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キミは、僕を頼るしかない③

Penulis: 鷹槻れん
last update Terakhir Diperbarui: 2025-08-14 16:03:23

僕が匿名掲示板に餌を投げ込んだだけで、白川はあっさり動き出した。

それだけで、奴の思考がどれほど単純で、どれほど渇いていたかが分かる。

僕が言うのもなんだけど、沙良に対する執着も相当なものだ。

だってそうだろう?

普通あれだけの内容で、書き込まれた子が沙良かも? なんて思わないはずだもの。

僕が書き込んだのはM大なんて至極曖昧なものだったし、なんなら沙良のイニシャルも、大学のある地域ですら限定していない。ただ、貴方のアイコンに似た子がM大にいますよ、ってだけ。

あれでダメならもう少し踏み込んだ餌に切り替えなきゃいけないかな? とか考えていたけど、そんな必要ないくらい、白川は沙良に餓えていたんだと思う。

でも、すぐには沙良に近付けさせてあげない。狩りは焦らせてからの方がより効果的だもの。

だから、最初の三日間は沙良の姿を白川の前へちらつかせておいてわざとヤツに〝待て〟をさせた。

沙良が下校する時刻に合わせて、まるで偶然を装って彼女の周りに人を集めるようにしたんだ。

手を伸ばせそうで伸ばせない距離に求める対象を置き続ければ、欲はいやでも膨らんでいく。

焦りと苛立ちで熱された男は、徐々に判断力と警戒心を鈍らせていくはずだ。

それこそが、僕の求める悪役《ヒール》だ。

火曜日。月曜には喫茶店にいた白川が、明都大付近で確認できるようになった一日目の日だ。

例の裏アカ掲示板に、

『狙っているM大の可愛い子。●日にはもう少し近くで彼女を見てみようと思う』

そんなことを書き込んでいたのをチェック済みだった僕は、その日に合わせて正門前で学生会が学園祭の募金活動をするように仕向けた。

派手なプラカード、呼び込みの声、立ち止まる人々――僕が頼んだのは「●日のこの時間だったら僕も手伝えそうだから」という一言だけだ。

沙良は今日、大学前のバス停でバスに乗ってバイトへ向かう日だ。バイト先は把握しているから終わるころには見守りに行くつもり。

沙良は学生会の面々に混ざって、帽子を目深《まぶか》にかぶった僕には気付かず、身をすぼめて人波を抜け、バス停へと向かっていった。

白川は後ろを歩きながら、何度も立ち止まっては周囲を伺っていた。偵察のため、喫茶店で張っていた時より明らかに人目が多かったからだろうね。案の定、正門前にあるバス停へ近づく勇気もないみたい。

その額に滲んだ汗が、距離を詰められない苛立ちを物語っていた。

(ま、近付いてきたらわざと募金箱をもって声を掛けてやるつもりだったんだけど)

二日目、水曜日。

今日は沙良が人通りのあまりない川沿いの道を通って帰路につく危ない日。

白川にとって、至極沙良のことを狙いやすいシチュエーションの日だけど、残念。まだお預けだよ。

今日は僕の取り巻きの女子学生が入っている軽音サークルが、川沿いにアンプを並べ、ジャカジャカと音を響かせている。

その娘《こ》はずっと、僕に自分が演奏する姿を見て欲しいと話してくれていた。

「今週の水曜とか、川べりで演奏してくれない? そうしたら見に行けるんだけど。僕もキミが楽器を演奏してるところ、見てみたいんだ」

通りすがりの学生が集まり、スマホを構える。約束した手前、僕ももちろん沙良に気付かれないよう、ギャラリーに混ざり込む。

 沙良はその様子にソワソワしながら、騒がしさから逃げるように|俯《うつむ》いて早足で川辺の道を通り過ぎて行った。

白川はその背を追うも、音と人垣に阻まれてまたしても足が止まる。

人ごみの隙間から覗く白川の口元は、わずかに噛み締められていた。

もしヤツが人々を掻き分けて沙良に近付くようなら、予定変更で助けに行こうと構えていたけれど、必要はなかったみたい。

(案外用心深いみたいで助かった)

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