تسجيل الدخولレオンハルトは仲間に背を向けて、指輪をみんなに見られないように、そっと取りつけた。
本当は転移用の錬金道具があるなんて、知られない方がいい。
だが、この壕の中にいるものが、自由に外に出られ、物資も手に入れることが出来るという安心感ぐらいは、みんなに与えておきたい。
俺の姿が突然消えた今、おそらく壕のみんなは大騒ぎになっているだろう。
だが、元々いた隊員は、ミレイユの師匠の錬金術を見ているはずだ。
きっと、見慣れた風景だと感じるのではないか?そして、これは錬金術なのだと他のメンバーにも説明してくれるだろう。
俺は、物資とミレイユという新たな錬金術師を連れて帰る。
それは、みんなの生きる希望になる――
◇
レオンハルトは、何も変わらない塔のドアに、よろよろと手をかけた。
長すぎる一日が、ようやく終わろうとしている。
もう、長い期間ここに来なかったような気持ちになる。レオンハルトは仲間に背を向けて、指輪をみんなに見られないように、そっと取りつけた。本当は転移用の錬金道具があるなんて、知られない方がいい。だが、この壕の中にいるものが、自由に外に出られ、物資も手に入れることが出来るという安心感ぐらいは、みんなに与えておきたい。俺の姿が突然消えた今、おそらく壕のみんなは大騒ぎになっているだろう。だが、元々いた隊員は、ミレイユの師匠の錬金術を見ているはずだ。きっと、見慣れた風景だと感じるのではないか?そして、これは錬金術なのだと他のメンバーにも説明してくれるだろう。俺は、物資とミレイユという新たな錬金術師を連れて帰る。それは、みんなの生きる希望になる――◇レオンハルトは、何も変わらない塔のドアに、よろよろと手をかけた。長すぎる一日が、ようやく終わろうとしている。もう、長い期間ここに来なかったような気持ちになる。塔の扉を押し開けると、ミレイユの懐かしい安心できる香りと気配が走った。四階か!レオンハルトは、顔を上げて大声で叫ぶ。「ミレイユ!」その声に、ミレイユが階段を駆け降りてくる。次の瞬間、お互い、視線が絡み、何も言わなくてもお互いの気持ちが通じ合った。二人は、お互いに迷うことがなく、抱きしめ合っていた。レオンハルトは張りつめていた緊張から解放されて、ミレイユに安堵と癒しを感じていた。ミレイユは、すべての真実を知った不安から、唯一信頼できるレオンハルトに安堵感を求めて――だからこそ、互いに安心を貪るように、強く、絡むように抱きしめ合った。そして、時間が止まったかのように、二人はそのまま動かなかった。(やっぱり俺はミレイユが好きだ)(レオンハルトさん、ずっとそばにいて)それぞれの胸に、はっきりとした想いが刻まれる。やがて、お互いに抱きしめ合ったまま、ミレイユは、体に回した手の
ミレイユが、師匠とダリウスの過去、そして、師匠に誰からの危険が迫っていたのか知った頃――とりあえず、ミレイユのハイポーションで傷を治したレオンハルトはカイルを見つめていた。カイルは、例の睡眠玉がよく効いてくれてまだ眠っている。以前、自分が浴びた睡眠玉と違い、ミレイユは、針がついた改良版を作ってくれたので、前のように半日近く眠ることはなさそうだが……「とりあえず、しっかり縛っているし、まだ目覚めそうにないから、みんなは安全かな」信頼していた部下を失った痛みは大きい。これからの指揮は、俺ひとりでやらなければならないのか。残った連中も、本当に信用できるのかどうか……それすらまだ分からない。レオンハルトは、これから誰も頼れない中で、一人で全て決めて、全て動かなければならない絶望感に襲われていた。「みんな!ここの拠点の中にいるやつは誰も魔物にやられてない。カイルのことがあって、お互い信用できるのか不安はあると思う。でも、ここには、魔物が入れない結界のようなものがあるんだ。だから絶対に外に出るな」そう告げてから、俺はポーションの瓶を取り出した。ミレイユが作ったものだ。それをここに備蓄されていたポーションの横に置く「見ろ。色が違うだろう」皆が息を呑む。「ま、まさか」「中身はポーションじゃないのか?」みんなの動揺は隠せない。「今、外に出て魔物にやられても、ここにあるポーションでは回復できない可能性が高いんだ。もちろん、他の店のもので、効果は変わらない可能性も残されている」レオンハルトがそう言うと、前から樹海防衛部隊にいた隊員のダンがそれを見て頷く。「いや、前から置いてあったポーションは、レオンハルト隊長が持って来られたものと同じ色だったと思います」「中身を変えられた可能性はあるか?」レオンハルトがダンに聞くと、残りの隊員たちは顔を見合わせる。
レオンハルトが、命に関わる大怪我をしていた頃――ミレイユは、師匠であるアリエルの日記をめくる手を止められなかった。そこには、だんだんと自分の名前が増えていく。そして、その中にある話の幾らかが、自身の記憶にある出来事と重なっていった。師匠から初めて錬金術を習った日。大きな魔物を狩った成果を自慢された日(私は素材の説明だと思って聞いていたけど……)武器に付与する倍率を間違えて大失敗した日――小さな思い出が、紙の上に散らばっていた。「師匠、こんなに人に伝えることが不器用なのに。こんなに一生懸命、私が人らしく生きられるように、努力してくれてたんだ」胸の奥がじんわり熱くなる。師匠は何でも記録に残した。錬金術の小さな気づきや研究レシピも……狩りの方法からその取れる素材のことも……そして、私の育児も。そのうえで、感じたことや考えを「これは人と同じ感覚なのか?」と、頻回にダリウスに尋ねており、そのダリウスの返答まで、記録に残してあった。――自分は他の人と違う。そう理解してから、不安だったのだろう。思い返せば、私が店に出るようになってからは、師匠より従業員と過ごす時間の方が長かった気がする。「ふふっ、ミレイユにお店は任せた!いい新製品、作るからね」そう言っては、すぐ留守にしてしまう。どこかに素材を採りに行くのだと思っていたが、樹海防衛部隊と錬金術師を両立で大変だっただろうし……意識して私と距離を置いたんだと思う。きっと、師匠は、私を普通の子のように育てたかったんじゃないだろうか?(師匠と一緒にいた時間って、意外と少なかったんだな)◆王都で暮らすようになって数年――
一方――樹海防衛部隊では……レオンハルトとダリウスの声は、壕の外まで響いていたらしい。レオンハルトの怒鳴り声を聞きつけて、カイルが飛び込んできた。「団長――じゃなかった、隊長!大丈夫か!」そう言って隊長室に飛び込んできたが……「あれ?幻聴か?誰か男の声が聞こえたような気がしたんだけど……」そう言ってキョロキョロする。カイルの顔色はひどく疲れていたが、こいつは俺が気の回らないところを全部拾ってくれる。だからこそ、ミレイユをここに連れてくることは相談なしに決めてはいけないと思っていた。「実はな。先ほど突然、ダリウス前総司令官が現れて、消えたんだ」「……は?」現れて消えた?何を言ってるんだと言う顔で、カイルは俺の顔を見る。俺もあの指輪のことを知らなければ同じ反応をするよな。レオンハルトは苦笑して、ダリウスが消えたあたりをチラッと見た。「どう言う仕組みかは分からない。別に幻影ではなさそうだったけどな。彼の言うには、この樹海防衛部隊の前隊長の娘を連れてこいというんだ」「情報多すぎて処理できませんけど!?樹海防衛部隊の前隊長の娘?で、その娘さんはどこにいるんですか?」そもそも、前隊長の名前すら今日俺たちは知ったのに、家族がどこに住んでいるのなんて知りませんよと、お手上げのようにカイルは両手をあげた。レオンハルトは、どう説明しようか迷い、苦笑する。「実は……俺の婚約者なんだ。ただ、彼女が、前隊長の娘というのは知らなかったんだけどな。今、俺が、匿ってる」「……えっ?はっ?今……匿っている?」カイルが固まった。……言ってしまった。縁談話だけなのに、婚約者だなんて。少し恥ずかしい。だ
レオンハルトがダリウスと再会を果たし、アリエルと行動を共にしていた頃――ミレイユが読んでいたのは、毎日、自身と格闘するアリエルの姿だった。◆「アリエル、子供を買ったってどういうことだ」ダリウスとアドリアンが、真っ青になり、当然のようにアリエルに詰め寄る。だが、間違いなくそこにはやっと歩き出したぐらいの子供がいる。「アリエル、君は、毎日あっという間に野菜ができる錬金物はないか研究していたはずだったよな?」ダリウスは今更この子を返せとは言えないが、なぜこうなった?と確認した。アリエルは毎日、塔の前の畑で、何やら錬金道具を作るのだと格闘していたはずだ。「うまくいかないんだ。でも、副産物で栄養価の高い土ばかりできるからな。アドリアンから学んだ地図で、農作物の育ちが悪い地域に配ったんだ」ドヤ顔で、良いことをしたとアリエルは頷いた。出会った頃を思えば、雲泥で表情も会話も増えた。だが――常識は……ない。「勝手に?ど、どこにその副産物を配ったんだ?」アドリアンは慌てる。この樹海から南なら、それはすでに我が国ではない。勝手なことはできない。「うーん、地図は途中から見てない。同じ景色ばかりだからな」土地が衰えた田畑ばかりが広がっていたと話す。他国にとっても、樹海は脅威だ。おそらく、樹海周辺は人の出入りも少ないだろうし、農作物も魔物に食い荒らされる可能性も高い。そこで、最低限の生活している人たちは、あまり裕福とは言えないのだろう。アドリアンから学んだ世界を見ていたい。そこまでは、アリエルにも好奇心が沸く感情が出てきたのかと好意的にとってもいい。(……勝手に他国に行くのは問題だが、目を瞑ろう)ただ、どうして人に関心なんてないくせに……なぜ子供を連れて
ミレイユが、師匠アリエルの日記を読んで、自分が「買われてきた」過去を知り、衝撃に打ちのめされていた頃――レオンハルトもまた、突然現れた人物に混乱していた。「……総司令官!じゃねえ、ダリウス!お前、なんで今さらのこのこ出てきやがる!」どれだけミレイユが辛い思いをしたと思ってるんだ!そして、なんで俺を騙しやがった!怒りが抑えきれず、レオンハルトはダリウスの胸ぐらを乱暴に掴んだ。「すまない」ダリウスはレオンハルトに胸ぐらを掴まれた衝撃でよろけたが、そのまま抵抗もせず、ただ静かに言った。「お前には殴られても切られても仕方ないぐらいのことをしたと分かっている。ミレイユを託せて、行動に信頼がおける男がお前しか思いつかなかった」「それなら最低限でも言えることはあっただろ!今まで、どこに隠れてやがった!」信頼がおけるといって、信頼が置けない行動をした奴はどこのどいつだよ。レオンハルトは怒りで、ダリウスを殴り飛ばしたくなる。「……アリエルを助けるために動いていたんだ」「アリエル……って、ミレイユの師匠で、前隊長……だよな?一緒じゃないのか?」レオンハルトの力が、へっ?と一瞬緩む。てっきり、二人は一緒に逃げているのだと思っていたのに……ダリウスは、空っぽになった棚や、整えられた机をみて、つぶやくようにレオンハルトに話した。「ここは、アリエルが働いていた場所だ。もう知っていると思うが……ここに、アリエルはいた。ミレイユの養母で、師匠になる」「ふざけんな、なんでミレイユに大切なことを伝えていない?どこまで俺たちを振り回す気だ!」レオンハルトは、拳に力が入り、とにかく落ち着けと自分に言い聞かせた。聞かなければならないことがたくさんある。「アリエルが、王に捕まった。急なことで、自分も追われる身







