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束の間の平和

Author: 吟色
last update Huling Na-update: 2025-09-06 09:56:27

オブシディアン機関を撃退してから一週間。

学院には、久しぶりの平穏が戻っていた。

破壊された箇所の修復も完了し、警備体制も万全。

生徒たちも、いつもの日常を取り戻している。

「はあ……やっと普通の授業だ」

クロが教室で、ため息交じりに呟く。

机の上には、相変わらず赤点だらけの答案用紙。

「お前、平和になった途端にまた成績落ちてるじゃねえか」

カイが隣の席から覗き込む。

「戦闘ばっかりやってたから、勉強忘れちゃったんだよ」

「言い訳すんな」

ミナが呆れ顔で突っ込む。

「もともと勉強できなかったくせに」

「うるせー」

そんないつものやり取りに、クロは心地よさを感じていた。

平和って、こういうことなんだな。

「クロくん、今度一緒に勉強しない?」

サクラが優しく提案する。

「マジで?助かる」

「うん。みんなでやろう」

「俺も混ぜろよ」

カイが手を上げる。

「私も参加するわ」

ミナも意外にも積極的だった。

フィアとレインも、無言で頷く。

「じゃあ、今度の日曜日にでも」

「図書館で集まろうか」

計画を立てている時、教室に一人の人物が入ってきた。

ジン・カグラだった。

以前なら、教室の空気が一気に緊張したものだが、今は違う。

みんな、普通に挨拶する。

「おう、ジン」

「おはよう」

ジンも軽く手を上げて応える。

その変化に、クロは改めて感慨深いものを感じた。

(本当に変わったんだな、こいつ)

「ジン、勉強会に参加するか?」

クロが聞くと、ジンは少し考えた後、頷いた。

「悪くない。参加しよう」

「よし、決まりだな」

こうして、平和な日常が戻ってきた。

しかし、クロには一つ気になることがあった。

共鳴の副作用は、まだ完全には治っていない。

時々起こる頭痛と、記憶の混濁。

それは、ジンも同様だった。

放課後、中庭のベンチで二人は並んで座っていた。

「……まだ、頭痛があるか?」

「ああ。お前もだろ?」

「時々、自分が誰なのかわからなくなる」

ジンが珍しく弱音を吐く。

「異常演算の代償は、想像以上に重い」

「でも、後悔はしてない」

クロがきっぱりと言う。

「この力があったから、みんなを守れた」

「……そうだな」

ジンも同意する。

「代償があっても、手に入れる価値はあった」

二人は空を見上げた。

夕陽が雲を染めて、美しい光景を作り出している。

「平和だな」

「ああ。でも……」

ジンの表情が少
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