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隠れ御曹司の溺愛に身も心も包まれて
隠れ御曹司の溺愛に身も心も包まれて
Author: ひなの琴莉

1-1

last update Last Updated: 2025-05-10 01:11:27

「相野さんは僕の初恋の人なんです。再会できるなんて思っていなかったので驚いています」

 若きエースと言われている岩本圭介(いわもとけいすけ)君が爽やかな風が吹くオフィスの屋上でさらりと発言した。

 この春から配属され一ヶ月が過ぎたところ。彼の言葉で脳内に桜の花びらが舞っているかのような感覚に陥った。

「でも、恋人がいるんですね。相野さんを奪いたくてたまりませんが、相野さんが今幸せなら邪魔をしません。笑顔でいてくれるのが一番ですから」

 岩本君の私を想ってくれる熱いメッセージが胸の奥底に届いて泣きそうになった。

――笑顔でいてくれるのが一番

 あれ? 私、最近、心から笑っていただろうか。

「あぁ、でも……悔しいです。ずっと忘れられなかったので」

 私のことを知っているような口ぶりだったが、顔を見てもこんなにイケメンの知り合いはいない。

 彼は背が高くてスーツの上からでもほどよく体が鍛え上げられているのがわかる体型だ。サラサラとした艷やかな髪の毛は太陽の光が当たると輝いて見える。綺麗な二重に高い鼻と薄い唇。まるで貴族とか王子とかみたい。

 対して私は肩までのストレートヘアーをハーフアップしていることが多く、奥二重と小さい鼻と口。体型はごく普通。どこにでもいる特徴のない人という感じだ。

 岩本君の容姿があまりにも整っているから隣を歩くのが恥ずかしいが、教育係なのでいつも隣りにいる。

「気持ちはすごく嬉しいよ、ありがとう。……でも、どこで会ったのかな?」

「忘れてしまいましたか?」

「うん、ごめんなさい」

「残念です」

 捨てられた子犬のような顔をされて、罪悪感で満たされていく。

「本当にごめんなさい。それで何年前にどこで出会ったのかな?」

「僕のことを考える時間を増やしてほしいので思い出してくれるまで、教えません」

 岩本君は、小悪魔的な笑みを浮かべた。

 かわいいと思ってしまうのは、彼は私よりも五歳年下だからだろうか。

「では、お疲れ様です。先に戻ってますね」

 清々しい笑顔を残して彼は去って行った。

「何だったの? 告白され……た?」

 直球の言葉を投げかけられて私はしばらくぼんやりする。ときめいている場合ではない。

 どちらにしても、私には将来を約束した恋人がいて同棲もしているのだ。申し訳ないけれど、岩本君の気持ちに応えることができない。

 それにしても……告白されたのは予想外だった。これから気まずくなりそうだけど、岩本君は日本での研修を終えたらアメリカに行く。

 それまでの間、何とか乗り切ろう。

 さ、仕事に集中しようと頬をパンパンと叩いて部署に戻った。

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  • 隠れ御曹司の溺愛に身も心も包まれて   おまけ

     私たちは結婚式の準備で大忙しだった。  でもこれから幸せな毎日が訪れると思ったら、  全然苦ではない。  今日は私たちは自分たちの家で、  結婚式をどのように執り行うか打ち合わせをしていた。 「圭介君、あまりお金もかけたくないし、ウェディングドレスはレンタルでいいよ」 「そんなわけにはいきませんよ。愛する妻にはとっておきのドレスを用意したいと思っているんです」  カタログをパラパラと見ながら発言する私の手を止めて、彼はじっと見つめてきた。  吸い込まれそうな素敵な表情に心臓はドキドキしてくる。 「いいよ、レンタルで」 「よくないんですって」  それの言い合い。  なんだか、ハッピーすぎる。 「わかった。そうする」  彼の熱意に負けてしまった。  夫婦になるなんてすごく不思議な気持ちだ。  仕事が忙しいはずなのに、  私の気持ちをしっかりと聞いてくれるし、不安なところは解消しようとしてくれる。  本当に優しくて素敵な人。  こんな大好きな人と結婚できるなんて私は幸せで、どうにかなってしまうのではないかと思う。 「ウエディングドレス姿すごく楽しみにしてます」 「私も。タキシード姿楽しみ。王子様みたく素敵なんじゃないかな」  素直に気持ちを打ち明けると彼は恥ずかしそうに顔を赤く染めた。  こういうピュアなところも大好きだ。 「あまり可愛いこと言うと襲っちゃいますよ」 「え?」  いきなりスイッチが入ったようで瞳が真剣に変わる。そして手を伸ばしてきて強く抱きしめられた。 「ちょっと待って、結婚式の打ち合わせをしてからにしようよ」 「もう我慢できません。可愛いことを言うから……」  顔を近づけてきて唇が重なった。  彼の甘くて長いキスに私は溺れていく。 「真歩さん……大好きです」 「ありがとう」 「真歩さんは?」   私の気持ちなんてとっくに知っているはずなのに、言葉で聞きたいとでも言いたいような顔をしている。   好きだと伝えるのは何だかくすぐったくて恥ずかしい。   でも彼が求めてくれるならちゃんと素直に伝えたい。 「好きに決まっている」  照れを隠しながら言うと、彼は嬉しそうに笑った。 「ありがとうございます。 一生大事にして離しませんから」  長い腕で抱きしめられて、私は素直に彼の

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  • 隠れ御曹司の溺愛に身も心も包まれて   3−11

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    *   *   * 九月下旬に修一郎は福岡支店の営業職として転勤することになったと発表された。事実上の左遷である。 デザイン部から営業職に変わる人は社内では初めてらしい。 修一郎が転勤する最後の日まで、私と言葉を交わすことはなかった。 同じ会社で働いている限り、またどこかで会うかもしれないけれど、本当にこれで修一郎と別れることができると思えた。 さようなら、修一郎。 十月になり、岩本君がアメリカに飛び立つ日になった。 有給休暇をもらって私は空港に見送りにいく。「真歩さん。しばらく会えないと思うと寂しくなってきました」 守る時は守ってくれて、しっかりしている時はかなりしっかりしていて頼れる存在なのに、こういう時に甘えてくるので私の胸はかき乱されてしまう。 私だって会えなくなってしまうのはすごく寂しい。 お泊りして、朝まで一緒に過ごしていたのだから。「休みが取れたら会いに行こうかな」「ぜひ!」 私は手を差し出した。岩本君はかっちりと握手を交わしてくれる。「頑張ってきてね」「はい。毎日連絡します」 そのまま手をぐっと引っ張って思いっきり抱きしめられた。そして公の場だというのに唇に優しくキスをされたのだ。「行ってきます」「行ってらっしゃい」 彼は颯爽と歩き出す。こちらを振り返って何度も手を振りながら。4 岩本君がアメリカに行ってから一ヶ月後、私の作品は無事コンペで選ばれた。 そして正式にゲームパッケージとしてクライアントに案を提出することになった。 修正や予算案を詰めていく作業があり、連日残業続きだったけれど、夢を叶えるために私は奮闘していた。 クライアントに無事に提出し、素晴らしいアイディアだと絶賛されて来年の春に発売されることになった。『おめでとうございます』 パソコンの画面に映っているのは、オンラインでつながっている岩本君だ。お祝いだからと彼はシャンパンを手に持っている。 私が寂しくないように頻繁にメッセージを送ってくれて、時間が合う時はオンラインで話をしているから遠い地にいるという感じはしなかった。『ご友人も喜んでくれていますね』「うん。ゲームが発売されたらお墓に行ってこようと思ってるの」『真歩さんが頑張っている姿が自分にもいい刺激になってますよ』「私こそ、岩本君のおかげ」『そうですか? では、ご褒

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     その日の夜。引越し先が決まり荷造りをしていると岩本君が帰宅した。「裏で動いてくれていたんだね。本当にありがとう」「いえ。それで相野さんがコンペ用に最初に考えていた案を何とか使ってもらえないかとお願いしているのですが……」 私は首を横に振る。「あのことがあったおかげで、コンペに出せた作品がさらに洗練されたものになったと思うの。辛い経験だったけど、今はこれでよかったなと思っている」 彼は優しそうな表情を浮かべて頷いた。「そう言ってくれるなら安心しました。僕がアメリカに行ってからコンペの結果が出るのですね」 そうなのだ。どんな結果になったとしても受け止めるつもりでいたけれど、できればそばで見守ってもらいたかった。「本当に引っ越ししてしまうんですね」「無事に家を見つけることができたから、今までお世話になって本当にありがとうございました」 心から寂しいと言った目をする岩本君が急に後ろから抱きしめてきた。「ちょっと……」「嫌ですか?」「……ううん。でも、年の差もあるしふさわしい人がいるんじゃないかなと思って」「僕がふさわしいと思ったのは真歩さんですよ」「ありがとう」 岩本君が私の目の前に回ってきて、ずっと瞳を見つめてくる。「もし辛いなら一緒にアメリカに行きませんか?」「辛いけれど、必ずわかってくれる人がいる。私は自分の作り出したアイディアたちに様々な色を込めたの。『私を見て』って。もう少し頑張ってこの世界で勝負をしていきたい」 岩本君が深く頷いた。「その言葉を聞いて安心しました。僕も半年アメリカで頑張ってきます。戻ってきたら、その時はプロポーズさせてもらおうと思います」 まっすぐな彼の言葉が矢のように胸に突き刺さる。 彼の自分を見てほしいというアピールがものすごく強いかもしれない。「わかった。私も頑張ってるから」「ええ」 自分の会社の御曹司との恋愛というのは、かなりハードルが高いかもしれないけれど、御曹司だから好きになったわけではなく、好きになった人がたまたま御曹司だった。 様々な困難はあると思うけど乗り越えていきたい。 私と岩本君はゆっくりと顔を近づけてキスをした。

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