เข้าสู่ระบบ王都、真夜中。
石造りの玉座の間には王と側近、数名の王族たちが沈黙の中に立ち並んでいた。
その中心で、一人の少年が膝をついている。
第一王子、レオニス・アルバレスト。
「……報告いたします。グランフォード家との交戦、未完了に終わりました。現地撤退を選択しました。」
声には濁りなく、しかし意志を通す気配があった。
その報告に、重臣たちの間からざわめきが起きる。
「何を言う!反逆者を取り逃がしてきたとでも!?」
「王命に背いたということか、レオニス殿下!」
「そもそも、殿下ご自身があの娘と個人的な関係を持っていたのではありませんか?」
怒声と罵声が飛び交う中、老王がゆっくりと手を上げると、室内は静まり返る。
「……レオニス。何故命を完遂しなかった?」
「――グランフォードは、王家を敵に回すにはあまりに惜しい勢力です。魔王領の地を既に掌握し、魔族との交渉も可能にしている。それが事実です。」
「では、反逆を見逃せと?」
「いえ。“利用すべき”です。」
一瞬、重臣たちの間に困惑が走る。その隙を突くように、王弟にあたる貴族の一人が声を上げた。
「戯言だ。貴様があの女に未練があるだけだろうが!」
「……ああ、そうかもしれない。」
レオニスはあっさりと認めた。そして立ち上がり、王に向かって言う。
「その上で言います。私は“敵”を演じます。王家のため、王命に従うふりをして、グランフォードを監視する役に回ることを望みます。」
「ほう……。」
王の目が細められた。
「その代わり、調査権を。魔王領で起きている“魔物の異常発生”について、王都の誰も正しく報告できていません。」
「ほう……では、お前の言う“異常”とは何だ?」
レオニスは懐から、黒く焼け焦げた魔石を取り出す。
それは先日の戦場にいた魔物が残した、強大な魔力の残滓だった。
「この石は“人工的”に魔物を発生させる触媒。つまり誰かが、魔物を意図的に送り込んでいます。」
ざわめく一同。中でも、重臣の一人が呟く。
「魔王の……遺産……」
「ええ、“魔王の遺産”が動いている。もしその力を操る者がいるなら、王都はもちろん、この大陸すら危うくなります。」
その言葉に、老王が唸る。
「……よかろう、レオニス。お前にその役目を与えよう。ただし――」
「“失敗すれば、処刑”……承知の上です、父上。」
レオニスは深く頭を垂れた。そう、それが彼に与えられた“敵”という役目。演じきらねば、すべてが終わる。
◆◆◆
一方、グランフォード領。
「ほぅ……“魔王の遺産”が狙われてる……ね。」
エリシアはカイラムとリビア、父母とともに情報を整理していた。
戦後、王家の動向に不審な点が多いこと、そして魔物の数の増加……そこに規則性があることが判明した。
「……君、魔王の孫なんだよね?」
「……ああ、そうだ。」
カイラムは静かに語り始めた。魔王は死んだ。
そしてその“力”の一部は、彼の中に封じられているのだと。
「俺は、“遺産”の鍵でもあるらしい。……そして、それを狙って動いている何者かがいる。」
「それって……。」
「王都の、誰かだ。」
重い空気が、再び漂った。
「だったら――やることは一つだね!」
立ち上がったエリシアが言い放つ。
「国家建設を本格化する!誰が敵かなんて探ってる暇はない!まずはこっちが“生き残る国”を作らないと!」
「「「おおーっ!」」」
かくして、“国づくり編”が再び始まる。
「よし、じゃあまずは、美味しい国から始めましょうか!」
エリシアの号令のもと、グランフォード領では「衣・食・住」の整備に本格的に乗り出すこととなった。
◆◆◆
「……それにしても、君は相変わらず突飛だな……。」
カイラムが呆れたように言いながらも、手にした鍋を器用に揺らしている。中身は香ばしい香りの立ち上るキノコのポタージュだ。
「美味しいごはんは戦う力にもなるし、外交にも使えるのよ!」
「……あ、塩入れすぎた。」
「ちょっとぉ!君センスないわね!」
「なら君がやれよ!」
そんな小競り合いをしながらも、魔人たちによる農地の整備は順調だった。
かつて荒れ果てた魔王領は、いまや農作物の芽吹く大地へと変貌し始めている。
「これが“耕す”という作業か。無駄がない。いい知識だ。」
「……魔人って戦うだけじゃなかったのね。」
「おい、聞こえてるぞ。」
エリシアの指導の下、魔族たちはそれぞれの得意分野を活かし、食料確保のために協力していく。
◆◆◆
続いて手を付けたのは「衣」。
「この布……すごいわね。なんの繊維?」
「スピナ草っていうんだ。魔王領特有の植物だ。」
「ほぉ~。じゃあこれを紡いで、染めて……おしゃれ服にするわ!」
エリシアのデザインをもとに、裁縫を得意とするメイドたちと魔族の一部が協力。
派手すぎず、動きやすく、しかも美しい。そんな“新国家スタイル”の服が誕生した。
「これを制服にして、国の民としての一体感を持たせるのよ!」
「見た目で管理か。なかなかに合理的だな。」
「……でも王子様、腰のリボンが解けてますよ?」
「くっ……!」
こうして“衣”も整い始めた。
◆◆◆
そして「教育」。
「よし!教育は実地で学ぶのが一番!」
近隣の孤児や逃れてきた庶民の子どもたちを集め、簡単な読み書きと数字、礼儀作法、そして自衛のための基本的な体術を教える「寺子屋」が開設された。
「教育は国の根幹!将来の戦力も、国民意識も、ここで育てるのよ!」
エリシアの情熱に打たれて、意外な人物も教師役として名乗りを上げた。
「……俺がやるよ。」
「カイラム!?」
「魔王の孫だからって、ただ威張ってるわけにはいかないからな。」
「えっら~い!」
彼の厳しくも的確な指導は、子供たちにとっても尊敬を集めていた。
◆◆◆
そんな中、新たな仲間も加わる。
魔王領に住み着いていた放浪の鍛冶師・ヴァルド、そして謎めいた踊り子・ネフィラ。
どちらも一癖も二癖もあるが、国家建設に必要不可欠な技能を持っていた。
「鍛冶師がいれば武器も、建材も安定するし、ネフィラの舞は祭礼や外交に使える。完璧ね!」
「ちょ、私を祭礼用って……。」
「安心して、ちゃんと踊り子兼情報屋としても期待してるから!」
こうして、国家としての“土台”が徐々に整い始める。
だが、その平和の影にひそむ気配に、エリシアは気付いていた。
(“魔王の遺産”を狙ってる奴は……まだ動いてる。どこかで、私たちを見てる。)
「……まぁいいわ。そのうち尻尾を出すでしょ。その時は――ぶっ飛ばすだけよ!」
――建国の狼煙は、今、上がったばかりだった。
——〈次話〉“新たなる仲間達との交流”
雷の国・ヴァンデルを出て、数日。 ようやく嵐の音も静まって、空には晴れ渡る青が戻ってきた。だけど――どこか、胸の奥がざわついていた。「……静かすぎない?」 馬車の中でぽつりと呟くと、 隣のカイラムが腕を組んで頷いた。「だな。風も雷も落ち着きすぎてる。 まるで“地”が息を潜めてるみたいだ。」「“地”が?」「この世界の魔力は風・水・雷・地の四属性で流れてる。 そのうち“地”は根の役割をしている。 もしそれが止まったら――」「全部が、倒れちゃう?」カイラムは黙って頷いた。 ユスティアが記録板を開いて補足する。 「現時点で、地脈の流れは各地で減少しています。 グランフォード領でも、地下水位が下がっている報告が。」「それって……」「はい。次の祠――“地の祠”が、すでに不安定化しています。」 「そっか。最後の祠、だもんね。」 私は深く息をついた。 風、氷、雷。 それぞれの祠には“止まった心”があった。でも、“地”って……止まるというより、 “沈む”感じがする。まるで、眠るように。 やがて地平線の向こうに、 巨大な断層のような亀裂が見えてきた。「……あれが、“地の門”か。」 ユスティアが小さく呟く。 「地表が裂け、祠が沈んだ跡です。 この先に、古代都市《テッラ・ロウ》が眠っています。」「眠る都市……」 「その中心に“地の祠”があるはずだ。」 亀裂の縁に立つと、 地面の下から低いうなり声が響いた。 地鳴りのようでいて、まるで“心臓”の鼓動みたいだった。「……ねぇ、これ、生きてるよね?」 「そう聞こえるな。」カイラムが剣を抜く。 「油断するな。地は優しいようで、いちばん重い。」 亀裂の中へと降りていく。 道は暗く、湿っていて、 壁には古代文字のような刻印が続いていた。「読める?」 「……“根は眠り、芽は夢を見る”」 リビアが呟いた。 「これは“地の神”の古い祈り文。 眠りとは再生、という意味を持つ。」「じゃあ、祠が“眠ってる”っていうのは…… 再生の前兆?」「ならいいんだがな。」カイラムが険しい顔をする。 「問題は“何が夢を見てるか”だ。」 やがて、開けた空間に出た。 広大な地下都市――。 崩れた神殿や石像、 枯れた木の根が天井から垂れ下がっている。
――空が怒っていた。氷の都を後にして数日。私たちは雷の国《ヴァンデル領》へと足を踏み入れた。とにかく、うるさい。空は常にごろごろ鳴っていて、一時間に一度はドンッ!と何かが落ちる。「ねぇ……これ、平常運転なの?」「はい。こちらの国では、雷が日常です。」ユスティアが冷静に答えた。「この地は“天空の導線”と呼ばれるほど雷が集まりやすい場所で、 空と地上の魔力が常に衝突しています。」「つまり、常に感電の危険があるってことね?」「言葉の選び方!」「落ちたらどうするんだよ……」カイラムがため息をつくと、リビアが翼で頭を軽くはたいた。「魔王族に雷ごとき、恐るるな。 焼けたとしても、香ばしくなるだけだ。」「どんな励ましだよ!?」 一行がたどり着いたのは、雷雲に包まれた街――《ストルムシア》。建物のほとんどが金属の避雷装置で覆われ、屋根の上では“雷集め”と呼ばれる儀式が行われていた。巨大な塔の先端に集まった雷が魔石に吸い込まれ、街のエネルギーとして再利用されているらしい。「すごい……雷を飼いならしてるみたい。」「“嵐を制する者が国を制す”――彼らの国是だ。」ユスティアが呟く。「この地の主は、雷公《らいこう》アルディン・ヴァンデル。 代々“嵐の加護”を受け継ぐ家系です。」 雷鳴がひときわ強くなったそのとき、塔の上からひとりの青年が飛び降りた。「うわぁぁぁっ!? 落ちた!? 今人落ちたよね!?」「いや……あれは飛んでる。」雷の光を背に、彼は空中で軽やかに身をひねる。着地と同時に周囲の雷を吸い込み、電撃を羽織るように立ち上がった。「ようこそ、風の国の継承者よ。」鋭い金色の瞳、乱れた銀髪。その全身から“雷”の気配が滲み出ていた。「俺はアルディン・ヴァンデル。 雷鳴の街を統べる者だ。」「かっこよ……」思わず口から出た。「お、おい、惚れるなよ。」カイラムが眉をひそめる。「惚れてないもん! ちょっと電撃走っただけ!」「それが惚れてるって言うんだよ!」「ふふ……賑やかだな。」アルディンが微笑んだ。「歓迎しよう。 ただし――ここから先は、“嵐の誓い”を越えねばならない。」 「“嵐の誓い”?」「この国では、異国の者は“雷の試練”を受けることになっている。 嵐を恐れぬ者のみが、神殿に足を踏み入れられ
風の道を越えて三日。見渡す限りの白銀の大地が広がっていた。「さ、寒いぃぃ……! 鼻が凍るぅぅ……!」私は風除けのマントを首まで引き上げ、凍えながら雪原を進んでいた。「……だから言っただろ、厚着しろって」カイラムが肩に雪を積もらせながら呆れ顔。「その格好じゃ、パンより先に凍るぞ。」「だって荷物多かったんだもん……」「荷物の半分がパンだろ」「焼き立てが恋しいんだもん……」「もん、じゃねぇ」「はいはい、口論は歩きながらでお願いします」ユスティアが軽やかに歩きつつ、冷気でくもる眼鏡を指で拭った。「目的地はもうすぐです。フロステリアの“氷門”。 ここを越えれば、王都ルミア・グラスへ入れます。」 遠く、氷の峡谷の奥に、巨大な半透明の門が見えてきた。「……きれい。」その門はまるで凍った滝のように輝き、陽の光を受けて七色に反射していた。だが近づくにつれ、空気がぴんと張りつめていく。「なんか……静かすぎない?」「うむ。鳥も、風も、止まっておる。」リビアが羽をすぼめ、低く唸る。「氷の精霊の“息”だな。 この門、ただの氷ではない。意志を持っておる。」 そのとき、門の中心に淡い光が集まった。氷の粒が舞い、やがて人の姿をとる。「ようこそ、旅人たち。」その声は風鈴のように澄んでいた。現れたのは、透き通るような白髪と蒼の瞳を持つ少女。肌は雪のように白く、衣は氷の結晶でできているようだった。「私はフロステリアの“氷守(ひもり)”リュミエール。 外の風を運ぶ者たち……あなたたちね?」「え、ええ……たぶん。」「風の国からの報せは届いています。 あなた方が“暁の継承者”だと。 この地の封印を解く資格を持つ者だと。」「封印……?」ユスティアが眉をひそめる。「ここにも、祠が?」「はい。氷の祠《フロストレム》。 けれど、いまは閉ざされています。 百年前の“祈りの凍結”以来、 誰ひとりとして中に入れた者はいません。」 「……凍結?」「祈りが、氷に封じられたのです。」リュミエールの瞳が微かに揺れる。「この国の人々は“永遠の祈り”を望みました。 その結果、祈りは形を得て――時を止めました。」「時を、止めた?」「はい。 人も街も、祈りの瞬間のまま、眠り続けているのです。」 私は息を呑んだ。“沈黙の
――風が帰ってきた。暁の祭壇での継承の儀から三日。サーラディンの砂の海は静かに息を吹き返し、街には久しぶりに“音”が戻っていた。風鈴のように鳴る砂の結晶、街角で回る風車、子どもたちが笑いながら凧を追いかけている。「ねぇカイラム、見て! 砂が喋ってる!」「……いや、喋ってねぇだろ」「喋ってるもん! “風が気持ちいいね”って言った!」「お前がそう聞こえただけだろ」「じゃあ、聞こえたもん勝ち!」「……理屈になってねぇ」私はにこにこしながら風を両手で掬った。砂の粒が光にきらめいて、まるで世界そのものが笑っているみたいだ。 「本当に……あなた方には感謝の言葉もありません。」そう言って頭を下げたのは、ファリード王子だった。以前の彼の眼差しは、どこか責任と緊張に縛られていた。でも今は――柔らかな風のように、穏やかだった。「“沈黙”は完全に消えました。 風の道も再び開通し、各国への風信も再開しています。 まさに、風の復権です。」「よかった~。 これでパンもちゃんと膨らむ!」「そこに帰結するのか……」「パンは平和の象徴なの!」 ユスティアが笑いながら記録板を閉じた。「風脈の流れを解析しましたが、興味深いことが一つあります。 サーラディンを中心に、世界中の風が“循環”し始めている。」「循環?」レーンが首を傾げる。「はい。 それぞれの国の風が、ただ流れるだけではなく“繋がる”んです。 まるで、風同士が互いを呼び合っているみたいに。」「まるで……人間の心みたいだね。」私はぽつりと呟いた。「誰かが笑えば、それが風になって、 遠くの誰かの背中を押すような……そんな感じ。」「……上手いこと言うな」「ふふん、たまにはでしょ?」「“たまには”って言うな」 ファリードが一歩前に出て、手にしていた金色の風晶を差し出した。「これは、“暁の風”の欠片です。 新たに世界を繋ぐ風の象徴。 グランフォードの風として、お持ち帰りください。」「いいの?」「ええ。 この風はあなた方の功績の証です。 そして――約束の印でもあります。」「約束?」「また、風が迷ったとき。 どうかあなたの声で、再び導いてください。」 胸の奥がじんわりと熱くなる。レオニスが消える前に言った言葉が、また静かに心を撫でていった。
砂の都・サーラディンでの戦いから数日後。私たちは再び旅立ちの準備を整えていた。塔の最上部に立つと、風がやさしく頬をなでる。あの沈黙の嵐はもうどこにもない。代わりに、清らかな風が都市全体を包んでいた。「ふぅ~、やっと落ち着いたねぇ!」私は伸びをしながら言う。「お前、戦った翌日からパン祭りしてただろ」「だって平和になったんだもん!」カイラムが呆れた顔をしながらも、パンを一切れ受け取って口に運ぶ。「……相変わらず味は悪くない」「“悪くない”って言い方、なんかムカつく!」「誉めてるんだよ」「ほんとぉ~?」そんな私たちの掛け合いに、周囲の兵士たちが小さく笑う。空気が柔らかい。まるで風そのものが笑っているみたいだった。 「エリシア陛下。」声をかけてきたのはファリードだ。彼は以前よりもずっと穏やかな表情をしている。「風の塔の修復が完了しました。 そして……“暁の祭壇”の準備も整いました。」「暁の祭壇?」「はい。 風が最初に生まれた場所。 この世界に“風”という概念が誕生した、最古の聖域です。」ユスティアが説明を引き継ぐ。「古代の地図にも断片的に記録があります。 勇者と魔王が初めて“共に祈った場所”……。」「へぇ……そんな伝承があったんだ。」「風の流れが安定した今なら、 あの地への道が再び開くでしょう」とファリードが続ける。「ですが――そこには、“継承の儀”が残っています。」「継承……?」「ええ。 あなたが“風を継ぐ者”であるなら、 その力はまだ“半ば”なのです。 暁の祭壇で、真に風を繋ぐ資格を問われるでしょう。」 「……試されるってこと?」「そうです。」「よし!」私は胸を叩く。「受けて立とうじゃないの!」カイラムが苦笑を浮かべた。「お前、試されるの好きだよな」「成長イベント大好きだから!」「イベント扱いかよ……」 ファリードが小さく笑い、その瞳に尊敬の色を浮かべる。「あなた方がこの地に吹かせた風は、確かに私たちを変えました。 どうか、次の風も……あなたの手で。」「うん、任せて!」私はにっこりと笑って、風を掴むように手を伸ばした。 ――翌朝。サーラディンの外れ、砂丘の果て。そこに、暁の祭壇への道が口を開いていた。金色の砂がまるで流れる川のように蠢き、光の筋が
――風が、止まった。あの“沈黙の終わり”を祝福するかのように鳴っていた砂上の風が、突如として凍りついたように静止した。「……いまの、聞こえた?」ユスティアが眉をひそめる。彼の耳が、僅かに震えていた。「聞こえたって……何も、聞こえないけど?」私が問い返すと、ユスティアは頭を振る。「そう、それが“聞こえた”んです。 ――音が、一瞬で消えた。」その瞬間、塔の壁に埋め込まれていた金色の砂が黒ずんでいく。音を失った空気が、重くのしかかる。まるで世界全体が“息を止めた”かのようだった。「まさか……“影の風”が、もう……!」ファリードが青ざめた顔で呟いた。「ファリード、説明を!」カイラムが詰め寄る。「“影の風”とは、かつて我々が封印した“風の反響”。 風が流れる限り、そこに生じる“抵抗”―― それが積もり積もって、沈黙として現れる。 風の祭儀で二つの風を重ねたことで……それが、解放されたのです。」「つまり、私たち……また封印を解いちゃったってこと!?」私の声が裏返る。「だが、今度は“自然発生”ではない」カイラムが低く言った。「誰かがこの流れを狙っていた――“風の力”そのものを。」「……まさか、“魔導連邦”が動いてるのか?」リビアが羽をたたみながら低く唸った。「奴ら、風の塔を利用すれば、世界の気流を操作できる。 戦争を始める前に、風を奪えば物流も国境も麻痺する……。」「そんなの、許せない!」私は拳を握りしめる。「風は、誰のものでもない! 世界みんなの息そのものよ!」「……まさかお前からそんな名言が出るとは」カイラムが呆れ気味に笑う。「パンの焼き加減の次は、風の平等か?」「うるさいわね! でも真面目なんだから今!」 ファリードが塔の外を見上げる。空には、黒い霞のような帯が浮かび上がっていた。それは風の流れを逆流させる“影の気流”。「……早い。 これほどの規模、すでに“風脈”そのものが汚染されています。」「風脈?」「はい。 世界中の風を繋ぐ巨大な魔力網。 古代の勇者たちが築いた“循環の地図”の根幹……。 その一部が、今このサーラディンを中心に反転しているのです。」「勇者の……地図……」私は息をのむ。「じゃあ、この現象、私の中の“記録”と関係してる?」ファリードが頷いた。「おそらく。 あ







