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第3話

Author: ガブリン
夏希の顔から、血の気がさっと引いた。「……お母さん?」

啓介もわずかに目を見開いた。

琴子は腕を組んだまま、得意げな笑みを浮かべる。

「きっと、あんたが中学の時に付き合ってた桐山(きりやま)って苗字の男の子でしょ?」

「……え?桐山?誰のこと?そんな子、全然覚えてないけど……」

「まだシラを切るつもり?あんたにラブレター書いたの、あの子だけでしょ?他に誰が千春じゃなくてあんたなんか選ぶのよ?」

その言葉に、啓介が軽く眉を上げた。「へぇ、夏希ってば中学生のころからモテてたんだな?」

夏希は顔をそらした。「……知らないし、覚えてない」

「叔父さん〜」と、千春が甘ったるい声で割って入る。

ふわりとスカートの裾を揺らしながら近づくと、姉らしい微笑みを浮かべて夏希の手をとった。

「女の子って、そういうの恥ずかしいから言えないのよ。ね、夏希?」

夏希は動揺しながらも、ぎこちなく「……うん」と応じた。

だがその瞬間――

千春は夏希の耳元へと顔を寄せ、誰にも聞こえない声で囁いた。

「私ね、知ってるの。あんたと叔父さんのこと」

夏希の体が一瞬で強張った。

千春の笑みは、ゆっくりと軽蔑と勝利に染まっていた。

「でもね、無駄なんだよ。叔父さんが本当に好きなのは、最初からずっと私。私を大事にしすぎて手を出せなかっただけ。だから代わりにあんたを選んだのよ。

夏希、あんたは――ただの都合のいい人形なの。喋るダッチワイフってわけ」

夏希が息を呑んだその刹那、千春はさらに追い打ちをかけた。

「信じられない?じゃあ、証拠を見せてあげる」

彼女はニヤリと笑い、次の瞬間、驚いたように目を見開いた。

「きゃっ!」

夏希の腕を掴み、後ろの金属製の資材棚へと体ごと倒れ込んだのだ。

鉄製の鋭利な棚は、隣の店の改装工事で仮置きされていたもので、明らかに危険だった。

「南ちゃん!」

啓介は顔色を変え、慌てて飛び出した。咄嗟に千春の手を掴み、思いきり引き寄せた。

そして――

夏希の身体は、そのまま勢いよく金属製の棚に激突した。

「……ッ!」

ドレスの布地が破れ、鋭利な角が肌を切り裂く。鮮やかな血がにじみ、すぐに布を濡らしていった。

「千春!大丈夫!?お母さんもう心臓止まるかと思った!」

琴子が駆け寄り、動揺しながら千春の無事を確認した。

「千春が無事でよかった」継父も安堵の声を漏らした。

啓介はしっかりと千春を抱きしめたまま、真剣な眼差しでその体を検めた。怪我がないことを確かめると、ようやく息を吐いた。

「……どうしていきなり倒れたんだ?」

そのとき、琴子が激昂して夏希を指差した。「こいつよ! 千春に嫉妬して、服を汚してやろうとしたのよ! 傷を残して台無しにしてやろうって魂胆に決まってる!」

言うが早いか、彼女は夏希の頬を思い切り平手で叩いた。

パシンッ――!

夏希の顔が勢いよく横を向いた。

――痛みよりも、心が砕けた。

全身に走る傷の痛みなんて、あの一撃には敵わなかった。

震える声で訴えた。「……ち、違う……お母さん、私は……」

「お母さんって呼ばないで!あんたなんか娘でも何でもない!人を傷つけるような子、私は産んだ覚えない!」

その瞬間、夏希は冷たく笑った。頬の涙を指でぬぐい、そのまま口を閉ざした。

目線の先には――まだ千春を抱きしめて離さない、啓介の姿だった。

さっきの一瞬、彼の口から飛び出したあの一言――

「南ちゃん!」

その声は、夏希の心を鋭く貫いた。

かつて彼女と啓介が熱い愛に溺れていた時に、彼が彼女の顔を優しく捧げ持って、いつも「南ちゃん」と呼んでいた。「夏希ちゃん」でもなく、「南ちゃん」――それは彼しか使う人がいない、特別な愛称。

最初は不思議に思った。

でも、きっと彼が夏希だけのためにつけてくれた特別な名前だと信じた。

嬉しくて、彼女も日記で彼のことを「X氏」と呼んでいた。母親に見られてもバレないように、秘密の暗号みたいに。

けれど――今、ようやく気づいた。

あの「南ちゃん」は、夏希ではなかった。

彼が愛を囁くように呼んでいたは――姉・千春だった。

夏希の顔を見て、啓介は彼女のことを千春と重ねていただけ。

あの「南ちゃん」は、姉の姿に向けられた幻だったのだ。

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