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第13話:失われた大地と、二番目の恋

Penulis: fuu
last update Terakhir Diperbarui: 2025-07-12 12:00:23

「……この地図、変よ。」

ネフィラの一言に、会議室の空気がピリリと張り詰めた。

「どうした?見慣れた地図じゃ――。」

「そう、“見慣れてる”はずなのに……この区域、前は“湖”だったのよ。」

ネフィラの指先が指す先――そこには、現在“乾いた草原”と記されている。

「湖が……干上がったの?」

「違うわ。記録上は最初から“草原”になってる。でも、私の記憶では確かにここは“蒼の水鏡湖”だった。」

「記録と記憶が、またズレてる……?」

ユスティアが眉をひそめる。

「誰かが、“土地の記憶”を操作した可能性がある。」

「土地の記憶……それって、“存在そのもの”を塗り替えるってこと?」

「うん。そして、その中心部で“謎の揺れ”が観測されたの。」

「行くしかないわね!エリシア探検隊、出動よ!」

「そんなノリで国家の調査隊を出すなぁ!」

◆◆◆

数日後、調査隊一行は“元・湖”だったとされる草原地帯へ到着する。

「……ここが、あの蒼の水鏡湖……のはず、なんだけど。」

エリシアが歩を進めると、突然、空気がひんやりと冷たくなる。

「魔力濃度、異常に高い……。この空間、“魔力の傷跡”だわ。」

「何かが、ここで“封じられた”……あるいは“消された”。」

そのとき、風に乗って、誰かの歌声が聞こえた。

『……忘れられた風を追い、影は静かに舞い降りる……』

「歌……?」

声の方へ歩を進めると、ひとりの少女が現れた。

淡いピンクの髪、透き通るような水色の瞳。

そして儚げな歌声を口ずさみながら、湖跡に咲く一輪の花を見つめている。

「……あなた、誰?」

エリシアが声をかけると、少女は微笑んで振り向いた。

「わたしは――“セーネ”。この場所の、記憶の残り香よ。」

「記憶の……?」

「あなたたちが来るのを、ずっと待ってた。“二番目の恋”を綴る者が来る日を。」

「……っ!?」

エリシアの心が、なぜかざわめいた。

セーネの瞳は、まるで“全てを知っている”かのようだった。

「……あなたが“記憶の残り香”?どういうこと?」

エリシアが問いかけると、セーネは水面のない湖跡を見つめながら、静かに語り始めた。

「この地にあったのは、“記録されることを拒んだ湖”。誰かの願いが、世界の記憶そのものを歪めたの。」

「誰かの願い……?」

「“この場所の記憶を、誰の心にも残さないで”という願い。それは、愛する人を“忘れさせるため”だった。」

セーネの指先が、虚空をなぞると、そこに一瞬だけ水面が現れる。

そして、そこには若い男女が肩を寄せ合って微笑む幻影が映し出された。

「……これが、“かつての恋”。」

「じゃあ、“二番目の恋”って……。」

セーネはゆっくりエリシアの方を見つめる。

「わたしは、この湖に残された“想い”が形になった存在。そして……あなたの“次の恋”が、この記憶を動かす鍵になる。」

「え?わ、私が“次に恋をする”ってこと?」

「そう。“最初の恋”が失われた場所に、“次の恋”が芽吹けば――記憶は解放される。」

エリシアは混乱しながらも、胸の奥が不思議と高鳴っていることに気づいた。

(……まさか、私が誰かに“本気になる”ってこと?)

そのとき、風が吹いた。

幻影の水面に映ったふたりの影が、カイラムとエリシアの姿に重なる。

「っ……!」

セーネが囁く。

「その想いは、忘れられるためではなく、“残すため”のもの。」

「……私が、“誰かを本当に想う”ことで、この湖が蘇る……?」

「そう。だから、選んで。記憶に抗う恋か、記録に残す恋か――。」

グランフォード帰還後。

「ふーん。“恋することで湖が蘇る”って、随分詩的ねぇ。」

ネフィラが書類をぱらぱらとめくる。

「でもまあ、うちの国家、“恋の記録”で建国してるようなもんだし、あり得る話かも。」

「……そうかなぁ。恋ってそんなに、国とか記録とか左右するかな……。」

エリシアはベッドに寝転びながら、窓の外の星空を見上げる。

そのとき、ふと背後のドアがノックされた。

「……エリシア、起きてるか?」

「カイラム君?」

扉を開けると、彼は少しだけ頬を赤らめていた。

「……散歩しよう。話したいことがある。」

月明かりの下、ふたりの影が並んで歩き始める。

“記憶に抗う恋”か。“記録に残す恋”か。

その夜、エリシアの心に、“二番目の恋”の輪郭が、確かに芽吹きはじめていた。

——〈次話〉“記録の底と、遺された魔力”

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