LOGINパーティーで、親友の奥山陽菜(おくやま ひな)が彼氏ができたと打ち明けた。 私、村田葵(むらた あおい)は笑って、「どんな人なの?」と尋ねた。 彼女は答えずに微笑み、視線は真っ直ぐに私の婚約者の石井竜也(いしい たつや)へと向けていた。 しかし、竜也が壇上でスピーチをする前、陽菜がさりげなく彼のネクタイを直すまで、私はそのことを深く気にも留めていなかった。 あまりにも自然で親密な二人の姿に、私はその場に立ち尽くした。陽菜は笑いながら言った。 「彼氏にしてあげる癖が出ちゃって。気にしないで」 私は言葉を失った。 その日、家に戻るとすぐに竜也に切り出した。 「婚約、解消しましょう」 竜也は苛立ちを隠そうともせず眉をひそめた。「ネクタイを直してもらっただけで、本気で言ってるのか?」
View More「どうして!」竜也が叫んだ。翔吾は私の方を見て言った。「お前が葵さんの愛を独り占めしながら、他の女と関係を持っているのが我慢ならなかったんだ」それを聞いて、私と竜也は同じくらい驚いた。「まさか、お前、こいつのこと好きなのか。最初からこいつとデキてたんだろ?陽菜と同じように、裏切っていたんだな!」竜也が私を指さして罵った。彼は被害者面をしているが、この人がどういう人間かは、もう十分すぎるほど分かっている。無視しようとすると、翔吾が答えた。「そうだ、10年もの間、ずっと葵さんのことが好きだった。それに、お前よりもずっと前から彼女を知っていた、葵さんがお前を選んだから諦めようと思ったのに、お前は彼女を大切にしなかったから、葵さんを悲しませないために、俺は奥山と付き合ったんだ。どうなったと思う?誘う隙をうかがう間もなく、向こうからすり寄ってきたんだ。あいつがお前のことを何て言ったか知っているか?」翔吾がスマホで録音を再生した。「竜也ってさ、本当につまらない人だよね、融通も利かないし、面白みもないわ、お金があるから一緒にいるだけで、正直顔も見たくない。やっぱり、私のこと分かってくれるのはあなただけだし、センスもいい、本当に愛してるのはあなたなの」陽菜の声は、竜也の心に鋭く突き刺さった。竜也は気が抜けたように、呆然としていた。彼は私と翔吾を交互に見て、大笑いしながらその場を去ろうとした。すると、翔吾が彼を引き留めた。「葵さんを傷つけておいて、このまま無事で帰れると思っているのか?甘いよ」そう言って警察に通報し、駆けつけた警察が竜也を連行していった。翔吾もその場にいたため、警察署へ同行した。その後翔吾はすぐ戻ってきたが、竜也は拘束された。2週間後、竜也は釈放されたが、石井グループは破産していた。泰誠は追い詰められて唯一の屋敷を担保にギャンブルに走ったが、すべてを失った。百合はショックで心を病み、行方が分からなくなった。竜也が釈放された後電話をかけてきたが、私はそれに出なかった。その後、彼はかつての石井グループ本社ビル、32階の自分のオフィスから身を投げたと聞いた。ニュースを見て、ただただやり切れない気持ちになった。これまでの人生の半分近くを共にいた人が、この世から消えた。2
それからの数日間、石井家は完全に混乱状態に陥った。泰誠と百合はあちこちへ頭を下げて回ったが、石井グループへの出資を引き受けてくれるところは一つもなかった。何者かが、私と竜也の間にあった出来事を外部に漏らしたからだ。それは、竜也と陽菜の不倫だけにとどまらず、二人が私を生きた血液バンクとして利用しようとしていたという証拠まで、全てが晒されていた。拡散された動画の中では、竜也と陽菜が罵り合っていた。「お前のせいで、葵が資金を引き揚げ、石井グループは倒産寸前だ、今の状況がお前に一体どんな得があるんだ」陽菜も怒りをぶつけた。「最初に、葵はバカで騙しやすいからイチャついて見せてやれって言ったのは誰よ。自分でやりすぎて墓穴を掘ったくせに、今さら私を責める気?」竜也が叫ぶ。「お前のせいに決まってるだろ、葵を生きた血液バンクにするためじゃなかったら、あんな縁談なんて受けなかった、全部お前のせいだ」陽菜は吐き捨てた。「私のせいって、村田家の投資を喉から手が出るほど欲しがったのは石井家じゃないの?よくも私のためなんて言えたものね……」言葉が終わらぬうちに、竜也の手が彼女の頬を打ち据えた。「黙れ、この尻軽女、俺の親友と浮気しておきながら、そんなことが言える面がどこにある?」かつて愛し合っていた二人の修羅場が、ビデオ越しに見るにはあまりに滑稽で哀れだった。このスキャンダルは炎上し、竜也は長い間世間の注目を浴びることとなり、石井家はどん底に落ちた。その日、買い物を終えて自宅に戻ると、玄関の前で竜也が待っていた。やつれきった様子で、目元はどんよりと青く沈み、酒臭い息を吐き出していた。ヒゲも剃りっぱなしで、会わない間に10歳も年をとったように見えた。「葵」とっさに私は一歩下がった。「竜也、私たちはもう関係ないはずよ」竜也は服を整え、目を充血させて言った。「葵、謝りに来たんだ。お前が許してくれて、この危機を乗り越えられるなら、何でもする。俺のことを好きじゃなくてもいい。今度は俺がお前を愛す。一生、お前を守る。頼む、今回だけ助けてくれれば、きっと……」彼は情けないほど必死な顔で言った。「前はお前の大切さが分かってなかった。本当に大事なのはお前だけだって、今になってやっと気づいたんだ。陽菜が翔吾と付き合ってい
竜也は足を止め、怒りを通り越して、軽蔑の眼差しを私に向けた。まるで、そんな卑劣な手を使ってまで嘘をつくなと言わんばかりだ。「葵、お前がそんな奴だったとはな、ひーちゃんがどんな人間か、俺は一番よく分かってる、次彼女の悪口を言ったら、タダじゃ済まさないぞ」私は軽く笑い飛ばした。「嘘か本当か、自分で確かめればいいだけじゃない」竜也が吹き出した。「葵、いつまでもそうやって俺とひーちゃんの仲を壊そうとするんだな、そんな手には乗らない。俺たちは互いを信じ合ってる。お前に何を言われても揺らがない」堂々と言い切る彼の姿を見て、呆れ果てて言葉も出なかった。「目を覚ましたくない人は、何をしても起こせないものね。今のあなたは昔の私にそっくりだわ。でもね、私は自分の私欲のために、誰かを傷つけたりはしない。さっき言ってた『後悔させてやる』って言葉、楽しみにしてるわ」そう告げて促すと、竜也は怒りをぶちまけながら去っていった。石井家の三人を送り出したあと、両親はすぐに石井グループへの出資を引き揚げる手配を進めた。長年パートナーとして提携していたため、絡み合っている案件は山ほどあった。これまでは竜也のことばかり考えていて、仕事からは離れていたけれど、大まかな状況は把握している。両親と協力して石井グループとの切り離し作業にあたり、未明にようやく一区切りついた。翌日は昼過ぎまで泥のように眠り続け、目が覚めたら夜7時を回っていた。何か食べようと思った時、インターホンが鳴った。扉を開けると、竜也が酒臭い息を吐きながらなだれ込んできた。「葵、会社の資金がもう限界なんだ。お前に書類を届けてもらったあのプロジェクト、銀行への返済が迫っているのに、出資を引き揚げられたせいで取引先も次々と手を引いた。このままじゃ、石井グループはもうもたない。自分の力を過信していた、俺が悪かった」喉を詰まらせた彼は、まるで人が変わったようにしおらしかった。「頼む、もう一度考え直してくれないか、長い付き合いだと思って……」私はソファにだるそうに身を預け、冷めた目で眺めていた。昔の竜也はどんな人だったっけと、記憶を辿ろうとした。でも、思い浮かべようとしてもその顔がぼやけて見えた。いつからそうなったんだろう。あの日、陽菜がネクタイを直し
これを聞いた泰誠は、顔を青ざめさせ、テーブルをバンと叩いた。「馬鹿なことを言うな、両家はこれだけ長い間協力してきたんだぞ、今さら出資を引き揚げれば、損失を被るのは石井グループだけじゃないぞ。こんなことで今までの関係を壊すのか、お前みたいな器の小さい人間には、本当にがっかりだよ」私は泰誠をまるで道化師を見るような冷めた目で見つめた。石井グループはほんの少し前まで経営危機に陥っていた、村田家との婚約で資金援助を得なければ、とっくに倒産していただろうに。確かに出資を引き揚げれば村田家にも多少の影響は出るが、村田家にとっては、かすり傷程度に過ぎない。だが石井グループは、身ぐるみを剥がされるような苦境に立たされることになるだろう。私は皮肉な笑みを浮かべて言った。「損失を心配する人が一番焦っているようですね」その言葉に、泰誠は顔を真っ赤にさせて激怒した。まずいと感じた百合が、私をなだめようと歩み寄ってきた。彼女は慈愛に満ちた年長者のふりをして言った。「葵、竜也がしたことは確かにひどいけれど、まだ何も取り返しのつかないことは起きていないでしょ?陽菜とは縁を切らせるわ、もう二度とあなたを傷つけることはないよう、遠くへ追いやっておくから。だから、竜也ともう一度やり直してちょうだい。両家の間に波風を立てるような真似は、もうやめにしましょう。それは誰の得にもならないのだから」「母さん!」竜也が慌てた。「そんなことできない……」彼は言葉を切ると、何かを思い出したのか、「全部、お前のせいだ」と言わんばかりの目で私を睨みつけた。竜也は血相を変えて私に詰め寄った。「葵、正気か?出資を引き揚げるなんて脅しをかけて」私は冷静に答えた。「脅しなんかじゃないわ、通知よ。それに、仮に脅しだとしても、受け入れてもらうしかないわ、最初に結婚を取引の道具にしたのは、あなたでしょ」竜也は怒りをあらわにした。「10年好きだったとか言っておいて、その程度の安い気持ちだったのか」その言葉が鋭い刃のように胸を刺したが、もう心が麻痺しているのか、何の痛みも感じなかった。「私の感情が安いかどうかは、投資を引き揚げた後に分かるわ」竜也は信じられないといった顔で数秒間、何も言えずにいた。「ふん、出資を引き揚げれば俺が折れるとでも思ったか?
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