LOGIN「あの――」
「すぐに、アルコールを準備しますから、欲しいものがあれば遠慮なく言ってください。なんといってもここは、客に飲ませてなんぼの、ホストクラブですから」 秦にそう言われて、和彦は喉に手をやる。この店についてから、まっさきに水を飲ませてもらったのだが、さらに喉の渇きを覚えた。 興奮しすぎて、体の水分がずいぶんな速さで汗になったのかもしれない。着ているシャツが汗で濡れて、少し不快だ。それでも、空調を入れた店内の空気はゆっくりと冷え始めていた。 和彦がほっと息を吐き出すと、隣に腰掛けた秦に笑いかけられる。「何を飲みます?」 水でいい、と言いかけたが、まだ震え続けている自分の手を眺めてから、和彦は精神安定剤代わりに、アルコールをもらうことにした。「……ワインを」「かしこまりました」 秦の慇懃な受け答えに、やっと和彦は微笑することができる。実は唇を動かすのも苦労するほど、顔の筋肉が強張っていた。 ワインが注がれたグラスを手渡されると、和彦背後から抱き締められ、うなじに唇を押し当てられる。すでに体が熱くなっていた和彦は、たったそれだけの刺激でも、吐息を洩らしてしまう。「千尋、そろそろベッドに――」「まだダメ」「ダメって、お前……」 千尋の腕が移動し、今度は腰を抱かれる。尻に押し付けられたのは、生々しい欲望だった。無駄だと思いつつ身を捩った和彦だが、やや強引に腰を掴まれて、尻を突き出したような姿勢を取らされると、もう抵抗はできない。「……俺やっぱり、性癖に問題あるかなー。いかにも上品な先生に、こういう格好させると、それだけで感じる」 そんなことを言いながら、千尋が内奥の入り口に熱の塊を押し当ててくる。指でわずかに解されただけの内奥が、凶暴な欲望でこじ開けられるのだ。背後から押し寄せてくる苦しさに和彦は呻き声を洩らし、必死にガラスに両手を突く。 腰を掴む千尋の手の力に容赦はないが、腰の動きそのものは慎重だ。和彦は、こういう形での交わりに少しばかり腹立たしさを感じはするものの、千尋の気遣いがわかるだけに、怒鳴ることもできない。大きな犬っころにじゃれつかれ、のしかかられているようにも感じられ、苦しさに喘ぎながらも、つい唇に笑みを刻む。「バカ千尋……」 小さな声で呟くと、和彦の腰を抱え込むようにして、千尋が繋がりを深くする。肩の辺りに、熱く荒い息遣いを感じた。「何か言った、先生?」 地獄耳、と今度は心の中で呟いてから、和彦は首を横に振る。すると、千尋の片手が両足の間に入り込み、欲望を掴まれた。「もう少し我慢してね。気持ちよくしてあげるから」 千尋に緩く腰を突き上げられるたびに、欲望を扱かれる。最初はただ、内奥を犯される苦しさに声を上げていた和彦だが、次第にそれ以外の感覚が湧き起こり、上げる声が艶を帯び始める。「うっ、あぁっ、はっ……」 頬を押し当てたガラスが、喘ぐたびに白く曇る。和彦の変化にとっくに気づいていたのだろう。千尋が大きく腰を動かし、内奥深くに欲望を突き込まれる。その瞬間、和彦の全身を強烈な疼きが駆け抜けた
「いいよ。ずっと先生に責任取ってもらうから」 それは困る、と思った和彦だが、千尋に性急に唇を塞がれ、言葉が口をついて出ることはなかった。 千尋の汗ばんだ両てのひらが脇腹から胸元へと這い上がり、すぐに指先に左右の突起を探り当てられ、押し潰すように刺激される。体を押し付けてくる千尋の情熱に圧倒されながら、和彦ものろのろと手を動かし、千尋の体をTシャツの上からまさぐる。いつの間にか逞しさを増した若い体だが、和彦が愛しているしなやかさは少しも損なわれていない。 Tシャツの下に手を潜り込ませ、熱く滑らかな肌を撫で回す。この肌に刺青が彫られるのかと考えると、正直惜しい。だが同時に、千尋の肌に彫られた刺青を撫で回す瞬間を想像すると、和彦はひどく高ぶるのだ。「先生、興奮してる」 和彦の両足の間を、パンツの上から押さえつけた千尋が嬉しそうに洩らす。思わず手を押し退けようとしたが、そのときにはすでに、ベルトを外されているところだった。「千尋、立ったままでっ……」「どうせ俺、若くして妙な性癖の持ち主だし」「そんなことで開き直るな。すぐそこにベッドがあるだろ」「見えない。――先生しか見えない」 真顔で千尋に囁かれ、感じた気恥ずかしさを誤魔化すように和彦は顔をしかめる。「……何言ってるんだ、お前は」「つまり、たっぷり俺と気持ちよくなろうってこと」 パンツの前を寛げられ、下着ごと引き下ろされる。ポロシャツすらも脱がされながら、無駄だと思いながら和彦は一応忠告しておく。「シャワーも浴びてないから、汗くさいぞ」「先生の汗の匂い、大好き」 半ば予測できた千尋の返答に、和彦はもう苦笑を洩らすしかない。身につけていたものをすべて脱がされてしまうと、羞恥に身じろぐ間もなく千尋に抱き締められた。 千尋のてのひらが、うなじから背、腰から尻へと移動する。たったそれだけで、鳥肌が立ちそうな疼きが背筋を駆け抜け、和彦は小さく声を洩らしていた。顔を覗き込んできた千尋と唇を啄ばみ合っていると、もう片方のてのひらが胸元をくすぐってくる。 期待で硬く
「もしかして、レッスンのせい?」「ああ。普段ジムでやっている運動とは、まったく違う筋肉を使った気がする。初めてで緊張していたから、体のあちこちに無駄な力が入ってたんだろうな」 だから、昼間からゆっくりと風呂に浸かり、しっかりと体を解そうと考えたのだ。 ちなみに、日曜日の午前中から千尋に連れて行かれた先は、ゴルフスクールだ。 本気で和彦をゴルフコースに連れ出すつもりらしく、そのためにはまず基礎を、ということで、勝手に体験レッスンを申し込んでいたのだ。しかも、レッスンプロによるマンツーマンの指導が受けられるという特別コースを。ゴルフ道具一式も一通り揃えてもらったため、いまさら嫌だとも言えず、和彦はやむなく人生で初のゴルフを経験したというわけだ。 和彦が慣れないクラブの握り方に四苦八苦している頃、千尋は別のレッスンプロから指導を受けていたそうだ。千尋もゴルフを習い始めたばかりだということなので、コースに出ると案外同じようなレベル同士、楽しめるかもしれない。「……まあ、いつになるやらという話だが」 ぼそりと和彦が呟くと、何事かという顔で千尋が前に回り込んでくる。そんな千尋の頬を、やや手荒に撫でた。「お前も、朝から動き回って疲れただろ。早く本宅に戻れ」「全然。体力あり余ってるけど」「……ぼくとお前の年齢差と体力差を考えろ」 千尋を押し退けて寝室に入る。「ぼくはゆっくりと風呂に入ったら、昼寝する。疲れた」「先生、冷たい……」 芝居がかったように恨みがましい声が背後から聞こえてきたかと思うと、いきなり抱きつかれた。驚いた和彦は声を上げ、体を捻ろうとする。「千尋っ」「――連休の間、ずっと先生に会えなかった俺に、そんなに冷たいこと言うわけ?」 突然耳元で低く囁かれ、和彦はドキリとする。千尋に対しての、後ろめたさの表れとも言えた。追い討ちをかけるように、拗ねた子供のような口調で千尋が続ける。「連休の半分以上を総和会の別荘で、三田村と一緒に過ごして、帰ってきたらきたで、今度は組関係の仕事
リビングに足を踏み入れた千尋は、きょろきょろと辺りを見回してから、拍子抜けしたようにこう言った。「先生、部屋の改装工事したんじゃなかったの?」 千尋が何を疑問に感じたのか、和彦にはよくわかった。一見して、どこも変わってないように見えるのだ。実は和彦も、総和会の別荘から戻って部屋を見たときは、正直少しだけ拍子抜けした。賢吾から概要は聞いていたが、要塞のようになっているのではないかと、戦々恐々としていたのだ。 和彦がダイニングに移動すると、人懐こい犬っころのように千尋もあとをついてくる。そしてやはり、不思議そうに辺りに視線を向ける。「……ここも、変わってないように見える……」 そう呟いた千尋がふらふらとダイニングを出て行き、他の部屋へと向かう。部屋の改装について、賢吾から詳しいことは聞かされていないのだなと思いながら、ジャケットを脱いだ和彦は冷蔵庫からオレンジジュースの紙パックを取り出し、グラスに注ぐ。とにかく喉が渇いていた。 一息にグラスを空にして、ほっと息を吐き出す。酸味が強めのオレンジジュースがやけに甘く感じられる。 和彦はシンクにグラスを置くと、大きく腕を回してから、軽く腰を捻ってみる。普段使わない筋肉を使ったせいか、肩や背にかけて少し違和感がある。もしかすると明日には筋肉痛が出るかもしれない。「まったく、どうしてあの父子は、事前に人の予定を聞くということができないんだ……」 小さくぼやいた和彦は、千尋の姿を探してあちこちの部屋を覗く。どこにいるのかと思えば、バルコニーに出ていた。 千尋は、厚みのある窓ガラスを軽く叩いて、目を輝かせていた。「このガラス、本宅に入れてあるのと厚みが同じだよ、先生」「嬉しそうに言うな。本宅と同じぐらい、ここも物騒な場所になったのかと、気が滅入りそうになる」 そう応じて和彦は窓に歩み寄る。開けた窓から吹き込む風はいくらか涼しいが、これに陽射しの強さが加わると、すでにもう春とは呼べない季節だと痛感させられる。 すぐに蒸し暑くなり、湿気にまとわりつかれる梅雨がやってくるだろう。その鬱
汗で額に張り付いた髪を中嶋に掻き上げられ、ようやく我に返る。和彦は息を喘がせながら、なんとか言葉を紡ぐ。「……すまない。ぼくだけ――」「まだ、これからですよ。先生。俺も、三田村さんも」 どういうことかと、和彦が頭を持ち上げようとしたとき、背後で三田村の気配が動く。「うっ」 無意識にきつく締め付けていた和彦の内奥から、指が引き抜かれる。だがすぐに、今度は熱く硬いものが押し当てられ、余裕なく内奥の入り口をこじ開け――。「んあぁっ」 苦痛を覚えるほど逞しいものが内奥に押し入ってきて、和彦は思わず体を起こそうとしたが、中嶋にしっかりと抱き締められているため、動くことが叶わない。その間にも、容赦なく内奥は押し広げられ、熱いものを捻じ込まれていく。 もちろん、それがなんであるか、すぐに和彦は察する。頭は混乱し、戸惑ってはいるが、〈オトコ〉の感触をよく覚えている体は、瞬く間に馴染み、受け入れてしまう。「あっ、あっ、あっ……あぅっ」 大きな手に尻を掴まれ、一度だけ乱暴に突き上げられる。その拍子に和彦は、中嶋とまだ繋がっていることを強く認識させられる。精を放ったばかりの和彦のものを、中嶋の内奥が淫らに蠢きながら締め上げてきたのだ。 感じる疼きに、たまらず和彦は身震いする。そんな和彦を労わるように、中嶋は肩先を撫で、三田村は腰を撫でる。「――先生」 中嶋に呼ばれて顔を上げると、優しく唇を啄ばまれる。そのまま舌先を触れ合わせ、互いの唇と舌を吸い合う。タイミングを計っていたのか、三田村が内奥で律動を刻み始め、和彦の体は前後に揺さぶられ、同時に、中嶋の内奥を突き上げるようになる。 そんな和彦の姿をどう見ているのか、三田村は何も言わない。ただ、愛しげに和彦の体を撫で回し、繋がっている部分に指を這わせてくる。振り返って確認することもできず、和彦は中嶋とともに喘ぎながら、口づけを交わすしかない。「……気持ちいいんですね、先生。また、大きくなってきましたよ」 中嶋に囁かれ、羞恥で身を焼かれそうになる。それでも、やっとの思
和彦の行動を促すように、三田村が欲望を扱き始める。思いがけない三田村の行動にうろたえながらも、与えられる愛撫に和彦は即座に反応する。中嶋への愛撫どころではなくなり、ふらついた体を支えるため、咄嗟にラグに片手をついた。「三田村、待ってくれ――」 和彦が制止の声を上げると、三田村だけではなく、中嶋すら刺激したらしい。さきほどまで喘いでいたくせに、さっそく和彦の胸元にてのひらを這わせてくる。「先生、三田村さんに気を取られちゃダメですよ。まだ、俺と楽しんでない」 いつの間にか自分が翻弄されていることに気づいた和彦だが、もうどうしようもない。中嶋の片足を抱え上げ、三田村の手によって高められた欲望を、内奥の入り口に押し当てる。背後から三田村に抱き締められながら、和彦はゆっくりと腰を進めた。「うぅっ」 和彦と中嶋の口から、同時に呻き声が洩れる。収縮を繰り返す内奥に、自らの欲望を埋め込んでいるのか、それとも呑み込まれているのか、判断がつかないうち強烈な感覚に襲われる。欲望をきつく締め付けられながら、熱い粘膜に包み込まれるのだ。痺れるような快感が腰から這い上がってくる。一方の中嶋は、普段和彦が味わっているような感覚に襲われているのだろう。 緩やかに腰を揺らしながら、中嶋のものを再びてのひらに包み込み、律動に合わせて上下に扱く。そんな和彦の体に、三田村が両てのひらを這わせ、まさぐってくる。しなる背を丹念に撫でられて思わず身震いすると、その手が一気に下がり、尻にかかった。 予期するものがあって動きを止めると、三田村の指に内奥の入り口をくすぐられる。「ふっ……」 短く息を吐き出した瞬間、内奥に指が押し込まれる。反射的に身じろごうとしたが、さらに三田村の指が深く入り込み、動きを封じられる。指を出し入れされながら内奥をじっくりと撫で回される一方で、和彦の欲望は中嶋の内奥に締め付けられる。前後から押し寄せてくる快感に、次第に和彦の息遣いは乱れ、理性が危うくなってくる。 中嶋は、妖しい表情でそんな和彦を見つめていた。「先生、三田村さんに触れられた途端、反応がよくなりましたね。俺の中で、ビクビクと震えてますよ。可愛いなあ&
**** 取り寄せた医学書をラックに並べた和彦は、一歩引いてから、デスクとのバランスを確認する。医者として、使い慣れた医学書を手元に置いておきたいというのもあるが、堅苦しくない程度に知的な空間を演出するための、ちょっとした小道具だ。 無機質な診察道具は、なるべく患者の目に入るところに置かないよう気をつけ、緊張感を与えないために、壁もロールカーテンも柔らかな色彩で統一している。 診察室は、カウンセリング室でもあるのだ。かつて和彦が勤めていたクリニックは、設備は整っていたが、その点の配慮が少し欠けていた。
** 鷹津の寝息を確認した和彦は、自分もこのまま眠りたい衝動をなんとか堪え、ベッドから抜け出す。ずっと鷹津の高い体温に包まれていたため、肌を撫でた外気の冷たさに身震いしてから、床に落ちた服を慌てて拾い上げる。 Tシャツを着込んだところで、眠ったとばかり思った鷹津の腕が腰に回され、引き寄せられた。腕を掴まれた和彦は、鷹津の裸の胸の上に倒れ込む。「どこに行くんだ。一応俺は、お前をこの部屋に軟禁しているつもりなんだが」「……もう朝だぞ。あんた、仕事行かなくていいのか」 眠そうに半ば目を閉
「……そのつもりだったが、やっぱり、あんたは嫌いだ」「俺だって、ヤクザのオンナになってぬくぬくと生きている男は嫌いだ。だが――たまらなく抱きたいんだ。お前を」 和彦が目を見開いた次の瞬間、鷹津の大きな手が後頭部にかかり、ぶつけるような勢いで唇を塞がれた。「んんっ」 和彦は必死で顔を背けようとしたが、鷹津に後ろ髪を鷲掴まれ、唇に噛みつかれる。そのまま、もつれるようにして隣の部屋に引きずり込まれ、突き飛ばされた。 簡素な作りのベッドに倒れ込んだ拍子に、鉄製のパイプと床が擦れ、不快な音を立てる。確実に階下に
「お前のここも、溶けかけてるな。中は……トロトロだ。柔らかいくせに、俺が動くたびに、きついぐらい締め付けてきて、吸い付いてくる。こうやって、誰にでも媚びるんだろうな。――ムカつくほど、俺好みの体だ」 あごを掴まれて、鷹津に唇を吸われる。和彦は押し寄せてくる肉の愉悦に呻きながら、それでも半ば意地のように顔を背ける。鷹津は楽しそうに声を洩らして笑った。「俺を利用する気なら、もう少し素直になれよ。ヤクザに聞かせているような喘ぎ声を、俺にも聞かせろ。扱い次第じゃ、俺はいい番犬になってやるぜ」「……番犬にし