Mag-log in南川が書類を捲りながら二つのバンドに顔を上げて鋭い視線を向ける。
「私生活は……まぁ、常識の範囲内というか、法に触れるような行動さえ無ければ特に……。後から未成年の飲酒喫煙や、既婚者の不倫とか……本当に迷惑なのでやめてください。
それは契約時にサインいただきます」自分がキャラクターを演じる必要が無い。
キャラクターを自分に寄せて貰える。「ありがとうございます。
俺たちモノクロームスカイは問題ありません」「そうですか。では良い返事を期待してますよ」
「俺らも問題ねぇよなぁ ? 」
京介も即答。
「ってか、俺がそのゲーム既にやりてぇ〜。俺が俺の曲プレイして〜」
「こら京介……。
俺たちも問題ありませんが、今一度資料によく目を通しておきます」「はい。
もし練習場所などお困りでしたらお声がけ下さい」「練習場所ですか ? 」
「新曲など書き下ろしの楽曲をお願いすると思いますが……内密に進めて頂きたいので……。
その場合、会社の保養所にスタジオがありますので、使用できます」「保養所 !? やった !! 」
「おい、京介 !
すみません、落ち着きがなくて」「いえ、食いついてくれて良かったです」
「海っすか ? オーシャンビューホテルとか !? 山だと温泉っすかね !!? 」
「京介……一旦座れ」
それを見ていた霧香がくすくすと笑う。
「京介さんとケイって似てるね」
「似てねぇよ ! 俺、あんな散歩してない犬みたいじゃないもん」
「「ブハッ !! 」」
吹き出したのは南川と咲だった。
「いや、藤白さん、ホント彼ら面白いね」
「でしょ ? キャラ被りはす
李病院はたちまち老人たちがこぞってかかりつけになった。「あらあら、成程。この辺り痛むでしょう ? 」 ロイの丁寧な診察は勿論、程よく若くない年齢、甘いマスクは中高年層女性に馬鹿売れとなった。 更に、だ。「立てますか ? ご家族のいるところまで、どうぞ僕に掴まって……遠慮なさらず ! 」「この歳になると、どうもなぁ〜」「いえ、しっかりなさってますよ ? 内臓とか綺麗じゃないですか ! 」「まぁ、早めに酒も煙草も辞めたからなぁ〜」 研修医ポジションとして実家に戻ったハランは男性票も獲得。「若先生、診察はしないのかい ? 」「僕は非常勤ですし、お手伝いです。ブランクもあるので、医療行為は父に許可されてないですよ」「お医者も大変だぁ。俺の若い頃もよぉ〜……」 そんなやり取りを毎日繰り返す。 李病院の信頼には勿論立地の良さもあったが、一番は希星の存在だった。 高齢者の情報網はとんでもないスピードで、あらゆる噂を運ぶ。あの病院さんがあの事件の子供を引き取ったらしい。凄くいい子らしい。お医者の腕もいいらしい。事実ではあるが、ヤケに過剰な評価までついて回っている。「あら ! 希星くん ! 今日もお手伝い ? 」「あ、草野さん ! 夏休みの宿題で家のお手伝いがあるんです ! 」 そう言い、病院の窓を拭いていく。元々人タラシの希星は一度見た患者の顔や声を忘れない。「偉いわねぇ」「ほら、飴ちゃんあげるから ! 」「わぁ !! これ、好きな味 !! 佐伯さん、ありがとうございます ! 」 素直なありがとうございますは、中々の破壊力がある。反抗期に入る直前、というこの今の時期の素直さは、子育てを終えた層に絶大な癒し効果を与えていた。 この貰った飴ちゃんをハランに自慢し、ハランがお礼を言う……まで、ワンセット。 治療の他にエンチャントされるものが多い病院である。「キラ、そろそろ休憩しよう」「うん ! 」
「別にやましい事無いですし、寧ろやましい事を見せたいスタンスなんで」『そういえばそうでしたね』『モノクロって変態なんすか ? 』「いえ。恋愛リアリティショーってあるじゃないですか ? あんな感じで私生活を公開してしまうって事と、覗きが単純に好きって変わった趣向の人にもいいかなと」『と、特殊な要求ですね……。 ……うう〜ん、そうなると……。あれかな。 モーションキャプチャーもセンサーレスって出来るんです。要は動画で撮ったものをAIが3D化してくれるんだけど、その方がいいかもね。 ただ、それって家中カメラだらけになる気がするけど……』「問題ないです」 これにはMINAMIもドン引きである。『やっぱ変態じゃないっすか』「メンバーが今どこにいて何をしてるのか、キリが今部屋で何してるのか、誰といるのか…… 。 ユーザーが家の中に侵入して見れる様にするんです」『怖すぎっすっ !!!! な、何も出来なくないですか ? 』「見られてまずい人いる ? 」 彩が二人に聞くが即答。「着替えとか見えないなら別にいいかな」「俺も。別に筋トレとか漫画読んだりしかしないんだけど……面白いのかな ? ハランは意識高い系だから問題なさそうだし。蓮も趣味は紅茶 ? 不祥事的なものは問題ねぇよな ? 」『そういう問題っすか ? プライバシー0ノ助じゃん』「スタジオも解放して、練習風景も見れるようにすればいいよね」「サイがどれだけ不眠か気になるから、俺真っ先にお前の部屋見に行くぜ ! 」「わたしも ! 」『ここまで来ると、逆に潔いッスね』『アバターもoffに出来ますから。 なかなか奇抜な案かもしれませんね。』『いや…&hel
「四歳で画家デビューして、その後も油絵、水彩、鉛筆、彫刻……とにかく万能な人で、高校生の時に広告デザイン企業でアルバイトで高収入学生って話題になって、大学は何故か音大に来たって言う……」「音大 !? なんでそこで音大 !? 」『ぎゃはは〜 ! ウケるっしょ !? いや、うち、絵はやってたけどピアノもやってて〜、なんかピアノは全然駄目で〜ムカついたから音楽大学行ったんすよ』「やば〜」「あれ ? でも、専門学校は……服飾専門学校だったんですよね ? 俺、それで知ったんです。服飾に興味があって」『マジ ? 嬉しい〜。SAIの服、好きっすよー。動画観てきました』「あ、ありがとうございます」『そん後〜、やっぱ絵もいんじゃね ? って思ってデザインの専門行って、やっぱ勉強とか合わねぇわって今はフリーランスに近いかな。なんでもやる屋みたいな。 んで、テレビ局の美術さんとこで手伝いしながら絵描いてて、最近個展終わったんで暇になったとこ、ここに声掛けられたっす』「え ? 服飾の後そんな活動でした ? 幅広いですね。テレビでお見かけしましたけど、スタイルも抜群で人気でしたよね」『照れるっす〜。絵描き始めるとつい飲まず食わずになっちゃうんで〜肉付かねぇんすよねぇ。 うち、SAIがめっちゃ女嫌いって聞いてたんで、やべぇなって思ってたんすけど、全然大丈夫っすね。まぁ、うち咲さんより歳イッちゃってますもんね〜』「いや、えーと」 これには咲が一番驚いた。 まさか凛が歳上だとはプロフィールを見るまで考えてもいなかったのだ。 確かに女性の年齢は現代の美容では、外見で判別が付かないほど進歩したとは言え、だ。 この軽い調子で歳上とは……呆れが一割で、憧れが九割。才能で伸び伸びと生きる凛の個性的な姿には、美しい生き様にも思えた。 咲は自身の仕事は好きだが、あくまで才能ある者同士の縁結びだ。自分が特殊な才能を持っている訳では無いと、自己評価は割と低めなのだ。オマケにケアレスミスも多い。 周囲から見れば咲は、紹介も適材適所、人を選ばず営業先でも接す
「だぁ〜っはっはっ !! そんであたしんとこ来たの ? 悪魔って情けないわね〜 !! 」 路頭に迷った先、蓮は樹里の事務所へ駆け込んでいた。 蓮は恥ずかしそうに額をゴリゴリ擦りながら、キャリーケースに入れたシャドウを見る。「わざわざ猫抱えて事務所まで来ないでよ〜」「聞いてみたらハランのアパートはペット禁止だし……行く宛てが無くて。来週からシフトもみっちり入ってるし……どっか安いとこ無いですかね。 一番の問題は霧香もスマホ置いてったし、サイもケイも電話に出ない。咲さんにはさっき事情を話したけど、南川さんにはどう謝罪したらいいか」「事情から察するに、あんた信用されてないのよ。 そのお兄さんから監視されてるかもしれないからでしょ ? 」「……」「バンド内の売上とかスパチャの切り盛りは彩がしてるの ? 」「はい」「じゃあ、路頭に迷って野垂れ死にコースは無いか」 不穏な事を言い出し、蓮を更に不安にさせる。「そうね。最近関わった人は監視されてる可能性あるとか ? そんなにヤバい状況 ? 」「可能性は0では無いですが……。ただ彼の性格的には手広く部下を使って追い込むタイプでは無いですね。 監視者はいても、俺か霧香の方くらいだと思います」「部屋は……そうねぇ〜。京介はアレルギー持ちだし、千歳は実家なのよね。まぁ、どこか探して聞いてみるけど」「お願いします 」「それにしても、もうMINAMIには言っちゃえば ? 」「いちいちそんな事してたら、将来的に全員に言って回ることになりますよ」「でも今日はCITRUSに行けないでしょ ? 彩とか霧香ちゃんは会社に連絡してるのかしら」「朝の段階では、まだだったみたいですけど」「ホント。三人、どこに行ったのかしら。監視されてるとしたら、あんたから探さな
「寝た ? 」「うん」 恵也がルームミラー越しに後部座席を見る。安心したのか、霧香は彩にもたれて寝息をたてていた。 高速を降り、人気のない方角へと走らせ、田舎町の道の駅に駐車する。 もう日が昇る。「ケイ仕事は ? 」「明後日から。どうする ? 」「俺のアパートはあるけど……追っ手とかいないかな」「いるかもだぜ ? 地獄にキリを連れて行かれたら、俺たち助けに行きようがねぇよ」「そうだな。暫くはここにいようか」「道の駅かぁ。なんでもあるけど……車中泊か…… 」「ケイは出勤に車使うだろ ? 俺とキリは昼間、人の多い所にいた方がいいし」「俺はいいけどよ……。スマホの充電は車でするとして、トイレもあるし……。 風呂とかどうすんの ? 」 彩もこれには頭を抱える。「今日のCITRUSの会議は……何とかリモートで参加出来ればと……。家出したとか、印象の悪いことは言いたくない。 そう言えば、俺のアパート……水とガスは契約してない」「お前の生活どうなってたんだよ……」「……止めて貰ったんだよ。暫くキリの家に住むからさ」「じゃあ、スーパー銭湯でも行く ? 」「そうだな……週一……いや、三日に一回くらいはキリを行かせて……」「え ? お前は ? 」「俺は……そんな頻繁じゃなくても……」 恵也は何となく察する。「も、もしかして……財布忘れて来た ? 」「&hellip
「それは困ります ! 」「現に身体も壊しているようだし。何も辛い思いをしてまで労働することは無い」「音楽活動は労働とかじゃないです ! 」「ならば趣味か ? ただの趣味なら尚更、身を削る様な事は止めてもらおう」「あまりに極端な話だっ」 蓮が怒りを露わにする。「人間界にいるだけで、誰とも接触しない生活なんて無理なんだよ。霧香にとって人間に馴染みやすかったのが音楽だっただけだ」「音の魔法を使ってか ? 芸術の世界で魔法を使う…… ? 甚だ疑問だ」 誰も言い返せない。霧香もそれに関しては罪悪感が無いわけじゃないからだ。「昼間、周辺を見て回ったが、他の人間の暮らしより余程恵まれていると思うが ? まだ何か不満か ? 足りない物があればいくらでも……」「それは金銭的な話か !? そうじゃないだろ。 そもそも、ヴァンパイア領土に置いておけないなら仕方がないからと、そう言ってここに流されたんだろ。霧香も好きで来たんじゃあない」 蓮の言葉を聞くと、ディーはあっさり「そうか」と頷いた。「では人間界にいると周囲には誤魔化し、やはり霧香は領土に戻し、幽閉して城内で監視するとしよう」「え…… ! 」「……お兄さん、そのやり方はどうだろう ? 」「天使は黙っててもらおう」「いいえ。地獄で悪神に変化してしまうのではと恐れる気持ちも、それを起こさんとする理由も心労もお察ししますが、まずは本人の意見を聞いてからでも……」「身体を痛めてまで人間界に居たい理由か ? 」 取り付く島もない。 ディーは霧香の手をキツく握ると引っ張り歩く。「痛っ…… ! 」「戻るぞ。見送れ」「ふざけるな。絶対通さない。霧香を置いていけ」 扉に立ち塞がった蓮を腹立たしく見つめる。







