私が転生したのは中世ヨーロッパ調のお屋敷の中。
大きなベビーベッドで目が覚めたことは覚えている。
何をしゃべろうとも、
「おぎゃー!」
としか言えないと理解したところで異世界転生した事実に気が付いた。
私はごく一般的なOLだった。
そう、特別なことは何もない。
しいて言うならちょっと死因が可哀そうかも?
実は失恋をきっかけにやけ酒をしてしまってそのまま脱水症状で死亡……かわいそうというより情けないな?
まぁそんなわけで、情けなくも失恋で死んだわけだ。
今世ではいい恋愛するぞ~!
……そう思っていた。
5歳の誕生日の日のこと。
「え?」
「だから、君との婚約は破棄する。」
「な、なんで?」
「好きな子ができたんだ!君とは違って無邪気で可愛らしい子だよ?」
「はぁ。」
「君は美人系だからね。僕の好みではないんだ。」
「……。」
「あ、これプレゼント。じゃあね!」
正直に言おう。良かったと思った。
恋愛結婚ではなかった。
まだ幼いうちに振ってくれたことで今後を考えることもできる。
白い婚約を証明する必要もない。
……ただ……ただ、むかついたのだ。
何で好きでもない奴に振られなきゃならないの!?
何で今世でも失恋しなきゃならないわけ!?
「お嬢様、お可哀そうに……。」そう言って泣くメイドや執事達に申し訳なくなる。
何で私が申し訳なくならなきゃならないのよ!?
悪いのはあの王子!
第一王子のレオニス・アルバレスト!
金髪碧眼のテンプレ顔王子!
何が可愛い子を見つけたからよ!
こちとら好きでもない相手に政治的理由で結婚させられそうになってたのよ!?
あ、ご紹介が遅れました。
私、エリシア・グランフォード、勇者の末裔だそうです。
勇者とはこの世界における王家の血筋の中で、はるか昔に魔王を倒した勇気ある者の称号です。
つまりはかなり高貴な血という話。
王家はその血を取り込むために、何代かに一度勇者の末裔の家系から婚約者を選ぶのだとか。
前時代的ね~。あ、前時代か。
まぁそんなわけで、私との婚約破棄は勝手に決めたのでしょうね。
この後は適当に王家筋の中から有望そうなのに嫁がせようって話になるのでしょうね。
そんなの受け入れるわけがないわ!!
ということでエリシア・グランフォード、家出をすることにしました。
目標は国家の設立!
やること?まぁハーレムの構築とか?
奴らを見返せればなんでもいいわ!
とにかく美男美女に囲まれて悠々自適な生活を送ってやるわ!
「……と、思っていたのだけれど。」
「あのねぇ、エリシア。そんなことダメに決まってるでしょ?」
「はい、お母様……。」
「そうだぞ?そんなに面白そうなこと、一人ではじめるなんてずるいじゃないか!」
「お父様?」
「そうよ!やる時は家族一緒によ!」
「お母様!」
思いの外怒ってるらしかった父と母。
国王様、ご愁傷様。
こうして私達グランフォード家は独立することにした。
目指せ!国家建国!ハーレム構築!
あ、女の人が男の人に囲まれているのは逆ハーレムっていうんだっけ?
じゃあ逆ハーレムね!
作戦は簡単!
今も忌み地とされている魔王領を改造して新しい国家として独立!建国!
簡単ね!
魔物?家は勇者の家系よ?
ぶっ倒せばいいし、魔物除けのすべは全部知ってる。
そんなわけで魔王領に到着!
そこには数人の魔人といわれる種族の人々が住んでいた。
廃墟といっても差し支えの無いボロボロ小屋や崩れかけた石の家らしきもの。
ぱっと見まともな暮らしは出来ていそうにない人々だが、かなり血気盛んだった。
実力を示せば土地を譲ってくれるというので父と母が対戦中。
私も適当に持ってきた木刀で銀の髪が陽光で鈍く輝く少年と対戦中。
「そっちからどうぞ!」
「……なめるな!」
琥珀の瞳が爛々と光る
瞬間、一瞬で背後に回り込まれる。
速い!
でも残念。
私これでも転生者なのよね。
ということで逆手で持った木刀で思いっ切り突きを食らわせる。
吹っ飛んでいく少年!
「あ、ごめん、やりすぎた!」
「……。」
「まぁ、怪我はなさそうだし大丈夫でしょ!あんたは今日から私のものよ!」
「……は?」
「さて、負けた君達には最初の住人になってもらおうかな~。」
「いいわね!魔人さんは力が強いからいい大工さんになってくれるわ!」
「「「は!?」」」
こうして、魔王領改めグランフォード領が発生した。
――しかし王都では、ある命令が静かに下っていた。
「“あの家”を消せ。勇者の血もろともな――」世界はこの誕生に震え上がるのであった——〈次話〉“魔人の銀髪少年の謎に迫る!”
どうも、エリシアです。王都広場で「黒い王の影法師」を倒してから数日。でも私たちは全然安心できなかった。むしろ逆。「黒い囁きの本体は、まだ眠っている」リビアの言葉が、胸にずっと引っかかってる。——その夜。「王宮の地下に、封じられた“旋律の間”がある」そう言ったのはレオニスだった。「古くからの伝承で……王族さえ詳しくは知らない。ただ“音を封じた石室”と呼ばれている」「怪しいに決まってるじゃん!」私は即答。「そうだな」カイラムが渋い顔で腕を組む。「囁きの源泉があるならそこだ」ユスティアは地図を開きながら首をかしげる。「しかし記録には“旋律の間”の位置が抜け落ちている……意図的に消されたのかもしれません」「消された記録と囁きの契約……どっちも怪しさ満点」私はパンをかじりながら言った。——翌朝。私たちは王宮の一角、古い礼拝堂に足を踏み入れた。壁はひび割れ、長年使われていないせいで埃まみれ。「ここに地下への入口が……」セリオが壁を押すと、石板がずれて階段が現れた。「やっぱり隠してたんじゃん!」「うむ、腰に悪い階段だ」父が腰をさすりながらぼやく。地下に降りると、空気がひんやりしていて、かすかに音が響いていた。——いや、音じゃない。“耳の奥に届く気配”。「従え……差し出せ……」また来た!囁き!私は思わず叫ぶ。「パン食べろーっ!!」全員が慣れた様子でパンをかじる。……もうこれ儀式みたいになってきたな。奥へ進むと、大きな石の扉が立ちはだかった
どうも、エリシアです。王都の「仮面会議」で裏切り者を暴いたのはいいけど……全然終わってなかった。「黒い契約の“本体”が潜んでいる限り、囁きは広がり続ける」ユスティアの言葉に、みんな黙り込む。「……本体って、どこにいるの?」私の問いに、リビアが羽をばさり。「記録を追えば、囁きは王の近衛に紛れ込んでいると見て間違いない」「つまり……王のすぐそば?」「そうだ」カイラムが頷いた。 「だからこそ危険だ。王都中枢そのものが乗っ取られかねん」——その夜。城下の広場に妙な人だかりができていた。見れば、派手な衣装の道化師が舞台の上で踊っている。ピエロみたいな格好で、笛と鈴を鳴らしながら。「さあ、皆の者!耳を澄ませ!王の声を聞け! “従え……差し出せ……”」うわ、出た。道化師の演舞に混じって、囁きが観客に染み込んでいく。人々がふらふらと舞台に近寄り、懐から金や装飾品を差し出し始めた。「待って!それは囁きよ!」私の声はかき消される。「暴君、どうする!」カイラムが構える。「とりあえずパン投げる!」「またか」道化師は不気味に笑った。「ははは!パンで影を止めるか!だが私を止められるものか!」そう言うと、舞台の背後に黒い幕が開き、巨大な影の人形が現れた。王の冠を模した仮面をかぶった、影法師——。リビアが顔をしかめた。「……まさか。王を模した影を操り、囁きの王を作るつもりか!」ユスティアは記録帳を震える手で開く。「これが“王都の心臓”を乗っ取るための仕組み……!」
どうも、エリシアです。王都の玉座で黒い影を撃退してから数日。表向きは落ち着いたように見えるけど、裏ではかなりピリピリしてる。「仮面会議を開く」そう告げたのはレオニスだった。「仮面……?」と首をかしげたら、ユスティアが補足してくれた。「王都では、身分や立場に囚われず意見を出す“秘密会議”があるんです。仮面を被って互いの素性を隠すので、公平に話せると」「へぇ~面白そう! でも顔隠したらパン食べにくいじゃん!」「そこか」カイラムが呆れ声。——夜。仮面会議の会場に案内される。高い天井にランプが吊るされ、円卓の椅子には仮面の男や女がずらり。王都の有力者、貴族、騎士、学者……でも誰が誰なのかはわからない。「議題は黒い契約と王都の安全保障」進行役の仮面が告げると、ざわざわと声があがった。「囁きは恐ろしい。グランフォードのやり方に頼るのは危険だ」「しかし、あの国のパンには確かに効果があった」「いや、あれは一時的なものに過ぎない。本体を見つけなければ!」私は立ち上がって声を張った。「だからこそ一緒に探そうって言ってるの! 王都もグランフォードも、パンは分け合えば美味しいでしょ?」場が一瞬静まり……次の瞬間、どっと笑いが広がる。「妙な理屈だが、悪くない」「パンを分け合う……確かに心は和む」——しかし。会議の隅で、ひとりだけ動かない影がいた。仮面の奥から冷たい視線が突き刺さる。「……王都を導くのは血筋のみ。外の者が口を出すな」場が凍りついた。リビアが羽を広げる。「こやつ、囁きに染まっているぞ」仮面の下から、黒い煙が漏れ出した。「しまった…&hell
どうも、エリシアです。いよいよ——王都に向かうことになりました!「暴君、ついに王都潜入か」カイラムが腕を組んで険しい顔。「潜入って……観光みたいに言わないでよ」私は苦笑い。馬車に揺られ、王都の城壁が見えてきた時、胸が少しざわざわした。幼い頃に婚約を結ばされ、そして破棄された街。記憶は苦いけど、それでもどこか懐かしい。「王都の空気は重いな……」リビアが羽をすぼめる。「囁きが満ちてるんだ。民衆の不安がそのまま響いてる」ヴァルターが低く言った。——城門前。セリオが兵士に証文を見せると、すんなり通された。「王都は表向き平穏を装っています。しかし中では……」案内されたのは宮廷の一角。かつて私が一度だけ足を踏み入れた、豪奢な回廊だった。煌びやかなシャンデリア、広い赤絨毯。けれど空気はどこかひんやりしていて、壁に映る影が妙に長い。「……やだなぁ」私は小声でつぶやいた。「気を抜くな」カイラムが隣で囁く。そこへ、見慣れた姿が現れた。金髪碧眼、堂々とした微笑み——レオニス。「エリシア……よく来てくれた」一瞬だけ、胸がきゅっとなった。でもすぐに思い出す。私はもう、前に進んでる。「王都の現状、説明するわ」レオニスは真剣な顔に変わった。——玉座の間。王と貴族たちの前で、囁きが議論を乱していた。「誰かが裏切っている!」「いや、契約に従えば救われるのだ!」重厚な空間に、不安と恐怖の声が渦を巻く。私は深呼吸して叫んだ。「パンを食べろーっ!」貴族たちが一斉に振り返る。……シーン。「…&
どうも、エリシアです。黒い契約の笛吹きを倒した数日後。町はすっかり落ち着いて、帰還祭の余韻でまだ浮かれてる……はずだったんだけど。「エリシア様、急報です!」ユスティアが走ってきた。息を切らして手にしていたのは王都の封蝋で閉じられた書簡。「王都……?」「はい。今朝、王都で“黒い囁き”による混乱が発生しました」私は思わずパンを落としそうになった。「ちょっと!王都でも聞こえるの!?」「ええ。被害は小規模ですが、民衆が一時的に我を失い、広場で暴動寸前に……」カイラムが険しい表情で腕を組む。「やはり……あれは囁きの“試し撃ち”に過ぎなかったか」「本体が動き始めたということだな」リビアが羽を広げる。父は腰台に腰を下ろしながら、「腰は船底。沈む前に補強せねばならん」と真顔。母は「はいはい、まずは食べてから」とパンを配り始めた。……うちの家族は変わらない。——午後。王都から来た使者の話を聞くことになった。馬車から降り立ったのは、淡い紫の外套を纏った騎士だった。「お初にお目にかかります。私は王都直属の調査隊、セリオと申します」彼は礼儀正しく頭を下げ、真剣な眼差しで告げた。「王都は“影の契約者”に狙われています。あの笛吹きは前哨にすぎません。本体は……王都の中枢に潜んでいる可能性が高いのです」ざわつく一同。「つまり、内部に裏切り者が?」「はい。王族、あるいは高位貴族の中に……」エリシア=私の心臓がどきりと跳ねた。「……レオニスは大丈夫なの?」「第一王子殿下は健在です。むしろ“囁き”の被害を防ぐため、民の前に立たれました」
どうも、エリシアです。帰還祭はなんとか最後まで無事に終わったけど……胸の奥にずっと残ってるのよね、あの「囁き」の気配。パン食べても完全には消えない“ざわっ”とする感じ。嫌な予感は大体当たるんだよなぁ……。——翌朝。広場の隅にいた少年は、すっかり元気を取り戻していた。「ありがとう、エリシア様!本当に助けられました!」両手にパンを抱えてぺこぺこ。……元気すぎる。ユスティアはその少年から詳しい話を聞き取り中。「囁きが最初に聞こえたのは、王都から来た旅芸人を見た時……?」「はい。黒い外套をまとった笛吹きでした。曲に合わせて“従え”って声が頭に……」「音楽媒介型の契約か……」リビアが羽をばさり。「普通なら強い魔力が必要だが、笛の旋律で弱い心を捕まえる……厄介な手だ」カイラムは腕を組み、「ならば囁きは、すでに各地で広がっているかもしれない」と唸る。「……もしかして王都も?」と私。「その可能性が高い」ヴァルターが即答する。「だからこそ俺はここに来た。王都の中枢に巣食っている影を直接暴くことはできない。だが、君たちなら……」「またうちに丸投げ?」私は眉をひそめる。「いや……力を借りたいんだ」ヴァルターの声は真剣だった。父が横から登場。「腰は船底。抜いたら沈む。つまり、祭りの腰を守るのは家の役目だ」……要するに協力するってことね。分かりにくいなぁ。母はパン籠を差し出して、「まずは朝ご飯食べてから話しましょう」と笑顔。あいかわらず、この国の合言葉は“パンから”だ。