LOGINこんなふうに整形を過度に美化すれば、分別のつかない未成年のファンたちをどれほど惑わせることになるのか。もし家庭の経済が逼迫し、ローンまで背負うことになれば目も当てられない。紬は、長らくログインしていなかった裏情報サイトにアクセスした。金を払い、断片的な情報を丹念に繋ぎ合わせていくと、整形炎上の件について裏で沈静化を図っているのが白石家であることが判明した。渚は白石家の隠し子として、つい最近ようやく正式に一族に認められたばかりだ。そして彼が家へ戻るための条件の一つが、望美の不祥事を揉み消すことだったのである。紬は、渚から最後に届いていたメッセージへと視線を落とした。【大丈夫?】その瞬間、表示されたIPアドレスはE国を示している。片や望美のために裏で手を回しながら、片や白々しく自分を気遣う。この男、なんとも手の込んだ真似をしてくれる。相手にするのも馬鹿らしくなり、紬はそのメッセージを即座に削除した。翌朝、病室に警察が訪れた。「綾瀬さん、ご協力ありがとうございます。ご提供いただいた情報については、引き続き精査させていただきます」警察官はベテランと若手の二人組で、若い方は傍らで調書を記録している。あのトラック運転手は最終的に自首してきたものの、依然として不審な点が多かった。「出発前にブレーキは確認しました。確かに異常はありませんでした」紬は情報に齟齬が生じないよう、あえて強調して言った。両親の事故を経験して以来、この数年、紬は人一倍慎重に運転してきたのだ。唯一の例外が――今回、成哉を車に乗せたこと。そして、その結果として、この惨劇が起きた。「やはりおかしいと思うんです。私の両親も数年前、ほぼ同じ区間で事故に遭っているんですから」紬の声には、固い決意が滲んでいた。昨夜、両親の事故について改めて調べ直した。当時の調査結果は、老朽化によるブレーキ故障が原因の不慮の事故とされていた。だが数年後、まったく同じ手口で。いったい誰が、自分たち一家の命を狙っているのか。年配の警部の表情も険しくなる。「綾瀬さん、あなたの知っていることを、詳しくお聞かせ願えますか」意外にも、二人の警察官は極めて真摯だった。紬の話を単なる憶測として退けることなく、真正面から受け止めている。
「コンペが延期……?」紬は、弾かれたように布団から身を起こした。これほどまでに都合の良い偶然が、果たして現実に起こり得るのだろうか。「先輩、神谷商事の社長の名前、知ってる?」「神谷商事の社長?急に言われてもパッとは出てこないわね。ちょっと待って、今調べてあげる」美咲が手際よくスマホを操作し始める。紬の胸は緊張に支配され、鼓動が大きく跳ねた。もし、理玖が神谷商事のトップなのだとしたら、これまでの不可解な偶然のすべてに、完璧な説明がついてしまう。やがて美咲がわずかに唇を開き、その名を読み上げた。「――神谷雅彦」その瞬間、紬の全身を縛りつけていた神経が、ふっと音を立てて緩んだ。理玖ではなかったのだ。紬は、小さく安堵の吐息を漏らした。スマホを仕舞いながら、美咲が不思議そうに首を傾げる。「どうして急に神谷商事の社長なんて気にしたの?」紬は微かな微笑を浮かべ、誤魔化すように答えた。「あまり表舞台に出てこない方だと聞いていたから、少し気になっただけよ」「それなら私に聞いて。有名だもの」美咲がいたずらっぽく笑う。「あの神谷社長、若くして結婚されて、ものすごく家庭を大事にされているんですって。奥さんがD国に留学したいって言ったら、会社を放り出して付いて行っちゃったらしいわよ。ここ数年は、ずっとリモートで指示を出しているんですって」紬は瞳を大きく見開いた。「本当なの?……それは、少し衝撃的ね」美咲は楽しげに声を上げて笑った。「それのどこが衝撃的なのよ?」美咲にとっては、それほど突拍子もない話に聞こえなかったらしい。「そうね……」紬は言葉を噛みしめるように区切った。「それほどまでに一途に妻だけを愛し抜くような、素敵な男性が本当に実在するんだなって、そう思ったの」美咲も深く頷き、感慨深げに言った。「その視点で見れば、確かに稀有な存在よね。あ、そうそう、今日本当はレイも一緒に来るはずだったんだけど、またあの剛の野郎に無理やり連れ出されたのよ。望美に付き添わせるためにね。しかも今度は海外、E国ですって……」「E国?」紬の瞳に不安の影が過った。「最近あちらの方は不穏なニュースも多いし、レイさん、危なくないかしら」美咲はひらひらと手を振って、彼女の懸念を打ち消した。「大丈夫よ。マネージャ
なんておしゃべりな男だ。渉はきまり悪そうに手を振った。「はいはい、僕の口が過ぎたようだね。それじゃ、お暇するよ」彼は現れた時と同じく、嵐が過ぎ去るかのように慌ただしく立ち去っていった。紬はまだ、少しばかり呆然としていた。その腕の中には一束の花が残されている。理玖が助け舟を出そうと手を伸ばしたが、紬は花束に顔を埋めるようにしてそれを拒んだ。「いいえ、大丈夫です。持てますわ、これくらい重くありませんもの」震える長い睫毛。白い肌が淡いピンクの花々に映え、その姿はどこか儚く、そして可憐だった。理玖の伸ばした手は空中で一瞬迷い、やがて彼女の頭へと静かに置かれた。重苦しい沈黙の後、彼は低く、深い溜息を漏らした。「……ごめん、君を十分に守りきれなかった」事故の前夜、理玖の部下はすでに、望美の差し金で男たちが紬の車に細工を施したことを突き止めていた。彼はあえて望美に悟られぬよう、男たちが去った後に車を元の状態に戻すよう命じていたのだ。紬が区役所まで安全に辿り着けるよう万全を期し、その場を離れたはずだった。それなのに、一瞬の隙を突かれてしまった。あと一歩、ほんのわずかな差で、紬との別れが永遠のものになるところだったのだ。紬は顔を上げ、彼の灰色の瞳に一瞬だけ宿った悲しみを見逃さなかった。理玖の吐露した言葉に、心臓が激しく波打つ。――彼は本当に、ずっとあの約束を覚えていてくれたのだ。「神谷さん……」紬は探るようにその名を呼んだ。「……ああ」理玖は短く応じ、彼女の額にかかる髪を愛おしげに撫でた。そして、言い聞かせるように穏やかな声を出した。「数日は病院で安静にして、怪我を治すことだけを考えなさい。例のことは心配いらない。俺がすべて片付けるから」彼の言う「例のこと」が、今回の事故を指していることは明白だった。もし実の両親までもが関わっているとなれば、事態は一筋縄ではいかないだろう。血の繋がった身内でもない限り、普通はこれほどの厄介事に深入りする者などいないはずだ。もし理玖と再会していなければ、あるいは二人を繋ぐ大義名分がなければ、彼はあの事故現場に現れ、自分を救ってくれただろうか。複雑な感情が渦巻き、胸のつかえを飲み込みながら、紬は問いかけた。「……りっくん。どうして、私にそこ
紬は一瞬、呆気に取られた。オークション会場で見かけたときの凛々しく高潔な姿とは対照的に、今日の理玖の瞳には深い陰が差し、灰色のそれは沈痛な色を帯びている。端正な顔立ちにも、これまでに見たことのないほどの疲労とやつれが滲んでいた。ここまで弱々しい彼の姿を目にしたのは、出会って以来、初めてのことだった。状況を理解する間もなく、紬は温かく厚い胸の中へと強く引き寄せられた。肩口に埋められた彼の頬から、かすかな震えが伝わってくる。紬は瞬きを繰り返しながら、小さく呼びかけた。「……神谷さん?」だが、その声は届くどころか、かえって抱きしめる力が強まる。まるで彼女を自分の内側へ溶け込ませてしまおうとするかのような、激しい抱擁だった。その気迫に、紬は一瞬、恐怖すら覚える。やがて息苦しさに耐えきれず、小さく咳き込んだ。理玖はようやく我に返ったように腕をほどき、紬の全身を確かめるように見つめた。「……痛ませたか?」紬は顔を真っ赤にしながら、乱れた呼吸を整える。――どうして、神谷さんはこんなにも動揺しているの……?返事をする間もなく、理玖の視線はギプスで固定された紬の左腕へと落ちた。「……痛むか?」彼は手を引き、壊れ物に触れるかのように、おそるおそる指先を近づける。「大丈夫です、神谷さん」紬は彼を見上げ、消え入りそうな声で答えた。「やれやれ、紬さん。無事で何よりだが、うちの理玖ときたら、肝を冷やしすぎて死にかけていたよ」茶化すような若い男の声が、唐突に響いた。紬は戸惑いのまま、声のした方へと視線を向ける。グレーのカジュアルな服を纏ったその男は、190センチを超える長身だった。整った顔立ちは爽やかで、物腰も柔らかい。灰褐色の瞳は、理玖のそれとよく似ていた。どこかで見覚えがある気がするが、すぐには思い出せない。「失礼ですが、どなたですか?」渉は軽く咳払いをし、理玖の反応を窺った。本人の口から紹介されるのを待っているらしい。理玖は先ほどまでの張り詰めた表情を消し、いつもの冷ややかな態度に戻る。「母の弟だ」「おいおい、そんな他人行儀な言い方があるか!」渉はすぐさま不満を露わにし、存在しないネクタイを直す仕草をしながら、紬の前へ歩み出た。「初めまして、紬さん。黒澤渉
「いいわよ」紬は、これ以上この連中と関わることに嫌気がさしていた。成哉が死んでいない以上、天野家が彼の意識を呼び戻すために手を尽くすのは明らかだ。どんな手段を使おうと、それはもはや自分の関知するところではない。だが、芽依が放った「紬さん」という一言は、その場にいた者たちに決して小さくない衝撃を与えた。「芽依ちゃん!ママに向かってなんてこと言うんだよ!ママが悲しむだろ!」悠真は絵美の腕を振りほどき、怒りに震えながら妹の前に立ちはだかった。征樹もまた、厳しい表情を浮かべる。「実になげかわしい!こんな幼い子がそのような言葉を口にするとは。天野家の先祖代々が草葉の陰で泣いているぞ!」その語気は鋭く、容赦がなかった。成哉と生き写しのような祖父の形相に、芽依はすくみ上がり、言葉を失う。絵美は見かねて、不満げに口を挟んだ。「芽依ちゃんはまだ子どもよ。言い方が悪かったとしても、これから教えれば済む話でしょう!」いつも自分を可愛がってくれる祖母までもが、自分の非を認めるような言い方をしたことに、芽依は深く傷ついた。――だって、おばあちゃんが先にママを人殺しだって言ったんじゃない!おばあちゃんの味方をしたのに、どうしてみんな私を叱るの!芽依は唇を噛み、悔しさで涙がこぼれないよう、必死に顔を上げた。――私は間違ってない。絶対に間違ってない!「子どもをいったいどう教育してきたんだ!今後は勝手に芽依と悠真を連れ出すことは許さん!」征樹は望美を叱責しながら、芽依の手を引いて引き離そうとした。ここ数日、望美が子どもたちの面倒を見てくれたおかげで手間が省けたのは事実だ。だが征樹にとって、それは当然の奉仕にすぎない。もし望美が子どもたちを自分の思い通りに操ろうとしているのなら、断固として阻止しなければならなかった。「嫌よ!望美さんと離れたくない!みんな嫌い!ママも、お兄ちゃんも、おばあちゃんも、みんな大嫌い!」芽依は必死に望美にしがみついた。望美は慌ててその小さな口を塞ぎ、懇願するように言う。「絵美さん、以前新浜にいた頃も、私はずっとこの子たちと一緒に暮らしていました。芽依は私に懐いているだけなんです。心配なさらないでください、私が責任を持って言い聞かせますから」――二人とも取り上げられたら、私の
芽依と悠真は、まっすぐ望美のもとへ駆け寄った。ここ数日、望美は「通学に便利だから」という名目で、二人を自分のマンションに住まわせ、甲斐甲斐しく世話を焼いていた。呼び名も「望美さん」から「お義母さん」へと変わっていた。芽依はその呼び方にどうしても馴染めず、いつしか直接「ママ」と呼ぶようになっていた。それに引きずられるように、悠真も無意識に同じ呼び方を口にするようになっていたのだ。征樹は、二人の孫が望美に飛びつく光景を目の当たりにした。聞き間違いか、あるいは見間違いかと疑う。「……芽依、悠真。今、その人を何と呼んだ?」征樹は長年海外にいたため、子どもたちにとって彼の印象は薄い。それでも、時折のビデオ通話のおかげで、悠真はようやく彼が祖父であると認識できていた。「おじいちゃん、望美さんは僕たちの『新しいママ』なんだ」芽依も慌てて言葉を重ねる。「ママは私たちにすごく優しいの!だから、ママは望美さんなの!」「馬鹿げたことを!」征樹は怒鳴り声を上げ、絵美を睨みつけた。「子どもたちが分別がないのは仕方ないが、お前まで、あんな素性の知れない女に付き従わせて、こんなデタラメを言わせているのか!?」絵美は面目を潰され、言い返した。「私にだって分からないわよ!あんたの自慢の嫁がちっとも家に寄りつかないから、あんな役者に隙を突かれたんでしょ!」二人の言い争いの中、再び矛先は紬へと向けられる。悠真はそこで初めて、入院着姿の紬の存在に気づいた。「ママ!目を覚ましたんだね!」喜びに顔を輝かせ、彼は紬のもとへ駆け寄った。先日、望美の電話を盗み聞きし、パパとママが事故に遭ったことを知って以来、ひどく心配していたのだ。数日前にも妹と病院を訪れたが、二人の容態は深刻で、紬の顔を見ることさえ叶わなかった。悠真も芽依も、不安でたまらなかった。そんなとき、望美がずっと寄り添い、「もしパパとママが目を覚まさなくても、私があなたたちを立派に育てるわ」と優しく言ってくれたのだ。芽依はその場で泣きながら、望美を「ママ」と呼んだ。悠真は最初、それは間違っていると感じて止めようとした。だが、悲しみにくれる芽依の姿を見て、結局は口を閉ざしてしまった。さらに芽依に甘えられ、言葉巧みに丸め込まれるうちに、自分も同じよ
「あの女、女優か何かじゃなかったか。やばいことにならねえか?」「平気だ。剛さんがケツを持つって言ってる。殺しさえしなけりゃ、好きにしていいってよ」「そりゃいい、そりゃいい。女優なんてまだやったことねえや。ハハッ。テレビじゃキラキラしてる女優が、裏じゃ俺様にもてあそばれる。考えただけで興奮するぜ」「もうすぐ303号室だ。ほら、行くぞ」二人の男の下品で破廉恥な話し声は、次第に遠ざかっていった。紬は階段の手すりに掴まり、驚愕に背筋を冷や汗が伝うのを感じた。芸能界は底知れぬほど闇が深いとは聞いていたが、まさかここまで卑劣だとは思ってもみなかった。しかし……今の自分もまた泥沼
「お兄ちゃん、あのことは本当にお兄ちゃんのせいじゃないから」紬は彼の言葉を遮り、静かに首を振った。「私はただ、これからは一人で静かに生きていきたいの。それ以外のことは、もう考えたくない」亮が数年前、予定を早めて出国してしまったことを、ずっと悔やんでいるのを紬は知っていた。両親の急逝はあまりにも突然で、伯父の家に引き取られてからの苦労も、亮のせいではない。それでも彼は、もしあの時そばにいてやれたなら、あんなにも虐げられることはなかったはずだと、思い詰めているのだ。亮は深く息をついた。「……わかった。君の望む通りにしよう」天野家の本宅。崇が上座にどっしりと腰を下ろし
紬の視線は、芽依の頭に乗っている白い紙屑に注がれていた。反射的に手を伸ばしたが、娘はまるでハリネズミのように身をすくめ、警戒して彼女を避けた。「私を殴ろうっての!」芽依は眉をひそめ、敵意をむき出しにして睨みつける。望美おばさんから聞いた話がある。夫から長年愛されなかった妻は、夫の目の届かないところで日常的に子どもを虐待し、病気や怪我をさせることで、間接的に夫の関心を引こうとするのだという。今のママのふらふらとした様子は、その物語に出てくる狂った女そのものに見えた――芽依はそう思った。紬は何か言おうとした。しかし言葉にする前に、子どもたちの警戒に満ちた視線に晒され、その表
成哉は細めていた目を、さらに細くした。先ほど絵美に平手を食らった時でさえ、紬はここまで激しい反応は見せなかった。成哉は顔をしかめ、紬の腕から弁当箱を力ずくで引き離そうとする。男の力は容赦がない。紬は必死に弁当箱を守り、先ほど叩かれて赤くなっていた頬は、いまや怒りと必死さでさらに赤みを帯びていた。このポタージュは、犬にやるほうがまだまし。この人たちには絶対に渡さない。押し合いへし合いの最中、ついに成哉が声を荒らげた。「いい加減にしろ!手を離せ!」紬は歯を食いしばって耐えるが、やはり男の力には抗えない。弁当箱が奪われる寸前、整った骨格の、涼やかな白さが際立つ手が







