Se connecter夜が明け、雨は止んでいた。
マリアとアレフは一晩中セーラを探したが、見つけることはできなかった。 そのためいったん宿に戻り、休むことにした。どこか見知らぬ場所で、セーラは目を覚ました。
起き上がろうとすると、声をかけられる。 「もうよいのか」 「あ、あなたは街で会ったおじい! もしかしてあなたが助けてくれたのですか? どうもありがとうございました」 「うむ、わしゃオルドという者じゃ。それよりどうしたというのじゃ。夜中に雨の中を一人で出歩くとは」 「あの……それは……」 「言いたくなければ言わんでもよい。ところでお主が持っている珠を見せてくれんかのう」 「これですか?」 「おおそれじゃ。ううむ、これはどうやら呪われているようじゃの」 「呪い?」 「うむ、この珠はな、いわばお主の力の源のようなものじゃ。だからけして壊したりなくしたりしてはならぬ。だが何者かがこの珠に呪いをかけ、お主の力を封じているのじゃ」 「それじゃ珠の呪いが解ければ……」 「お主が本来持つ力を使えるようになるはずじゃ。どれ、わしが呪いを解いてやろう」 そう言うと、オルドは珠の周りに手をかざし、なにやら呪文を唱え始める。 すると珠の色が徐々に変わり、やがて青く光る珠が現れた。 「きれい……」 「ほれ。これを持ってみい」 オルドはセーラに碧い珠を渡した。 珠の光に呼応して、床に置いてある家宝の剣も光りだす。 「すごい……力が湧き上がってくる……」 なんとセーラのレベルが上がった! 「それが現時点でお主が本来持っている力じゃ。今のお主なら魔法も使えよう」 「私が魔法……」 セーラは嬉しくなってきた。 「じじい! 何から何までありがとう! あっ、私の名前はセーラ。あなたの名前は聞きましたっけ」 「わしゃオルドじゃ」 「ああ、聞きましたよね。ごめんなさいおじい」 「だからわしゃオルド……まあよい。セーラよ、すぐ街に戻りお主がすべきことをするのじゃ!」 「はい! おじい、本当にありがとうございました!」 セーラは去って行った。 オルドがぽつりと言った。 「あやつ性格まで封印されておったか……」「さてと街はどっちかな」
セーラがさまよっているうちにまたもももんじゃ8匹に遭遇した。 「昨日はやられたけど、今日はそうはいかないんだから」 セーラは怒声をあげた。 一撃でももんじゃたちを倒した。 「すごーい!」 セーラはもう有頂天である。 みんなに自分の新しい力を見てもらいたくて街へ急いだ。だがセーラがミラにつくと不穏な空気が流れていた。
なぜか魔物が街に入りこんでいるのである。 セーラがみんなを探すと魔物たちと戦っている。 「みんな! 大丈夫!?」 「あっ、セーラ! 今までどこに!? いえそれよりも今は魔物を倒すのが先決!」 「こいつら剣で切ろうとすると分裂するんだ!」 見ると辺りはプチゴーストだらけである。 「大丈夫。任せて」 不謹慎ながらセーラはくすっと笑ってしまった。 (昨日の夢はこれだったのね)斧を構えて魔物たちの前に立つ。
(まずは増殖した魔物をどうにかしないと) セーラは破邪の呪文を唱えた。 プチゴーストたちを光の彼方へ消し去った。 「すごい……」 (残りは二匹) セーラは敵に殴りりかかる。 まさに瞬殺であった。 魔物たちは全滅した。セーラは改めて声をかける。
「みんな大丈夫?」 「ええ、もうMPがないけどあたしは大丈夫。それよりどうしたの!? その力!」 セーラはオルドのことを話した。 「そうか、呪いのせいでレベルが上がらなかったのか」 「でもセーラって斧だけじゃなく魔法も使えるのね。びっくりしちゃった」 「あれ? カイは?」 「回復できないのでそこらで倒れてるはずだ」そのときカイが声をあげた。
「オレはここだ」 「カイ、今治してあげる」 セーラはヒールプラスを唱えた。 「ええ!? 回復魔法まで使えるの!?」 マリアが驚く。 「大丈夫?」 「セーラ、すまん」 「え?」 「オレは君を足手まといだと言った。だがそう言ったオレがこのざまだ。凍結系の呪文が苦手なため、炎熱系の魔物が現れると手も足も出ない。本当の足手まといはオレがだったんだ」 「ううん、そんなことない。だってレベルアップしていっぱい呪文覚えるのこれからだもの。私も頑張るからカイも頑張ろ。ね?」 「ごめん、セーラ本当にごめん」 カイは心から後悔し、涙を浮かべて謝った。「さて一見落着ね。ってそういえばセーラって今”カイ”て呼ばなかった?」
「どうやら能力とともに性格も変わってしまったようだな」 話をしているみんなをセーラが呼ぶ。 「何お話してるのー? ごはん食べてお風呂入ってたっぷり寝よー!」 マリアとアレフは顔を見合わせた。宿にて戦闘の疲れを癒し、マリア達との楽しい夕食を終えたセーラは少し夜風に当たろうと街に出ていた。
しばらく歩いているうち誰かに声をかけられた気がしてセーラの足がぴたりと止まった。 すると目の前の空間が裂けて渦となり、暗く禍々しい色をした旅の扉が出現した。 セーラは吸い込まれるようにその旅の扉に足を踏み入れていた。翌朝、セーラがいないことに気づいたマリア達が彼女を見つけたのは街はずれの湖のほとりであった。
セーラは膝を抱えて座っており、その小さな後ろ姿は水面に向かって誰かと話しているようにも見えた。 「セーラ、一人でどうしたの?」 アレフとカイを置いて先に駆け寄るマリア。 声に気がついたセーラは水面からふっと顔をあげて振り返った。 セーラの瑠璃色の瞳が縦に細長く閉じた。 「ひっ!!」 マリアは驚きのあまり声を上げて硬直した。 セーラの肌は雪よりも白く、まるで透けているかのようであった。 「お前は、一体……」 追ってきたアレフとカイはその妖しい美しさに思わず息を呑んだ。 「おはよう。マリア。アレフ。それにカイ」 セーラは優しく微笑んだ。「我が呪いの秘術をよくぞ打ち破った。さすがだぞルーテ」 魔導師は誇らしげに言った。「……わたしの名前はセーラよ。お父さん…」「父と呼ぶか」「名前を知らないですもの」「ハッハッハ…」 魔導師は表情を変えず続けた。「我らに名前などは無い」「……本当は貴方と戦いたくない、けど、わたしは貴方を……倒さなくちゃならない」「そうだ、お前の秘めた真の力を我に見せてみよ」「行きます!」 セーラは四枚の翼を羽ばたかせ超スピードで魔導師に突っ込んだ。 セーラの輝く身体の周りには光虫が飛び回っている。 魔導師は暗黒魔法を唱えた。«フォビドゥン» ドロドロとした瘴気の塊がセーラを襲う。 しかし光虫の展開する結界で無効化される。 セーラは魔導師の身体へ天使の鉞を打ち下ろした。 黒球の中の魔導師のマントを切り裂く。「お前は我の一部から生まれた、そのお前が我を滅ぼせばどうなるか、わかるか?」 魔導師の黒球がぼやけ崩れ出す。「お前も共に滅びるのだ」「……」「例えそうだとしても」 セーラは再び鉞による打撃を魔導師に加える。「わたしは貴方を討つわ!」 セーラの攻撃に魔導師の干からびた片腕が吹き飛ぶ。 光の追加効果が魔導師の再生能力を奪う。 魔導師は、セーラの素早い打撃を躱せず、両脚、あばら骨、内蔵と次々にその身体を失ってゆく。 顔だけになっても空中に浮かびながら語りかけをやめない魔導師。 その様を見て嘔吐するセーラ。「オェぇぇ…気持ち悪い。死なない、どういうこと……」「そのような…方法では、滅びはせぬ」「くっ…どうすれば」「ルーテよ、共に、我が創り上げた…神と同化、するのだ…」「冗談じゃないわ!」 魔導師の頭部は神と呼ばれた異形の巨大生物と融合しかかっていた。「オレ達だってサポートはできる!」 カイは攻撃力上昇の魔法をセーラに唱えた。「私もよ」 マリアはヒールをセーラにかけまくる。「駄目、引っ張られる…!」 セーラの身体も魔導師と共に異形の神に取り込まれてゆく。「セーラ!!」 マリアが叫ぶ。「吸収されちまった…セーラが」 カイが呆然と見つめる。 セーラの身体は、魔導師の纏う黒球と共に歪みぼやけ、やがて完全に溶けて消えた。 異形のお父様の体内。「ここが、本体ね……」 吸収された他の天使や魔物の亡骸を次々
「リセット?」 カイが怪訝そうに繰り返した。「簡単に言えば、修正すべき事象が起きる"前"まで時間が戻るということだ。 その間に生まれたものは存在しなくなり、無くなったものは復活する」「アレフが生き返るってこと!?」 楽観的なマリアは手を叩いて喜ぶ。「どこまで戻るかは神のみぞ知る…必ずしも我々にとって都合が良い結果になるとは限らない。 それにアレフが死んだ事実も無くなるのだ」「あぁ~頭がこんがらがってきた」「全てをリセットしたくなること、あるよな」「それが神様の御業……?」「つまりやり直しってことや」「横暴やな」(……セーラ)「誰かがセーラを呼んでる……」「そうだわ、わたしには成すべきことがあったんだ」「セーラ?」「ごめんねマリア。わたし行ってくるね」「えっ…どこに? 帰ってきたばかりなのに」「まだ魔族は生きてる。倒さなくちゃ」「いやいやっ! もうどこにも行かないで。どうしてセーラが戦わなくちゃいけないの」 駄々を捏ねるマリア。「絶対戻ってくるから。約束」 優しく声をかけるセーラ。「やだ! あたしも行くから!」 マリアは涙に鼻水を垂らしながらセーラの服の裾を掴んだ。「オレも行くぜ」 カイが臆せずに続く。「オルドさんは?」「行かない」「チキン天使長…」「私にはここを護る責任があるのだ!」「だから、守れてないやないか」「もうっ。みんなしょうがないなぁ」 セーラは根負けして四枚の翼を羽ばたかせる。 マリアとカイがセーラの身体に抱きつき、バヒュンと音を立て空高く飛んでいく。 見上げるオルドは、眩しい陽光に目を細めながら心の中で呟いた。「さらば、神に翻弄されたる心優しき天使よ」◆ ヘルキャッスル跡地には小さな空洞ができていた。 空洞は異次元空間になっており、中の壁は臓物のように蠢いていた。 奥で待っていたのは、横たわる異形の魔生物とその上に座る魔導師だけであった。 「遅かったな、ルーテ…」「……」「魔導師…」「一人か?」 ─── セーラたちが訪れる数時間前。 魔導師はお父様の回復と、更なるパワーアップのために騎士たちを使おうと考えた。 今なら二匹とも手負い。抑え込むのはそう難くない。「この前の恨みか?」 騎士は薄笑いを浮かべて言った。「ガル……貴様、乱心したのか」
二つの浮遊大陸における天使の軍団と闇の魔導師たちの戦いは熾烈を極めた。 しかし、無限に増殖する魔物に押され、天使たちの勢力は少しずつ減っていった。 最後に残った能天使パワーは天を仰いだ。「先の大戦と同じか。しかし蘇生を行える天使はもういない」 そして最後の天使パワーは獅子の魔物と対峙した。 獅子の四つ腕の爪が大きく変形し、縦横に延びて次々と地面に刺さり、獲物を逃がさないよう囲った。 パワーはその身に残っている全聖光気を解放した。«ディスピアード・レイ» 凄まじい質量を持った光の槍が、獅子の形成した爪の檻を突き破ってその腕二本を貫き、もぎ取った。 その間隙を縫って黄金の騎士が、光速の斬撃でパワーの身体をズタズタに斬り裂いた。 獅子と相打ちの形で最後の天使パワーは息絶えた。「手こずったな」「グルル……なぁに、これくらいの傷」 異形の魔生物は身体が変形し、崩壊しかかっていた。 魔導師が必死で回復を試みているが、天使の何体かは身体から分離して消滅してしまっていた。「やはり早かったな……作り直しだ」 魔導師は負傷した獅子たちのほうを振り返った。◆ セーラは悪の尖兵として、天使たちと戦いながらも、分裂した天の魂は夢を見ていた。 天使の鉞、アイギスの鎧、天空竜の兜、エデンの盾……天界の装備に身を包んだ勇ましい自分の姿。 そしていつも隣に有った碧い珠、今は暗い灰色となった珠を握りしめた。 珠は輝きを取り戻しセーラを三度、目覚めさせる。 視界に広がった場所は遥か天空の頂上付近であった。 セーラは夢で見ていたその二対四枚の翼で宙を羽ばたき飛んでいた。 地上を見下ろすとどこもかしこも戦争をしていた。 カイやマリア、それにオルドも、魔物たちと戦っている。「わたしだって天使だ! 加勢に行かなくちゃ」 そうセーラが意気込むと、どこからか声が聞こえてきた。「君にはやることがある」 声の主は姿を見せず、小さな羽虫がセーラの周囲を飛んでいた。「セーラね」「誰ですか? 虫さん?」「君を呪いから解き放ち再生したもの」「再生? じゃあわたし一度死んだの? あなたは…神様ですか?」「私は神ではないよ。君は死してなお、新しい命を持てる器だったんだ」 よく分からない話よりも、セーラは早くマリアたちのところへ飛んで行きたかった。「君がいま
私たちは用意された舞台で踊ることしか出来ない。 いわゆる箱庭ゲームをプレイする存在があるとするならば、それはつまり神である。 その存在はゲームに登場するキャラクターを操作し、パラメータや行動を決め、その人生を創る。 生かすも殺すも自由に、全ての運命は移ろいゆく。(オルドの記述を鑑みて考察するに、厳重な管理体制の下でプレイされている、と仮定する) オルドが異常に気付いたのは、およそ300年ほど前、目の前に起こった事象に端を発している。 突如、自分以外のデータが全てリセットされ、世界がそれまでとどこか違ったものに変わっていた。 オルドはその微細な変化を見逃さなかった。 彼はその変化を神の御業と結論づけた、彼にとっての神は、何者かであり、別次元の、偉大でもなんでもない存在、その所業が行なわれる直前にあった事、それは、深淵なる異物が神のシステムに干渉を試みた、いわば本の登場人物が読み手に何らかの物理的な干渉を成功させた、変化はその結果である。 いま、光り輝く天使の装備に身を包み、二対四枚の翼を持った霊体が、その使命を果たさんとしている。 魔と天は互いに殺し合い、人はその争いに巻き込まれ、地上から消滅してゆく。 二対四枚の翼を持った天使はこの世界の理の全てを超越した場所にいた……。
(ゴォォォォォォ) 無造作に生えた羽でも、それぞれがめちゃくちゃに羽ばたけば、巨人でさえ天空を自在に飛び回ることができる。 お父様に乗った魔導師たちは、いくつかの浮遊大陸、エルフの里、天使の住む塔といった、強者や天の者が集うめぼしい地を次々と滅ぼしていった。 お父様の見てくれがグロテスクなせいか「神はお怒りだ」「天罰だ」と人々は恐れ慄いた。 そして、世界の人口は実に半分にまで減った。「それいつまで封じ込めてんの? 名は確か、セーラといったな」 兜を脇に抱えた騎士が訊ねる。「ルーテだ。出しても構わぬが」「ガル…ガルガル…出てきた途端、また襲いかかってくるんじゃねぇか?」「ルーテは我が呪いの秘術をその身に受けた」「どうなるんだ?」「天使や人間に与することで、乳首の色が青から紫、そして赤へと変わっていき、やがて深紅に染まりきると、全身が遺伝子レベルで分解され、バンデッドウデムシに再構成されるのだ」「愛しき娘、じゃなかったのか?」「もちろん醜いウデムシなどに変わる前に、我の手で解呪するさ…それに」 そこで魔導師は言葉を区切った。「この呪術の解除方法はいたって簡単だ」(キュエアアァアァッ) 実験台にされた天使の悲喜交々な顔面は、強風を受けてウネウネと別の方向に動き、その首をちぎれんばかりに伸ばして荒々しく叫んでいた。「それは愛する者の心臓を抉り出し喰らうことだ」「ガル~……お前の話し聞いてると気分が落ちるわ…」「出してやればいい。死んだか逃げたスライムの代わりになるだろ」「強い魔族は多いに越したことはない…グルガルッ」 魔導師たちの次の目的地は『シャイニング・バインド』『グローリアス・ヘイロー』と呼ばれる、天使の総本山とでも言うべき、強大な聖光気で包まれた双子の浮遊大陸であった。 倒れたモンスターの補充は、魂を削る老いた魔導師の代わりに、お父様がその羽根一枚一枚からノーリスクで生み出していた。「天使の属性を合わせ持つ魔族を量産できるならば、我々の勝利は揺るがぬであろう……」 魔導師はセーラを封じ込めた黒いビー玉をコロコロと手の中で遊ばせながら呟いた。◆ 空が茜色に彩られた早朝、カイは浅い眠りから目を覚ました。 隣で蓑虫のように寝袋にくるまっているマリアは、まだスヤスヤと寝息を立てていた。 カイは一晩かけてある決意を固
マリアとカイはアレフの亡骸が入った棺を引きずりながら、レムリアの城下町へ戻ってきた。 そして教会の庭にアレフを埋めて墓を作った。 セーラとアレフを同時に失って落胆したマリアはやさぐれていた。 酒をかっ喰らい、高価なアクセサリーを買いまくり、暴飲暴食をして持ち金を全て使ってしまった。 自暴自棄と自堕落を絵に書いたような生活。 ヤケになりすぎてカイを夜のお供に誘って性行為をしてしまう程であった。 「どうせ世界は終わるんだから、もうどうだっていいわ」 ─── 今までの苦労はなんやったんや やってられるか マリアは段々と口汚きガラの悪さが増していった。 ノースリーブの脇から見えるマリアの巨乳が、ぷるんと揺れてカイを悩殺する。 カイはマリアとの二度目の性行為を試みたが、叶うことは決してなかった。 そうして数日が経った。 オルドのいる塔が瓦解したとの噂を聞き、二人は塔へ向かう。何となく向かう。 「あいつらにかかればオルドだって一溜りもないだろう」とマリアは思った。 オルドの真の力は見たことがないが、天使長というくらいだから、ヒラ天使のセーラより少し強いのかもしれない。 ໒꒱· ゜ 塔に辿り着くと、中はズタボロで、複数の魔物と天使が倒れていた。 マリアはぺたんとアヒル座りになり、声もなくそれを見つめた。 カイはショックの余り貧血を起こして倒れた。 オルドの姿は見当たらず、倒れた天使の一人が血のついた指でダイイングメッセージを残していた。 開け 天の聖櫃 主の名において その力に満ちよ タナトス・サネントゥール かつて、魔と天が争った大戦において、劣勢に立たされた戦局をくつがえす為に、熾天使セラフィムが使用したとされる究極の蘇生呪文があった。 呪文の触媒は術者の命。 天使の軍勢のために命を投げ売つ覚悟が、生と死の極限たる呪文の成就を可能にした。 だが、あまりにも危険であるが故にその詠唱はごく一部の高位の天使にしか伝えられなかったと言う。「床に書かれたその血文字こそが、究極の蘇生呪文の詠唱である」 倒れていた天使の一人が、むくりと立ち上がった。 「オルド様!」 「ご無事だったのですね」 カイとマリアが手を合わせて







