Share

第14話:記録の底と、遺された魔力

Penulis: fuu
last update Terakhir Diperbarui: 2025-07-13 12:00:45

「……どうしてこの部分だけ、記録が“空白”なんだろう。」

ネフィラは記録管理室の古文書を前に、眉をひそめていた。

「魔王領にまつわる記録の中でも、特に“魔力の起源”に近い文献がごっそり抜け落ちてるのよ。」

「また記憶操作……?それとも、意図的な封印?」

ユスティアが地図と照合しながら唸る。

「でも、興味あるわ。“記録から消えた魔力”……って、なんだかロマンあるじゃない?」

エリシアは軽い口調で言いながらも、心の奥に小さなざわめきを覚えていた。

(このところの記憶や恋に関わる現象、すべてが“何か”に繋がってる気がする……。)

「場所の特定はできるの?」

「はい。ここです。“グランフォード地下第三層、未調査領域”。」

「未調査?でもそこ、建国初期に調べたはずじゃ――。」

「“記録上は”ね。でも、実際には“立入禁止”の印だけが残されてて、中の調査記録は一切残ってないの。」

「うちの国家、ほんと記録に穴ありすぎじゃない!?」

◆◆◆

グランフォード地下第三層。

岩肌がむき出しの空間を進むと、古びた扉が現れた。

そこには、今では使われていない古代文字が刻まれていた。

「“ここに遺せしは、過去にして未来。記されずとも、力は残る”……?」

「……記されずとも……。」

セーネの言葉が蘇る。“記録に残さなくても、想いと魔力は宿る”――

「行こう。この扉の向こうに、“遺された魔力”があるなら、今こそ向き合う時だわ。」

◆◆◆

扉の向こうに広がっていたのは、かつての“魔王の居館”だった。

しかし、そこにあったのは玉座でも財宝でもない。

「……花?」

無数の、魔力を帯びた“光の花”が、地下に咲き乱れていた。

「これが……“魔力の記憶”?」

その中心に、ひとりの影が立っていた。

白髪、琥珀の瞳――だが、確かに“カイラム”とは違う。

「お前は……?」

影はゆっくりと口を開いた。

「我が名はカイル=ゼファル。前代魔王の、双子の兄にして、影に遺された存在。」

「カイラム君に兄がいたってこと!?」

「そして、君たちの国が動き出したことで、我は“記録の底”から目覚めた。」

彼の瞳に宿るのは、深い哀しみと――何かを託す意志だった。

「今こそ、“記録されなかった魔力”の継承者を、選ばねばならない。」

「……前代魔王の、双子の兄……?」

エリシアの声は震えていた。目の前に立つカイル=ゼファルの気配は、確かに“王のそれ”だった。

「私たちは、生まれた時から“片方は記録され、もう片方は記録されない”定めだった。」

カイルの声は低く静かで、どこか諦めを含んでいた。

「ゼファル家の魔力は強大で、双子の存在は“均衡を乱す”と恐れられていた。だから、私は記録から消された。」

「そんな……!」

「だが、消された存在にも“役割”は残る。私はここに、“記録されなかった魔力”を封じるため残された。」

「魔力を、封じるために……?」

「そう。“記録に残すべきでない魔力”が存在する。この花々のように、美しくも危険な力が。」

彼が示す光の花たちは、まるで心の感情に反応するように、揺れて光る。

「でも、私たちは、“記録されなかった者たち”で国を作ったの。なら、あなたの魔力だって……!」

「……それを決めるのは、我ではない。」

カイルは後方に目をやる。

そこに、静かに立つカイラムの姿があった。

「……俺は、双子の弟。記録に残された側……だが、何も知らなかった。」

カイラムは前へ進み出る。

「兄貴……お前が、俺の代わりにすべてを背負ってたなんて……。」

「記録されなかった者の痛みを、君たちはもう知っている。その上で、問おう。」

「この魔力を――“未来に遺す価値がある”と思うか?」

◆◆◆

答えは、エリシアの声だった。

「あるわよ!」

全員がエリシアに注目する。

「だって、その力には“想い”がある。“記録から消されても、誰かを守ろうとした”想いが!」

「私たちの国は、“恋と記憶”でできてるのよ!過去の痛みも、消えた記録も、全部まとめて受け止める国家なんだから!」

しばしの沈黙の後、カイルの顔に静かな笑みが浮かんだ。

「……ならば、託そう。記録されなかった魔力の継承権を、君たちの国に。」

彼が手を掲げると、花々がひとつに収束し、青白い魔力の核が現れる。

「そして、我が魔力は“記録される”ことで、ようやく終わりを迎える。」

「兄貴……。」

カイラムが駆け寄り、カイルの手を握った。

「記録に、残すよ。お前がいたこと、何をしたか、誰を守ろうとしたか。全部、俺の言葉で記すから。」

「……ああ。それが一番の贈り物だ。」

光がカイルを包み、彼の姿は静かに霧の中へと消えていった。

◆◆◆

その夜、グランフォードの記録庫に、ひとつの新しい頁が加えられた。

“魔力の継承、ゼファルの双子の記憶、そして――影に咲いた光の花”。

カイラムはそれを見届けながら、そっと呟いた。

「……次は、俺が“本気”になる番かもな。」

その言葉に、エリシアは気づかぬふりをしながら、窓の外の夜空を見上げていた。

——〈次話〉“国家間交流と、恋する政略”

Lanjutkan membaca buku ini secara gratis
Pindai kode untuk mengunduh Aplikasi

Bab terbaru

  • 逆ハーレム建国宣言! ~恋したいから国を作りました~   第94話:王宮の地下と、封じられた旋律

    どうも、エリシアです。王都広場で「黒い王の影法師」を倒してから数日。でも私たちは全然安心できなかった。むしろ逆。「黒い囁きの本体は、まだ眠っている」リビアの言葉が、胸にずっと引っかかってる。——その夜。「王宮の地下に、封じられた“旋律の間”がある」そう言ったのはレオニスだった。「古くからの伝承で……王族さえ詳しくは知らない。ただ“音を封じた石室”と呼ばれている」「怪しいに決まってるじゃん!」私は即答。「そうだな」カイラムが渋い顔で腕を組む。「囁きの源泉があるならそこだ」ユスティアは地図を開きながら首をかしげる。「しかし記録には“旋律の間”の位置が抜け落ちている……意図的に消されたのかもしれません」「消された記録と囁きの契約……どっちも怪しさ満点」私はパンをかじりながら言った。——翌朝。私たちは王宮の一角、古い礼拝堂に足を踏み入れた。壁はひび割れ、長年使われていないせいで埃まみれ。「ここに地下への入口が……」セリオが壁を押すと、石板がずれて階段が現れた。「やっぱり隠してたんじゃん!」「うむ、腰に悪い階段だ」父が腰をさすりながらぼやく。地下に降りると、空気がひんやりしていて、かすかに音が響いていた。——いや、音じゃない。“耳の奥に届く気配”。「従え……差し出せ……」また来た!囁き!私は思わず叫ぶ。「パン食べろーっ!!」全員が慣れた様子でパンをかじる。……もうこれ儀式みたいになってきたな。奥へ進むと、大きな石の扉が立ちはだかった

  • 逆ハーレム建国宣言! ~恋したいから国を作りました~   第93話:囁きの道化と、王の影法師

    どうも、エリシアです。王都の「仮面会議」で裏切り者を暴いたのはいいけど……全然終わってなかった。「黒い契約の“本体”が潜んでいる限り、囁きは広がり続ける」ユスティアの言葉に、みんな黙り込む。「……本体って、どこにいるの?」私の問いに、リビアが羽をばさり。「記録を追えば、囁きは王の近衛に紛れ込んでいると見て間違いない」「つまり……王のすぐそば?」「そうだ」カイラムが頷いた。 「だからこそ危険だ。王都中枢そのものが乗っ取られかねん」——その夜。城下の広場に妙な人だかりができていた。見れば、派手な衣装の道化師が舞台の上で踊っている。ピエロみたいな格好で、笛と鈴を鳴らしながら。「さあ、皆の者!耳を澄ませ!王の声を聞け! “従え……差し出せ……”」うわ、出た。道化師の演舞に混じって、囁きが観客に染み込んでいく。人々がふらふらと舞台に近寄り、懐から金や装飾品を差し出し始めた。「待って!それは囁きよ!」私の声はかき消される。「暴君、どうする!」カイラムが構える。「とりあえずパン投げる!」「またか」道化師は不気味に笑った。「ははは!パンで影を止めるか!だが私を止められるものか!」そう言うと、舞台の背後に黒い幕が開き、巨大な影の人形が現れた。王の冠を模した仮面をかぶった、影法師——。リビアが顔をしかめた。「……まさか。王を模した影を操り、囁きの王を作るつもりか!」ユスティアは記録帳を震える手で開く。「これが“王都の心臓”を乗っ取るための仕組み……!」

  • 逆ハーレム建国宣言! ~恋したいから国を作りました~   第92話:仮面の会議と、王都の裏切り者

    どうも、エリシアです。王都の玉座で黒い影を撃退してから数日。表向きは落ち着いたように見えるけど、裏ではかなりピリピリしてる。「仮面会議を開く」そう告げたのはレオニスだった。「仮面……?」と首をかしげたら、ユスティアが補足してくれた。「王都では、身分や立場に囚われず意見を出す“秘密会議”があるんです。仮面を被って互いの素性を隠すので、公平に話せると」「へぇ~面白そう! でも顔隠したらパン食べにくいじゃん!」「そこか」カイラムが呆れ声。——夜。仮面会議の会場に案内される。高い天井にランプが吊るされ、円卓の椅子には仮面の男や女がずらり。王都の有力者、貴族、騎士、学者……でも誰が誰なのかはわからない。「議題は黒い契約と王都の安全保障」進行役の仮面が告げると、ざわざわと声があがった。「囁きは恐ろしい。グランフォードのやり方に頼るのは危険だ」「しかし、あの国のパンには確かに効果があった」「いや、あれは一時的なものに過ぎない。本体を見つけなければ!」私は立ち上がって声を張った。「だからこそ一緒に探そうって言ってるの! 王都もグランフォードも、パンは分け合えば美味しいでしょ?」場が一瞬静まり……次の瞬間、どっと笑いが広がる。「妙な理屈だが、悪くない」「パンを分け合う……確かに心は和む」——しかし。会議の隅で、ひとりだけ動かない影がいた。仮面の奥から冷たい視線が突き刺さる。「……王都を導くのは血筋のみ。外の者が口を出すな」場が凍りついた。リビアが羽を広げる。「こやつ、囁きに染まっているぞ」仮面の下から、黒い煙が漏れ出した。「しまった…&hell

  • 逆ハーレム建国宣言! ~恋したいから国を作りました~   第91話:王都潜入と、囁きの宮廷

    どうも、エリシアです。いよいよ——王都に向かうことになりました!「暴君、ついに王都潜入か」カイラムが腕を組んで険しい顔。「潜入って……観光みたいに言わないでよ」私は苦笑い。馬車に揺られ、王都の城壁が見えてきた時、胸が少しざわざわした。幼い頃に婚約を結ばされ、そして破棄された街。記憶は苦いけど、それでもどこか懐かしい。「王都の空気は重いな……」リビアが羽をすぼめる。「囁きが満ちてるんだ。民衆の不安がそのまま響いてる」ヴァルターが低く言った。——城門前。セリオが兵士に証文を見せると、すんなり通された。「王都は表向き平穏を装っています。しかし中では……」案内されたのは宮廷の一角。かつて私が一度だけ足を踏み入れた、豪奢な回廊だった。煌びやかなシャンデリア、広い赤絨毯。けれど空気はどこかひんやりしていて、壁に映る影が妙に長い。「……やだなぁ」私は小声でつぶやいた。「気を抜くな」カイラムが隣で囁く。そこへ、見慣れた姿が現れた。金髪碧眼、堂々とした微笑み——レオニス。「エリシア……よく来てくれた」一瞬だけ、胸がきゅっとなった。でもすぐに思い出す。私はもう、前に進んでる。「王都の現状、説明するわ」レオニスは真剣な顔に変わった。——玉座の間。王と貴族たちの前で、囁きが議論を乱していた。「誰かが裏切っている!」「いや、契約に従えば救われるのだ!」重厚な空間に、不安と恐怖の声が渦を巻く。私は深呼吸して叫んだ。「パンを食べろーっ!」貴族たちが一斉に振り返る。……シーン。「…&

  • 逆ハーレム建国宣言! ~恋したいから国を作りました~   第90話:王都からの報せと、動き出す影

    どうも、エリシアです。黒い契約の笛吹きを倒した数日後。町はすっかり落ち着いて、帰還祭の余韻でまだ浮かれてる……はずだったんだけど。「エリシア様、急報です!」ユスティアが走ってきた。息を切らして手にしていたのは王都の封蝋で閉じられた書簡。「王都……?」「はい。今朝、王都で“黒い囁き”による混乱が発生しました」私は思わずパンを落としそうになった。「ちょっと!王都でも聞こえるの!?」「ええ。被害は小規模ですが、民衆が一時的に我を失い、広場で暴動寸前に……」カイラムが険しい表情で腕を組む。「やはり……あれは囁きの“試し撃ち”に過ぎなかったか」「本体が動き始めたということだな」リビアが羽を広げる。父は腰台に腰を下ろしながら、「腰は船底。沈む前に補強せねばならん」と真顔。母は「はいはい、まずは食べてから」とパンを配り始めた。……うちの家族は変わらない。——午後。王都から来た使者の話を聞くことになった。馬車から降り立ったのは、淡い紫の外套を纏った騎士だった。「お初にお目にかかります。私は王都直属の調査隊、セリオと申します」彼は礼儀正しく頭を下げ、真剣な眼差しで告げた。「王都は“影の契約者”に狙われています。あの笛吹きは前哨にすぎません。本体は……王都の中枢に潜んでいる可能性が高いのです」ざわつく一同。「つまり、内部に裏切り者が?」「はい。王族、あるいは高位貴族の中に……」エリシア=私の心臓がどきりと跳ねた。「……レオニスは大丈夫なの?」「第一王子殿下は健在です。むしろ“囁き”の被害を防ぐため、民の前に立たれました」

  • 逆ハーレム建国宣言! ~恋したいから国を作りました~   第89話:黒い契約の影と、囁きの正体

    どうも、エリシアです。帰還祭はなんとか最後まで無事に終わったけど……胸の奥にずっと残ってるのよね、あの「囁き」の気配。パン食べても完全には消えない“ざわっ”とする感じ。嫌な予感は大体当たるんだよなぁ……。——翌朝。広場の隅にいた少年は、すっかり元気を取り戻していた。「ありがとう、エリシア様!本当に助けられました!」両手にパンを抱えてぺこぺこ。……元気すぎる。ユスティアはその少年から詳しい話を聞き取り中。「囁きが最初に聞こえたのは、王都から来た旅芸人を見た時……?」「はい。黒い外套をまとった笛吹きでした。曲に合わせて“従え”って声が頭に……」「音楽媒介型の契約か……」リビアが羽をばさり。「普通なら強い魔力が必要だが、笛の旋律で弱い心を捕まえる……厄介な手だ」カイラムは腕を組み、「ならば囁きは、すでに各地で広がっているかもしれない」と唸る。「……もしかして王都も?」と私。「その可能性が高い」ヴァルターが即答する。「だからこそ俺はここに来た。王都の中枢に巣食っている影を直接暴くことはできない。だが、君たちなら……」「またうちに丸投げ?」私は眉をひそめる。「いや……力を借りたいんだ」ヴァルターの声は真剣だった。父が横から登場。「腰は船底。抜いたら沈む。つまり、祭りの腰を守るのは家の役目だ」……要するに協力するってことね。分かりにくいなぁ。母はパン籠を差し出して、「まずは朝ご飯食べてから話しましょう」と笑顔。あいかわらず、この国の合言葉は“パンから”だ。

Bab Lainnya
Jelajahi dan baca novel bagus secara gratis
Akses gratis ke berbagai novel bagus di aplikasi GoodNovel. Unduh buku yang kamu suka dan baca di mana saja & kapan saja.
Baca buku gratis di Aplikasi
Pindai kode untuk membaca di Aplikasi
DMCA.com Protection Status