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第12話

Author: 渡船
イギリス、カンタベリーの町。

晴美はベッドの背にもたれ、ガラス窓越しに絵画のように美しい景色を眺めている。

圭司とともにイギリスへ来てから、すでに十日あまりが過ぎている。

この間、彼女はずっと彼の別荘で静養していた。

圭司が密書を送ってくれたおかげで、晴美の両親も彼女が海に身を投げて死んだわけではないと知り、ようやく娘への心配を手放すことができた。

「今日は体の調子はどう?」

ドアが開いて、圭司が花束を抱え、長い脚を大きく踏み出して部屋に入ってきた。

「医者が言ってたよ。怪我はほとんど治ってるから、そろそろベッドから出て歩いてもいいって」

晴美はふっと微笑んだ。「うん、だいぶ良くなったよ。傷跡ももうすぐ完全に消えそう」

このところ圭司が見せてくれた、細やかで温かな気遣いを思い返すと、晴美の胸の奥にまたじんわりとしたぬくもりが広がった。

もう一度お礼を言おうとしたその瞬間、圭司が先に口を開いた。

「この後、ちょっとドライブでも行かない?」

圭司はベッド脇の花瓶の花を交換しつつ、晴美にじっと熱を帯びた視線を注ぎ続けた。

「俺たちの初デートってことで、どう?」

「な、何言ってるのよ……」

晴美の頬が一気に熱くなった。睨み返そうとしたが、彼のまっすぐな視線にぶつかってしまい、思わず目を逸らした。

その笑みを浮かべた整った顔を、これ以上見ていられなかった。

「細川グループの株は全部あなたに譲ったんだから、あの偽装死の件はもうチャラってことで……今度は無料のガイドくらい、サービスしてくれてもいいでしょ?」

「いいよ。じゃあ、あの細川の男の金で、わざわざ俺をガイドとして雇ったってことにしておく」

圭司は薄い唇をほころばせ、何だかとても上機嫌だった。

「そうだ、前にお前が署名した株の譲渡契約書、もうすぐ公証が有効になる。後悔するなよ?」

「後悔なんてしないわ」

晴美は静かな声で答え、口角にほっとしたような笑みを浮かべた。

「どうせ伊佐山晴美って人間はもうこの国では死んだことになってるし、これから先、私と裕司の間には何の関係もないから」

少し間を置いて淡々と話を続けた。その口調には、未練など微塵も感じられない。

「自分の持ち株を、法律上の夫の手に戻すくらいなら、本当に欲しがっている人にあげた方がいいもの」

圭司は何も言わなかった。彼
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