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第5話

Author: 夏ノ黙
正人は、自分が私の本命だってことを見せつけるために、超高級なパーティーに私を無理やり連れて行った。

正人はみんなに、私が彼の女だと宣言したかったみたい。

でも、これが罠だってことは、私にはわかっていた。

パーティー会場は、きらびやかなドレスの人たちで溢れかえっていた。

私は正人が大金をはたいて買ってくれたオートクチュールのドレスを着て、綺麗な人形みたいに彼の腕に手を絡ませていた。

でも周りの令嬢たちの視線は、ナイフみたいに突き刺さってくる。体に穴でも開けられそうだ。

特に、木村奈津美(きむら なつみ)っていう女の視線はひどかった。

奈津美は正人の幼馴染。この世界では、正人の将来のお嫁候補として誰もが認める存在だ。

昔、私がまだ正人のパシリだった頃、奈津美にはさんざん嫌がらせをされたものだ。

わざと私に飲み物をこぼして靴を拭かせたり、みんなの前で「乞食」って言ってきたり。そういうことをされたのは、はっきり覚えている。

私の手帳には、奈津美への恨みを記録するための特別なページまであるくらいだ。

正人が挨拶回りで席を外した隙に、奈津美が取り巻きの令嬢たちと私を囲んできた。

「あら、中山さんじゃない?」

奈津美はワインのグラスを片手に、私を上から下までなめるように見た。そして、馬鹿にしたように言う。「着飾ったところで、中身は変わらないわよね」

私は何も言わず、黙って一歩だけ後ろに下がった。

でも、私が引けば引くほど、奈津美は調子に乗ってきた。

「記憶喪失なんだって?」奈津美は楽しそうに笑う。「なに?記憶がないふりをすれば、はした金のために土下座までした過去を隠せると思ってるの?」

周りから、くすくすという嘲笑が聞こえてきた。

私はそれでも黙っていた。ただ、こっそりハンドバッグに手を入れて、あの赤い手帳に触れた。

私が抵抗しないのを見て、奈津美はさらに大胆になった。

奈津美は手が滑ったふりをして、持っていたワインを私の胸元にわざとぶちまけた。

「あら、ごめんなさい。手が滑っちゃったわ」

冷たい液体がドレスを伝って肌に流れ込む。べたべたして気持ち悪い。

百万円はするであろうドレスが、一瞬で台無しになった。

私は悲鳴もあげなかったし、避けもしなかった。

ただ落ち着いて手帳とペンを取り出すと、みんなの前で正人のページを開いた。

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