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3.後輩の追い越し、執拗なストーカー

last update Last Updated: 2025-09-10 16:05:06

「え、結婚するの?おめでとうー!!!」

この前、休憩室で私のことを話していた後輩のうちの一人が結婚を機に退職すると、みんなの前で発表した。

「ありがとうございます。彼が部長に昇進して大阪に行くことになって……それでプロポーズされたんです」

「それって栄転じゃない!すごいー!!結婚後はどうするの?」

「土地勘もないですし、しばらくはのんびりしようかなって。彼は、働かなくてもいいよって言ってくれているんですけど……」

周りが聞いていない情報まで小出しして、さりげなくマウントを取ってくる後輩に笑顔で祝福の言葉を掛けた。

(私が夢見ていた結婚して専業主婦に後輩がなるのか……。)

「何をそんなに迷う必要があるんだ?」

昼休み、蓮見から来たメッセージに溜め息をつく。

(分かっているわよ。こんな好条件を断る理由がないことも……でも、私のプライドが許さないの!!)

あと三ヶ月で仕事の決断しなくてはいけない。分かっているが、積極的に転職活動をする気になれず日にちだけだ過ぎていたある日のことだった。

カツカツカツ、カッ――――

(やっぱり、誰かにつけられている気がする。)

ここ一か月ほど誰かにあとをつけられているのでないかと感じるようになっていた。最初は偶然かと思い、歩く道や時間を変えたが気配が消えることはない。

アパートに戻り、部屋の窓のカーテンをしめようとしたその時だった。はっきりと顔は分からなかったが、向かいの建物の住人がこちらを見つめている。目が合うとニコリと笑い、手を振ってきた。

「きゃあ……」

急いでカーテンを閉めたが、部屋が知られていることへの恐怖に身震いがして、しばらくその場を動けずにうずくまっていた。

「誰?一体いつから見ていたというの?」

翌日以降は、明るい道を選びながら背後にも注意して家までの道を歩いていた。あとは角を曲がるだけだと、安堵していたその時だった。

曲がる予定の角から男性が飛び出してきて、急に私の手首を掴んできた。

「久しぶりだね、会いたかったよ」

「きゃ……。」

「そんなに驚かないで、僕だよ。前に一度会ったでしょ」

そう言って親しげに話しかけてくる男性の顔を見ると、以前プレミアム合コンで会った気がする。しかし、好みではなくて連絡先も交換しなかったため、もう名前も覚えていない。

「離してください。こんなことしたら訴えますよ」

私が強い口調で言うと、男性はすぐに手を離したが狼狽える様子はない。

「嫌だな、手を握ったことは謝るけれど久々に会えて嬉しかったからただの挨拶だよ。訴えるだなんて大袈裟だな」

「……っ!!」

「この近くに住んでいるんだね。それならまたどこかで会えるかもね」

(この人、わざと……。偶然会ったとは思えない!!それに住んでいるって、まさかこの人がストーカー?)

そう言って再び私の腕に触れようとした時だった。

「それ以上は、やめてもらえますか」

蓮見が男の腕を強く掴んで、冷たい瞳で睨みつけている。

「何なんだ?俺はただ知り合いにあったから声を掛けただけで……」

「へえ、知り合い。それにしては随分嫌がられている気がしますが」

蓮見は自分のスマホを取り出して、動画を男に見せつけた。先ほど私が男に出くわして「訴える」と言っているところから撮られている。

「お前こそなんだ。盗撮だろ、犯罪だぞ」

「彼女は僕の妻だ。妻を守るために撮ったのがどこが犯罪なんだ?」

「くそっ……」

男は、走って逃げ去って行った。

「なんでここにいるのよ?」

「ボディーガード、とでも思えばいい。返事が遅いから聞きに来た」

男に手を掴まれたとき、怖くて心臓が止まるかと思った。そして助けを求めた時に浮かんだのは、蓮見の顔だった。しかし、お礼を言うべきなのに素直になれない私を、蓮見は何も言わず黙って横に立っていた。

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