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第12話

Author: 缶缶いっぱい
彼は自分の足にまだプレートが入っているのも顧みず、必死にもがきながらベッドから降りようとした。

「誰も教えてくれないなら、自分で彼女を探す」

傷口はまだ癒えておらず、動けば血が滲んだ。

それでも痛みなど感じないかのように、歯を食いしばり、体を動かし続ける。

「景和、何をするの?まだ怪我してるじゃない!」

瑶緒が前に出て止めようとするが、景和は彼女を強く押し倒した。

「どけ!」

言葉を言うと同時に、慣性で彼も地面に激しく倒れ込んだ。

激痛が走り、彼の冷たく端正な顔が一瞬硬直し、汗が滲み出た。

城治が慌てて彼を支えようと屈むが、ポケットから光を放つ物が落ちた。

景和の動きが一瞬止まる。

――それは折れたダイヤの指輪で、ところどころに血が付着していた。

それは、彼が頌佳に渡そうとした指輪だった。

一瞬にして、心が裂けるような痛みが走り、頭が割れそうになった。

無数の、ちらつくも曖昧な記憶の断片が脳裏で砕け散った。

どこかで、聞き覚えのある声が悲鳴を上げ、泣いている。

彼は頭を抱え、首の血管が浮き出るほどに苦しんでいる。

――頌佳だ、頌佳の声だ!

なぜ彼女は泣いているのか、なぜ悲鳴を上げているのか?

彼は震える手で折れた指輪を拾い上げ、袖で血を拭った。

しかし血は固く乾き、いくら拭いても落ちない。

景和はため息をつき、城治の手首を握りしめ、まるで粉砕するかの力で握り込んだ。目は真っ赤に血走った。

「これは一体誰の血だ?頌佳は、どこにいるんだ?城治、教えろ!」

彼は暴虐に叫び、逆鱗に触れられたかのように荒れ狂っている。

城治は目を赤くし、ゆっくりと目を閉じ、痛々しい笑みを浮かべる。

「どうしても彼女に会いたいか?」

「もちろんだ。もう余計なことを言うな!早く頌佳の居場所を教えろ!」

城治は数秒間彼をじっと見つめ、深く息を吸う。

「わかった、連れて行こう」

……

国連平和維持軍病院にて。

ニックは頌佳の傍を一歩も離れず、ヴィートールが送ってきた調査結果を確認していた。

長いまつげが垂れ、彼の彫刻のような深い顔に、陰影が落ちた。

病室の空気はますます冷え込み、ヴィートールは頭をさらに下げた。

長い時間の後、ニックは厚い資料から顔を上げ、氷のような青い瞳に凛とした寒気を宿し、恐るべき嵐を孕んでいる。

「つまり、頌
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