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第8話

Auteur: ロア
だが佳奈はただ静かに慎吾を見つめるだけだった。その瞳は氷に閉ざされた淵のように、慎吾の姿など微塵も映していなかった。

佳奈は一言も発さず、力強く彼の手を振り払うと、背を向けて一歩、また一歩とドアの方へ向かって歩き出した。

その背中は細く、それでいてまっすぐに伸び、破滅へ向かうような静けさを漂わせていた。

「佳奈!」慎吾は佳奈の態度に激怒し、堪忍袋の緒が切れた。「まだ認めないつもりか?いいだろう!村上、連れて行け!明日の朝一番で、見せしめにする!」

「局長……」村上は少し戸惑った。

「命令だ、実行しろ!」

翌日、居住区の中央広場には、まるで処刑台のような異様な空気が漂っていた。

佳奈は、両脇を局員に固められ、全局員の家族や通行人が見守る中、広場の中央へと引きずり出された。

野次馬の官舎の住人や通行人から、容赦のない囁き声と指を差す動きが波のように広がっていった。

「あれ、藤堂局長の奥さんじゃない?どうして……」

「チンピラをけしかけて葛城さんを襲わせたらしいわよ!普段はあんなに優しそうなのに、人は見かけによらないわね……」

「なんて恥知らずの悪女なの!」

「自業自得だ!見せしめにされて当然だ!」

長時間の拘束と精神的な苦痛で限界に達していたその時、興奮した野次馬の一人が彼女の肩を強く突き飛ばした。

バランスを崩した彼女は、石畳に勢いよく額を打ち付けた。

鈍い音が響き、生温かい血が流れ落ちるのを感じた。

それでも佳奈は、屈辱も痛みも感じていなかった。

心の奥に広がる凍てついた荒野には、もはや何一つ芽吹くものがなかった。

その時、物凄い勢いで彼女の顔面に向かって石が投げられた。

ゴンッ、と鈍い音が響く。

佳奈は目の前が真っ暗になり、体が大きく揺れると、そのまま力なく地面に崩れ落ちた。

意識を失う直前、野次馬の中にいた理央が素早く手を引っ込めるのが見えた。そしてその口元には、一瞬だけ、悪意に満ちた勝ち誇るような笑みが浮かんでいた。

……

再び目を覚ました時、そこは暗く湿った独房の中だった。

頭には包帯が巻かれ、全身のあちこちが痛んだ。

独房のドアの外から、声を押し殺したような話し声が聞こえてきた――理央と樹だ。

「樹くん、やめましょう……佳奈さんはあなたのお母さんなのよ。見せしめにして、独房にまで閉じ込めたんだから、もう十分よ。電気ショックなんてやりすぎよ」

「理央さんは優しすぎるよ。あの人はずっと理央さんに敵意を向けて、いじめてきたんだ。ちゃんと罰を与えないと、またいじめるかもしれない!」

「でも……」

「でもじゃないよ、本当に大丈夫だから。ただのお仕置きだよ。理央さんは外で見てて」

独房のドアがわずかに開いた。

そして、小さな人影が入って来た。樹の手には、どこから持ってきたのか、1本の導電性のケーブルが握られていた。

佳奈は力の入らない体のまま、近づいてくる息子を見た。その目は氷のように冷たく、まるで他人を見るようだった。

「樹……何をする気?」佳奈の声はかすれていた。

「お母さん、ただのお仕置きだよ。もう理央さんをいじめないようにね」

ドアの隙間から覗く理央の視線を浴びながら、樹はぐったりした佳奈を壁際に置かれた古びた鉄製の椅子へ引きずっていき、そのケーブルで震える佳奈の手首を椅子の肘掛けに縛りつけた。

「お母さん、これで分かったでしょ。お父さんの言うことを聞いて、理央さんに優しくしなきゃいけないって」

そう言うと、樹は数歩下がり、ケーブルのもう一端を壁の古いコンセントに差し込んだ。

バチッ――

激しい電流が一瞬で佳奈の体を駆け巡った。

「ああっ――」

全身の神経が引き裂かれるような激痛と痙攣が佳奈に襲いかかった。

彼女は叫び声を上げ、鉄椅子の上で激しくのたうった。

佳奈の視界が闇に沈む直前、ドアのところで理央が口元を押さえ、笑みを浮かべているのが見えた。

佳奈は、まるで自分が一度死んだかのように感じた。

再び意識を取り戻した時、佳奈は自宅のベッドに横たわっていた。傍らには慎吾が座って、眉をひそめている。

目を開けた佳奈を見ると、慎吾は複雑な表情で言った。「ただの見せしめだろう?どうしてこんな状態になるまで無茶をしたんだ」

佳奈は目を閉じた。慎吾の顔など見たくなかった。

「佳奈、何か言え!」慎吾の声に苛立ちが混じる。「俺はお前の夫だ。不満があるなら言え!」

佳奈はゆっくりと目を開け、うつろな目で慎吾を見た。その声はひどくかすれていた。「あなたに言って、何の意味があるのですか?」

「何だと?」慎吾は怒りを露わにした。「言え!一体何があったんだ!」

佳奈は一語一語、はっきりと言った。「あなたの大事な息子、樹が、理央さんと一緒に、私に電気ショックを与えたのですよ」

慎吾は一瞬言葉を失ったが、すぐに眉をさらに寄せて、反射的に否定した。「あり得ない!樹はまだ4歳だぞ!あいつに何が分かる?理央がそんなことをするはずもない!佳奈、お前、頭を打って幻覚でも見ているんじゃないか?」

その露骨な不信と苛立ちを浮かべた慎吾の顔を見て、佳奈はふっと低く笑った。

その笑い声は素っ気なく、冷淡で、底知れぬ嘲りに満ちていた。

「ほらね」彼女は笑いながら言ったが、涙は止まらなかった。「やっぱり私の言うことなんて信じない。守れない約束なら、軽々しく口にしないでください」
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