Masukこの二人が呑気に弁当を突く同時刻。
蓮は通話を切られたスマホを投げ捨て、トング片手に鳥の銀細工と格闘している訳である。「くっ…… ! 気持ち悪い ! 」
壁に掛かった銀の鳥がジッと蓮を見つめる……ような気がするのだ。
ガチャン !
「ひぃあぁぁああぁあ ! 」
ゴキブリを取る女子大生の如く、パニックを起こしながらトングで挟んだ物を見ずにベランダへ放り出す。霧香になど一番見られたくない、情けない姿だ。
「はぁーっ!!!!!!……無理〜っ !!!!!! 」
蓮は何とかヴァンパイア領土と連絡を取りたかった。王政区には第三者機関があり、つまり「ディー · ニグラムがアホなことしたら俺たちが怒るよ」と言う者達がいるのだ。
だが人間界から地獄へ交信するには、この部屋は不向き過ぎる。大掛かりな儀式用具も置くため、外でチャチャッと済ます……というのは難しいのだ。 蓮の方が地獄へ出向くとなれば、更に大掛かりな魔法を使うことになるし、今は交信だけでもと思ったのだ。 しかし、この悪魔避けが邪魔をして魔法が使えないでいた訳である。「ふ〜っふ〜っ ! クソ ! あと……三つ……。だぁぁぁ !! 気がおかしくなりそう…… ! 」
Prrr
着信。
蓮は反射的に手に取ると恫喝する。「無理だよ !! これが取れたらそもそも悪魔避けじゃねぇだろ !! 」
『ご……ごめんなさいぃぃぃっ !! 』
声色がおかしい。
蓮が液晶を見直すと藤白 咲の表示。「あ……すみません咲さん。今、ハランと話してて。
って言うか今から俺の部屋に来ません ? ……は ? 違いますよ、誤解です !&この二人が呑気に弁当を突く同時刻。 蓮は通話を切られたスマホを投げ捨て、トング片手に鳥の銀細工と格闘している訳である。「くっ…… ! 気持ち悪い ! 」 壁に掛かった銀の鳥がジッと蓮を見つめる……ような気がするのだ。 ガチャン !「ひぃあぁぁああぁあ ! 」 ゴキブリを取る女子大生の如く、パニックを起こしながらトングで挟んだ物を見ずにベランダへ放り出す。霧香になど一番見られたくない、情けない姿だ。「はぁーっ!!!!!!……無理〜っ !!!!!! 」 蓮は何とかヴァンパイア領土と連絡を取りたかった。王政区には第三者機関があり、つまり「ディー · ニグラムがアホなことしたら俺たちが怒るよ」と言う者達がいるのだ。 だが人間界から地獄へ交信するには、この部屋は不向き過ぎる。大掛かりな儀式用具も置くため、外でチャチャッと済ます……というのは難しいのだ。 蓮の方が地獄へ出向くとなれば、更に大掛かりな魔法を使うことになるし、今は交信だけでもと思ったのだ。 しかし、この悪魔避けが邪魔をして魔法が使えないでいた訳である。「ふ〜っふ〜っ ! クソ ! あと……三つ……。だぁぁぁ !! 気がおかしくなりそう…… ! 」 Prrr 着信。 蓮は反射的に手に取ると恫喝する。「無理だよ !! これが取れたらそもそも悪魔避けじゃねぇだろ !! 」『ご……ごめんなさいぃぃぃっ !! 』 声色がおかしい。 蓮が液晶を見直すと藤白 咲の表示。「あ……すみません咲さん。今、ハランと話してて。 って言うか今から俺の部屋に来ません ? ……は ? 違いますよ、誤解です !&
李病院はたちまち老人たちがこぞってかかりつけになった。「あらあら、成程。この辺り痛むでしょう ? 」 ロイの丁寧な診察は勿論、程よく若くない年齢、甘いマスクは中高年層女性に馬鹿売れとなった。 更に、だ。「立てますか ? ご家族のいるところまで、どうぞ僕に掴まって……遠慮なさらず ! 」「この歳になると、どうもなぁ〜」「いえ、しっかりなさってますよ ? 内臓とか綺麗じゃないですか ! 」「まぁ、早めに酒も煙草も辞めたからなぁ〜」 研修医ポジションとして実家に戻ったハランは男性票も獲得。「若先生、診察はしないのかい ? 」「僕は非常勤ですし、お手伝いです。ブランクもあるので、医療行為は父に許可されてないですよ」「お医者も大変だぁ。俺の若い頃もよぉ〜……」 そんなやり取りを毎日繰り返す。 李病院の信頼には勿論立地の良さもあったが、一番は希星の存在だった。 高齢者の情報網はとんでもないスピードで、あらゆる噂を運ぶ。あの病院さんがあの事件の子供を引き取ったらしい。凄くいい子らしい。お医者の腕もいいらしい。事実ではあるが、ヤケに過剰な評価までついて回っている。「あら ! 希星くん ! 今日もお手伝い ? 」「あ、草野さん ! 夏休みの宿題で家のお手伝いがあるんです ! 」 そう言い、病院の窓を拭いていく。元々人タラシの希星は一度見た患者の顔や声を忘れない。「偉いわねぇ」「ほら、飴ちゃんあげるから ! 」「わぁ !! これ、好きな味 !! 佐伯さん、ありがとうございます ! 」 素直なありがとうございますは、中々の破壊力がある。反抗期に入る直前、というこの今の時期の素直さは、子育てを終えた層に絶大な癒し効果を与えていた。 この貰った飴ちゃんをハランに自慢し、ハランがお礼を言う……まで、ワンセット。 治療の他にエンチャントされるものが多い病院である。「キラ、そろそろ休憩しよう」「うん ! 」
「別にやましい事無いですし、寧ろやましい事を見せたいスタンスなんで」『そういえばそうでしたね』『モノクロって変態なんすか ? 』「いえ。恋愛リアリティショーってあるじゃないですか ? あんな感じで私生活を公開してしまうって事と、覗きが単純に好きって変わった趣向の人にもいいかなと」『と、特殊な要求ですね……。 ……うう〜ん、そうなると……。あれかな。 モーションキャプチャーもセンサーレスって出来るんです。要は動画で撮ったものをAIが3D化してくれるんだけど、その方がいいかもね。 ただ、それって家中カメラだらけになる気がするけど……』「問題ないです」 これにはMINAMIもドン引きである。『やっぱ変態じゃないっすか』「メンバーが今どこにいて何をしてるのか、キリが今部屋で何してるのか、誰といるのか…… 。 ユーザーが家の中に侵入して見れる様にするんです」『怖すぎっすっ !!!! な、何も出来なくないですか ? 』「見られてまずい人いる ? 」 彩が二人に聞くが即答。「着替えとか見えないなら別にいいかな」「俺も。別に筋トレとか漫画読んだりしかしないんだけど……面白いのかな ? ハランは意識高い系だから問題なさそうだし。蓮も趣味は紅茶 ? 不祥事的なものは問題ねぇよな ? 」『そういう問題っすか ? プライバシー0ノ助じゃん』「スタジオも解放して、練習風景も見れるようにすればいいよね」「サイがどれだけ不眠か気になるから、俺真っ先にお前の部屋見に行くぜ ! 」「わたしも ! 」『ここまで来ると、逆に潔いッスね』『アバターもoffに出来ますから。 なかなか奇抜な案かもしれませんね。』『いや…&hel
「四歳で画家デビューして、その後も油絵、水彩、鉛筆、彫刻……とにかく万能な人で、高校生の時に広告デザイン企業でアルバイトで高収入学生って話題になって、大学は何故か音大に来たって言う……」「音大 !? なんでそこで音大 !? 」『ぎゃはは〜 ! ウケるっしょ !? いや、うち、絵はやってたけどピアノもやってて〜、なんかピアノは全然駄目で〜ムカついたから音楽大学行ったんすよ』「やば〜」「あれ ? でも、専門学校は……服飾専門学校だったんですよね ? 俺、それで知ったんです。服飾に興味があって」『マジ ? 嬉しい〜。SAIの服、好きっすよー。動画観てきました』「あ、ありがとうございます」『そん後〜、やっぱ絵もいんじゃね ? って思ってデザインの専門行って、やっぱ勉強とか合わねぇわって今はフリーランスに近いかな。なんでもやる屋みたいな。 んで、テレビ局の美術さんとこで手伝いしながら絵描いてて、最近個展終わったんで暇になったとこ、ここに声掛けられたっす』「え ? 服飾の後そんな活動でした ? 幅広いですね。テレビでお見かけしましたけど、スタイルも抜群で人気でしたよね」『照れるっす〜。絵描き始めるとつい飲まず食わずになっちゃうんで〜肉付かねぇんすよねぇ。 うち、SAIがめっちゃ女嫌いって聞いてたんで、やべぇなって思ってたんすけど、全然大丈夫っすね。まぁ、うち咲さんより歳イッちゃってますもんね〜』「いや、えーと」 これには咲が一番驚いた。 まさか凛が歳上だとはプロフィールを見るまで考えてもいなかったのだ。 確かに女性の年齢は現代の美容では、外見で判別が付かないほど進歩したとは言え、だ。 この軽い調子で歳上とは……呆れが一割で、憧れが九割。才能で伸び伸びと生きる凛の個性的な姿には、美しい生き様にも思えた。 咲は自身の仕事は好きだが、あくまで才能ある者同士の縁結びだ。自分が特殊な才能を持っている訳では無いと、自己評価は割と低めなのだ。オマケにケアレスミスも多い。 周囲から見れば咲は、紹介も適材適所、人を選ばず営業先でも接す
「だぁ〜っはっはっ !! そんであたしんとこ来たの ? 悪魔って情けないわね〜 !! 」 路頭に迷った先、蓮は樹里の事務所へ駆け込んでいた。 蓮は恥ずかしそうに額をゴリゴリ擦りながら、キャリーケースに入れたシャドウを見る。「わざわざ猫抱えて事務所まで来ないでよ〜」「聞いてみたらハランのアパートはペット禁止だし……行く宛てが無くて。来週からシフトもみっちり入ってるし……どっか安いとこ無いですかね。 一番の問題は霧香もスマホ置いてったし、サイもケイも電話に出ない。咲さんにはさっき事情を話したけど、南川さんにはどう謝罪したらいいか」「事情から察するに、あんた信用されてないのよ。 そのお兄さんから監視されてるかもしれないからでしょ ? 」「……」「バンド内の売上とかスパチャの切り盛りは彩がしてるの ? 」「はい」「じゃあ、路頭に迷って野垂れ死にコースは無いか」 不穏な事を言い出し、蓮を更に不安にさせる。「そうね。最近関わった人は監視されてる可能性あるとか ? そんなにヤバい状況 ? 」「可能性は0では無いですが……。ただ彼の性格的には手広く部下を使って追い込むタイプでは無いですね。 監視者はいても、俺か霧香の方くらいだと思います」「部屋は……そうねぇ〜。京介はアレルギー持ちだし、千歳は実家なのよね。まぁ、どこか探して聞いてみるけど」「お願いします 」「それにしても、もうMINAMIには言っちゃえば ? 」「いちいちそんな事してたら、将来的に全員に言って回ることになりますよ」「でも今日はCITRUSに行けないでしょ ? 彩とか霧香ちゃんは会社に連絡してるのかしら」「朝の段階では、まだだったみたいですけど」「ホント。三人、どこに行ったのかしら。監視されてるとしたら、あんたから探さな
「寝た ? 」「うん」 恵也がルームミラー越しに後部座席を見る。安心したのか、霧香は彩にもたれて寝息をたてていた。 高速を降り、人気のない方角へと走らせ、田舎町の道の駅に駐車する。 もう日が昇る。「ケイ仕事は ? 」「明後日から。どうする ? 」「俺のアパートはあるけど……追っ手とかいないかな」「いるかもだぜ ? 地獄にキリを連れて行かれたら、俺たち助けに行きようがねぇよ」「そうだな。暫くはここにいようか」「道の駅かぁ。なんでもあるけど……車中泊か…… 」「ケイは出勤に車使うだろ ? 俺とキリは昼間、人の多い所にいた方がいいし」「俺はいいけどよ……。スマホの充電は車でするとして、トイレもあるし……。 風呂とかどうすんの ? 」 彩もこれには頭を抱える。「今日のCITRUSの会議は……何とかリモートで参加出来ればと……。家出したとか、印象の悪いことは言いたくない。 そう言えば、俺のアパート……水とガスは契約してない」「お前の生活どうなってたんだよ……」「……止めて貰ったんだよ。暫くキリの家に住むからさ」「じゃあ、スーパー銭湯でも行く ? 」「そうだな……週一……いや、三日に一回くらいはキリを行かせて……」「え ? お前は ? 」「俺は……そんな頻繁じゃなくても……」 恵也は何となく察する。「も、もしかして……財布忘れて来た ? 」「&hellip







