゃれついてくる。だからこそ、和彦としては身構えてしまうのだ。

 賢吾が常に湛えている迫力は確かに怖いが、千尋の、いつ、なんの拍子に豹変するかわからない危うさも、十分怖い。

「お前のこ
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  • 血と束縛と   第18話(22)

     たっぷり与えられた潤滑剤と刺激で、はしたないほど綻んだ内奥の入り口に熱い感触が押し当てられる。嫌悪とも恐怖ともつかない感情に突き動かされ、逃げ出したくなった。 その瞬間、この家の主に言われたことが脳裏を過る。掛け軸の若武者が添い寝をしてくれるかもしれない、という言葉だ。今にして、あれが冗談ではなかったのだと知る。 和彦が布越しに見ているのは、胸をざわつかせるほど美しい若武者の姿だ。 そう思い込むことを、和彦は求められているのだ。 言葉の深意が、この異常な事態を受け入れさせる気遣いのためなのか、従順さを試すためなのか、それは知りようがないが、なんにしても和彦の体はあさましいほど反応してしまう。 火がついたように激しい欲情が燃え上がり、煩悶する。そんな和彦の体を敷布団の上に縫い止めるように、潤滑剤で潤んだ内奥を押し開かれた。「うっ、ううっ――……」 感じやすくなっている襞と粘膜を強く擦り上げられ、あまりの刺激に一瞬和彦の意識が遠のく。我に返ったとき、下腹部が濡れている感触に気づいた。絶頂に達し、精を噴き上げたのだ。 荒い呼吸を繰り返しながら和彦は、完全に相手に支配される。内奥深くに欲望を呑み込まされてしっかりと繋がっていた。 不思議なほど、組み敷かれて犯されているという意識は湧かなかった。恐怖や羞恥といった感情も薄れ、夢の中で交わっているような現実感のなさだ。そのくせ、体ははっきりと相手の欲望を感じている。 同時に耳は、乱れることのない、深く落ち着いた息遣いを聞いていた。ただ、相手は一切言葉を発しなかった。和彦に、必要以上の情報を与える気はないらしい。「あっ……ん」 内奥にしっかりと埋め込まれ、興奮による淫らな蠢動を堪能するように動かなかった欲望が、ふいに揺れる。完全に虚をつかれた和彦は、上擦った声を上げて身悶える。 誤魔化しようがなかった。正体の知れない相手に貫かれて、和彦の体は快感を貪り始めていた。 ゆっくりと内奥を突き上げられながら、和彦は布越しに相手を見つめる。目を凝らせば、相手の顔を捉えられるぐらい距離が近い。和彦はそこに若武者の美

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     ここで、和彦の体をまさぐっていた手がふっと離れ、布越しに見ていた影が大きく動く。何をしているのかと思って目を凝らしていると、いきなり視界がいくらか明るくなった。どうやら、布団の傍らに置いてあるライトをつけたようだ。ただ、明るさを最小に絞ってあるせいか、顔にかけられた布の色すら判別できない。 それでも相手にとっては、和彦の体の反応をつぶさに観察するには困らない明るさなのだろう。 身を起こした和彦の欲望の輪郭を指先でなぞったかと思うと、先端を擦り上げられる。このときの滑る感触で、自分がすでに先端を濡らしていることを知り、和彦は体を熱くする。そんな和彦を煽るように、さらに愛撫を与えられる。弄んでいるとも、可愛がっているともいえる手つきで。 否応なく和彦の呼吸は乱れ、意思に反して腰が揺れる。すると、相手の興味は別の場所に移ったのか、片足を抱え上げられた。秘裂をくすぐるように指先が行き来し、内奥の入り口を探り当てられる。 さすがに飛び起きようとした和彦だが、相手のほうが上手だった。秘裂に、トロリと何かが垂らされ、滑りを帯びた感触に和彦は身をすくめて動けなくなる。一瞬、唾液かとも思ったが、塗り込めるように秘裂に指を滑らされると、それが潤滑剤だとわかる。「ふっ……」 予期した通り、内奥の入り口をこじ開けるようにして指が入り込んできた。異物感に呻き声を洩らしていると、それに重なるように、内奥の襞と粘膜に潤滑剤を擦り込んでいく湿った音が重なる。 ねっとりと内奥を撫で回されてから、指が引き抜かれる。和彦は息を喘がせながら、同時に内奥の入り口も喘ぐようにひくつかせる。こんな状況にありながらも和彦の体は、与えられる愛撫に順応し、受け入れつつあった。 虐げられ、痛みを与えられれば、悲鳴ぐらい簡単に上げられるのだが、相手からは一切加虐的なものは感じられない。冷静に的確に和彦の体を探り、官能を引き出していくだけだ。 慎重に内奥を解されながら、施される潤滑剤の量が増やされる。比例するように、指が出し入れされるたびに響く湿った音は大きくなり、淫靡さを増していく。同時に、否応なく内奥から快感を引き出されていた。 付け根まで挿入された指が、内奥深くで

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    ** 総和会会長宅に泊まっているという緊張感からか、この夜の和彦はなかなか寝付けなかった。 何度目かの寝返りを打ち、視線はつい、吸い寄せられるように掛け軸へと向く。守光に妙なことを言われたから、というわけではないが、横になってからも、どうしても気になってしまうのだ。 障子を通して、微かな月明かりが入り込んでいるが、それも室内すべてを照らし出すほどではない。じっと目を凝らして、ぼんやりと浮かび上がる掛け軸をなんとか捉えることができるぐらいだ。 見つめ続けていると、艶かしい若武者に、目だけでなく、魂まで吸い寄せられそうな感覚に襲われる。どこか妖しさを帯びた感覚だ。 やはり千尋にこの部屋で寝てもらえばよかったかなと、少しだけ和彦は後悔する。 実は横になる前まで千尋はこの部屋にいて、いつもと変わらず和彦にじゃれつくどころか、隣に寝るつもりで布団を運び込む気だったのだ。守光の手前、さすがにそれは勘弁してくれと頼み、なんとか別室に引っ込んでもらった。 子供でもあるまいし、床の間に掛けられた掛け軸が気になるから、やはり隣で寝てほしいと、口が裂けても言えるはずがない。気にはなりつつも、和彦は一人でこの部屋で眠るしかなかった。 掛け軸の若武者が怖いわけではないと、心の中で呟く。むしろ怖いのは――。 体を横向きにした和彦の背後で、何かが動く気配がした。まるで影が這い寄るように静かに、大きな獣のような威圧感を放ちながら。 金縛りにあったように体が動かなくなった。本能的に、振り返ってはいけないと理解したのだ。 気のせいではない証拠に、布団と毛布がゆっくりと捲られ、浴衣に包まれた体がひんやりとした空気に撫でられる。恐怖と寒さ、そしてそれ以外の〈何か〉によって、一気に鳥肌が立った。だが、やはり体は動かない。 ふわりと頬に柔らかく滑らかな感触が触れたと思ったとき、和彦の視界は遮断された。薄い布が顔にかけられたのだ。そして肩を掴まれて、仰向けにされた。 混乱して取り乱すべきなのだろうが、真夜中の侵入者の静かな気配に完全に呑まれてしまい、指一本動かすことができない。そんな和彦を刺激しないよう、侵入者は悠然と、しかし慎重に

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    ** 妙なことになったと、畳の上に座った和彦は軽く困惑しつつ、浴衣の衿を直す。そして改めて、室内を見回す。 まるで旅館の客室のような部屋で、必要なものは過不足なく揃っていた。しかも、和彦が入浴をしている間に、抜かりなく布団も敷かれてしまった。まさに、もてなす気満々といった感じだ。 それが悪いとは言わないが、素直に好意に甘えるには、少々抵抗があった。なんといってもこの部屋は――。 和彦はまだ半乾きの髪を指で軽く梳いてから、ため息をつく。同じ屋根の下に総和会会長がいるのかと思うと、やはりどうしても寛げない。 夕食をともにしたあと、コーヒーを飲みつつ世間話をしたまではよかったのだ。ただ、あまり遅くならないうちにお暇を、と和彦が切り出したとき、即座に守光から提案された。 ぜひ、泊まっていってくれと。 乗り気の千尋と二人がかりで説得されて、嫌と言えるはずもない。遠慮の言葉すら口にできず、和彦は頷いていた。その結果が、総和会会長宅の客間で一人、所在なく座り込んでいるこの状況だ。 自分の立場の微妙さもあり、和彦はいまだに、守光とどう接すればいいのかわからない。かけられる言葉に甘え、打ち解けて見せた途端、何か恐ろしい獣が牙を剥きそうな本能的な怯えが拭えないのだ。 この状態で眠れるのだろうかと、もう一度ため息をつこうとした瞬間、視界の隅に鮮やかな色彩を捉えて、和彦はドキリとする。何かと思えば、床の間に掛けられた掛け軸だ。 派手な装飾品のない客間の中、この掛け軸は鮮烈な存在感を放っていた。描かれているのは、鎧を身につけた若武者が、栗毛の馬に跨っている姿だ。武具や馬具には、赤や朱、金という華やかな色が惜しみなく施されているが、何より鮮やかなのは、若武者そのものだ。 見惚れるほど美しい顔立ちをしており、表情は凛々しい。どこかを見据える眼差しは涼しげでありながら憂いを含んでおり、それが妙に艶かしい。 描かれたのはそう昔ではないだろう。作風は現代のものに近いと、美術に疎い和彦でも判断できる。 もっと近くで見たくて、床の間に這い寄ろうとしたとき、突然背後から声をかけられた。「――賢吾が生まれたときに、端午

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     そう言って守光が襖をさらに開け、部屋へと招き入れてくれる。畳敷きの部屋の中央には、コタツが置かれていた。天板の上にはすでに夕食の準備が調えられており、美味しそうな音を立ててすき焼きが煮えている。 ふっとこの瞬間、先日三田村と食べた鍋を思い出し、胸苦しくなった。 千尋に背を押され、和彦は部屋に入る。長嶺の男二人に急き立てられるようにコートとジャケットを脱ぐと、素早く千尋に奪い取られてから座椅子に座らされた。守光に言われるままコタツに足を入れたところでもう、立ち上がることを許されない空気となる。「千尋、冷蔵庫からビールを出してきてくれ。それと、お茶もな」 守光の言葉を受けて、千尋は一旦部屋を出て、ペットボトルのお茶と缶ビールを抱えて戻ってきた。「じいちゃん、冷蔵庫のビールだけじゃ足りそうにないから、俺ちょっと、食堂から取ってくる」 背筋を伸ばし体を強張らせながら和彦は、二人のやり取りを聞く。今の会話の内容だけなら、本当にごく普通の祖父と孫だ。いや、本人たちにとっては、長嶺組や総和会ということは、意識するまでもない日常であり、普通のことなのだろう。 この世界にいる限り、一般的だとか普通だとか、そういったものと比較するのはやめるべきなのかもしれないと、和彦は自省する。 千尋が慌しくまた部屋を出ていき、玄関のドアが閉まる音がした。その途端、二人きりとなった部屋は静まり返った。 守光が何も言わず、和彦の斜め右に座る。こうして近くにいて目も合わせないのは不自然なので、伏せがちだった視線を上げると、守光はすでに和彦を見ていた。 総和会という大組織の会長と、こうして一緒にコタツに入るというのも、奇妙な感じだった。相変わらず緊張もしているのだが、少しだけおかしくなってくる。和彦はちらりと笑みをこぼし、守光も目元を和らげた。「……普段はコタツは出していないんだが、このほうが、膝を突き合わせてゆっくり話せるかと思ってな。少なくとも、料亭の座敷よりは、座り心地はいいだろう?」 冗談っぽく言われ、和彦としては苦笑で返すしかない。「にぎやかな千尋がいるだけで、ずいぶん違います」 ここで、空いてい

  • 血と束縛と   第18話(17)

     千尋の言葉に、和彦は軽く目を見開く。ちょうどエレベーターの前で立ち止まったところで、やっと疑問をぶつけることができた。「……つまりこのマンション全部が、会長の家、なのか……?」「ここ、実はマンションじゃないんだよね」 千尋に恭しく手で示され、エレベーターに乗り込む。「元は、ある企業が税金対策で造った社員の研修施設。景気がいいときに造ったらしいんだけど、そのあとは業績悪化というやつで、ここを手放すことになったんだ。で、売却の話を持ち込まれたのが、じいちゃんってわけ」「それで、買ったのか?」「じいちゃんの家だと思うと立派すぎるけど、総和会本部だと考えるとぴったりだろ。実際、じいちゃんが住んでるのは四階で、それ以外の階は、総和会の人間が常に行き来している。――総和会のオフィスは別にあるけど、ここは長嶺守光の息がかかった人間だけが、出入りを許される」 ちらりとこちらを見た千尋の目は、強い光を放っている。したたかで好戦的な眼差しは、まるで獣のようだ。ただし、恐ろしく血統がいい、という前置きがつく。 総和会会長の権力を具現化したようなこの場所で、千尋は普段とは違う面を見せているようだ。地べたを這いずり回ったり、修羅場をくぐったという血生臭さがないせいか、無邪気なほど傲慢な存在感を放っている。それが魅力になりうるのは、やはり長嶺の血のせいかもしれない。「――先生」 いつの間にかエレベーターは四階に到着し、千尋が開いた扉を押さえている。我に返った和彦は慌ててエレベーターを降りた。 正面は、ソファやテーブルが置かれたラウンジとなっており、左右に廊下が伸びている。千尋を見ると、左側を指さした。「こっちがじいちゃんの住居。ちなみに右は、来客用の宿泊室が並んでる。元は研修施設だけあって、ホテルみたいな部屋が他の階にもあるんだ。あまり大規模な改装工事はしなかったから、大浴場も食堂もそのまま残ってる。あと、地下にはジムもプールもあるよ。裏には、テニスコートもあるし」「……基地みたいだ」 和彦が率直な感想を洩らすと、千尋はニヤリと笑った。

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