로그인柔らかくいい香りではあるが、特徴的ではないと思っていた秦のコロンだが、時間とともに香りが変化したらしい。特徴がないどころか、甘いのに刺激のある香りは、官能的ともいえた。不思議なもので、香りの変化とともに、秦自身の印象も一変したように感じた。
たとえば、さりげなく和彦の肩に回された腕の力強さや、熱さだ。まるで自分が、秦に接客されている女性客になったように、その感触を意識してしまう。 空になったグラスにまたワインが注がれ、和彦はそれもすぐに飲み干した。 大きく息を吐き出して、辺りを見回す。時間を意識させないようにという配慮なのか、この店は目立つところに時計を飾っていないのだ。「――さすがにまだ、先生のお迎えはこないですよ。電話をして、十分も経ってませんから」 和彦が何を気にしているのかわかったらしく、柔らかな苦笑を浮かべた秦に言われる。見透かされたことに顔を熱くした和彦は、あえて話題を逸らした。「店の従業員の方は、まだ出勤されないんですか?」「夕方からですね。開店準備に取り掛かるのは。だから、安心し「もしかして、レッスンのせい?」「ああ。普段ジムでやっている運動とは、まったく違う筋肉を使った気がする。初めてで緊張していたから、体のあちこちに無駄な力が入ってたんだろうな」 だから、昼間からゆっくりと風呂に浸かり、しっかりと体を解そうと考えたのだ。 ちなみに、日曜日の午前中から千尋に連れて行かれた先は、ゴルフスクールだ。 本気で和彦をゴルフコースに連れ出すつもりらしく、そのためにはまず基礎を、ということで、勝手に体験レッスンを申し込んでいたのだ。しかも、レッスンプロによるマンツーマンの指導が受けられるという特別コースを。ゴルフ道具一式も一通り揃えてもらったため、いまさら嫌だとも言えず、和彦はやむなく人生で初のゴルフを経験したというわけだ。 和彦が慣れないクラブの握り方に四苦八苦している頃、千尋は別のレッスンプロから指導を受けていたそうだ。千尋もゴルフを習い始めたばかりだということなので、コースに出ると案外同じようなレベル同士、楽しめるかもしれない。「……まあ、いつになるやらという話だが」 ぼそりと和彦が呟くと、何事かという顔で千尋が前に回り込んでくる。そんな千尋の頬を、やや手荒に撫でた。「お前も、朝から動き回って疲れただろ。早く本宅に戻れ」「全然。体力あり余ってるけど」「……ぼくとお前の年齢差と体力差を考えろ」 千尋を押し退けて寝室に入る。「ぼくはゆっくりと風呂に入ったら、昼寝する。疲れた」「先生、冷たい……」 芝居がかったように恨みがましい声が背後から聞こえてきたかと思うと、いきなり抱きつかれた。驚いた和彦は声を上げ、体を捻ろうとする。「千尋っ」「――連休の間、ずっと先生に会えなかった俺に、そんなに冷たいこと言うわけ?」 突然耳元で低く囁かれ、和彦はドキリとする。千尋に対しての、後ろめたさの表れとも言えた。追い討ちをかけるように、拗ねた子供のような口調で千尋が続ける。「連休の半分以上を総和会の別荘で、三田村と一緒に過ごして、帰ってきたらきたで、今度は組関係の仕事
リビングに足を踏み入れた千尋は、きょろきょろと辺りを見回してから、拍子抜けしたようにこう言った。「先生、部屋の改装工事したんじゃなかったの?」 千尋が何を疑問に感じたのか、和彦にはよくわかった。一見して、どこも変わってないように見えるのだ。実は和彦も、総和会の別荘から戻って部屋を見たときは、正直少しだけ拍子抜けした。賢吾から概要は聞いていたが、要塞のようになっているのではないかと、戦々恐々としていたのだ。 和彦がダイニングに移動すると、人懐こい犬っころのように千尋もあとをついてくる。そしてやはり、不思議そうに辺りに視線を向ける。「……ここも、変わってないように見える……」 そう呟いた千尋がふらふらとダイニングを出て行き、他の部屋へと向かう。部屋の改装について、賢吾から詳しいことは聞かされていないのだなと思いながら、ジャケットを脱いだ和彦は冷蔵庫からオレンジジュースの紙パックを取り出し、グラスに注ぐ。とにかく喉が渇いていた。 一息にグラスを空にして、ほっと息を吐き出す。酸味が強めのオレンジジュースがやけに甘く感じられる。 和彦はシンクにグラスを置くと、大きく腕を回してから、軽く腰を捻ってみる。普段使わない筋肉を使ったせいか、肩や背にかけて少し違和感がある。もしかすると明日には筋肉痛が出るかもしれない。「まったく、どうしてあの父子は、事前に人の予定を聞くということができないんだ……」 小さくぼやいた和彦は、千尋の姿を探してあちこちの部屋を覗く。どこにいるのかと思えば、バルコニーに出ていた。 千尋は、厚みのある窓ガラスを軽く叩いて、目を輝かせていた。「このガラス、本宅に入れてあるのと厚みが同じだよ、先生」「嬉しそうに言うな。本宅と同じぐらい、ここも物騒な場所になったのかと、気が滅入りそうになる」 そう応じて和彦は窓に歩み寄る。開けた窓から吹き込む風はいくらか涼しいが、これに陽射しの強さが加わると、すでにもう春とは呼べない季節だと痛感させられる。 すぐに蒸し暑くなり、湿気にまとわりつかれる梅雨がやってくるだろう。その鬱
汗で額に張り付いた髪を中嶋に掻き上げられ、ようやく我に返る。和彦は息を喘がせながら、なんとか言葉を紡ぐ。「……すまない。ぼくだけ――」「まだ、これからですよ。先生。俺も、三田村さんも」 どういうことかと、和彦が頭を持ち上げようとしたとき、背後で三田村の気配が動く。「うっ」 無意識にきつく締め付けていた和彦の内奥から、指が引き抜かれる。だがすぐに、今度は熱く硬いものが押し当てられ、余裕なく内奥の入り口をこじ開け――。「んあぁっ」 苦痛を覚えるほど逞しいものが内奥に押し入ってきて、和彦は思わず体を起こそうとしたが、中嶋にしっかりと抱き締められているため、動くことが叶わない。その間にも、容赦なく内奥は押し広げられ、熱いものを捻じ込まれていく。 もちろん、それがなんであるか、すぐに和彦は察する。頭は混乱し、戸惑ってはいるが、〈オトコ〉の感触をよく覚えている体は、瞬く間に馴染み、受け入れてしまう。「あっ、あっ、あっ……あぅっ」 大きな手に尻を掴まれ、一度だけ乱暴に突き上げられる。その拍子に和彦は、中嶋とまだ繋がっていることを強く認識させられる。精を放ったばかりの和彦のものを、中嶋の内奥が淫らに蠢きながら締め上げてきたのだ。 感じる疼きに、たまらず和彦は身震いする。そんな和彦を労わるように、中嶋は肩先を撫で、三田村は腰を撫でる。「――先生」 中嶋に呼ばれて顔を上げると、優しく唇を啄ばまれる。そのまま舌先を触れ合わせ、互いの唇と舌を吸い合う。タイミングを計っていたのか、三田村が内奥で律動を刻み始め、和彦の体は前後に揺さぶられ、同時に、中嶋の内奥を突き上げるようになる。 そんな和彦の姿をどう見ているのか、三田村は何も言わない。ただ、愛しげに和彦の体を撫で回し、繋がっている部分に指を這わせてくる。振り返って確認することもできず、和彦は中嶋とともに喘ぎながら、口づけを交わすしかない。「……気持ちいいんですね、先生。また、大きくなってきましたよ」 中嶋に囁かれ、羞恥で身を焼かれそうになる。それでも、やっとの思
和彦の行動を促すように、三田村が欲望を扱き始める。思いがけない三田村の行動にうろたえながらも、与えられる愛撫に和彦は即座に反応する。中嶋への愛撫どころではなくなり、ふらついた体を支えるため、咄嗟にラグに片手をついた。「三田村、待ってくれ――」 和彦が制止の声を上げると、三田村だけではなく、中嶋すら刺激したらしい。さきほどまで喘いでいたくせに、さっそく和彦の胸元にてのひらを這わせてくる。「先生、三田村さんに気を取られちゃダメですよ。まだ、俺と楽しんでない」 いつの間にか自分が翻弄されていることに気づいた和彦だが、もうどうしようもない。中嶋の片足を抱え上げ、三田村の手によって高められた欲望を、内奥の入り口に押し当てる。背後から三田村に抱き締められながら、和彦はゆっくりと腰を進めた。「うぅっ」 和彦と中嶋の口から、同時に呻き声が洩れる。収縮を繰り返す内奥に、自らの欲望を埋め込んでいるのか、それとも呑み込まれているのか、判断がつかないうち強烈な感覚に襲われる。欲望をきつく締め付けられながら、熱い粘膜に包み込まれるのだ。痺れるような快感が腰から這い上がってくる。一方の中嶋は、普段和彦が味わっているような感覚に襲われているのだろう。 緩やかに腰を揺らしながら、中嶋のものを再びてのひらに包み込み、律動に合わせて上下に扱く。そんな和彦の体に、三田村が両てのひらを這わせ、まさぐってくる。しなる背を丹念に撫でられて思わず身震いすると、その手が一気に下がり、尻にかかった。 予期するものがあって動きを止めると、三田村の指に内奥の入り口をくすぐられる。「ふっ……」 短く息を吐き出した瞬間、内奥に指が押し込まれる。反射的に身じろごうとしたが、さらに三田村の指が深く入り込み、動きを封じられる。指を出し入れされながら内奥をじっくりと撫で回される一方で、和彦の欲望は中嶋の内奥に締め付けられる。前後から押し寄せてくる快感に、次第に和彦の息遣いは乱れ、理性が危うくなってくる。 中嶋は、妖しい表情でそんな和彦を見つめていた。「先生、三田村さんに触れられた途端、反応がよくなりましたね。俺の中で、ビクビクと震えてますよ。可愛いなあ&
ジーンズの中に手を忍び込ませ、中嶋のものを柔らかく握り締める。強弱をつけて指で締め付けてやりながら和彦は、中嶋の胸元に顔を伏せ、唇と舌を這わせる。中嶋の肌が、じんわりと熱を帯び始めていた。それに、すでに息遣いにも余裕が失われつつある。 秦はしっかりと、中嶋の体に快感を教え込んでいるようだ。そんなことを感じ取ってしまうのは、和彦自身が、複数の男たちから快感を与えられている身だからだ。 そして今は自分が、中嶋の体に快感を与えようとしている――。 この瞬間和彦の中に、強烈な感覚が駆け抜けていた。普段は味わえない快感を味わえるという、期待と興奮が入り混じったものだ。そこに、三田村に見られているという羞恥も加わり、異常なほど和彦は高ぶっていた。もちろん、その三田村に、今の姿を拒絶されるかもしれないという、恐れもある。 凝っている胸の突起を唇で柔らかく挟むと、中嶋の息遣いが弾む。舌先で転がし、軽く歯を当てているうちに、和彦の手の中にある欲望が次第に形を変え始めていた。 そこでジーンズに手をかけると、腰を浮かせて中嶋が協力してくれる。和彦は遠慮なく下着ごと引き下ろし、中嶋を何も身につけていない姿にしてしまった。すると、当の中嶋が声を洩らして笑う。「……なんだ?」「いや、先生の手つきが男らしいなと思って。三田村さんが見ているから、張り切ってます?」「話して気を散らそうとしてるだろ。意外に、余裕がなくなっているか?」 澄まし顔で和彦が問い返すと、中嶋は苦笑を浮かべる。何か言い返される前に唇を塞ぐと、すぐに中嶋が応えてくる。緩やかに舌を絡め合いながら、再び中嶋の欲望をてのひらに包み込み、優しく上下に扱く。濡れてきた先端を指の腹で軽く擦ると、中嶋が喉の奥から声を洩らして身を震わせた。 和彦は、欲望を扱きながら中嶋を見下ろし、興味のおもむくままにもう片方の手で体に触れていく。首筋から肩、腿から腰をてのひらで撫でてから、胸元は焦らすように指先を這わせる。たったそれだけで、中嶋の息遣いは切迫したものへと変わり、すがるように和彦を見上げてくる。「――……医者の指の威力を、いまさらながら思い知っています。
中嶋の手から逃れようとしたが、次の瞬間、もたれかかってきた体に押されてバランスを崩す。あっという間に和彦はその場でひっくり返り、獣のように素早い動きで覆い被さってきた中嶋が、〈女〉の顔をして言った。「――ここで過ごす最後の夜なのに、三田村さんと寝てないんですね」「あっ……、か、関係ないだろ、そんなこと……」「でも先生、物欲しそうな顔していますよ」「してないっ」 ムキになって言い返すと、不意打ちで中嶋に唇を塞がれた。妖しく蠢く舌先に唇をなぞられ、うろたえながら和彦は中嶋の肩を押し上げようとするが、どこかで危機感は乏しい。それは中嶋が、和彦に少しだけ近いものを持っている男だからだ。 他の男たちのように力強く圧倒してくることなく、触れ合うことを楽しむようにまとわりつき、いつの間にか互いに欲望を煽り、しっとりと絡み合う。それが和彦には新鮮で、興奮もしてしまう。おそらく、それは中嶋も同じなのだ。「この四日間、先生と三田村さんの仲がいいところを、たっぷりと見せつけられましたからね。多少の意趣返しはさせてもらわないと――」 口づけの合間に、冗談とも本気ともつかないことを中嶋が呟く。油断ならない指は、パジャマの上着のボタンを外し始めていた。 これ以上続けると、さすがにマズイと思いながら和彦は、何げなく扉のほうを見る。そこに、人影が立っていた。「三田村っ……」 声を上げ、反射的に体を起こそうとしたが、中嶋がしっかり覆い被さっているため、動けない。その中嶋は、驚いた素振りも見せずに三田村に話しかけた。「三田村さん、そんなところに立ってないで、中に入ったらどうですか」 血相を変えて、中嶋を引き剥がしにかかるかと思った三田村だが、意外なことに、その中嶋の言葉に素直に従い、リビングに入って扉を閉めた。「さすが三田村さんですね。こんなところを見ても、顔色一つ変えない。先生の幅広い人間関係に耐性がついているってことですか」「それについては、俺の考えを先生は知っている」 そう言って三田村が、まっすぐ和彦を見つめてくる。
和彦が自嘲気味に洩らすと、澤村は怒ったように言った。「相手してほしかったら、お前はもっと電話してこい。……俺が男からの電話を待つなんて、滅多にないんだからな」 たとえ、境界線のこちら側とあちら側に立ってしまったとしても、澤村とは、友人として細い糸であろうが繋がっていたかった。 立っている場所は違っても、身近で和彦と同じ目の高さで生きているのは、澤村だけなのだ。だからこそ、共有できるものがある。それを和彦は失いたくない。 失ったら、そこにいるのは、多分ヤクザという存在だ。**
「やっぱり、先生の体に刺青を彫らせてみたいな。絶対に蛇の刺青だ。ゾクゾクするほど艶やかになるぞ。男に抱かれるたびに、先生の体と、彫られた蛇が身をくねらせるんだ。想像するだけで興奮する……」「絶対、嫌だっ……」 畳に顔を突っ伏しながらも、和彦はこれだけは言い切る。想像だけなら確かに興奮する。しかし迂闊なことを言えば、今和彦を抱いているヤクザは、翌日には彫師を連れてくるぐらい、平気でやりそうだ。拒絶を貫くしかない。「……強情だな。体は簡単に開いてくれるくせに」「
たまらず、啜り泣きのような声を洩らすと、賢吾の手があごにかかり、限界まで振り向かされる。喘いだ次の瞬間には、賢吾に唇を吸われていた。 「――そろそろイかせてやろう。あまりイジメて、嫌われたくないしな」 口づけの合間に、残酷なほど優しい声で言われる。だが、間近で見つめる賢吾の目には、巨体をしならせる大蛇の姿がちらついているようだった。表面上、どれだけ紳士的な物腰を取り繕っていても、この男の本性は隠しきれないのだ。 実際、次に賢吾が放った言葉は、容赦なかった。 「ただし、イかせるのは、俺じゃない、三田村だ」 和彦はゆっくりと目を開き、
「何、先生?」 「いや……、お前が今言ったことを聞いて、ぼくも男なんだが、と思った」 「先生は特別だよ。俺にとっても、うちの組にとっても、大事で特別な男。だから、誰にも傷つけさせたくない」 甘やかしているようで、実は甘やかされているのは自分のほうではないかと思えてくる。千尋から与えられる惜しみない言葉も抱擁も愛撫も、何もかもが和彦にとって心地いい。もちろん、内奥深くに収まっている欲望すら。 千尋の左腕に彫られたタトゥーを指先で撫でると、ブルッと身震いした千尋が大きく腰を動かし始める。 「ああっ――」 「あとで、いっぱい先生の