تسجيل الدخول「ウルカ、一つ確認してもいいか?」「は、はい!なんなりと」 はぁ……と深くため息をついてから、前髪で目元が少し隠れたままの瀬田が、ウルカの方へ顔を向ける。チラリと見える眉間にはシワが寄っていて、不機嫌なままなのは明らかだった。 そのせいで、訳もわからずウルカの肌に冷や汗が伝う。また急に『出て行け』と言われやしないかと内心気が気じゃないが、ラフな姿をした瀬田から漂う色香にも酔ってしまっている。何も纏っていない上半身のラインは男性らしい筋肉質なものでとても美味しそうだし、脚を隠す掛け布団は、その奥にある痴態はどんな感じなのだろうかとウルカの想像力を掻き立ててしまう。 ウルカの中で、不安よりも興奮の方が上回りそうになった時、やっと瀬田が声を発した。「お前の“本体”は、どれなんだ?」「……と、言いますと?」 きょとんとした顔で、ウルカが小首を傾げた。「“ソレ”といい、“カフェでの姿”といい、“愛らしい小柄な容姿”といい、会うたびにコロコロと見た目が変わっているが、一体どれが“本当のお前”なんだ?」 指をさされながら言われ、ウルカがうっと喉を詰まらせた。 どの姿もちゃんと“自分”だが、『どれがお前だ?』と訊かれると、『一番小さい姿が本体だ』と答えるのが正しい。だが、ソレを馬鹿正直に言って、嫌われてしまわないかとちょっと怖い。 小柄な女性が好きな瀬田に対し、事実を打ち明ける事を怖がる必要など皆無なのだが、ウルカは全くその点に関して気が付いていない。察する機会は多々あったのに、だ。『男性は魅惑的な女性体に弱い』という刷り込みにも近い程の思い込みが、事実に気が付く機会を邪魔してしまう。「ち……一番小さいのが、ワタシです……」 伴侶に嘘は言いたくない。事実を告げようと決意を固め、ウルカが俯き、ぼそっと答える。小柄な自分はいらないと拒否されやしないかと不安で、少し肩が震えていた。「そうか!じゃあ元に戻っておけ。もう俺の前で無理をするな」 一転して、明るい声で瀬田が言った。「え……」 「早く、今すぐ!」 「は、
優しい日差しを注ぐ太陽が空へと昇り、土曜日の朝がきた。 急ぎの仕事もないため、休日出勤の必要のない瀬田は、一人暮らしには不向きな大きめのベッドでうつ伏せになりながら寝息を立てている。ボクサーパンツ一枚だけの姿で眠っており、髪には少し寝癖がついていてちょっと可愛い。切れ長な瞳が瞼に隠れ、前髪が目元まで落ちているからか、寝顔には少しだけ幼さがあった。 そんな瀬田の眠る姿をウルカは、床にペタンと座りながらニヤニヤした顔で長いこと鑑賞し続けている。視線だけで相手を起こしてしまいそうな程長い時間じっとそうしているのだが、彼が眠った時間がかなり遅かったため、幸いにして瀬田が起きる気配はない。ウルカとの、場所を考える余裕もなくおよんだ二度目の行為に没頭し、酔いしれ、溺れた代償はどうやら大きかったようだ。 台所から香ってくる肉を焼いたような匂いが微かに部屋を満たしているが、疲れの方が強いのか、匂いで目が覚める事もなさそうだ。(『朝食が出来たぞ』と起こすべきか、このまま眼福時間を堪能させて頂くべきか……) ウルカは一秒ほど悩むフリをしたが、勿論後者を選んだ。出来れば作りたての料理を食べさせたい気持ちはもちろんあるが、電子レンジで温め直してもまぁ問題はないだろう。 何と素晴らしいアイテムだ。文明の発展万歳、と思いながら、ウルカはグッと軽く拳を握った。「……可愛いなぁ、カッコイイなぁ、素敵だなぁ」 ポッと火照る頰を両手で冷やしながら、ぼそりと呟く。 こんな見目麗しい人を捕まえる事が出来た自分が誇らしくってしょうがない。優良物件でしかないであろう彼がどうしてだか“初物”だった幸運にも感謝したい気分だが、コロコロと態度が変わってしまうのだけは……今もちょっと怖い。 二度目のおかげでより一層体には魔力が満ちているので、今はまた問題無く生活出来る。だけど貯めておくにも限度がある。他の物に魔力を貯めておいて、不足したらソレを頂くなんて事は無理なので、ウルカは『また、浩二さんとの間に倦怠期がきたらどうしよう』と、顔を見ながら悩み始めてしまった。 への字口のままウルカが軽く唸る。首を傾げたり、金色の柔らかな髪の先を指でくるくると巻いてみたりしながらも、視線だけはずっと瀬田の寝顔に釘付けのままだった。「……また、その姿なのか」 寝起きで機嫌が悪いのか、瀬田の声は不快感に満ち
魔女裁判が横行していた時代。 裁判をおこなっていた者達は様々な方法で魔女を見分けていた。 魔女は泣かず、泣く時があったとしても右目からのみで、『男根に似てる』なんて理由で親指を好んでしゃぶる。 空を飛べ、水に浮く。 拷問を受けた後は主の祈りを正しく唱える事が出来ないから、お前は魔女だ。 ——なんてものもあったが、『誰だってそうだろ、死よりも辛い思いをしているのだから』と常々思っていた。 “使い魔”に血を飲ませるために三つ目の乳首があり、性行為をする際は『正常位以外を好む者』だなんていう、馬鹿馬鹿しい判断材料まで存在していたのだから笑える。 大きな帽子をかぶり、黒猫と住んでいて、大きなイボや顎が尖っているなんてものもあったが、実際に裁判で有罪にされた者達は皆、普通の女性達ばかりだった。 魔女達の目の中には毒があって、『相手を見ただけで殺せる』だなんて“設定”もあったが、ソレが本当ならば、裁判官は全て死んだだろうとツッコミたい。『神聖な力で彼らは守られている』だなんだと言い訳をするのだろうが……実にくだらないと今でも思う。 実際にはどれもこれもデタラメで、伝統的な知恵を多く継承していた異端者を体よく排除する為の裁判だった。その美貌のせいで周囲から嫉妬された者や、財産を持つ者からその資産を奪うために魔女として殺された者も混じっていたのだから、“人の欲”とはなんと罪深いのだろうか。 悲惨な裁判が横行していた中。本物の魔女達は上手いこと隠れながら逃れ、不遜な裁判で殺された者などほとんどいない。ボク達インキュバスやサキュバスに呪いをかけた魔女も、難なく生き残ったと聞き知っている。 ボクらに呪いをかけた“鉄の処女”の異名も持つ“魅惑の魔女”の名前は、“ハンナ・アダムス”。 隣の部屋で穏やかに眠る華さんは—— 彼女の……末裔だ。 名前が似ているからとか、その程度の理由でそう思った訳じゃない。コレはちゃんと根拠のある確信だ。 魔女達には血筋によってそれぞれ生まれながらに印がある。ソレは胸や陰部の近くなどの目立たない箇所にあり、パッと見は大きめのホクロか痣くらいにしか見えないので、刺青やタトゥーに厳しいこの国でも生活には支障が無い程度のものだ。なので、『自分は魔女の血統だ』と自覚していない者ならば、きっとソレが“魔女の印”であるということも知
夜の帳がすっかり周囲を覆い、華はシングルベッドの上で一人、昼間の疲れを癒しつつ穏やかな寝息をたてている。 そんな彼女の側にカシュが立っているが、かなり顔色が悪い。心臓はヘンにうるさいし、先程ちらりと見えた華の胸元にあった痣が目の前によぎるせいで、彼の心の中は不安でいっぱいだ。「違う、きっと違う……アレは……えっと、見間違いだ、うん。影がきっとそう見えただけに決まってる」 ボソボソと呟きながら、カシュがゴクリと唾を飲み込んだ。 そっと手を伸ばして、ゆっくりと華の使う布団を捲る。襟ぐりの広いシャツを着ているため、胸元が無防備にも露わになってしまっているが、先程チラリと見えた気がする痣のようなモノまでは、このままでは見えなかった。 華の肌に触れてしまったり、布の擦れる音がたってしまわないように気を付けながら、襟ぐりに指を引っ掛けて服をそっと下へおろす。横になっていても尚、存在感のたっぷりある胸元や谷間が徐々に目の前に晒されていき、カシュは再び唾を飲み込む羽目になった。それにより、先程よりも多い唾が彼の喉元をおりていく。「…………っ」 カシュが眉をひそめ、唇を強く噛んだ。 指先をさっと華から引っ込め、ギュッと拳を作る。左手で目元を覆うと、深い溜息を吐きながら、彼は華の眠る部屋を後にした。 足元がふらつき、壁にカシュの肩がドンッとぶつかる。真っ暗な部屋の中で「……他も、確認しなきゃ」と呟き、鞄に手を伸ばしたが—— それは開けるのをやめた。(いや、鞄はマズイな。華さんは勘の鋭い人のようだし、何がキッカケで気が付くかわからない……) 部屋の中を見渡し、何か華の“個人情報”を得られる物は他に何かないかと本棚の前に行く。カシュは棚の前にしゃがむと、人差し指で背表紙を確認しながら並ぶ本に目を走らせた。「あった、卒業アルバム!」 小声で言いながら、早速本を手に取る。厚紙でできたカバーの中から高校時代の卒業アルバムを取り出すと、カシュは何ページも捲り、華のクラスのページを必死に探した。「……くっ!」 速攻でクラス全員の個人写真の中から華を見付け、カシュが鼻先を慌てて手で覆った。今とは違い、まだ少し幼さの残る高校生の時の華の写真が可愛過ぎて辛い。 随分前に、二次元のキャラを押し倒しながら『推しが尊過ぎて辛い!』と叫ぶ人の夢を覗き見た事があった。その時は『
食事やお風呂などが終わり、ソファーに二人で並んで座りながら一息吐く。手には蜂蜜入りホットミルクの注がれたマグカップが握られており、テレビのニュースを見ながら、揃ってちびちびとそれを飲んでいる。 ごくりっ—— カシュの喉が鳴ったが、ホットミルクを飲んだからではない。 視界の隅にどうしたって入ってくる、ソファーの上で体育座りをしている華の、たわわな胸の谷間が気になってしょうがないからだ。 両手でマグカップを握っているからか、胸がいい感じに寄せられ、体育座りという体勢のせいでグッと上がっている。そのため、いつも以上に豊満な胸元が強調されているのだが、本人はホットミルクとニュースの内容に夢中で全く気が付いていない。 ふうっとカップへ息を吹きかけるたび、口元がキスをせがむような形に見えてしまい、カシュの心が掻き乱れた。(ち、違う。華さんに他意はない。誘われてなんかいない、いないったらいないっ——) 何度も自身へ『事実』を言い聞かせているが、どうしたって種族的にも下っ腹の奥がもやもやとしてしまう。出来るだけ谷間から視線を逸らそうとはするものの、眼福姿が真隣にあっては、それもなかなか難しい……。 必死に堪えるカシュの尻尾がゆらりと動き、華の頬をそっと撫でてしまった。急な事で華は少し驚いたが、嫌がったりなどはせず、彼女はカシュの好きにさせた。こういった行為を華が簡単に許してしまうからカシュが益々期待感を募らせてしまうのだが、彼女はそこまで深くは考えていないのが非常に厄介だ。 しっとりと吸い付くような肌の感触が心地よく、カシュの体がぶるっと震える。同時に少しの痺れも肌に感じたが、逃げ出す程の不快感ではなく、彼は『この痺れは、静電気かな?』くらいに受け止めた。 背を正し、今度こそはと画面の方に集中しようとする。だが当然出来るはずがなく、もっと他の箇所を触っても平気かな?などと、どうしたって考えが暴走してしまう。 細い首筋や、枕にでも出来そうなくらいの大きな胸。尻尾であろうが、本当に触れたのならば確実に怒られるので実際には出来ないが、考える事を止められない。妄想の中だけで彼女を押し倒し、首をそっと優しく尻尾
「——家に急に帰らないなんて事はしないと、前にも言ったはずよ?まったく、君って子は」 華の一言が耳に入り、カシュの意識が記憶の狭間から戻ってきた。 少しの間ぼうっとしていたカシュに対して優しく微笑み、華がくしゃりと彼の髪を無造作に撫でる。見た目が少年なため、つい子供扱いするような慰め方をしてしまったが、された側のカシュは愛しい人に触れてもらえて、とても嬉しそうだ。「いい匂いがするけど、これって、もしかして——」 「あ、えっと……まだする事がなくって手持ち無沙汰だったので、部屋の掃除と夕食の用意を済ませておきました。学校で使うジャージや教科書類は近日中に届くと連絡があったので、学校に通い始めるのは、来週の月曜日からという事になるそうです」 「そうなの?……わかったわ、教えてくれてありがとう」(担任の私にはまだ日程の連絡が無かったけど、何処かで伝達が途切れたのかしら) 受け持ちの生徒が一人増えるとなると色々と担任側でも準備があるので、詳しい連絡がきていなかったことに対し、少し不満を感じた。だが、まぁ今知れたのだし、週末でも利用して準備をしようと華は即座に気持ちを切り替えた。 もしかしたら、お祭りや悪戯が好きな理事長が周囲を驚かせようとしての黙秘かもしれないと思うと、少し頭が痛い。知らないフリを突き通すべきか、知ってましたと正直に言うべきか迷うが、そうと決まった訳でもないので、ひとまずその考えは破棄する事にする。 まぁ、あえての黙秘なのならば既に準備済みかもしれないので、残っている私の仕事は案外少ないのかもしれないと、華は考えた。「ところで、今日は何を作ったの?お魚を焼いたっぽい匂いがするけど」 「鮭のホイル焼きです。あとは大根のお味噌汁とキャベツの浅漬けも用意してみました」 「あら、美味しそうね。料理をするのは苦じゃないけど、仕事から帰ったらご飯があるのって、正直嬉しいものね」 「ですよね!ボクもそう思います」 喜んでもらえた事が嬉しく、カシュのお尻から尻尾が飛び出し、照れ臭そうにモジモジと動きだす。それを見て華がくすっと笑みをこぼすと、カシュの尻尾がより一層嬉しそうに震え、次の瞬間には気を失ったかのように一気に落ちた。「……見ていて飽きないわね、その尻尾」 「え?ボク、今尻尾出てました?」 無意識だったようで、後ろを振り返り、カシュ







