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第889話

Auteur: 桜夏
理恵は返信し、それを見た駿は、安堵の息を漏らした。

透子が無事なら、それでいい。橘家との間の問題は、後からどうとでもなる。

しかし、やはり自分の目で確かめたいという想いは拭えない。だが、いかんせん橘家が彼の面会を許可しなかった。

彼は理恵に助けを求め、理恵は明日、一緒に連れて行ってあげると約束した。

駿は心から感謝し、二人は時間を約束した。

翌朝。

理恵は病院へ向かう前に、雅人のアシスタントに電話をかけ、透子が目を覚ましているか尋ねた。もし眠っているようなら、もう少し時間を置いてから行くつもりだった。

アシスタントは答える。「透子様はすでにお目覚めです。理恵様、どうか、すぐにお越しいただけないでしょうか」

それを聞いて、理恵は何かあったのかと思い、緊張した声で問い質した。

「透子に何かあったの!?容態が悪化したとか!?」

そばにいた聡も、その言葉にさっと顔を向ける。

アシスタントは慌てて答えた。「透子様ご自身に別状はございません。ご安心ください。

ただ……早朝の診察で、医師からは消化の良い流動食なら少し召し上がれるとのことでしたが、全く食欲がなく、召し上がろうとされないのです」

理恵はそれを聞いてほっと胸をなでおろした。また透子に何かあったのかと思ったのだ。

「食べたくないなら、無理に食べさせなくてもいいじゃない。点滴で栄養は摂れてるんでしょ?」

電話の向こうでアシスタントが口ごもるのを聞き、車の後部座席に座っていた理恵は眉をひそめた。

「一体何なのよ。食事をしないくらいで、そんなに大騒ぎすることかしら?」

「その……透子様が召し上がりたくないのか、それとも……会長と奥様が自ら匙を手に取られている前では、召し上がれないのか……私には判断しかねまして」アシスタントが、消え入りそうな声で言った。

理恵は瞬時に状況を察し、言った。

「あの人たちを先に外に出させておいて。私、もうすぐ着くから」

アシスタントは承知した。電話が切れると、彼は窓から病室の中を憂鬱そうに見つめ、心の中でため息をつく。

――会長と奥様に、部屋から出てくるようなど、口にできるわけがない……やはり、理恵をお待ちするしかないな。

病院へ向かうベントレーの後部座席で。

聡が尋ねた。「透子は、食欲がないのか?」

理恵は言った。「それもあるでしょうけど、それ以上に
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