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第7話

Auteur: 吉乃婆婆
last update Date de publication: 2026-05-27 05:01:47

冷たい水が口の中をすっきりさせて、喉の奥にスーッと流れ込んできた。するとさっきまでの不快感が消え去っていった。

「ありがと。」

凛華がお礼を言うと、その女性は安心したように微笑んで、

「どういたしまして。今日の凛ちゃんはとってもお利口さんね。」

と言ってまた優しく頭を撫でてくれた。

凛華はこの女性を知っている。

だが、自分の記憶にあるこの女性はもっと窶(やつ)れて暗い顔をしていた。声も小さく弱々しかった。

今の白くてシミ一つない美しい肌も、大きくて澄んだ瞳もふっくらとした花びらのような唇も遠い昔のものだったはず。こんなふうに若々しく美しかったのは、まだ自分がほんの物心ついた頃のことのはず。

物心付く頃って、2〜3才頃?

今の私は……?

辺りを見回してみる。残念ながら自分の姿を確認出来る物はない。キョロキョロしだした私を心配した女性が顔を近づけてのぞき込んできた。

「凛ちゃん、どうしたの?」

女性の方を見ると、その瞳の中にきょとんとした表情の幼児がいた。

!、間違いなさそうだ。私、戻ったんだ。

理解した途端、いろんな感情が溢れた。

懐かしい、無事で良かった、解放された、只々嬉しい。

夢中で女性にしがみついて大声で泣いた。

「うわぁ〜んっ!おかあしゃ〜ん!」

母は少し驚いたようだが、優しく抱きとめて軽く背中をトントンしながら、

「大丈夫よ、ずっとそばにいるからね。」

と言って凛華が眠るまで寄り添い続けてくれた。

再び目覚めた時、今、自分は何処にいるのか分からなかった。

少し期待して、でも期待がはずれるのが怖くて中々周囲を見ることができなかった。そのままうとうとしていると、ドアが開いて、

「凛ちゃん、起きた?」

穏やかな母の声がした。

『夢じゃなかった!』

嬉しくてガバっと起き上がって声のした方を見た。

昨日と同じで、美しく健康的な母がトレーを持って枕元に来た。

「あら、元気が出てきたのね。良かったわ。温かいお粥を持ってきたのよ。食べられそう?」

凛華は大きく頷いて、

「うん!おなかしゅいた。」

と言って大きく口を開けた。

「ふふっ、甘えん坊さんね。ちょっと待ってね。」

母は小さなスプーンにお粥を掬って息を吹きかけて冷ましてから、凛華の口元に運んでくれた。

「ゆっくり食べるのよ。」

と言いながら凛華が飲み込むのを待っては次のひと口、と根気よく口元に運んで、お椀の中全部を食べさせてくれた。

食べ終えた時凛華は、

『私の人生にもこんな幸せな時間があったんだ。』

と記憶には無かった時間に感動した。

凛華は二日ほどですっかり元気になった。

その間に少しずつ今の自分の状況を理解していった。

凛華と母の芙美華が住んでいるのは、祖父母や叔父夫婦が住んでいる若桜家本家の離れの一軒家だった。

父はいない。

母は若桜家が営んでいる画廊を経営していた。

週に何日か出勤するが、ほとんどは自宅で絵を描いている。

この2日間はそのいずれもせずに、風邪を拗らせて寝込んでしまった凛華の看病をしていた。

凛華が元気になった為、明日は画廊へ行くことにした。

「凛ちゃん、明日は大事なお仕事があって出かけるけれど、おばあちゃんやおばさんの言うことを聞いていい子でお留守番していてね。」

「だいじょうぶ。お母さん、おしごとがんばってね。」

「ありがとう。」

母は家族とも仲がよく、この家で不自由なく暮らしているようだ。いつ、どうしてあの男と夫婦になったのだろう。

そして、私の父はどうしたのだろう。

いろいろ疑問はあるけれど、暫くは記憶に無かった生活を

楽しむことにした。

母が留守の間は、凛華は母屋で祖母や叔母と一緒に遊んだりおやつを食べたりしながら過ごすのが普通らしい。

「凛ちゃん、お熱が出て大変だったねぇ。もう元気になった?」

「はい!げんきです。」

「よかったわねえ。」

祖母は、にこにこしながら凛華を膝の上に抱き上げて、柔らかな頬をぷにぷにして楽しんでいる。

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