FAZER LOGIN「もう、やめ、ろ――」
「まだですよ。もっとしっかり、先生の秘密を知りたいんです。たとえば、こことか……」 和彦が鏡を凝視していると、秦が思わせぶりに指を舐める。その指がどこに向かうか察したとき、必死に洗面台の上で上体を捩ろうとしたが、弛緩している和彦の体を容易に押さえつけて、秦の指が内奥の入り口をこじ開け始める。「あぁっ」 ビクビクと腰を震わせて、和彦は秦の指を呑み込まされる。内奥の造りを探るように慎重に指が蠢かされ、感じやすい襞と粘膜を擦り上げられていた。 異物感に呻いていた和彦だが、秦の指が、ある意図をもって浅い部分を執拗に擦り始めたとき、鼻にかかった声を洩らしていた。すでに両足から完全に力が抜け、洗面台に上体を預けきってしまうと、秦にすべてを支配されているも同然だった。「……しずくが垂れてますよ、先生」 笑いを含んだ声でそう言った秦が、ハンカチで和彦のものを包み、軽く扱いてくる。意識しないまま内奥に挿入された指を締め付けると、巧みに蠢か**** 階段を駆け下りた和彦は、待ち合わせ場所であるコーヒーショップへと急ぐ。予定では余裕をもって到着する予定だったのだが、クリニックを閉めた直後に患者から電話があり、十分ほど話し込んでしまった。 そのせいで、と言う気はないが、タイミング悪く夕方の渋滞に巻き込まれ、結局慌てる事態になっている。 駅周辺の渋滞具合から予測はついていたが、ちょうど帰宅時間帯に差しかかっている駅の地下街は大勢の人が行き交い、早足に歩くのも苦労する。人とぶつからないよう気をつけながら腕時計を見ると、待ち合わせ時間まであと数分と迫っていた。 ほぼぴったりの時間にコーヒーショップの前に到着し、店内に足を踏み入れると、こちらも混雑しており、ほぼ満席だ。 コーヒーを注文する必要のない和彦は、きょろきょろと店内を見回す。すると、目を惹くカップル――ではなく男二人が、小さなテーブルに身を持て余し気味についていた。秦と中嶋だ。 二人ともスーツにコート姿で、雰囲気は派手ではあるものの、どこから見てもビジネスマンだ。和彦の付き添いとして、一応気をつかってくれたようだ。特に、秦は。 その秦が和彦に気づき、艶やかな笑みを浮かべる。中嶋も顔を上げ、こちらは一見爽やかな微笑とともに、軽く手を振ってきた。「すまない。ちょっと渋滞に巻き込まれて……」 テーブルに歩み寄って和彦が声をかけると、秦と中嶋が同じタイミングで首を横に振る。口を開いたのは中嶋だった。「さすが先生ですね。時間ぴったりです」「……こちらが呼び出しておいて待たせるのは、心苦しいんだ」「気にしなくてかまいませんよ。秦さんと、珍しい時間を持てましたから」 中嶋の言葉を受け、和彦はもう一度周囲を見回す。「コーヒーショップでデートをするのは初めてなのか?」 まじめな顔をして和彦が問うと、中嶋は楽しげに声を上げて笑い、秦は困ったような表情となる。「まあ、そんな感じですね。秦さんと外で会うときは、ゆっくり腰を落ち着けて飲みながら、ということが多いので。こういう人の
「写真とか飾らないんだね、先生って。あと、絵とかも。小物も置いてない。書斎以外の部屋は、オヤジの趣味丸出しだからどうでもいいけど、この書斎だけは、先生が好きなようにしてるだろ? でも、いかにも先生らしい、ってものがない」 千尋の感覚は本当にバカにできないと、率直に和彦は思う。 千尋が言うとおり、和彦は自分の好みや生活が一目でわかるようなものを、身の周りには置かない。物心ついたときから苦手で、そう思い込み続けているうちに、とうとう興味がなくなった。「恥ずかしいから、置かないんだ。ときどきこっそりと、自分一人で楽しんだり、眺められたらそれでいい」「俺は、知りたいな。先生の好きなものはなんでも」 千尋が本棚に歩み寄り、並んだ本の背表紙を眺め始める。何か興味を引く本でもあるのだろうかと思った和彦だが、どうも様子が違う。「……千尋、どうかしたのか?」「先生のアルバムはないかと思って。それか、卒業アルバム」「そこにはないぞ。卒業アルバムは実家に置いてあるし、ぼく個人のアルバムは本棚には並べてない――」 ここで和彦は自分の失言に気づくが、もう遅かった。目を輝かせた千尋が側にやってきて、片手を出す。和彦はため息をつき、デスクの一番下の引き出しを開ける。そこに、プライバシーに関わるものはすべて入れてあるのだ。「ぼくの写真なんて眺めても、おもしろくないだろ」「まさか。むしろ逆。興奮して手が震えそう」 バカ、という和彦の呟きすら、千尋の耳には届いていない。嬉しそうな顔をしてアルバムを開き、大げさな声を上げた。「先生、美少年っ」「……はいはい、ありがとう」「あとでオヤジに自慢してやろう。先生のアルバムを見たって」「それは勘弁してくれ……」 そんなやり取りを交わしてから和彦は、千尋の反応をあえて見ないよう気をつけながら、素知らぬ顔をしてコーヒーを啜る。 だが、一通りアルバムを見た千尋に、こう指摘された。「このアルバム、先生が中学生や高校生の頃の写真ばかりだよね。もっと小さい頃の写
「お前も、そうしてくれるからだ。無防備な体を、互いに預け合っている感じだ」 だからこうして目を閉じていても、安心していられる。こう思った瞬間、和彦の中をある感覚が駆け抜けた。反射的に目を開くと、千尋に顔を覗き込まれていた。「先生?」「……なんでもない」 千尋の頭を抱き寄せて、和彦はもう一度目を閉じる。それが合図のように、千尋がゆっくりと律動を始める。「あっ、あっ、あぁっ――」 千尋にきつくしがみつき、しなやかな体の感触だけでなく、内奥を行き来する熱い欲望の感触も堪能する。これ以上なくしっかりと繋がっているのだという感覚が、たまらなく気持ちいい。 そう実感すればするほど、さきほどの感覚が無視できないほど存在感を増していく。 身震いしたくなるような強い疼きが、背筋を這い上がっていた。内奥に押し入る欲望を強く締め付け、千尋を呻かせる。 耳元で繰り返される激しい息遣いを聞きながら、和彦はあの夜のことを――守光の自宅に泊まったときに起こった出来事を思い返す。 顔を薄い布で覆われ、手首を緩く縛められて、長い時間をかけて〈誰か〉と繋がった感触は鮮烈だった。相手にしがみつけず、ただ、愛撫と欲望を与えられ、受け入れるしかないのだ。その行為に和彦は感じた。 何から何まで違う千尋との行為で、あの夜のことを思い出す理由は、ただ一つしかなかった。 千尋の動きに余裕がなくなり、内奥深くを抉るように突き上げられる。ある感覚を予期して、内奥の襞も粘膜も、淫らな肉もすでに歓喜していた。「んあっ、はっ……、千尋、千尋っ……」「……先、生」 疾駆していた獣が動きを止める。数瞬遅れて、和彦の内奥深くに熱い精が注ぎ込まれ、千尋の欲望が脈打ち、震える。それらを感じながら和彦は、恍惚とする。自覚もないまま、また絶頂に達していたのかもしれない。 長嶺の男の血を分け与えられているようだと感じるのは、理屈ではなく、感覚的なものだ。そして同じ感覚を、守光の自宅に泊まったときに感じた。 和彦だけでなく、千
「――さっきの続きはさせてくれないのか? ぼくは、お前を甘やかす気満々なんだが」 嬉しそうに顔を綻ばせた千尋は、和彦のバスローブを脱がせながら、ある提案をしてくる。さすがの和彦も困惑するが、淫らな好奇心が上回る。千尋の欲望に引きずられたのかもしれない。「んっ……」 体を横向きにして、千尋の欲望を再び口腔に含む。同時に千尋が、和彦の欲望を口腔に含んだ。 頭を互い違いにして、欲望を含み合う行為は、初めてだ。この行為を試してみたいと考えたこともない。身を焼かれるような羞恥が和彦を苛むが、一方で、とてつもなく淫らな行為に耽っているという実感に酔いそうになる。 しかし、千尋はもっと大胆で、行動的だった。「うっ、ああっ……、千尋、この格好は、嫌だっ」 ベッドに仰向けとなった千尋の上に、和彦はうつ伏せで体を重ねる。それだけではなく、千尋の眼前に、秘裂がよく見えるように両足を開いた姿勢で。そして和彦の眼前には、身を起こした千尋の欲望がある。 さすがにあまりにはしたない格好に、理性が欲望に勝ろうとしたが、おもしろい遊びを発見した子供のように、千尋の好奇心は旺盛だった。「すげー、いやらしいよ、先生」 ぐいっと腰を引き寄せられ、和彦のものは熱い感触に包み込まれる。顔を伏せて呻き声を洩らし、腰を震わせていた。「……バカ、千尋っ……」 せめてもの抵抗で、絞り出すような声でこう言った和彦だが、千尋の上から逃れることはできなかった。千尋の指が、内奥の入り口をまさぐり始めていたからだ。「あっ、あっ、あうっ――」 指に続いて触れたのは、柔らかく濡れた感触だった。熱くなったものは指の輪で緩く扱かれ、腰が震える。千尋は明らかに、いつもとは違う攻めに戸惑う和彦の反応を楽しんでいた。「もしかして、こういうの初めて?」「当たり、前だ。誰がこんな、恥知らずなことを、す、る……」「だったら俺が、先生にいやらしいこと教えてあげてるってことか」 内奥に指が押し込
「違う。……ぼくの誕生日まで、落ち着かない日が続きそうだと思ったんだ」「へえ、なんか心当たりあるの?」「心当たりというか――」 澤村と会う件で秦に協力を求めたことを、賢吾には報告してある。秦と中嶋と連れ立って動いて、賢吾の耳に入らないはずがない。だったら最初から報告しておいたほうが、精神的に楽だと考えたのだ。そもそもあの男に隠し事など、したくはなかった。バレたときが怖すぎる。 自分が生まれた日を迎えるだけだというのに、神経を遣い、根回しし、煩わしいと思う一方で、気遣われる自分の立場がくすぐったくもある。そういう状況に慣れない和彦の心理は、『落ち着かない』と表現するしかなかった。 和彦の気持ちにすり寄るように、千尋が甘えた声で尋ねてくる。「先生、部屋に寄っていい?」 わずかに体温が上がるのを感じながら和彦は、千尋の頬を優しく撫でてやった。**** グラスに注いだオレンジジュースを飲んでいると、まるで人懐こい犬のように背後から千尋がじゃれついてきた。腰に回された剥き出しの腕に何げなく触れると、まだ濡れている。和彦は、手の甲をパシッと叩いて注意した。「千尋、しっかり拭かないと、風邪を引くぞ。それと、何か着ろ」「えー、どうせすぐに脱ぐじゃん」 明け透けなことを言う千尋を、肩越しに振り返って軽く睨みつける。シャワーを浴びたばかりの千尋は、かろうじて腰にタオルを巻いているが、ほぼ裸だ。滑らかな肌を水滴が伝い落ち、しなやかな筋肉に覆われた体を、さらに魅力的に見せている。 きれいな千尋の体の中で、左腕だけは様子が違う。かつては生々しく見えたタトゥーが、部分的に色が薄くなり、代わりに赤みの強いケロイドが目立っている。ようやく痛みが取れて包帯を外したそうだが、それも数日のことだ。来週には、またレーザーを当てるらしい。 和彦は体の向きを変えると、傷に触れないように気をつけながら、タトゥーを指先でなぞる。千尋は小さく笑い声を洩らして、和彦の耳に唇を押し当ててきた。「先生のほうが、痛そうな顔してる」「&hellip
ゴルフに偏見はないが、そこにヤクザという単語が加わると、組員たちに見守られてコースを回る光景を想像してしまう。それでなくても、賢吾と出歩くときは警護が厳重なのだ。のんびりとゴルフを楽しむ姿が、和彦には思いつかない。「……体を動かすだけなら、ジムで十分だ」「そうは言うけど、そのうち先生も、接待ゴルフに招待されたりするから」 どこかおもしろがるような口調で千尋が言う。そんな千尋を、和彦はやや呆れた顔で見つめる。「お前、なんだか楽しそうだな……」「だって、先生と一緒にコースを回るところを想像したら、けっこういいなと思ってさー。本気で考えてよ。ゴルフ始めるの。それで暖かくなったら、俺とコース回ろう」 一人で騒いでまとわりつく千尋を相手しつつ、駐車場で待機している車に戻る。今日は最初から、千尋の買い物につき合ったあとは、自宅に戻ってゆっくり過ごすつもりだった。さすがに元気に出歩くには、寒すぎる。 しっかり暖められた車内に入った和彦は、ブルッと体を震わせる。そんな和彦を見て、隣に座った千尋が笑う。「寒いなら、抱き締めてあげるけど」 子供のような笑顔とは裏腹に、邪なことを言った千尋の頬を、遠慮なくつねり上げてやった。 車が走り出してすぐに、千尋が和彦の手に触れてくる。羨ましいことに、どんなに寒くても千尋の手は温かい。冷たくなっている和彦の手に、じんわりと千尋の体温が沁み込んでいく。「――先生、もうすぐ誕生日だよね」 自分の誕生日の話題が出た途端、和彦はつい身構えてしまう。澤村からの電話や、南郷からプレゼントを渡されたこともあり、どうしても愉快な気分にはなれないのだ。「そうだが……、どうして知ってるんだ?」「俺がカフェでバイトしてるとき、先生の歳聞いたら、ついでに教えてくれたんだ。俺、人の誕生日なんて興味ないんだけど、先生のだけはしっかり覚えてる」 こう言ってくれる千尋には申し訳ないが、正直、和彦の記憶は曖昧だ。千尋とは、世間話や他愛ないことまで、とにかくいろんなことを話しはしたが、そういった会話の内容を、覚えてお







