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2.ルックスの寿命、見た目はいくつまで通用する?

last update 最終更新日: 2025-09-10 16:05:00

「はー、なんでよりによって契約結婚なの」

蓮見にプロポーズされた日から、彼の顔と提示された条件が頭から離れない。

(大手財閥の御曹司で、おまけに高身長で顔もいい。これが契約結婚じゃなくて普通のプロポーズだったら良かったのに……)

元カレの啓介が結婚すると聞いたあの時、仕事のための契約結婚で『形だけの妻』が欲しいなら、私を選べばよかったじゃないかと思っていた。それは当時、啓介に未練があって私も結婚したいと思っていたからだ。しかし、今は違う。

「出会ってすぐに契約結婚を持ちかける?しかも、期間限定って何?馬鹿にしないでよ!!こっちはね、T製薬会社の受付嬢のトップとして居続けているんだから!」

誰もが名前を知る国際的な大手、T製薬会社。その受付や秘書、広報は会社の顔であり、見た目が重要視される。そんな場所で働く『大手企業の受付嬢』、それが私の自慢だった。

そして周りも、職業を答えると一気に私を見る目が変わる。このキラキラしたポジションは誰にも渡したくない、そう思っていた。

「前田さんも、25歳超えたからあと数年よね。30歳超えたら契約切られるか内勤の仕事に回されるんじゃない?」

「え、30歳超えたらアウトなんですか?」

休憩室に入ろうとすると、後輩たちが話しているのが聞こえてきた。

「何ヶ国語か話せるバイリンガルな人は重宝されて残れるけど、見た目だけの人は駄目ね。それに言語が話せても、普段受付に立つのは若くて綺麗な人だけで、海外の人が来て困った時だけの対応で基本は裏方よ」

(なによ、まるで私が見た目だけの駄目な人って言ってるようなものじゃない!!それに30までにまだ数年の猶予があるんだから!)

腹が立ち、休憩室には入らずその場を後にした。

受付には常時三人が控えているが、一番訪問が多い時間を担当する人がトップクラスに分類される。そして三人の中の真ん中がセンター、エースのポジションだ。私は入社二年目から今までずっとトップでセンターの座を守っている。

しかし、彼女たちの言うように30歳を超えて内勤に異動した先輩を何人も見ている。

語学力はないので受付嬢として残るのは難しい。PC作業もろくにできないので内勤も厳しい。そして何より、年齢が達したから異動勧告を受けたなんて恥さらしでしかなく、私のプライドが許せなかった。しかし、そのプライドを曲げなければ契約切れで仕事がなくなるだけだ。

「あー!なんで仕事も契約とか気にしなくちゃいけないのよ!事前に聞かされていたけど期間限定って何よ!」

就活していた頃は、期間の定めがあってもその前に専業主婦でもいいと言ってくれる経済力のある男性と結婚すればいい。「彼の仕事を支えるために家庭に専念します」と言って、みんなに羨ましがられながら退職するのを夢見ていた。

そのために、私は口だけでなく実際に料理教室に通ったり、隣にいても恥ずかしくないようにマナーや所作を学んだり、自分磨きを頑張ってきた。

(それなのに、なのに……。なんで、私が選ばれないのーーーー!!!)

そして、あと数年先だと思っていた異動はある日突然告げられた。

「え?異動?私が、ですか?」

受付部門を管轄する上司に呼ばれ、個室のミーティングルームに行くと異動の打診を受けた。

「でも、私はずっと受付でトップのポジションに居続けています。それなのに何故?」

「それは知っているよ。だが、会社の方針が変わってね。今度新しく副社長に就任する方がフランス出身だということは君も知っているだろう。その関係で今後は、語学力に長けた人に任せることになった。訪ねてくる人も海外からが増えるからね」

「これは会社の方針だ。次の契約まであと三ヶ月ある。申し訳ないが、今回の契約で終了するか、部門を移動して契約更新するか考えておいてくれないか。」

「は、はい……」

力なく部屋を後にする。

(更新をしなかったら、あと三ヶ月で無職……。プライドを取るか、仕事を取るか、か)

無職になるのは絶対に避けたい。しかし、内勤の仕事は私のプライドが許さない。

そんな時、私の頭に蓮見の顔が浮かんだ。彼は仕事のために『形だけの妻』を探している。私にとってそれは最高のチャンスでもある。

(期間限定でも三年間、お金に困ることなく優雅な生活を送って、離婚後に慰謝料をもらえるなら、お金の心配なく生きられるかもしれない。でも、『条件だけでついていく女じゃない』と言っておきながら、すぐにお願いしますというのも癪だわ……)

蓮見に渡された名刺を取り出す。しかし、ここでもプライドが許さず名刺を戻して受付へと戻って行った。

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    「え、結婚するの?おめでとうー!!!」この前、休憩室で私のことを話していた後輩のうちの一人が結婚を機に退職すると、みんなの前で発表した。「ありがとうございます。彼が部長に昇進して大阪に行くことになって……それでプロポーズされたんです」「それって栄転じゃない!すごいー!!結婚後はどうするの?」「土地勘もないですし、しばらくはのんびりしようかなって。彼は、働かなくてもいいよって言ってくれているんですけど……」周りが聞いていない情報まで小出しして、さりげなくマウントを取ってくる後輩に笑顔で祝福の言葉を掛けた。(私が夢見ていた結婚して専業主婦に後輩がなるのか……。)「何をそんなに迷う必要があるんだ?」昼休み、蓮見から来たメッセージに溜め息をつく。(分かっているわよ。こんな好条件を断る理由がないことも……でも、私のプライドが許さないの!!)あと三ヶ月で仕事の決断しなくてはいけない。分かっているが、積極的に転職活動をする気になれず日にちだけだ過ぎていたある日のことだった。カツカツカツ、カッ――――(やっぱり、誰かにつけられている気がする。)ここ一か月ほど誰かにあとをつけられているのでないかと感じるようになっていた。最初は偶然かと思い、歩く道や時間を変えたが気配が消えることはない。アパートに戻り、部屋の窓のカーテンをしめようとしたその時だった。はっきりと顔は分からなかったが、向かいの建物の住人がこちらを見つめている。目が合うとニコリと笑い、手を振ってきた。「きゃあ……」急いでカーテンを閉めたが、部屋が知られていることへの恐怖に身震いがして、しばらくその場を動けずにうずくまっていた。「誰?一体いつから見ていたというの?」翌日以降は、明るい道を選びながら背後にも注意して家までの道を歩いていた。あとは角を曲がるだけだと、安堵していたその時だった。曲がる予定の角から男性が飛び出してきて、急に私の手首を掴んできた。「久しぶりだね、会いたかったよ」「きゃ……。」「そんなに驚かないで、僕だよ。前に一度会ったでしょ」そう言って親しげに話しかけてくる男性の顔を見ると、以前プレミアム合コンで会った気がする。しかし、好みではなくて連絡先も交換しなかったため、もう名前も覚えていない。「離してください。こんなことしたら訴えますよ」私が強い口調で言うと、男

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