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5 依頼料は18万円

Auteur: 缶小豆
last update Date de publication: 2026-08-28 09:52:44

その後流星は、川村と共に山川温泉の華月旅館でのんびりと温泉に浸かっていた。

平日ということもあり、温泉の露天風呂は自分たち二人しかいない。川のせせらぎが聞こえて来て、少しひんやりとした風が頬をすり抜けていくのが気持ち良い。

「いいお湯ですね」

流星は、はーっと一息吐いた。

先ほどの、瞳の最後の言葉が気になってしまって、ずっとモヤモヤしている。

せっかく、滅多に体験できない高級温泉旅館に宿泊出来るというのに……ああ!忘れろ!忘れてしまえ!

流星は自分の頭にそう言い聞かせていた。

川村はそんな流星の様子に気づかず、流れる汗を拭い外の風景に目を移している。

「本当にいいお湯だな。有名な温泉でもないのに、さすが久保田課長だよ。よく、知っている」

だが、しばらく温泉を楽しんだ後は、少し緊張が取れたのだろう。先ほどの倉坂瞳についてつぶやいた。

「18万はぼったくりだよ。1万でも考えるね」

突然、川村から前触れもなく言われた言葉に、流星は忘れることを諦めた。

「18万なんて、俺の初任給の手取り1か月分ですよ」

そう批判めいた口調で、流星も川村に合わせようとした。

川村もその反応に満足そうな顔をして、話を続ける。

「ああいう人の足元を見る商売をする奴らが、俺は一番嫌いなんだ。遺族にああいうのが、たかるんだよ。占いとか、宗教とか」

その気持ちはとてもよく分かったので、流星も頷く。

被害者や遺族に、わざと誹謗中傷をしてくる人や、先祖の供養が悪いからこうなったのだと言ってくる人、霊に呪われているのだという霊媒師や、警察以上に調査できるという言葉で商売する探偵など……

人の不幸を商売や思想に使う人間を、流星も軽蔑していた。

そして、そんな家族の苦しみを知っているくせに、18万をふっかけたあの女性に、川村が嫌悪を持つのも当然……

ただ、彼女が売り込みに来たわけじゃなくて、今回は俺たちが押しかけたのだ。

そうなると、自分たちも同じことをしていることにならないか?

そして、あの能力……嘘だと言い切っていいのか?

電子タバコのトリックはどうなっていたのだろう?

瞳が川村係長の名前を言い当て、俺たちがここに泊まることがなぜわかったのか?

そう考えると、再びドツボのループにはまっていく。

だめだ!彼女のことが頭から離れない!

「先に上がらせてもらいます」

ザバッ!

流星は、勢いよく立ち上がり、温泉から出て川村がまだ温泉にいることを確認する。

そして、ロビーで、久保田に今日の報告の電話を入れて、状況を伝えた。

「それ、立て替えてくれるか?必ず戻ったら払う。あの女の子には、それだけの価値がある」

へっ?

「いや、でも……」

まさか、18万を払うというとは思わなかった。

「久保田課長……定年後、詐欺電話に騙されますよ」

流星は、どう説得してやめさせようか考える。

だが、久保田は、彼女に対しての疑いを全く持っていなかった。

「お前はあの子のことを知らないからそんなことを言うんだ。受けてくれるなら確実だ。川村には言わず、遺留品を彼女の元に持っていけ!こっちに戻って仕事を作るから、お前はあと1日、滞在しろ!いいな」

…… いいなって――

それ拒否権ないよな。

「……わかりました」

しぶしぶ、不服そうに返事をしたが、久保田の気持ちも分からないでもない。

あの電子タバコ……本当に彼女の能力を持っていて、俺たちの素性を調べたのだとしたら、最強すぎだろ。

少なくとも、久保田課長は、倉坂瞳の力は本物だと思っているんだから話は平行線だ。

最後に瞳が言い残した言葉よりも、あの電子タバコのトリックが気になっていた。

もう一度話せば、彼女の人となりが見えるかもしれない。

そして、もう一度彼女の力を見てみたい。

流星は、友達と会うことになったので、もう1日ここで過ごすことにしたと川村に告げた。

「そうなのか?俺は、別件のホシが動き出したみたいだから、明日には戻らないと……」

「そうなんですか?それじゃ、課への土産は、俺がひとり旅に行ったことにして買って帰りますから……」

久保田課長がうまく根回しをしてくれたみたいだ。

課長から、仕事を振られたらここに残る選択肢はなくなるもんな。

ここを訪れていることは課内の誰も知らない。

別に土産なんていらないだろうが、課長の金で来ている手前、なんとなく手ぶらも悪い気がする。

流星は、何個買って帰ろうかと頭の中で計算を始めた。

「大川、依頼はダメだったし、遺留品は倉庫に返しておくよ」

川村に手を差し出され、やっぱりそう言われるよなと流星は、こっそり遺留品とすり替えた鉛筆を川村係長に渡す。

自分が持っていた鉛筆を、同じくらいの長さまで削った。

同じメーカーで同じ塗装の鉛筆だ。

多分、大丈夫だと思うけど……

遺留品の鉛筆は、事件現場に残されていた子供が使っていた鉛筆だ。

川村は、ダミーの鉛筆を手に取り、少し確認した後、普通にカバンに入れた。

流星は、ほっと心の中で安堵する。

「じゃあな」

翌朝、旅館を後にした川村はレンタカーでそのまま駅に向かう。流星は手を振りながら、川村を見送り、一人で瞳に会いに行く後ろめたさを感じた。

(川村係長、すいません)

流星は、旅館のフロントから、タクシーに乗り込んで瞳のところへ向かう。

昨日の不穏な言葉と、あの影のある瞳の姿が頭にこびりついていた。

同時に、彼女と会えることに気持ちが高揚している自分に気づいていた。

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