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第4話:王都の密命と、建国の狼煙

Author: fuu
last update Last Updated: 2025-07-03 12:00:46

王都、真夜中。

石造りの玉座の間には王と側近、数名の王族たちが沈黙の中に立ち並んでいた。

その中心で、一人の少年が膝をついている。

第一王子、レオニス・アルバレスト。

「……報告いたします。グランフォード家との交戦、未完了に終わりました。現地撤退を選択しました。」

声には濁りなく、しかし意志を通す気配があった。

その報告に、重臣たちの間からざわめきが起きる。

「何を言う!反逆者を取り逃がしてきたとでも!?」

「王命に背いたということか、レオニス殿下!」

「そもそも、殿下ご自身があの娘と個人的な関係を持っていたのではありませんか?」

怒声と罵声が飛び交う中、老王がゆっくりと手を上げると、室内は静まり返る。

「……レオニス。何故命を完遂しなかった?」

「――グランフォードは、王家を敵に回すにはあまりに惜しい勢力です。魔王領の地を既に掌握し、魔族との交渉も可能にしている。それが事実です。」

「では、反逆を見逃せと?」

「いえ。“利用すべき”です。」

一瞬、重臣たちの間に困惑が走る。その隙を突くように、王弟にあたる貴族の一人が声を上げた。

「戯言だ。貴様があの女に未練があるだけだろうが!」

「……ああ、そうかもしれない。」

レオニスはあっさりと認めた。そして立ち上がり、王に向かって言う。

「その上で言います。私は“敵”を演じます。王家のため、王命に従うふりをして、グランフォードを監視する役に回ることを望みます。」

「ほう……。」

王の目が細められた。

「その代わり、調査権を。魔王領で起きている“魔物の異常発生”について、王都の誰も正しく報告できていません。」

「ほう……では、お前の言う“異常”とは何だ?」

レオニスは懐から、黒く焼け焦げた魔石を取り出す。

それは先日の戦場にいた魔物が残した、強大な魔力の残滓だった。

「この石は“人工的”に魔物を発生させる触媒。つまり誰かが、魔物を意図的に送り込んでいます。」

ざわめく一同。中でも、重臣の一人が呟く。

「魔王の……遺産……」

「ええ、“魔王の遺産”が動いている。もしその力を操る者がいるなら、王都はもちろん、この大陸すら危うくなります。」

その言葉に、老王が唸る。

「……よかろう、レオニス。お前にその役目を与えよう。ただし――」

「“失敗すれば、処刑”……承知の上です、父上。」

レオニスは深く頭を垂れた。そう、それが彼に与えられた“敵”という役目。演じきらねば、すべてが終わる。

◆◆◆

一方、グランフォード領。

「ほぅ……“魔王の遺産”が狙われてる……ね。」

エリシアはカイラムとリビア、父母とともに情報を整理していた。

戦後、王家の動向に不審な点が多いこと、そして魔物の数の増加……そこに規則性があることが判明した。

「……君、魔王の孫なんだよね?」

「……ああ、そうだ。」

カイラムは静かに語り始めた。魔王は死んだ。

そしてその“力”の一部は、彼の中に封じられているのだと。

「俺は、“遺産”の鍵でもあるらしい。……そして、それを狙って動いている何者かがいる。」

「それって……。」

「王都の、誰かだ。」

重い空気が、再び漂った。

「だったら――やることは一つだね!」

立ち上がったエリシアが言い放つ。

「国家建設を本格化する!誰が敵かなんて探ってる暇はない!まずはこっちが“生き残る国”を作らないと!」

「「「おおーっ!」」」

かくして、“国づくり編”が再び始まる。

「よし、じゃあまずは、美味しい国から始めましょうか!」

エリシアの号令のもと、グランフォード領では「衣・食・住」の整備に本格的に乗り出すこととなった。

◆◆◆

「……それにしても、君は相変わらず突飛だな……。」

カイラムが呆れたように言いながらも、手にした鍋を器用に揺らしている。中身は香ばしい香りの立ち上るキノコのポタージュだ。

「美味しいごはんは戦う力にもなるし、外交にも使えるのよ!」

「……あ、塩入れすぎた。」

「ちょっとぉ!君センスないわね!」

「なら君がやれよ!」

そんな小競り合いをしながらも、魔人たちによる農地の整備は順調だった。

かつて荒れ果てた魔王領は、いまや農作物の芽吹く大地へと変貌し始めている。

「これが“耕す”という作業か。無駄がない。いい知識だ。」

「……魔人って戦うだけじゃなかったのね。」

「おい、聞こえてるぞ。」

エリシアの指導の下、魔族たちはそれぞれの得意分野を活かし、食料確保のために協力していく。

◆◆◆

続いて手を付けたのは「衣」。

「この布……すごいわね。なんの繊維?」

「スピナ草っていうんだ。魔王領特有の植物だ。」

「ほぉ~。じゃあこれを紡いで、染めて……おしゃれ服にするわ!」

エリシアのデザインをもとに、裁縫を得意とするメイドたちと魔族の一部が協力。

派手すぎず、動きやすく、しかも美しい。そんな“新国家スタイル”の服が誕生した。

「これを制服にして、国の民としての一体感を持たせるのよ!」

「見た目で管理か。なかなかに合理的だな。」

「……でも王子様、腰のリボンが解けてますよ?」

「くっ……!」

こうして“衣”も整い始めた。

◆◆◆

そして「教育」。

「よし!教育は実地で学ぶのが一番!」

近隣の孤児や逃れてきた庶民の子どもたちを集め、簡単な読み書きと数字、礼儀作法、そして自衛のための基本的な体術を教える「寺子屋」が開設された。

「教育は国の根幹!将来の戦力も、国民意識も、ここで育てるのよ!」

エリシアの情熱に打たれて、意外な人物も教師役として名乗りを上げた。

「……俺がやるよ。」

「カイラム!?」

「魔王の孫だからって、ただ威張ってるわけにはいかないからな。」

「えっら~い!」

彼の厳しくも的確な指導は、子供たちにとっても尊敬を集めていた。

◆◆◆

そんな中、新たな仲間も加わる。

魔王領に住み着いていた放浪の鍛冶師・ヴァルド、そして謎めいた踊り子・ネフィラ。

どちらも一癖も二癖もあるが、国家建設に必要不可欠な技能を持っていた。

「鍛冶師がいれば武器も、建材も安定するし、ネフィラの舞は祭礼や外交に使える。完璧ね!」

「ちょ、私を祭礼用って……。」

「安心して、ちゃんと踊り子兼情報屋としても期待してるから!」

こうして、国家としての“土台”が徐々に整い始める。

だが、その平和の影にひそむ気配に、エリシアは気付いていた。

(“魔王の遺産”を狙ってる奴は……まだ動いてる。どこかで、私たちを見てる。)

「……まぁいいわ。そのうち尻尾を出すでしょ。その時は――ぶっ飛ばすだけよ!」

――建国の狼煙は、今、上がったばかりだった。

——〈次話〉“新たなる仲間達との交流”

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