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第450話

作者: 花辞樹(かじじゅ)
警察からの連絡で、血塗られた六年前の記憶が呼び起こされたせいだろうか。その夜、景凪は悪夢を見た。

夢の中の自分は六年前と同じ、身代金の詰まったバッグを提げて、金山九蔵との取引現場へと足を踏み入れていた。

深雲を解放してくれと、彼女は懇願する。

次の瞬間、場面が切り替わる。悪臭を放つ獰猛な男が、彼女に襲いかかり衣服を引き裂こうとする。現実の記憶では必死の抵抗ができたはずなのに、夢の中の彼女の手首はねじ上げられ、無残に折られてしまう。

絶望に支配され、助けを求めて泣き叫ぶ彼女の視界に、ふと人影が現れた。血に飢えた獣のような気配を纏い、近づいてくる男――黒瀬渡だ。

彼は片手で金山の頭を力任せに押さえつけると、もう片方の手に握った鋭利なナイフで、ためらいなくその喉笛を搔き切った。

鮮血が噴き出す。

返り血を浴びながら、渡はただ景凪を見つめ、静かに言った。「教えたはずだ。勝てない時は、俺に言いつけろと」

ハッとして、景凪は目を見開いた。

同時に、目覚ましの電子音が鳴り響く。

身を起こしてこめかみを軽く押さえながら、彼女は思わず失笑した。

なんてデタラメな夢だろう。まさか渡が出てくるなんて……

最近、彼がやけに優しくしてくれるから、こんな間の抜けた夢など見てしまったに違いない。

まさか、彼が本当に助けに来てくれるなどと期待しているわけでもあるまいし。

そんな自意識過剰にはなりたくない。

黒瀬財閥の御曹司――たとえそれが非嫡出子であっても、その肩書きは天へと続く梯子のようなものだ。

今の渡は、ピラミッドの頂点に君臨する存在。

自分とは住む世界が違いすぎる。

彼の気まぐれな戯れを、真に受けるほど愚かではない。

鷹野深雲との結婚生活で、彼女は血の代償を払い、命の半分を失うほどの教訓を得たのだ。「真心」などという不確かなものを、二度と信じる気にはなれなかった。

冷水で顔を洗い、景凪は完全に意識を覚醒させた。

今日は日曜日。待ちに待った、祖父の益雄に会える日だ。

彼女は念入りに支度を整え、あの琥珀の瓢箪を首にかけた。

エレベーターを降りた直後、スマホが震える。郁夫からのメッセージだった。

「起きた?朝ごはん何食べたい?」という文面と共に、カフェのショーケースに並んだ色とりどりのパンやサンドイッチの写真が送られてきている。景凪は【結構です】と
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