「元々一緒に住んでたんだよね ? 」
「うん。音楽関係者に間貸ししていいよって言われてたし、一応誰を呼ぶかはママに言うしね」
既に蓮と同居していた事実をぶち込む。
「なんかさ〜。イケメンじゃん ? 前も言ったけどさぁ。好きになっちゃうとか、無いのっ !? 」
「無いよ〜。
っていうか、お手伝いさんもいるし、全くの一人暮らしでは無いじゃん。 蓮は会話とかなくて割と部屋に引きこもってるから。だって普段はAngel blessのメンバーといて、他は黒ノ森楽器店で働いてるじゃん ? 一緒に住んでても、廊下ですら会わないんだよねぇ」「会わねぇんかい !
えぇぇ ? じゃあほんと、居るなぁってだけぇ ? 」「そんなもんだよ。わたしも配信部屋でひたすら投稿と生配信だし。
あ、でも。さすがに猫飼う時は相談したけどね。ほら、アレルギーとかあったら飼えないしさ」「そうなんだ〜。
ところで、蓮とハランはAngel blessは続けるの ? 」「うん。もちろん。楽器店と三足の草鞋を履くよ。
ここの加入の話は、京介から経由で聞いたのね ? 「行ってくれば」って話貰って。そして俺も即OKだった ! あはは」ハランが左隣の霧香を見て微笑む。
「だってさ。霧ちゃんと生活して、音楽もやれるって最高じゃん ? 」
『最高』を断言である。
これにはヤラセと分かっていても、あまりの恥ずかしさに霧香は手でパタパタと顔を仰ぐ。「いやいや、でも……。
わたしたち、ゴシックをメインにやって行こうと思ってるんです。 そしてこの配信がアップロードされる頃には、五曲あげる予定なんだけど。 ひとつはゴシック・ロック、ゴシック・パンク、和ロック風ビジュアル・ロックって感じで。わたしはチェロとベースどちらもやるし、サイはバイオリンにも行くんで、是非聴いてみて下さいね。 激しいのも静かなのもやるんで、ご期待下さい」全くハランへの返
「元々一緒に住んでたんだよね ? 」「うん。音楽関係者に間貸ししていいよって言われてたし、一応誰を呼ぶかはママに言うしね」 既に蓮と同居していた事実をぶち込む。「なんかさ〜。イケメンじゃん ? 前も言ったけどさぁ。好きになっちゃうとか、無いのっ !? 」「無いよ〜。 っていうか、お手伝いさんもいるし、全くの一人暮らしでは無いじゃん。 蓮は会話とかなくて割と部屋に引きこもってるから。だって普段はAngel blessのメンバーといて、他は黒ノ森楽器店で働いてるじゃん ? 一緒に住んでても、廊下ですら会わないんだよねぇ」「会わねぇんかい ! えぇぇ ? じゃあほんと、居るなぁってだけぇ ? 」「そんなもんだよ。わたしも配信部屋でひたすら投稿と生配信だし。 あ、でも。さすがに猫飼う時は相談したけどね。ほら、アレルギーとかあったら飼えないしさ」「そうなんだ〜。 ところで、蓮とハランはAngel blessは続けるの ? 」「うん。もちろん。楽器店と三足の草鞋を履くよ。 ここの加入の話は、京介から経由で聞いたのね ? 「行ってくれば」って話貰って。そして俺も即OKだった ! あはは」 ハランが左隣の霧香を見て微笑む。「だってさ。霧ちゃんと生活して、音楽もやれるって最高じゃん ? 」『最高』を断言である。 これにはヤラセと分かっていても、あまりの恥ずかしさに霧香は手でパタパタと顔を仰ぐ。「いやいや、でも……。 わたしたち、ゴシックをメインにやって行こうと思ってるんです。 そしてこの配信がアップロードされる頃には、五曲あげる予定なんだけど。 ひとつはゴシック・ロック、ゴシック・パンク、和ロック風ビジュアル・ロックって感じで。わたしはチェロとベースどちらもやるし、サイはバイオリンにも行くんで、是非聴いてみて下さいね。 激しいのも静かなのもやるんで、ご期待下さい」 全くハランへの返
動画撮影、当日。 朝食の皿が下がった所で、彩が切り出す。「これから撮影に入るから。カットはなるべく入れたくない。実写の編集めんどくさいんだ。余計な失言はなるべくしないでくれ。 大まかな流れはここに書いて来た」 そう言ってコピー用紙を全員に配る。 恵也が受け取ってブツブツ読み上げる。「食堂で俺とサイがキリと撮って、メンバー紹介して……俺の部屋紹介で猫 ? なにこれ、猫ってだけ書かれても分かんねぇよ 」「あの黒猫写真の一件を一度鎮火させたい。 シャドウ、申し訳ないがこの時だけ猫に戻ってくれないか ? 」 シャドウはキッチンで牛乳を飲んでいたが怪訝な顔で彩を見る。「俺をペット扱いしないでくれ」「そんな気ない。 家中映して、飼ってると公言してる猫がどこにもいなかったら『外飼してるんじゃないか』とか変な噂が出るかもしれない。ペットのマナーは叩かれやすいんだ。悪徳な人間はお前がよく理解していると思う」「そういう事か。 異論ない。うむ。霧香がそんな言われ方をするのは望まん。協力しよう」「それに人型のシャドウも撮りたい。これだけの食事や屋敷の清掃をやってくれる事に、俺たち全員は感謝すべきだ」「そうだね。賛成」「朝、こんなちゃんと食う生活久しぶり」「すげぇバランスも取れてるもんな」 これには全員一致で頷く。「じゃあ、シャドウ君。ケイの部屋で待機して、無理やりケイが抱っこしようとするのを、シャー !! バリバリって引っ掻いていいよ」「ほう」「ほう……じゃねぇよ ! だったら、一緒に猫カフェに引取りに行ったレンレンに懐くって絵面の方が普通じゃないの !? 」「ケイなら多少引っ掻かれても絆創膏が似合いそうだし、撮れ高的にケイで行こう」「これだから動画配信者はぁぁぁ」 シャドウは牛乳を飲んだグラスを洗い、猫型に戻
引越しは一日がかりだった為、撮影は次の日に持ち込まれた。 四人分を一日でとなれば当たり前のことだが、意外と持ち込む荷量が多かったのはハランだった。ハランはこれからも今までいたマンションは契約し続ける事を告げていたが、それでも段ボールで部屋の半分が埋まった。 彩は今まで作り溜めた音源をいくつかピックアップし、全員に夕食後に渡した。 コンセプトやチェロの件は蓮と打ち合わせ済みで、ハランも文句無し。そのまま事はスムーズに動き出し、全員楽譜を受け取った。「それで、二人にお願いがあるんだけど」「俺とハランに ? 」「俺たちは……ネット配信をメインで活動する。ステージに立つことは少ないと思う。 ネットで気軽に配信出来るメリットってのがある。 例えば生配信。生配信のコメントなら、コメントしたファンは直接俺たちに言いたいことが伝わってるっていう独特の空間の楽しみ。ファンとの距離感が強いんだ。会ってもいないのに同じテーブルで喋っていると錯覚するくらいに」「うん。俺も蓮も分かってるよ。今まで俺たちがミュージシャンとして活動してきた事とは、根本的に変わるって事だよね ? 」 彩は頷き、別に用意していた用紙を二人に見せる。これは恵也や彩のDMに来ていた『霧香と蓮、もしくは霧香とハランに交際していて欲しい』という、多くの支持を得ている、ファンからきたメッセージのプリントアウトである。 蓮は頬杖を付き溜息をつく。ひと目で不機嫌になるのが分かったが、ハランはメッセージを見てクスクスと笑い足を組み直す。「皆んな、意外な事考えるなぁ〜」「……で ? これがなにか関係あるの ? 」 ここで切り出せる彩もなかなかメンタルが強い。「撮影中、なるべくキリに絡んで欲しい。隙あればキリを奪っていくスタイルで。 最初はこう言う、キリに向かってくる下衆の勘繰りをさせない様にと考えたんだけど……もう、このファンの期待に答えようと思う。 好きなだけ勘繰らせて、なんなら『どっちと付き合っ
大まかの引越しが済んだ。 あの個人宅配のお爺さんの息子は運送会社を引き継いでいて、引越し業はしていなくても好意で引越し手伝いをしてくれた。本業が心配になるレベルで何時でも対応してくれる。「親父から面白い楽器運んだって聞いてさ〜」「あぁ。わたしのマシンです。これですよ」 霧香がポストの側でスマホに写ったベースモドキ……命名マシンを見せる。「はえ ? これ楽器ですか ? 」「取り付けてある機材はベースなんですよ」「あー自作楽器ね。ピックアップとコントローラーと弦があれば……音鳴るもんね」 言えない。この人の良さそうなおじさんの、更に人が良さそうなお父様に、このくっそ重い鉄製のマシンを一往復運ばせたなど。「ま、頑張りぃや。 ところで、ここに荷物置きっぱなしでいいの ? ここから上まで距離あるんじゃないの ? 」 郵便ポストの横、林道に積み上がった四人分の荷物。「え、ええ。なんか筋トレしたい奴がいて」「そう。 ところで楽器やっとるっちゅーたら、ライブとかすんの ? お嬢さん美人だもんなぁ」「あ、ありがとうございます。 インスタグラムでKIRIって検索したら出てくると思うんで見てみてくださいね。写真凄く載せてるんで」「ほぉー写真かァ〜」 そこへ恵也がやってくる。「おいちゃん、ありがとうございました。 こちら、四人分の本日の支払いの方印鑑押しましたんで。週末には振込させていただきます」「構わんよぉ〜。それもこんな林の入口でいいんかいな ? ま、ほぼ何でも屋みたいな運送屋だからね。何時でも声かけてよ。 これ、名刺ね。深夜でも早朝でも重量と大きさ伝えてくれればなんでも運ぶよ。 あ〜、俺何処から来たんだっけ ? 来る時は分かってたのに ! そのうち知ってる道に出るかぁ」 運送屋はそういうと、帰って行った。「さてと。ケイ、人が見てないか確認しててね」「おっけ」
「やば……。途中バイオリン落とすかと思った」「無茶な事するから……」「だって前奏だけギターソロだったから」「でも、こういう曲いいね。クラシックが母体になってるのと、バリバリロックなのに間奏はバイオリンとチェロが主体なの新鮮」「バンドでバイオリンってどうなのって気はしてたけど、すげぇ体力奪われる。気持ちいい」 もう一度三人でテーブル席に戻る。 霧香は先程のチェロとドレスの写真をインスタにアップロードする。 彩はSNSで告知。 『近日中 重大発表あります』 庭を眺めながら、恵也がぼんやりと口にする。「ゴシックバンドで『ゲソ』ってネーミングどうなの ? 」「「……」」「和風じゃん ! コミックバンドじゃん ! もっとカッコイイのとか耽美なのにしようぜ ! せめてロックなの……」「そういうセンス無いんだよな」「歌詞は書けんのに ? キリは ? 」「え !? うーん…… 。か、感染地帯とか ? 」「いる !! 感染では無いけど有名な地帯いる !! もっと無いのか !? 」「えぇ ??? じゃあ……バイオリンとマシンで、バイオマシン…… 」「『汚染』から離れろ ! サイはなんか出せよ ! 候補 ! 」「……人外S。ジンガイズ……」「人間辞めましたって !? 自己紹介しろなんて言ってない ! じゃあ、取り敢えず保留な !?」 □□□□□□ そして迎えた六時半。 朝食が並んだリビングで、ハランの笑みがビキビキに引き攣っていた。 その向かいで、何事も無いかのようにパンをちぎって口に運ぶ蓮が居る。「えーと……。いつ来てたのお前……」「昨日。夜」 ぶっきらぼうに答える蓮に、ハランが深くため息を着く。「あっそ。 そう言えば、明日有給取ったろ ? 引越しか ? 」
恵也は朝方五時に起床すると、住宅地を二週ランニングし、庭で筋トレをするのが日課になった。 その日は、昨晩出掛けたはずの霧香が今はスタジオに彩といるのが見えて安心する。 見慣れないものに興味が湧いた恵也は、筋トレを中断し、スタジオへ向かった。「おはよう」「ケイ、丁度良かった。これが終わったらミーティングしたいんだ」「はあ。いいけど。これって……」 霧香が応接間から持ってきたアンティークチェアにドレス風の衣装を着て座っていた。 黒地のシャープなスリット入りのドレスに真っ青な青い薔薇とリボンが付いた大人っぽい雰囲気だ。 そして霧香が抱えているのは、あのガラスのチェロだった。「指板は持ったままで、顔を寄せて……もっと左手に唇つけて。右手はピッチングの形で」 カシャ !「インスタ用 ? 」「そう。なんならPVにも使いたいな。はぁ〜装飾楽器はテンション上がる」「へぇ〜。これアクリル ? 」「ガラスだよ。蓮から貰ったって」「うえぇぇっ !? あ、昨日か !! うぇ〜いレンレンやるじゃ〜ん」 霧香は恥ずかい気持ちを隠すように意地でも澄まし顔を貫こうとするが、二人からは丸わかりだ。「何がよ。別に、契約者も出来たしってお祝いに貰っただけだし」「いやいや、超すげぇじゃん、いくらすんのこれー。やべぇ〜。 そのドレスも ? 」「このドレスはシャドウがミシンとキリの着てない服を持ってきてくれて……」「お前が作ったの !? 」「……最高。最新式のミシン最高。昔のも味があっていいけど、スペックが違う。なんでも縫えるし刺繍も出来るし……ハマりそう」「もう……ハマってんじゃん」「このチェロも弾かせて見たけど、音も悪くない。