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第3話

Auteur: いくの夏花
遥香は表情を崩さなかった。

ただ男を見つめ、淡々と尋ねた。「どんな依頼ですか?」

保が答えようとする前に、別の男が話に割り込んだ。鼻で笑いながら言う。「こいつはさ、普段は雪のように真っ白で、日光に照らされると五色に輝く北極狐を彫刻してほしいんだと。冗談にもほどがあるだろ?」

そんな彫刻作品、この世に存在するわけがない。

「そうだな」保も唇をわずかに吊り上げ、ゆったりとした口調で言った。「さっきのぞみさんが、君がここの看板職人だと絶賛してたじゃないか。川崎さんは作れないのかな?」

「できます」

遥香は淡々と答えた。「三日後、またここハレ・アンティークで。保さんが求めるものをお渡しします」

「ほう?」保は面白がるように目を細めた。「川崎さん、本当に作れるの?まさか俺をからかっているんじゃないだろうな?」

遥香はまっすぐ彼を見据え、落ち着いた声で言った。「私は決して噓をつきません。もし信じられないなら、ハレ・アンティークの看板を賭けても構いませんよ」

そう言い終えると、遥香は席を立ち、店を出ていった。

店内は騒然となった。誰もが信じられないという表情を浮かべる。

一方、保は去っていく遥香の後ろ姿を見つめ、目を細めたまま、薄く唇を上げた。

――なかなか面白い。

ハレ・アンティークに、こんな気骨のある「小さな薔薇」がいたとはな。

まもなくして、ハレ・アンティークが保の依頼で「日光下で五色に輝く北極狐の彫刻」を作ることになったという噂は一気に広まった。

世間の多くは「今回はさすがにハレ・アンティークの看板がつぶされるだろう」と冷笑した。

だが、遥香はまったく気に留めなかった。

ハレ・アンティークを出ると、自然と目が向いたのは少し離れた場所に留まる車だった。

そこには修矢の姿があった。

まさかここまで自分を探しに来るとは思わなかった。

遥香は車に歩み寄り、心の奥の酸っぱさを抑えながら尋ねる。「……何の用ですか?」

修矢は少し間を置いてから、優しい声で言った。「柚香が戻ってきたんだ。川崎のおじさんが、今夜は家に戻って家族で食事しようって。柚香も君に会いたがってる……どうかな?」

――どうやら修矢は川崎の「使者」として来たらしい。

遥香は一度断ろうと思った。

だが修矢の穏やかな眼差しを見た瞬間、喉の奥の苦さを飲み込み、最終的にはゆっくりと頷いた。

「わかったわ」

遥香が車に乗り込むと、修矢はすぐさま問いかけてきた。

「尾田グループでの仕事は不満だったのか?どうしてハレ・アンティークに?人事から君が退職したと報告を受けたんだ。その後、龍之介(りゅうのすけ)からは遥香が妹の店で働くことになったと聞いて、ようやく事情を呑み込めたよ」

「違うわ」遥香は首を振り、苦々しく答えた。「もう離婚したから、あそこで働く意味もないと思って」

尾田グループで働いていた間、遥香はずっと修矢の妻であることを隠していた。

しかし離婚した今、余計な関係を引きずる必要もない。

もう尾田グループとはきっぱり縁を切りたかった。

「ハレ・アンティークは腕の立つ職人がたくさんいる。君はこういう分野のことは素人だろう?いくら江里子がいるといっても、そう簡単なことじゃないと思うけど……」

修矢はハンドルを握ったまま、優しく続けた。「尾田グループなら、君が望む限り、いつ戻ってきても大歓迎だよ」

修矢は遥香がこれまでどれだけ彫刻を学んできたか知らない。江里子のコネでハレ・アンティークに入ったと思い込んでいたのだ。

遥香はすぐに拒否した。「結構です。他の人に誤解されたくないので」

遥香の言う「他の人」とは柚香を指していた。だが、修矢は「外野」を気にしているのだと受け取った。

修矢は遥香がもう自分と関わりたくないのだと思った。

修矢は眉をわずかにひそめ、少し間を置いてから優しく言った。「まさかハレ・アンティークでずっと働くつもりなのか?君は柚香とは違う。君の能力で、ハレ・アンティークが本当に受け入れてくれるとは思え……」

遥香は一瞬、心が凍りつくようだった。

遥香が田舎で育ったため、川崎の母は遥香には知識教養がないと思い込み、柚香に到底及ばないというレッテルを貼られていた。

修矢は今まで、優しく見守り、守ってくれていたはずだった。だが、心の奥底ではやはり柚香の方が自分より優秀だと思っていたのか?

それに気づいた瞬間、修矢もまた僅かに気まずさを覚えたのか、声を和らげて続けた。

「すまない、そういうつもりじゃなかったんだ。遥香、尾田グループにはいつでも君の居場所がある。ハレ・アンティークでうまくいかなかったらいつでも戻ってくればいいよ」

「ありがとう、修矢さん」

遥香は微笑みながら静かに答えた。「ハレ・アンティークは、たとえ見習いだとしても、学べることがたくさんあるわ」

修矢はじっと遥香を見つめたが、結局それ以上は何も言わず、優しく告げた。「君が何をするにしても、俺は応援するよ」

遥香の胸は苦しくてたまらなかった。

修矢はずっと優しい。

けれど、結局のところ、彼にとっての自分は「妹」以上の存在ではなかったのだ。

彼の想い人は、いつだって柚香だった。

30分後。

車は川崎家の入口に止まった。

修矢は川崎家の家族団らんには加わらず、用事があると言って立ち去った。

遥香が家に入ると、川崎の父と母は柚香を取り囲んで話に花を咲かせていた。

「3年間も離れてて、お母さん本当に寂しかったわよ。あの時、尾田のお母さまの指示さえなかったら、何が何でも柚香をここに置いていたのに」

母は柚香の手を握りしめる。その表情は憐れみに満ちていた。

「ありがとママ。私、ママの愛情は十分感じてる。仕方なかったのよ。あの時は姉さんが戻ってきたばかりだったし、姉さんはパパとママの実の娘なんだから、私が出ていくのは当然のこと……」

柚香は暗い表情で、言葉の端々に含みを持たせながら話した。

母はますます心を痛め、遥香のことを思うたび、表情が冷たくなった。

「もう大丈夫よ。遥香は修矢と離婚したんだから、尾田のお母さまがどんなに遥香を贔屓にしたって、川崎家のことに口出しさせないから。もう誰もあなたを一人にさせたりしない。柚香と修矢が一緒になってくれたら、ママとっても嬉しいわ」

遥香はそれを聞いて、心が締め付けられるようだった。

やはり、修矢は柚香ために遥香との離婚を決めたのだ。

もともと、柚香がそそのかしたこともあり、父母は遥香のせいで柚香がアレルギー発作を起こしたと決めつけていた。柚香は元々体が弱かったこともあって、二人を引き離すために、母は当初、遥香の方を海外に追いやろうとした。

しかし、遥香と修矢が婚約していたこともあったため、尾田の祖母が介入し、最終的に療養のために海外に出されたのは柚香だった。

だが今、遥香と修矢は離婚した。尾田の祖母もこれ以上柚香を海外に出す理由はなくなった。

その時、柚香も遥香の存在に気づいた。

一瞬止まった後、柚香は親しげに遥香に歩み寄り、嬉しそうな口調で声をかけた。「お姉ちゃん、戻ってきたのね!パパからなかなか戻ってこようとしないって聞いて心配してたの。でも修矢が説得してくれたって聞いて安心したわ。これでやっと家族全員揃ったわね!」

母はそんな遥香を見つめるが、実の娘を迎える喜びは微塵も見せず、冷たい表情のまま淡々と言った。「戻ってきたの。なら席について」

食卓で。

母は依然冷たい目を遥香に向けながら言った。「あなたと修矢はもう離婚したんだから、修矢と住んだ家も出たほうがいいわ。ああ、でも柚香もこの家に戻ってきたことだし、あなたがここで一緒に住むのは色々慣れないでしょう。あなたには別の家を用意させるわね」

――ここは本来、遥香の家のはずなのに。

母はまるで遥香が「邪魔者」であるかのように扱い、柚香を守るためなら、実の娘の帰る場所すら与えようとはしなかった。

遥香の胸には苦々しい感情がじわりと込み上げた。

父も母の冷淡さを感じ取り、

何か言おうとしたその時、遥香が先に口を開いた。「結構です。もう自分で部屋を見つけました。仕事場にも近いので、家に戻る必要はありません」

遥香がそう言うと、柚香はわざと心配そうな表情を装った。

「お姉ちゃん、その仕事ってハレ・アンティークだよね?修矢から聞いたの。芸術家の見習いみたいな仕事を一生やっていくわけじゃないよね?離婚したからって、そんなに自暴自棄にならなくても……修矢だって、お姉ちゃんのそんな姿を見たらきっと心を痛めるよ」

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Commentaires (1)
goodnovel comment avatar
ちゃちゃまる
この国(多分だけど)ものすごく一族の血を大切にするくせに本当に血の繋がっている子供じゃなく養子を猫っ可愛がりして実の子供を最大限攻撃しまくるの謎過ぎる…
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