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第3話

Auteur: ボケちゃん
風真の家に戻ると、ドアが閉まったその瞬間、彼は私を壁に押しつけてキスしてきた。

拒もうとしたけど、彼は私の手をしっかり押さえ込んで離さなかった。

息ができなくなるほどのキスのあと、やっと唇を離し、そっと私を抱きしめた。

「拒まないで。僕は君の彼氏だよ。今は思い出せなくても、これからまたゆっくり知っていけばいい」

私はぼんやりと彼を見上げた。

私の家はごく普通で、彼らみたいな裕福な家庭とは比べ物にならない。

風真は昔、私のことをあまり好きじゃなかった気がする。だから私もできるだけ彼を避けていた。

私の記憶を失ってからというもの、彼は私のことをそこまで嫌っている様子はなく、むしろ優しくしてくれる。

これは哲也への当てつけなの?それとも別の理由?

そんな疑問を抱えたまま、私は眠りに落ちた。

その後の数日、風真とは礼儀正しく、でも少し距離を保ちながら過ごしていた。

それでも彼は時々キスをしてきて、私も次第にそれに慣れていった。

哲也は玲奈のために、豪華なクルーズ船でパーティーを開いていた。

ケーキは人の背丈ほどもあり、とにかく派手だった。

玲奈は嬉しそうに哲也の首に腕を回して、頬にキスし、照れたように彼の横から少し身を引いた。

哲也は笑いながら彼女を見つめ、頭を優しく撫でた。

そして私たちに気づいた瞬間、一瞬だけ動揺の色が彼の顔に浮かんだが、すぐに平然と挨拶してきた。

玲奈も私たちに気づき、にっこり笑って私を引き寄せた。

「美咲、ちょうどよかった!私と哲也の写真、何枚か撮ってくれない?」

哲也は彼女を抱いてケーキの前に立ち、玲奈は肩を彼に寄せて顔を傾けた。

「このケーキ、すごいでしょ?哲也がわざわざ外国の有名パティシエに頼んでくれたの。上に乗ってるお姫様、あれ、私なの!」

私はスマホを構えながら、ふと手が止まった。

哲也って、こんなに気が利く人だったんだ……

画面の中、彼らは肩を寄せ合って笑っていて、まるで世界で一番幸せなカップルに見えた。

その後ろには彼らよりも大きなケーキと、部屋いっぱいのバラ。まるで夢のようにロマンチックだった。

バースデーソングが終わったあと、私はトイレに行き、出てきたときにまた二人の会話を耳にした。

「玲奈には本当に気を遣ってるんだな。かつての美咲とは大違いだな」

「そう、玲奈と一緒にいると楽しいし癒される。あいつは美咲よりも可愛いし、気が利くし、僕もすごく幸せだよ」

「だったら、いっそのことそうしちゃえば?玲奈の方が合ってるんだろ?それに、美咲ってたまにヒステリックで、すぐ喧嘩になるって言ってたじゃん」

「風真、美咲との二年以上の付き合いをそんな簡単に切れるわけないだろ。それに玲奈も長く付き合おうとは思ってない。ただ今この瞬間を一緒に楽しめればそれでいいってさ。ほんと馬鹿な子だよ」

風真はその言葉を聞いて、どこか含みのある笑みを浮かべていた。
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