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親友にネクタイを直される婚約者、私にはいらない

親友にネクタイを直される婚約者、私にはいらない

By:  二十歳Completed
Language: Japanese
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パーティーで、親友の奥山陽菜(おくやま ひな)が彼氏ができたと打ち明けた。 私、村田葵(むらた あおい)は笑って、「どんな人なの?」と尋ねた。 彼女は答えずに微笑み、視線は真っ直ぐに私の婚約者の石井竜也(いしい たつや)へと向けていた。 しかし、竜也が壇上でスピーチをする前、陽菜がさりげなく彼のネクタイを直すまで、私はそのことを深く気にも留めていなかった。 あまりにも自然で親密な二人の姿に、私はその場に立ち尽くした。陽菜は笑いながら言った。 「彼氏にしてあげる癖が出ちゃって。気にしないで」 私は言葉を失った。 その日、家に戻るとすぐに竜也に切り出した。 「婚約、解消しましょう」 竜也は苛立ちを隠そうともせず眉をひそめた。「ネクタイを直してもらっただけで、本気で言ってるのか?」

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ノンスケ
ノンスケ
なんだか政略結婚の怖さが伝わってくる話だった。お金のために浮気も目をつぶれ、なんて結婚前から言われて許せるのか?しかも婚約者がいながら、浮気相手と同棲している男。いや、ないわ。
2026-04-05 15:52:30
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松坂 美枝
松坂 美枝
クズ男が終始主人公のことを利用する相手としか見てなかったな しかも会社のことでお願いする立場であんな威張り散らしてクソだった 最後だけは潔かったな〜 おかげで邪魔されずに次の恋へ行けるぜ
2026-04-05 09:41:43
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メイアイヘルプ祐
メイアイヘルプ祐
昨日、読んだのと同じか?ん?エプロンがネクタイ、夫が婚約者に変わっただけ?
2026-04-05 10:59:42
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9 Chapters
第1話
パーティーで、親友の奥山陽菜(おくやま ひな)が彼氏ができたと打ち明けた。私、村田葵(むらた あおい)は笑って、「どんな人なの?」と尋ねた。彼女は答えずに微笑み、視線は真っ直ぐに私の婚約者の石井竜也(いしい たつや)へと向けていた。しかし、竜也が壇上でスピーチをする前、陽菜がさりげなく彼のネクタイを直すまで、私はそのことを深く気にも留めていなかった。あまりにも自然で親密な二人の姿に、私はその場に立ち尽くした。陽菜は笑いながら言った。「彼氏にしてあげる癖が出ちゃって。気にしないで」私は言葉を失った。その日、家に戻るとすぐに竜也に切り出した。「婚約、解消しましょう」竜也は苛立ちを隠そうともせず眉をひそめた。「ネクタイを直してもらっただけで、本気で言ってるのか?俺と陽菜の関係はお前が一番よく知ってるだろ?俺は決して一線を越えてない」私は暗い紋様の入ったグレーのネクタイを一瞥し、鼻で笑ってから、彼を見据えた。「でもあなたは、陽菜が一線を越えるのを許したのね」竜也は眉をひそめ、不機嫌そうな声で私を責め始めた。「陽菜だって言ってたじゃないか、『彼氏にやり慣れてるから、曲がってるのを見てつい直しちゃっただけ』って。少しくらい拗ねるのは我慢してやるが、この婚約は両家の親が決めたことだ。そう簡単に覆せるものじゃない」私は信じられない思いで彼を見た。ついやっちゃっただけ?まともな男なら、婚約者の親友に何食わぬ顔でネクタイを結んでもらったりしないでしょ!私は冷ややかに言い放った。「陽菜がネクタイを整える手つき、私より慣れてたけど」竜也の顔がさっと曇った。「ネクタイが曲がってたから気づいてくれたんだ。近くに立っていたから、手伝ってくれただけだ。つまり、あの時そこにいたのが俺じゃなくて別の男だったとしても、同じようにネクタイを直してやってたはずだ。そもそも俺の婚約者のくせに、ネクタイの乱れに気づかないなんて、一体どっちのせいだ?なんで俺が責められなきゃいけないんだ?」それを聞いた私は耳を疑った。竜也の中では、かえって私の過ちということになっている。私は鼻で笑った。「責められてるって?今、私を責め立てているのはあなたの方じゃないの?」竜也は苛立たしげに口元を歪め、吐き捨てるように言った。「陽
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第2話
「ネクタイが歪んでるよ」陽菜の口調と笑みは、昨日のパーティーの時よりもずっと自然だった。「もう、こっち来て、直してあげる」その直後、背中を向けていた男が陽菜の前に歩み寄った。「お前が急に掴むからだろ?危うく転ぶところだったぞ」私はその場に釘付けになり、足に重りがついたように動けなくなった。その背中は、見間違えようがない、私の婚約者、竜也だった。陽菜は竜也の首に手を回し、抱き合っているも同然の距離だった。彼女が親しげに首をかしげるた瞬間、ちょうど私と目が合った。一瞬、陽菜の目の奥に浮かぶ笑みがはっきりと見えた。それは挑発ではなく、冷ややかな嘲笑だった。それはまるで、私の独りよがりをあざ笑うかのように。そして陽菜は私に今気づいたかのように、わざとらしい声で言った。「葵、どうしてここにいるの?」竜也は振り返り、そのままドアを開けた。陽菜はその横で、無邪気で何一つ後ろめたいことのない顔をしていた。竜也は説明など何もなく、私が持っているファイルケースに目を向けた。「早く書類を渡してくれ」私は無言のまま身動き一つせず、彼の胸元のネクタイをじっと見つめていた。ネクタイは完璧に整えられていて、昨日見たものとほとんど同じデザインだった。そこには、まるで陽菜の指の跡でも残っているかのように感じた。「竜也の資料整理を手伝ってたの、ネクタイが曲がってたから直してあげてただけよ」まるで今日の天気でも話すように、陽菜はさらっと言ってのけた。その目の奥に、隠しきれないわずかなバカにしたような色がよぎった。竜也は書類を受け取ると、「届けてくれて助かった、これ以上遅れたら大変なことになるところだった」と言った。私は黙って彼の首元に残る口紅の跡を見つめた。感情を押し殺した声で、自分の首元を指差しながら告げた。「そのままだと、仕事に影響が出るよ」竜也はハッとして、心当たりがあるのか、気まずそうに自分の首を触りながらスマホを取り出して確認した。「仕事で立て込んでいて気づかなかった、何かの拍子に触れたんだろう」図星と言わんばかりだ。陽菜はすぐにティッシュを差し出し、竜也はそれを当然のように受け取った。「葵、心配しないで、竜也がミスなんてするはずないわ、仕事に影響なんて出るわけないじゃない」
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第3話
「冷徹な石井社長も、こういう顔をするのね」「本当、あつあつだなあ」周りにはやし立てられて、陽菜は頬を赤らめた。「でも石井社長、今、目の前にいるのが誰か、ちゃんと見えてるんですか?」竜也はテーブルを叩き、声を張り上げた。「当然さ。ひーちゃんに決まっているだろう?」その瞬間、私の心の中で消え残っていた独りよがりな思い込みが粉々に砕け散った。ずっと「ひーちゃん」だったのだ、「いーちゃん」ではなかった。もしかしたら、竜也が私を「いーちゃん」と呼んでいたのも、「ひーちゃん」に似た音だったからなのかもしれない。「ひーちゃんは苺のケーキが好きで、コーヒーはブラック派で、辛いものもだめで、体が弱くてすぐ調子を崩すし、生理の周期は……」竜也が並べ立てる陽菜についての細かな情報に、私の血は凍りつくようだった。足元から這い上がる寒気が、全身を貫いた。竜也は一度も、私のことを覚えていてくれたためしがなかった。私は苺の味が苦手なのに、彼は仕事帰りに何度も苺のスイーツを買ってきていた。仕事が忙しいからだ、女心に疎い不器用な男だからだと、自分に言い聞かせていた。今になってやっとわかった。彼は女心がわからないわけじゃなかった。ただ、私の心をわかろうとしなかっただけだ。彼の頭の中にあったのは、いつだって陽菜のことだったんだ。「一番の違いはさ、ひーちゃんは葵みたいにお堅くなくて一緒にいて楽しいんだよ。葵って本当に色気ってもんがないから」周りの連中がすかさず囃し立てる、「本当、お似合いですね」竜也は得意げに言った。「もちろんだ。ひーちゃんのためじゃなかったら、村田家との婚約なんて引き受けてない。葵と結婚して、そのうち本心を打ち明けてやるよ……俺が愛しているのはひーちゃんだ、って……」陽菜は恥ずかしそうに、「そんなこと、大きな声で言わないでよ」と答えた。「彼は酔っ払ってるんだから、聞き流して」口ではそう言いつつも、陽菜は止めようとするそぶりもなく、竜也の甘い言葉も周りのはやしたてもすべて、心ゆくまで楽しんでいた。私はこれ以上いたたまれず立ち去ろうとしたところ、竜也の親友の葛城翔吾(かつらぎ しょうご)とぶつかった。「葵さん?来てたなら、中に入ればよかったのに」個室の中にいた全員が気配に気づき、一
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第4話
竜也を助手席に乗せ、車を走らせた。夜風を窓の隙から感じながら、竜也の酔いが覚めてくれればと思い、前だけを見て運転した。「そこじゃない、違う、俺の家はそこじゃない」私は聞き流して、運転に集中した。竜也はスマホを取り出し、地図アプリを開いて画面を差し出した。私は車を止め、彼が示した住所をじっと見つめた。そして、検索履歴に目が止まった。そこには、私との新居から見知らぬマンションへの経路が何度も検索されていた。そのマンションが、竜也の言う「家」だった。全てを察した私は、溢れそうになる涙をこらえながら、彼を目的地のマンションまで送り届けた。ドアのスマートロックの暗証番号は、陽菜の誕生日だった。玄関には、お揃いのスリッパが置いてあった。部屋のあちこちに、竜也と別の女が一緒に暮らしてきた痕跡が染みついていた。その痕跡の主が陽菜であることは、確かめるまでもなかった。竜也は私を好きじゃないばかりか、喧嘩の時に言っていた言葉さえ全て嘘だったのだ。最初から最後まで、私に対して真心を向けた瞬間など一度もなかった。彼をソファに放り投げて、立ち去ろうとした。ちょうどその時、テーブルの上に検査結果の書類が置かれているのが目に入った。書類に陽菜の名前があった。血液型の欄には、Rhマイナスと書かれてあった。私も同じ血液型で、極めて希少だからこそ、幼い頃から怪我一つしないように細心の注意を払ってきた。そうか、そういうことね、ようやくわかった、竜也が私との縁談を引き受けた本当の理由。最も信頼していた親友と、10年間ずっと想い続けてきた婚約者。彼らは私を歩く血液バンク扱いし、骨の髄までしゃぶり尽くそうとしていたのだ。彼がいつも私の怪我をあんなに心配していたのは、陽菜のための貴重な血液ドナーを失うのが怖かっただけなのだ。蜜のように甘いと思っていた過去の優しさが、実はすべて猛毒であり、今は無数の針となって私の骨の髄まで突き刺さってくる。長年愛し続けてきた目の前の男を見ても、今はただただ滑稽で、呆れて笑うしかなかった。書類をテーブルに戻し、立ち上がろうとすると、竜也の手が私の袖を掴んで離さなかった。振り払おうとすると、今度は彼の方から唐突に力を抜いた。次の瞬間、無理やりソファに引きずり戻され、体を押さ
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第5話
「そうよ、一体どういう意味なの、竜也は何をしたの?」母が心配そうに尋ねた。私が説明する前に、竜也の父親・石井泰誠(いしい たいせい)が目を細めて不機嫌そうに言った。「大げさなことを言うな、少し話せば済むことだろう?結婚前のこの時期に婚約解消なんて言い出したら、両家の顔に泥を塗ることになるぞ」竜也の母親・石井百合(いしい ゆり)も畳みかけるように、私と手を握りながら説教じみた口調で言った。「そうよ、葵、そんなことで婚約を破棄なんて、そんな物騒なことを言わないで」母までも、「とりあえず何があったか話しなさい、わがまま言わないで」と私をなだめた。「理由なんて彼女が陽菜との関係を誤解していることに決まっている。説明してもまったく聞かないし、昨夜だって俺が酔いつぶれていたのに放っておいて、陽菜が送ってくれたんだ」竜也は悪びれる様子もなく、被害者のような顔で続けた。百合は鬼の首でも取ったかのように、冷たく言い放つ。「葵、それは感心しないわね。喧嘩中であれ、婚約者じゃないの、自分で世話もせずに他人に任せておいて、二人を疑うなんてお門違いよ」私は失笑した。この人たちの言っていることに、一体どんな筋道があるというのだろう。「万が一、二人になにかあったとしても、心広く持つのよ。女はそんな細かいことにこだわっていたらダメよ。みんなそうやって乗り越えてきたのよ、竜也がもう説明したのなら、蒸し返してはダメ。知っての通り、私たちのような家同士の結婚に、恋愛感情なんて関係ないのよ」その言葉を聞いて、なぜ竜也があれほど自信満々に私を黙らせようとしたのかわかった。親も親なら子も子、というわけだ。私は冷ややかに言い放った。「このようなことは経験豊富そうですね、さぞかし身にしみて分かるんでしょう……」まだ言い終わってもいないのに、百合の顔がみるみる曇った。泰誠の顔色も青ざめている。「葵、いい加減にしろ!」竜也が怒鳴り声を上げた。動揺する一家三人を見て、笑いがこみ上げた。なんだ、自分の番になると許せないの?「葵、黙れ」父が声を荒げて止める。母も落ち着くよう私をなだめる。「竜也、自分のスマホの地図の検索履歴、見てみたら?」言葉を聞いて何かに気づいたのか、竜也が険しい表情で急いでスマホを確認する。「昨夜
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第6話
これを聞いた泰誠は、顔を青ざめさせ、テーブルをバンと叩いた。「馬鹿なことを言うな、両家はこれだけ長い間協力してきたんだぞ、今さら出資を引き揚げれば、損失を被るのは石井グループだけじゃないぞ。こんなことで今までの関係を壊すのか、お前みたいな器の小さい人間には、本当にがっかりだよ」私は泰誠をまるで道化師を見るような冷めた目で見つめた。石井グループはほんの少し前まで経営危機に陥っていた、村田家との婚約で資金援助を得なければ、とっくに倒産していただろうに。確かに出資を引き揚げれば村田家にも多少の影響は出るが、村田家にとっては、かすり傷程度に過ぎない。だが石井グループは、身ぐるみを剥がされるような苦境に立たされることになるだろう。私は皮肉な笑みを浮かべて言った。「損失を心配する人が一番焦っているようですね」その言葉に、泰誠は顔を真っ赤にさせて激怒した。まずいと感じた百合が、私をなだめようと歩み寄ってきた。彼女は慈愛に満ちた年長者のふりをして言った。「葵、竜也がしたことは確かにひどいけれど、まだ何も取り返しのつかないことは起きていないでしょ?陽菜とは縁を切らせるわ、もう二度とあなたを傷つけることはないよう、遠くへ追いやっておくから。だから、竜也ともう一度やり直してちょうだい。両家の間に波風を立てるような真似は、もうやめにしましょう。それは誰の得にもならないのだから」「母さん!」竜也が慌てた。「そんなことできない……」彼は言葉を切ると、何かを思い出したのか、「全部、お前のせいだ」と言わんばかりの目で私を睨みつけた。竜也は血相を変えて私に詰め寄った。「葵、正気か?出資を引き揚げるなんて脅しをかけて」私は冷静に答えた。「脅しなんかじゃないわ、通知よ。それに、仮に脅しだとしても、受け入れてもらうしかないわ、最初に結婚を取引の道具にしたのは、あなたでしょ」竜也は怒りをあらわにした。「10年好きだったとか言っておいて、その程度の安い気持ちだったのか」その言葉が鋭い刃のように胸を刺したが、もう心が麻痺しているのか、何の痛みも感じなかった。「私の感情が安いかどうかは、投資を引き揚げた後に分かるわ」竜也は信じられないといった顔で数秒間、何も言えずにいた。「ふん、出資を引き揚げれば俺が折れるとでも思ったか?
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第7話
竜也は足を止め、怒りを通り越して、軽蔑の眼差しを私に向けた。まるで、そんな卑劣な手を使ってまで嘘をつくなと言わんばかりだ。「葵、お前がそんな奴だったとはな、ひーちゃんがどんな人間か、俺は一番よく分かってる、次彼女の悪口を言ったら、タダじゃ済まさないぞ」私は軽く笑い飛ばした。「嘘か本当か、自分で確かめればいいだけじゃない」竜也が吹き出した。「葵、いつまでもそうやって俺とひーちゃんの仲を壊そうとするんだな、そんな手には乗らない。俺たちは互いを信じ合ってる。お前に何を言われても揺らがない」堂々と言い切る彼の姿を見て、呆れ果てて言葉も出なかった。「目を覚ましたくない人は、何をしても起こせないものね。今のあなたは昔の私にそっくりだわ。でもね、私は自分の私欲のために、誰かを傷つけたりはしない。さっき言ってた『後悔させてやる』って言葉、楽しみにしてるわ」そう告げて促すと、竜也は怒りをぶちまけながら去っていった。石井家の三人を送り出したあと、両親はすぐに石井グループへの出資を引き揚げる手配を進めた。長年パートナーとして提携していたため、絡み合っている案件は山ほどあった。これまでは竜也のことばかり考えていて、仕事からは離れていたけれど、大まかな状況は把握している。両親と協力して石井グループとの切り離し作業にあたり、未明にようやく一区切りついた。翌日は昼過ぎまで泥のように眠り続け、目が覚めたら夜7時を回っていた。何か食べようと思った時、インターホンが鳴った。扉を開けると、竜也が酒臭い息を吐きながらなだれ込んできた。「葵、会社の資金がもう限界なんだ。お前に書類を届けてもらったあのプロジェクト、銀行への返済が迫っているのに、出資を引き揚げられたせいで取引先も次々と手を引いた。このままじゃ、石井グループはもうもたない。自分の力を過信していた、俺が悪かった」喉を詰まらせた彼は、まるで人が変わったようにしおらしかった。「頼む、もう一度考え直してくれないか、長い付き合いだと思って……」私はソファにだるそうに身を預け、冷めた目で眺めていた。昔の竜也はどんな人だったっけと、記憶を辿ろうとした。でも、思い浮かべようとしてもその顔がぼやけて見えた。いつからそうなったんだろう。あの日、陽菜がネクタイを直し
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第8話
それからの数日間、石井家は完全に混乱状態に陥った。泰誠と百合はあちこちへ頭を下げて回ったが、石井グループへの出資を引き受けてくれるところは一つもなかった。何者かが、私と竜也の間にあった出来事を外部に漏らしたからだ。それは、竜也と陽菜の不倫だけにとどまらず、二人が私を生きた血液バンクとして利用しようとしていたという証拠まで、全てが晒されていた。拡散された動画の中では、竜也と陽菜が罵り合っていた。「お前のせいで、葵が資金を引き揚げ、石井グループは倒産寸前だ、今の状況がお前に一体どんな得があるんだ」陽菜も怒りをぶつけた。「最初に、葵はバカで騙しやすいからイチャついて見せてやれって言ったのは誰よ。自分でやりすぎて墓穴を掘ったくせに、今さら私を責める気?」竜也が叫ぶ。「お前のせいに決まってるだろ、葵を生きた血液バンクにするためじゃなかったら、あんな縁談なんて受けなかった、全部お前のせいだ」陽菜は吐き捨てた。「私のせいって、村田家の投資を喉から手が出るほど欲しがったのは石井家じゃないの?よくも私のためなんて言えたものね……」言葉が終わらぬうちに、竜也の手が彼女の頬を打ち据えた。「黙れ、この尻軽女、俺の親友と浮気しておきながら、そんなことが言える面がどこにある?」かつて愛し合っていた二人の修羅場が、ビデオ越しに見るにはあまりに滑稽で哀れだった。このスキャンダルは炎上し、竜也は長い間世間の注目を浴びることとなり、石井家はどん底に落ちた。その日、買い物を終えて自宅に戻ると、玄関の前で竜也が待っていた。やつれきった様子で、目元はどんよりと青く沈み、酒臭い息を吐き出していた。ヒゲも剃りっぱなしで、会わない間に10歳も年をとったように見えた。「葵」とっさに私は一歩下がった。「竜也、私たちはもう関係ないはずよ」竜也は服を整え、目を充血させて言った。「葵、謝りに来たんだ。お前が許してくれて、この危機を乗り越えられるなら、何でもする。俺のことを好きじゃなくてもいい。今度は俺がお前を愛す。一生、お前を守る。頼む、今回だけ助けてくれれば、きっと……」彼は情けないほど必死な顔で言った。「前はお前の大切さが分かってなかった。本当に大事なのはお前だけだって、今になってやっと気づいたんだ。陽菜が翔吾と付き合ってい
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第9話
「どうして!」竜也が叫んだ。翔吾は私の方を見て言った。「お前が葵さんの愛を独り占めしながら、他の女と関係を持っているのが我慢ならなかったんだ」それを聞いて、私と竜也は同じくらい驚いた。「まさか、お前、こいつのこと好きなのか。最初からこいつとデキてたんだろ?陽菜と同じように、裏切っていたんだな!」竜也が私を指さして罵った。彼は被害者面をしているが、この人がどういう人間かは、もう十分すぎるほど分かっている。無視しようとすると、翔吾が答えた。「そうだ、10年もの間、ずっと葵さんのことが好きだった。それに、お前よりもずっと前から彼女を知っていた、葵さんがお前を選んだから諦めようと思ったのに、お前は彼女を大切にしなかったから、葵さんを悲しませないために、俺は奥山と付き合ったんだ。どうなったと思う?誘う隙をうかがう間もなく、向こうからすり寄ってきたんだ。あいつがお前のことを何て言ったか知っているか?」翔吾がスマホで録音を再生した。「竜也ってさ、本当につまらない人だよね、融通も利かないし、面白みもないわ、お金があるから一緒にいるだけで、正直顔も見たくない。やっぱり、私のこと分かってくれるのはあなただけだし、センスもいい、本当に愛してるのはあなたなの」陽菜の声は、竜也の心に鋭く突き刺さった。竜也は気が抜けたように、呆然としていた。彼は私と翔吾を交互に見て、大笑いしながらその場を去ろうとした。すると、翔吾が彼を引き留めた。「葵さんを傷つけておいて、このまま無事で帰れると思っているのか?甘いよ」そう言って警察に通報し、駆けつけた警察が竜也を連行していった。翔吾もその場にいたため、警察署へ同行した。その後翔吾はすぐ戻ってきたが、竜也は拘束された。2週間後、竜也は釈放されたが、石井グループは破産していた。泰誠は追い詰められて唯一の屋敷を担保にギャンブルに走ったが、すべてを失った。百合はショックで心を病み、行方が分からなくなった。竜也が釈放された後電話をかけてきたが、私はそれに出なかった。その後、彼はかつての石井グループ本社ビル、32階の自分のオフィスから身を投げたと聞いた。ニュースを見て、ただただやり切れない気持ちになった。これまでの人生の半分近くを共にいた人が、この世から消えた。2
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